081 おサルの親方大奮闘の巻
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姐様ニキータ主催の〈呑み会〉もとい〈お茶会〉のドタバタも片付き、
チェニイ一行は誤解も解けて、どうにか廃都ガドリングに腰を落ち着ける
こととなりました
ただ、チェニイとミリアの今後の身の振り方に関してはまだ道半ば…
これはニザーミアの首席から預かったスクロールを、どっかのアホの
画策により爆破粉砕されてしまったせいもあるのですが
それに加えて、ニザーミアを追われた…というより所属するNUA完全公社を
追放されてしまったガブニードスと、生来が冒険者にして風来坊のルボッツ、
リヒターはこの先どうするのか、という問題が残っているからでもあります
…それに…
ペットのトト・サンダユウが何やら、ガドリングで妙な匂いを嗅ぎつけて
フイ、と何処かに行ってしまったことも問題と言えば問題
最初は単なる〈打ち捨てられた都〉とばかり思っていたガドリングですが、
どうも、実情はそれだけで済まなそうなナリユキです
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「え!? 目を離したスキに、サンダユウがどっかに消えちゃったのぉ?」
寝ぼけ眼から素に戻ったミリアでしたが、この〈大切なおともだち〉つか、無二のペットが消えてしまったことで、ガドリング廃都見学どころの騒ぎではなくなったようです。
「まあ落ち着けよ。いまガブニードスとリヒターが、外へ出て探してる最中だから」
「…って…あの冒険者二人組まで外へ出ちゃったの? っったくもう!! 勝手バラバラに好き放題に行動して、ナニか起こったらどーすんのよ!?
本当に……キッチリ団体行動が取れない連中なんだから!!」
「まあ、そう怒らんと…サンダユウだって、ハラが減ったら戻ってくるだろうし…」
「ナニ無責任なこと言ってンのよ! そーいやチェニイ、アンタたち…ハグドの洞窟でも、アタシたちをほっぽらかしにして、地底弾道特急の探検に熱中してたでしょ。
あの場にレミリャちゃんがいてくれなかったら、ゴルフの親父さんは坑道でボムを使わなかっただろうし…ってコトは最悪、アタシたちマグマの海でオダブツになってたのよ!」
ミリアは、次々と記憶を蘇らせて怒りに火をつけています。
困ったのは、二人を誘いに来た姐様の弟子オルト・アリューインです。
「なんか、タイヘンな時にお邪魔しちゃったようだな…」
けれど実際のところ、ミリアの予感的中というか「何か」は既に起こっていたのです。
実はそれをかぎつけたのは、件の「サンダユウを探しに来た」冒険者二人組…正確にはリヒターでした。
本人も〈冒険者の心得〉と自慢するだけあって、細かな物音は聞き漏らさないバツグンの聴覚で、ガドリングの水浸しになった廃屋エリアを探索していると、かなり遠くからサンダユウの甲高い警戒音が聞こえたのです。あわてて音のする方向へ走ると…戸口のすぐ奥で、サンダユウが毛を逆立てて誰かに向かって威嚇しているのでした。
…!
その相手はなんと、数日前にガラン山脈の出口近くで遭遇し、乱闘の挙句に追っ払った、あのモジャ公…正確にはエイプ・オムとかいう大白猿です!!
