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079 お茶にしましょう、お酒はNGよ 下

 …………………………………………………

チェニイ一行と廃都ガドリングの〈魔女〉およびその配下との

記念すべき(?)初顔合わせは、文字通り

〈とんでもない結末〉で締めくくられました

このあたりは前回お話ししたので、いまさら繰り返しませんが

この騒動の顛末に心を砕き、死地からの脱出だ! と意気込んだのが

〈冒険者〉リヒターで、その非常識&成功の見込みがないプランに

例のごとく異を唱えたのが〈最強ロボ?〉ガブニードスでしたが、

そんなチェズニ一行が軟禁されていた迎賓館居室を訪れたのが

ガドリング側の世話役少女ユリア・イルーランでした…

すわ、姐様の裁断が下り、彼らを処罰する刻限がやって

来たか!? と思いきやユリアはチェニイとミリアを、

姐様ニキータのお茶会へ誘いに来たと

告げるのです…これってどういうコト?

 …………………………………………………


 チェニイならずとも〈キツネにつままれた〉気分にされたのはリヒターも同様でした。

 どこの世界に大騒動を引き起こし、監禁されている犯人を茶会に誘うような親分…しかも爆殺されそうになった被害者本人…がいるのでしょうか。あ、ひょっとして、処刑代わりに毒を盛って薬殺処分にでもする腹づもりか?

 などと勘繰るのも無理ありませんが、そんなリヒターに対してユリア・イルーランは

「ルボッツであるリヒターに対し、私たちは敵意など抱いていない」

と明言したのですから、ますます事情がわからず混乱してしまいます。

 ともあれここは彼女に従い、チェニイとミリアを〈饗応の間〉へ送り出したら、あとは大人しく部屋に残って待つしかありません。

 扉が閉まり、所在なさげに座り込む二人でしたが、ここでリヒターが気づきます。

「おい、あのミリアさんのペット、どこに消えたんだ。部屋に残ってねえぞ」

「そういや、気づきませんでしたね。どうしたんでしょう…ひょっとして…」

 

ともあれ、処断するために連れ出されたワケではない、と知らされたチェニイとミリアは居室を出て長い廊下を抜け、テラスのある2階〈饗応の間〉へ到着しました。

「ああ、ようやくお二人とも到着したわね。さ、こちらへ掛けてちょうだい。あんな格式張った水精宮じゃ、堅苦しくてロクに身内の話もできなかったでしょう?」

 ニキータ・ディーボックス〈姐様〉は対面の椅子から立ち上がり、にこやかな笑顔で二人を迎えました。


「ね、懐かしいでしょ…大都ジュレーンのソーマを用意したわよ」

 ニキータはお付きのユリア・イルーランに指図して、二人に茶を勧めました。ソーマというのは一種の強壮飲料ですが、殊に大都ジュレーンを治めるセイノール・マーマン族が好む茶でもあります。ちなみにマーマンとはザネル世界でいう「マーメイド」水棲種族の末裔なので、彼らは水精を守護する役目も負っています。

「考えてみたらスゴいわよねぇ~、お茶にスパイス加えて香り付けするんですもの。しかもメランジェ・スパイスっていったら、ザネルでは滅多に穫れない逸品よぉ!」

 目をキラキラ輝かせて、ニキータは二人へしきりに茶を勧めます。


「あ…でも考えたら、ミリアはラッツーク竪坑の〈ビストロ姫ちゃん〉時代にスパイス入りのミージェ・シチュウを振舞ってたから、それほど懐かしくないかしら…それより…実はアタシ、知ってるのよ、ニザーミア学府院で大立ち回りの一件。秘密のことも」

 悪戯じみた笑顔を浮かべ、ニキータはミリアに向き直りました。

「アナタ、ニザーミアに乗り込んで行ったとき、〈飛蝗〉に狂暴化したミージェ虫の大群を追っ払うため、メランジェ・スパイスを大量にブチまけたでしょ」

 フフフフ…と彼女は含み笑いを浮かべます。

「あんな貴重品、よくまあ惜しげもなく使ったわね~。たしかに、虫避けにもアレは効果的なんだけど…そんな知識どこで仕入れたの?」

 愉快そうに話を振ってくるニキータ姐様なのですが、ミリアの方は対照的に…暗い顔をしたまま、話に乗って来ません。


 しばし沈黙したのち、きっ! と顔を上げ思いつめたような表情で、ミリアはニキータに向き直ります。

「ゴメンナサイ姐様! ワタシ…とんでもないコト、しでかししゃって! 許して下さい、なんて…とても切り出す資格もないけど、あれは全部ワタシのせいなの。チェニイには何の責任もないの! それだけは…信じて欲しいの!!」


