083 背教の廃都ガドリング
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〈姐様〉ニキータ・ディーボックス元水精導師は(外っ面の柔和な寄せとは真逆に)
「時間厳守」が身上、というキッチリな性分も持ち合わせているみたいです
ただ、同時に腰のほうも軽いらしく、件のオスカー・ノギス技師がドタバタのアオリで
水精宮で予定してた内々の会議に遅刻した折には(原因は主にガブニードスたち
〈冒険者コンビ〉が、ガドリングの警護役エイプ・オム(通称:人間猿)らとの
ドタバタ悶着のせいですが)
「そっちが来ないなら、アタシが出向いちゃる!」とばかり、オスカー技師の隠れオフィス(?)の時計塔ガドリング出張所へ姐様自ら出向いて(つか乗り込んで)参りました
ま、結果的にはチェニイとミリアも、行方知れずになったトト・サンダユウを探して
この時計塔ポータルにたどり着いたのですから、まあ…余計な手間が省けてよかったね、
という結果オーライで収まったのですけど
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「あらあら…チェムナー君も…じゃなくてサンダユウ君か…チャッカリ、ここへ到着してたのねぇ! そういえば、最初に〈水精宮〉で顔合わせしたときにも、あなたを見かけてたわ。ゴメンナサイね…あの時には格式張った儀礼ばっかし気を遣ってたものだから、アナタへのご挨拶はチャイしちゃったのよ」
ニキータは〈時計塔ポータル〉に着いたとたんにトト・サンダユウを見止めて、お詫びの言葉を述べました。人様のペットにも礼を尽くすあたりが姐様なのでしょう。
ただ、ミィ~~~と嬉しそうにニキータへ駆け寄るサンダユウに対して、ミリアは少々オカンムリです。
「喜んでる場合ぢゃないでしょ! アナタが勝手に飛び出したお陰で、こっちは散々心配させられたんだからねっ!」
キー、キーと必死でミリアに食い下がるサンダユウですが、ミリアは手厳しいですね。
「ハイハイ! そーいうのは〈下衆のイイワケ〉って呼ぶのよこの異界では! そもそも、危険な匂いがプンプンするって感じたなら、最初にアタシに言いなさい」
「ま…そのへんでいいじゃないか? 大事には至らならなかったんだし。それより…ニキータ水精導師がわざわざ此処へいらしたんだから、そっちが肝心な…」
さすがにチェニイも、この場ではサンダユウに味方して仲裁に入るしかないようです。
「あら、ミリアもトト・サンダユウ君と会話できるようになったのね。素晴らしいわ! まあ、あなたなら当然とは思ってたけど」
やりとりを脇で聞いていた姐様は驚きの嘆声を上げました。
「あ。いえ…できるようになったのは、つい最近のコトなんですけど…」
サンダユウ探しのワタクシ事に集中し過ぎて、肝心の〈空気嫁〉が疎かになってたミリアが恥ずかしそうに応えます。
「まあそれはともかく…せっかく関係者が全員集合したんだから、ここで臨時の内部会議を始めましょう。オマエたちもお役目ご苦労様でした…所定の警護に戻って頂戴」
ニキータが凛とした声で命令を下すと、エイプ・オムたちは恭しく彼女に一礼すると、そのまま時計塔ポータルから降りて行きました。
「あの…姐様…今の〈おサルさん〉たちはこの町の…ガードマンなんですか?」
初めてこのガドリング廃都で出会った巨大なエイプ・オムの姿に圧倒されてたミリアは恐る恐る尋ねました。
…まあ、それも当然ですね。同じ大白猿に伽藍山脈下山途中で襲われたのは、つい先日のことなのですから、すぐ慣れろと言われても無理です。
「ええ、モジャーさんたちには警備とか土木に都の復興とか、諸々のことで協力してもらってるわ。いくら何でも、ワタシたちと少数の部下…あなたも気づいたと思うけど、多くは若いルボッツたちね…だけで、そんな大事業ができるとは考えてないでしょ」
姐様はミリアに、こともなげにそう語りました。
「けど…あの…実はあたしたち、東側のニザーミアから伽藍山脈から〈ハグド〉の遺構を過ぎて、このポーララカ盆地に降りてきた途中にその…モジャ大白猿に襲われたの。あの…オサルさんたちが、ここの仲間とはとても同じ人?たち…とは、思えなかった…けど」
ミリアは困惑を隠せないまま、そう打ち明けます。するとニキータはそれに対して、こう告げました。
「そうねえ…あなたたちが越えて来たハグド駅の遺構は見たわね。実はあの連中にしても、かつてはあの地底駅の運営を任されていたエイプ・オムたちの末裔…というより生き残りなのよ。残念だけどもう〈先祖返り〉が進みすぎちゃって、元には戻れないけどね」
狂暴なケダモノとしか思えなかったモジャーに、そんな経緯があったなんて。ミリアはにわかに自分の聞かされたことが咀嚼できず、しばし沈黙するしかありませんでした。
「それはさておき、話を本題に戻しましょ」
さすがに水精宮の饗応施設ほどの広さはないけれど、その代わりプラネタリウム(正式には司巫儀ポータル、と呼ばれてますが)をはじめとしたデバイスは稼働しているし、いざとなればここで何らかの機械的措置も可能です。
