085 十万馬力は百万馬力に改造不可!
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「ニセ黄門様」なんて妙なサブタイを前回付けてしまいましたけど、
…もちろん本編に、本物の水戸黄門が登場するはずありません…
ただよくある「時代劇のお約束」としては時折、賑やかしネタに
〈不意に、黄門様が問題だらけの藩を訪ねて来る〉パターンで、
黄門様のそっくりサンが冒頭に登場する回とかがありました…
さすがに最近はご無沙汰ですが、つか…現在「水戸黄門」、
新作は作られてないし
…
で、改めて考えてみると、本編の冒頭でも〈出オチ〉みたいに
ニザーミア学府院でド派手な(けど隠密に)使徒召喚の儀式を行ったら、
いきなり主人公がブチ切れて、その場でトンヅラこかれたものだから、
あわてた学府院のお偉いサン(特に首謀者の三席火精導師トープラン)
の画策により、黒幕のUNトラストと共謀して
ニセ黄門ならぬ〈使徒代理人〉…要するにニセ使徒様を立てて
事態を収拾する、という正しく茶番劇を挙行する、
つか強行する羽目となったのでした
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結局、最終的にはミリアの確固たる決断が、この〈ガドリング会議〉の趨勢を決めることになりました。
ミリアと共に、チェニイも〈ニセモノの使徒〉がハデな空騒ぎイベントを決行する、大都ガドリングに乗り込むことになりました…。けど、よく考えたら順序は逆ぢゃないかな、という気がします。陰謀を暴く主役はあくまでチェニイであって、それを助ける元斎宮姫が大都ジュレーンへ帰還する…という立ち位置が正しいのではないでしょうか?
まあ、そうはいっても、コトの決め手はミリアの決断という筋は変えようがないし、チェニイにしても特に、これに関して不服はないようだけど…。
以前に〈不思議ちゃんモード〉が発動してしまい、デネブラ山の麓でミリアが語った〈主役のドロシー=ミリアが、お供を従えてガドの魔法使いの許へ旅をする〉というシナリオ通りになってしまったようですね。
…まあ、チェニイはともかく、残り二人の〈冒険コンビ〉の心中は分かりませんが。
さて、ミリアの決意表明を確かめた後、姐様ニキータは所用でガドリングの水精宮へ戻りました。そしてチェニイもミリアを伴って迎賓館の居室へ…。
ここは二人きりにしてあげよう…などというイキな配慮というより、チェニイにしてもミリアにしても、自分が進む道を思って行った決断の重さと、これから待ち受けている新たなる試練を考えたら、そのプレッシャーの大きさに、心労が溜まって倒れそうになっているのです。
チェニイの〈ニセ使徒〉との闘いへの決意もさることながら、ニザーミアを出奔してラッツークへ逃れたミリアが、再び斎宮として(つまりは元斎宮として?)ジュレーンに舞い戻ることの大きさは、チェニイにも計り知れなかったのです。
…あえて、その事情については問うまい…。
チェニイはそう考えています。
「いやぁ~。けど、2年間も〈ビストロ姫ちゃん〉のシェフ修行をしてたから、ジュレーン風スパイス料理の腕だけは、確実に上がってると思うのよね」
ミリアは居室に戻って寝転がりながら、ポツリと呟きました。
「…オバちゃん、あれから元気で店を切り盛りしてンのかな…?」
「案外、姫さまシェフの時代より、ず~っと繁盛してたりしてな」
チェニイのツッコミに、がばっ! とイキナリ、ミリアは起き上がって叫びました。
「アナタって本っ当に! こーいう時に優しいコトバをかける方法を知らないのねっ!」
「それを言うなら何なんだよ! さっきはオレの意見もまるで聞かず、勝手に大都ジュレーン行きを決めやがって。主人公の主体性っつうモノをだな…!」
「へえ~、今でもアンタ、主人公だって思い込んでたワケ~!?」
「△×※! 〇⑳〇※△×◇■△!!!」
以下、二人の痴話ゲンカは延々と続きます。
一方、ガドリングの時計塔ポータルに残っていたのはガブニードスとリヒター、それにサンダユウと、オスカー・ノギス技官でした。