 突然、椅子から床に跪き、ミリアは声を枯らしてニキータに謝罪しました。

 その切羽詰まった様子を見せられ、逆に慌てたのはチェニイです。

「ミリア! ニキータ様にスクロールを手渡したのはオレだぞ! オマエが謝る前に、オレが自分の仕出かしたコトを謝罪しなきゃ、ここは話が始まらないだろうが…」

 二人の突飛な行動に面食らい、一瞬目を丸くしたニキータ姐様でしたが、ややあって表情を和らげ…椅子に腰かけ直し、右手を振ってチェニイとミリアに立ち上がるよう促しました。

「はいはい! この話はそれくらいでオシマイにしてちょうだい。せっかくのオイシイお茶も、そんな話を切り出されちゃ、台無しになっちゃうじゃない…ユリア!」

 ニキータは饗応の間の奧で待機していたユリア・イルーランに声を掛けます。


 今しがたの大立ち回りで驚き、立ちすくんでいたユリアは、姐様の声で跳ね起きたように走り込んできました。

「こういう場ではお酒は出さないのが慣例なんだけど…いいわ、今回は座を和ませるほうを優先しましょ。ロクリス・リキュールを作ってちょうだい。30年熟成モノをグレナディンで割ってね」

 慌ててユリアは奥へ引き込みます。

「さ、まずはお二人と乾杯しなけりゃね。詳しいお話はそれから」


 ユリア・イルーランは(バーテンダーの心得もあるのでしょうか?)すぐ厨房で調合を済ませたカクテルを盆にのせ、饗応の間の大テーブルで乾杯の儀礼を整えました。

 ニキータ姐様は二人をテーブルに移動させ、自ら音頭を取りました。

 彼女は並々とタンブラーに注がれた純白の液体を一気に煽り、ふう、と吐息をついてから、おもむろに話し始めました。

「ミリア…あなた…ニザーミアでオービスと会って、託されたスクロールを受け取ったあと…もう一件〈火精棟〉で大立ち回りを演じたでしょ? あのトープラン火精導師の部屋で。もちろん、覚えてるわよね」

 ミリアはこくり、と頷きました。

 それは、ニザーミア学府院で巻き起こった、もう一つの大事件。

 古代機械ダール・グレンの暴走によって解放されてしまった精霊子は実体化し、巨大な怪物カイン・マートをザネル世界に解き放ちました。もっとも、その実体をしかと視認できたのは(皮肉にも)トト・サンダユウや一部の精霊師に限られていましたが…そのエネルギーはニザーミア学府院をも直撃し、体内に取り込まれていた火精を発火させる〈ナイカ-内火〉現象を起こして幾人もの火精師を燃やすという悲劇を起こしました。


 そして皮肉と言うのなら火精導師トープラン自身さえも、その犠牲になって瀕死の状態に陥ってしまった…そして彼を死の淵から救い出したデュアルフォースの元斎宮こそが、実はミリアだったのですが…。

「デュアルフォースの秘儀を使って、トープラン導師の体内から暴走した火精を分離して、それを片っ端から水精で中和する…ムチャクチャ微妙なバランスを要する秘技を成功させるなんて、さすがに私の直弟子よね~。でも…」

 ニキータは、ここで言葉を切って、タンブラーに残っていたリキュールを一気に飲み干しました。とん! と音を立ててテーブルに叩きつけると、彼女は部屋の奥に待機していたユリア・イルーランに大声で命じました。