「ガブニードス!」
リヒターは同僚に向かって鋭く叫びました。
「ど、どうするんですか?」
「オレ、いまカンシャク玉持ってねえんだ! アンタが例の得意技で撃退してくれ」
「得意技って言われても…」
「だからぁ! 必殺の…ナニだよ、ロケットパ~ンチ! つぅやつをブチかませ!」
といきなり言われても。ガブニードスがしばし戸惑っていると、この大白猿のほうが、慌てた様子で手を振り、二人を制しました。
『チョオ待てクリヤ! ワシ怪シイもんジャネエダニ。イッキなし、コノチェムナ人にカラまれて、ホトホト往生しとるんだガニ。アンタラでどうにか治めてくんねえカ?』
なんか少々イントネーションは怪しいけれど、ちゃんとした人語を発してきたのです。
「な…何なんだオマエ? こんなトコロで何してんだ?」
おっかなびっくりながら、リヒターが応えました。
『ワシ〈ユニオンジャック〉ゆーモンだで。ココの現場で親方しとるガヤ。今日の現場支度に、時計塔に寄る途中でイキナシ、チェムナ人が牙剝イテ襲って来たんダガヤ』
「はあ? 現場監督の親方? って…何のこっちゃい」
リヒターにもさっぱり理解できませんが、ともあれコイツに敵意は感じられません。ともあれ、サンダユウには戦闘態勢を解かせ、まずは話を聞くことにしました。
どうやらこのユニオンジャック…とか名乗る大白猿は、ガドリング廃都で〈雇用されている〉労働者たちの取り纏め役だ、と言うのです。主に彼らは廃墟の撤去作業と修復を任されているのだとか。
「モジャ公が、ガドリング復興を任されてるのか…」
リヒターにも驚きは隠せません。けれど…ここで彼は昔の言い伝えを思い出しました。かつて、あのハグドのステーションでも、モジャーたちは地底弾道特急のメンテナンスや運営に従事していた、という話を。つい先日に我々を襲って来た、狂暴なケダモノとしか思えないのだけれど、かつてはザネル世界の一員として生活していた仲間だった時代も、おそらくあったのでしょう。
「それで親方格の彼が〈組合ジャック〉ってワケですか…なるほどぉ~」
なんか、妙なところでガブニードスは感心してますが、リヒターには何のことだかまるで分かりません。ま、大したネタではないから、どーでもいいでしょう。
『コノ先の〈時計塔〉ニ、ワシらを差配シナサル技師様が待っトラレルカラ、ヨケレバ案内スルで…アンタも〈ロボ〉サンみたいダケン、話は早カロ?』
ユニオンジャック親方(?)は、ガブニードスを指さして語りかけました。
「だからぁ! 私はロボじゃない、って言ってるのにぃ!…って、ちょっと待ってくださいよ、いまアナタ〈時計塔〉って言いませんでした?」
『アア、このデカ水溜りノ向こうに建っトルガナ。案内スルデ』
…
どういうことなのでしょう? ラッツークにもあった〈時計塔小屋〉と同じサテライトが、この廃都ガドリングにも存在しているというのでしょうか。それに、その時計塔を管理している〈技師〉もいる、というのは…。
ガブニードスの胸は高鳴ります。というワケで、この大白猿と連れ立って、彼らは現場へと歩を進めるのでした。
と、ほぼ同時期に、やきもきしながら水精宮の付随した迎賓館で〈冒険組〉二人を待っていたチェニイとミリアですが、例によって二人は鉄砲玉のごとく、一向に戻って来ません。当然、勝手に彷徨っているトト・サンダユウも同様です。
「予想はしてたけど、あきれたものよねえ…」
ミリアはため息をつくしかない様子です。
ところが…不意にミリアの耳に、声が飛び込んできたのです。
「どこ行ってたのよ! いまどこ? で、何してるの?」
ミリアが大声を出しました。同時にチェニイの脳裏にも…どうやら、二人は同時にサンダユウからの通信をキャッチしたのでしょう。
二人は思わず、顔を見合わせました。
迎賓館の居室で待機していたオルト・アリューインは…することもなく、ぼーっと湖を眺めていたのですが…いつまでこの部屋にいても仕方がない、と腰を上げたところに、ミリアが勢い込んで走ってきました。
「オルトさん、アタシたちをアッチの方角へ連れてって! 何だか知らないけど、大きな目立つ建物って、そこにあるでしょ?」
いきなり意味の分からないリクエストをされて、オルトも面喰いました。
「アッチの方向?…って言われても…思いつくのは〈時計塔ポータル〉くらいだけど…」
「それよソレ! みんなが待ってるの!」
有無を言わず、二人は飛び出していきました。
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考えてみたら、姐様ニキータ・ディーボックス(元次席水精導師)と、
彼女に従う数人の配下だけで、この廃都ガドリングが復興される
はずもありません…けれどまさか、狂暴な野獣(と思い込んでいた)
大白猿モジャ公、正式名称エイプ・オムたちが、このガドリングの
再建に関わっていたとは驚きでした
それに、この廃都にも〈時計塔ポータル(仮称)〉が存在していたとは
…など、もろもろに事実が判明したところで
次回に続きます
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