ことにガブニードスとリヒターは共に、憧れのノギス技官に様々な知識を教授してもらおうと、キラキラした瞳で彼を眺めています。
〈さっさとコイツ、席を外さないかな…ジャマくせえのに〉
二人が心の中で思っていることは一緒です。
「で、お二人の身の振り方はどうするんだ? チェニイ君とミリア姫さんのお供をして、一緒にガドリングへ行くのか?」
オスカーが尋ねると、ハイハイ!と手を上げてガブニードスが応えます。
「ワタシはもう、ご推察の通りNUA公社を半ばクビになった身ですから、チェニイ様たちとご一緒する所存です。ココのようなポータルがあれば、そこを経由してからアクセスできますし」
ガブニードスは勢い込んで(まるでリクルート先に自分を売り込んでるような調子で)返答しました。
「そうだな…ところで先ほどNUAにハッキングかけたらガブニードス君、アンタの立場は妙なアンバイになってたぞ。少なくとも、アソコをクビにはされとらん…通常の管理者権限はママイキだ。ポータル移動は制限されとるが、どうも南北間の協定違反が引っ掛かっとるだけのようだな。…アンタ、ZEIGOSと何ぞ、揉め事でもあったのか? サウス・クオータにも移動は不能だ」
「はあ、少々モロモロありまして…」
ガブニードスは司巫儀とのアクセス制限が思ったより軽いことに安堵しました。
そんな彼を押しのけて、リヒターはノギス技師に尋ねます。
「そ…その、ノギス師に…〈雷光のオスカー〉時代の武勇伝を伺えませんか? ノギス師は…その…〈生命科学研究所〉を訪ねられた経験は、ございますか?」
ノギスは、その名前を聞いて少々、顔をしかめました。
「ああ…あまり楽しい経験ではなかったがな」
「で…では、その研究所は現在も、稼働しておるのですか?」
「稼働といえば稼働しておる。というより、あそこには生きたアーシャンは寄り付かんよ。もちろんザネリアンだって同様だ、南北の区別なくな。ところでなぜ、そんなことを聞く? ひょっとして、アンタの身内の誰かが、アソコで拉致でもされたか?」
「い、いえそんな滅相もない」
慌ててリヒターは被りを振りました。
「ただその…これは自分が見たわけではないのですが…つい先日、例のニザーミア学府院の騒動で〈ヤーマの灯〉が溢れたと言う噂が立ちまして、その折に例の…伝説の忌まわしき巨竜〈カイン・マート〉が北大陸に解き放たれた、との情報も…」
その〈カイン・マート〉という言葉を聞きつけ、ずっと床に寝そべっていたサンダユウが慌てて飛び起きました。
「そりゃあ…聞き捨てならんな。けど伝説と言われてる〈カイン・マート〉はいわば精霊子の塊だから、通常ザネリアンの目には映らないし、そもそも例の〈ヤーマの灯〉という現象それ自体が一定レベルなら、最終的にはそのまま雲散霧消して終わるだろう。
それこそ、かつて〈大厄災〉を引き起こしたといわれる〈アベル・マート〉の巨竜騒動のように、本物の怪物に変化して地表を破壊し尽くす、なんて災厄には、まず発展しな…」
ノギスがリヒターに語っていると、サンダユウはキー、キー…と甲高い声を上げながら、二人に割って入ろうとしています。
「何やってんだコイツ。いま大切な話をしてるんだから、外に出てろオマエは…って…だからぁ、ジャマするんじゃない! あ!」
追い払おうとしたリヒターを振り切ったサンダユウは、いきなり彼に飛びつき、鼻の頭にガブリ! と噛みつきました。
「うっぎゃああー!!」
悲鳴を上げたリヒターは、何とか振り解こうとジタバタ暴れるのですが、いったんこうなるとサンダユウはシツコイ! なにせモジャ公エイプ・オムはもとより、あのゼイゴスですら手こずったカミツキ攻撃なのですから。
結局リヒターは、悲鳴を上げたまま時計塔の階段から転がり落ちてしまいました。
「どうなってるんでしょうね…?」
事の成り行きに唖然として見守るしかなかったガブニードスでした。
「まあ…仲間の鼻を食い千切るようなマネはしないと思うのですが」
「なんか、よほどチェムナ族の癇に障るようなマネでもしたんだろ…それよりガブニードス技官、ちょっとあんたに尋ねようと思ってたことがある、いい機会だからな」
「なんでしょう?」
「アンタ、ひょっとして以前チェニイ君に、何ぞリミッターを掛けたりせんかったか?」
どきっ!