「もう一杯、ロクリス酒のお代わりを作ってちょうだい…それからミリア、あなたも一緒に呑みなさい! そんな仏頂面を見せてないで」

 よほど不愉快な記憶が脳裏をよぎったのでしょう。ちなみにニキータはそろそろ、出来上がってきた様子です。


「でもね、命を救ってもらった恩義を感じる殊勝な野郎じゃないのよ、あの火精導師の恩知らずのド度度アホウはっ!!」

 ニキータは吐き捨てました。

 ミリアは師匠の剣幕に気圧されしながらも、あの〈火精棟〉での一件を思い出しつつ、それも無理からぬことかなぁ…などと考えていました。


〈だってあの時は、トープラン火精導師はほとんど人事不省で唸ってたし、意識を取り戻した時にはアタシの方が精根尽きてブッ倒れてたからなぁ。ま、火精導師にすれば、気が付いたら床に【素っ裸の娘さん】が倒れてるのを目撃したワケだから…〉

 それを思い出すと…フフフ、とつい思い出し笑いが口の端からこぼれてくるのでした。

〈ま、ヘタこいて火精が巫女装束に燃え移っちゃったから、咄嗟の判断で服を脱いだだけなんだけど…あの火精導師の執務室から、人払いしといて良かったわ。あんな姿、誰にも見られたくなかったもんね。たとえ…チェニイにだって…〉


 ミリアから微笑みが戻ってきたことを察知したニキータもまた心中でほっとしたのだけれど、ここでミリアさえ気づかなかった真実を、彼女は暴露したのです。

「けど、そのあとが大問題だったのよ! あなたがニザーミアを二年前に出奔した、大都ジュレーンの斎宮だったと知った後の、トープランの対応がね!

 思い出して? アナタがオービスの勧めで、この廃都ガドリングへ向かうことを知ったときに、アイツはどんな対応を取った?」

 ミリアは、記憶を辿りながらその時の様子を告げました。


 たしかに古代機械ダール・グレンの暴走から始まり、カイン・マートという怪物を、ザネル世界に解き放ってしまったこと(これに関しては、ミリアも詳細は理解していないのですが)、ミージェ虫が大発生したこと、そして精霊暴走のあおりを受けてニザーミア学府院では…特に火精師たちが…ナイカ=内火で身を灼き尽くされる悲劇に随所で襲われたことを、ミリアはかいつまんで火精導師に説明しました。

 もちろん、使徒召喚を蹴飛ばしてラッツークへ逃走したチェニイも、ミリアと共にニザーミアへ秘かに舞い戻っていることや、ミリアを取り戻すべくなんとサウス・クオータの大魔王ゼイゴス自身までもが、ニザーミアの目と鼻の先であるレスター島にまで来ていたこと(ついでに、ドサクサ紛れに倒してしまった…らしき事実)などは、さすがに告げるわけにいかなかったのですが。


 けれど、ミリアが一番頭を悩ませたのは、首席導師オービス自らが、ミリアに(チェニイに関しては火精導師に伏せてあったから全面スルー)廃都ガドリングへの旅を勧めた、という事実を火精導師に納得させることだったのです。

 ニキータはミリアからそれを聞かされて、思わず大爆笑してしまいました。

「そりゃあ当然よね~。だってトープラン火精のヤローにすれば、この廃都ガドリングに引っ込んだ〈魔女〉なんて、不倶戴天の敵そのものですもの。そんな場所にノコノコ訪ねることを認める筈がないじゃない。しかも首席オービス自身にしたって…チェズニは…」

 と言いかけてニキータ〈元水精導師〉は、ふいに言葉を噤みました。


「それはそうと…トープランは…アナタになんて言ってたの? 簡単には納得しなかったでしょ、元斎宮姫の廃都ガドリング行きを?」

「ええもう、なんか首席導師がそれを証明する文書はないのか?…お墨付きを証明するものは持ってないのか? ってしつこく一点張り」

「ほほ~、まさしく役人根性丸出しですねえ」ニキータがツッコミを入れます。

「なので、アタシは首席から預かったスクロールを見せたんです。証明するものって言われたら、それしかないから」

「けど…それってチェニイ君の保証、というより〈使徒ファルス様〉の身元保証か…するための公文書だ、って言ってなかった? オービス首席サマは。それを〈使徒召喚計画〉を画策した張本人に見せたら、それはそれでヤバくね?」