ガドリング側からはニキータ姐様とノギス技師、それに弟子(たぶん?)のオルト・アリューインの3名(ユリアとサクトの2名は現場に出ていて欠席)、それにラッツークからの到着組が4名(プラスペットが一匹)の合計約8名が、円座になってこの時計塔に集うという構図になりました。
「まず、チェニイ君とミリア元斎宮サマの今後に関して、私からの意見を話すわ。残念ながら、ニザーミア学府院のバカ約一名のせいで、首席導師オービスの意向が確認できないのは残念だけど…」
ニキータがまず口火を切りました。ニザーミアのバカ…とはトープラン三席火精導師のこと。彼が首席から託された親書を姑息な手段で爆破させてしまったことを、姐様は怒りを込めて語りましたが…まあ、いまさら愚痴を言っても始まりません。
「率直に言って、まずミリアが願っているような…〈自分たちを元の場所に戻す〉という希望に関しては賛成できないし、方法を提示してあげることもできません。これに関しては、ミリア自身も分かっているわよね」
予期していた回答ではあったけれど、ミリアは下を向きこくり、と頷きました。
「それはチェニイ君にとっても同じことよ、わかると思うけど」
ニキータは同じく、淡々と答えます。
「おおよそは…わ…かるけど、それじゃあニキータ水精導師は、オレ…いやぼくたちが、どんなことをこの先やるべきだ、と考えてるんだろうか。それを…」
正直、改めて告げられると、チェニイは考えが乱れて纏まりません。
「まあお待ちなさい。まず二人の現状を整理してみましょう。
チェニイ君は〈ファルス様〉という召喚された使命を拒否しました。サウス・クオータから攻めて来る…予定の…大魔王ゼイゴスとかいうトリックスターを倒す気もないし、ニザーミア学府院の…というより本当はUNトラストの傀儡なんだけどね、あの連中の言うことに従う理由もない、という。そうよね」
チェニイは黙って頷きました。
「問題はその先よ。じゃあ、何のために自分は異界から〈召喚〉なんかされたのか? それを知ろうとしても、記憶ごと消されてるから分からない。正確には〈ファルス〉の呪縛が記憶喪失を引き起こしているのだけど」
「……」
チェニイは当初、「ファルス」という言葉を聞いただけで激高していました。さすがに現在、その感情の乱れは恢復したようだけれど。
「じゃあ、チェニイは…その使命を果たさない限り、この世界から戻ることはできないのでしょうか、姐様…」
ミリアはそう尋ねるしかありません。
「ちょっと待って…そんな短兵急の結論を出す前に、も一つ考えなくちゃいけないことがあるでしょ。ミリア」
チッチッチ、と姐様はミリアを制して続けました。
「確かに、これは呪縛よ。しかも困ったことに…記憶がないから責めるのは酷だけど…その〈ファルスの呪縛〉を与えたのは、他ならぬチェニイ君自身なのだから」
「どういうこと…なんですか?」
さすがにチェニイの胸にも、ふつふつと怒りが湧きあがってきました。しかし、それは彼に告げたニキータに対する怒りではなく、そんな呪いをかけた、自分自身に対する憤怒の情でもありました。
「残念だけど事実なのよ。〈使徒召喚〉の代償でもあるのだけど、その力を付加するための鍵は、自分自身で設定しないと発動しないの。だからファルスという〈名前〉は絶大な呪縛を生むのよ。もっと言えば、いまあなたが自称してる〈チェニイ〉だって、仮の名前でしかない…だから、このガドリングの仲間…といっても、あなたにはそんな記憶はないでしょうけど、彼らは当初、キミを〈チェズニ〉という旧名で呼ぼうとしたの」
もう、混乱が混乱を呼んで、頭がまるで働かないや…それじゃオレの本当の名前とやらは、いったいどこで行方不明になってるんだ?
「ひどい…」
ニキータの冷徹なまでの宣告を傍らで聞かされたミリアは、呻き声にも似た言葉を絞り出すしかありませんでした。
「事実を受け入れないと、その先へは進めないのよ、チェニイ君」
ニキータはここで言葉を切ったあと、おもむろに顔をミリアにも向けました。
「それからミリア、チェニイ君の〈使徒召喚〉とは違うけれど、あなたも同じような宿命を負っているのよ。それを理解しなさい」
「え……?」
唐突に話を向けられたミリアは、驚いて伏せていた目を上げました。
「あなたには記憶があるでしょ…自分自身でも自覚していると思うけれど…【自分の中には、二人分のミリアがいる】…そう考えたことはない?」
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ニキータ・ディーボックスは、かつて…といっても二年ほど前に
過ぎませんが、ニザーミア学府院で次席水精導師の重責にあり、
そしてトライフォースすなわち身体に【三精霊を具有する】
稀有な精霊師であった地位を捨て去り、ノース・クオータの人住まぬ
廃都ガドリングに下り…背教の〈魔女〉という俗名を蒙る羽目と
なりました
その事情も、実はこの二人の出自と深く関係しているのです
次回に続きます
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