ガブニードスは一瞬、まるで心臓を握りつぶされたかのような衝撃を受けました。
正直に話すべきかどうか、しばし悩んだあげくに〈どうせこの賢者に隠し通せるはずもない〉と覚悟を決めて、彼は〈ファルス〉の呪縛で暴発してしまった召喚儀式の有様などを語り、これから起きる(かもしれない)危険回避を考えて、司巫儀ポータルから走査して、チェニイの能力を一定レベルに制御することを提案したのでした。
「なるほどなぁ…」
ノギス技師は、しみじみと呟きました。
「やはり…私の行った制御措置は…誤りだったのでしょうか?」
「まあ、あながちそうとも言えんが…」
「けれど、あの…どうしてそれがお分かりになったのでしょう…?」
「ふふん、このトシになるとな、〈使徒召喚〉なんぞという特異な措置を喰らってこの異界に呼ばれたアーシャンなら、身体から発する精霊オーラの具合から、あらかた推測はつくのよ。しかもチェニイ君の場合はさらに……まあええか、あんまし話し過ぎると、言わんでもええことまで語っちまう」
「そ…そうなのですか…?」
改めてガブニードスは、この技師のスキルの凄まじさを体感しました。
「確かに、チェニイ様の〈呪縛〉を解くには役に立たなかったようですし、単に精霊術を使用するするには邪魔にしかならず…結局、ラッツークからデネブラ山を越えたとき、クリーチャーの襲撃を受けても、チェニイ様は錫杖を振り回して追い払う程度しか対応できませんでしたから、この先に待ち構えている危険を想定したら…」
「いっそ、ジュレーンへ辿り着く前に、再びリミッターを解放してみるか?」
ぽつり、とノギスは呟きました。
「よ、良いのですか?」
「まあ、問題は山ほどあるがな。このままジュレーンなんぞという〈悪魔の巣窟〉に無手勝流で突っ込むよりはマシだろ。同じ危険なら、無謀なほうが無力よりは幾便マシ、ってところか」
シレっと恐ろしいことを平気で口にする賢者だな…改めてガブニードスはこの人物に底知れないモノを感じていました。
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こーいう人物は向こうの俗称では〈エッグヘッド〉と呼びます
ちなみに〈ディックヘッド〉と呼ぶと、まるで違う意味になるのでご注意下さい
要するに〈キティ・ガイ〉とハサミは使いよう、といったところですね
…古くはストレ※ジラヴ博士とか、最近だとシーザー・ク※ウンとか…
この種の物語にはさまざまなマッドが登場しましたが、
本編に登場したオスカー・ノギス技師なんか、
そんな連中に比べりゃよほどマシな部類です…(って、本当かな?)
ちなみに、ノギス技師と〈カイン・マート〉について語ってたリヒターに
激高して鼻っ面に噛みついたトト・サンダユウが、なぜあんな行動を
取ったかについては…ご想像にお任せしますが、要するに「この件でシカト
ぶっこかれて腹が立った」からじゃないでしょうか…
つくづく会話が成り立たない相手とのコミュニケーションは難しいものですね
次回に続きます
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