「あ、それは最初から問題ないと思ってました。だってあのスクロール、姐様にしか開封できない仕掛けが施してあることは承知してましたから。

…なのでトープラン三席の火精導師はスクロールをあちこち弄り回してたけど、結局根を上げて、アタシを解放してくれて……」


「はいそこ~~!」

 ここで、ニキータ姐様は大声をあげてミリアを制しました。

「え? そこって……ドコですか?」

 姐様はタンブラーを翳し、ロクリスカクテルも残りを煽って告げました。

「爆殺未遂犯人のアシがついた瞬間よ、ソコが!」

「ど…どゆコト」

「遅効爆裂ザップスボンの呪をスクロールに忍ばせるなら、そのタイミングしかなかったのよ。本当に…コソクな真似をするわね…さすがは愚鈍なくせして妙にセコい火精導師の仕組みそうなことだ。あわよくば、宿敵をガドリングごと吹き飛ばせれば御の字、とでも考えたんでしょうよ」

 ミリアは息を呑みました。さすがに彼女にも、そこまでは思いつかなかったのです。

 そして自分の不明を恥じました…ミリア自身もデュアルフォース…火精の保持者だったけれど、さすがに火精導師の悪知恵が一枚上手だったのでしょう。


「ミリアが恥じることはないわ。こんな卑劣な技を日頃から研鑽しまくるヤツのほうがイカれてる、って考えるべきでしょ。てなワケで、この件はオシマイよ。チェニイ君も、とんだ濡れ衣を着せられて迷惑千万だったわね、お疲れ様」

「いや…その…オレも…そんな罠は見破れなかったワケだから」

 どう返していいのか分からず、チェニイも頭を掻くしかなかったのです。

「さ、誤解が解けたところで…チェニイ君も愉快に呑みましょ! もう結構呑んじゃったから、あとの相談は酔いが醒めてからにしましょ…ユリア! も一杯お代わりをお願い…って…アンタそこで何してるのよ!?」


 よく見ると、片隅に設えてあったカウンターにもたれ掛かったユリア・イルーランはタンブラーとシェイカー、それに酒瓶を片手に、すっかり自分も〈出来上がって〉います。

「スンマへん姐ひゃま…カクテユをお作りひゅるには一度…験ひノミひないと…ゴブレイつかまつりまひゅから…ひょのお…」


 結局ユリアも千鳥足のまま床のテーブル脚に足を取られて昏倒。部屋に呼びつけた屈強なオルトの手を借りて饗応の間を退場する羽目となりました。

 さらにミリアも…緊張が一気に解けたせいでしょうね…テーブルに突っ伏していい気分になってしまいました。

「あはははは、だ~ら未成年にオヒャケ呑ませちゃラメれしょ姐サマァ~」

 なんか譫言をいいながら、彼女までケラケラ笑ってます。


〈そーなんだよな、ラッツークの宴会場でもこんなコトがあったっけ。こいつ結構、酒癖が悪いんだよ。また今度も、後始末はオレの仕事かよ…〉

 というワケでチェニイはミリアを抱え、長い通路を迎賓館の居室まで戻る羽目となりました。


 さて、結局最後まで饗応の間に一人残ったニキータ姐様ですが…。

 残っていたロクリス酒の瓶をを片手に、彼女は別のことを考えていました。

〈トープランの阿呆のお陰で、オービスから託された親書はスクロールごと爆破され、肝心の通信内容まで木っ端微塵だ。いったいあの人は、チェズニ…いえチェニイに何をさせたかったんだろう? 

 そもそもチェニイ・ファルスの身分保障? そんな必要などある筈もない。だって…私が一目会えば、彼がチェズニだということに疑いの余地なんか微塵もないのだから。

…どこの世界に、出奔した息子を見間違えるアホがいるものか…

 まあ…あえて言うなら、かつてのチェズニに比べれば多少、人相は悪くなったかな…〉

 ニキータはそう呟いて、グラスに残ったカクテルを飲み干しました。


 ……………………………………

以前にラッツークの竪坑で、何度か大宴会が催されましたが、

このザネル異界で提供される最高級のロクリス・ワインというのは、

グボ(家畜)から採った馬乳酒を一度蒸留して、

これにスパイス(メランジェ)とグラナディンを加えたカクテルです

強壮効能もありますが、蒸留酒ベースですので口当たりが良い割に

かなり度数が高く、しかもいきなり急激に酔いが回るので

ブッ倒れる危険性もあるという代物です

以上、どーでもいい豆でしたが

次回に続きます

 …………………………………………………

「ザネル」は毎週月・水・金に更新いたします 


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