077 ガドリング会談、ド派手に開幕
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世界には、自分とそっくりな人が3人いるという法則があります
…法則じゃなくコトワザだったかな、それに5人が正しかったかな?
なんてネタはともかく、ここ廃都ガドリングで「チェニイ」様は
なぜ「チェズニ」と呼ばれてるのでしょうか
コトの真偽はともかく、なんか「はるばる到着組」一同には
微妙な空気が漂い始めてきました
それに、彼らがガドリングを訪問するという事実さえ、事前に
廃都ガドリング側は了解済み、というのも考えてみれば気味の悪い話では
あるのです
いったい、どこでどんな情報が飛び交っているというのか?
まあ、それもコレも「姐様」が登場すればたちまち氷解することに
…どのような形で氷解するかは分かりませんが…
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チェニイが廃都ガドリング〈水精堂〉に到着…と同時に湖で溺れて…九死に一生を得てから、迎賓館へ通されてフードバトルで腹ごしらえして、一息ついてから二日。
姐様ことニキータ・ディーボックスの到着を待ちわびるうち、快晴だったガドリング廃都の天候も、微妙に変わってきました。昼は続くものの、北方ポータラカ盆地の雲行きは何やら怪しく、いかにも「真打の親分登場」を予感させる空模様の中で、一同の居室に世話役の少女が訪れました。
「姐様ニキータ・ディーボックスが、先ほどガドリングへ帰還あそばされマシタ。皆様、どうぞ水精堂までオイデ下さいませ」
その口上とともに水精堂へ通じる扉が全開放されました。ここからが勝負どころです。
「この場はワタシが先導するけれど、主役はあくまで、チェニイなんだからね」
ミリアはチェニイに向き直り、袂から一本のスクロールを取り出して彼に手渡しました。「これはチェニイから姐様…ニキータ様に…直に手渡して。ニザーミアの首席導師様から託された、アナタの身元を保証する大切なモノだから」
チェニイは固い表情のまま、黙って頷きました。
それにしてもこのスクロール、思ったより随分重たいな。受取人宛に厳封されてるようだけど、よくミリアはこんなモノを持ち歩いてたもんだ。
そして一同は、ミリアを先頭にチェニイ、ガブニードス、そしてリヒターと続いて回廊を進みました。ちなみにトト・サンダユウは…いつもの定位置(ミリアの肩上)ではなく、彼女の足元に付き添ってチョコマカ歩いています。
水精宮の天楼は開け放たれて、首座の前には男女三人が鎮座しています。世話役ユリアがメンバーを先導したのちガドリング関係者の側へ歩み寄って合流してから、おもむろに〈会談〉は開始されました。
そして、ガドリング側メンバーの中心に立っていたのが〈魔女〉いやニザーミア学府院の元次席水精導師にしてトライフォースであるニキータ・ディーボックスです。
チェニイは初めて彼女の姿を眺めて驚きました。ニザーミアで想像していたのとはまるで違う姿だったからです。
…何というのか…威厳ある女王というより〈戦う格闘家〉を思わせる引き締まった体躯と、それにそぐわない柔和な表情が奇妙にマッチしていたから。まあ、外見では推し量れない人物であることだけは間違いありませんが。
「お久しぶりねミリア…見違えちゃったわ。いろいろ苦労があったのでしょうね。すっごく精悍な表情に成長しちゃって」
微笑みながら〈姐様〉は彼女に声を掛けました。
「姐様もお変わりなく…いえ、お変わりはあったのですね。御身から迸り出るオーラの輝きがお別れしてから、さらに倍増していますもの」
ミリアも負けずに(?)言い返します。
「ところではるばる、この〈魔女の都〉ガドリングを訪ねてきた事情を、率直に教えてちょうだい、包み隠さず。
2年前にあなたがニザーミアを出たことは知っています。思うところあっての出奔でしょうけど、ジュレーン斎宮を辞してから、どこで何をしていたの?」
「麓の竪坑町ラッツークの〈ビストロ姫ちゃん〉というお店で、シェフをやってました」
「まあ、それって…すっごく面白そう! やっぱり出し物主菜のレシピは…アレ?」
「ええ、材料の主役はミージェ虫で、味付けはジュレーン風スパイス」
「やっぱしぃ~! 重労働の鉱夫サンたちの日常食っていったら、アレでキマリよね」
ニキータ姐様の反応は…正しく意表を突いたものでした。このアネサマ、確かに只者じゃありませんね。
このあとしばし料理談義で花が咲いた後(ナニやってるんでしょうね二人とも)、ニキータは唐突に話題を変えました。
「ところで、あなたの後ろでさっきから手持ちブタさんになってるのが、本日の主役チェニイ・ファルス様なのね。ようこそ廃都ガドリングへ」
いきなり声を掛けられ、チェニイは動揺するしかありません。
「ほ、本日は…お…おねまき頂き、まことにもって…恐縮です!」
なに口走っているのか、本人にも分かっていません。
「あら、訪ねていらしたのはチェニイ君の方でしょう? それにお寝間着は特段、あなたに差し上げてませんよ」
くすくす…ニキータは忍び笑いを浮かべます。
なんとも間抜けな空気が周囲に漂い、ガドリング側の三人も失笑するしかありません。
…ああ、のっけから…お間抜けブチかましをやっちまったよ…ミリアは天を仰ぎました。
ところが
くすくす笑うガドリングの3人に放ったニキータの一言で、場の空気は一変します。
「みなに念のため、申し渡しておきます。本日ガドリングを訪ねて来られたのは、みなの知る旧知の〈チェズニ〉ではありません。あくまでニザーミア学府院よりお越しのチェニイ・ファルス様です。その旨、決して間違えないように」
ニキータの一喝で、ガドリングの三人に電気が走ったような緊張が伝わりました。
「ではまず、私どもの自己紹介をしておきましょう。
皆様をご案内しましたのは…ユリア・イルーラン。幼く見えますが、これでも技官エキスパートです。皆様の滞在中は、身辺のお世話役に使役して下さいませ。
その脇に控える長身がオルト・アリューイン、ガタイのいいのはサガッツ・アリューイン。兄弟で、このガドリングの設営を担当しております。現在は外仕事が中心ですが、お見掛けしたら気軽にお声をかけてくださいませ」
サガッツ、と呼ばれた屈強な男は…最初にガドリングに到着した早々、チェニイがこの水精宮前のキャットウォークを移動中に、突然バルコニーから顔を出して大声を掛けられ、驚いて湖水に落ちて…あやうくドザエモンになりかけた原因を作ってくれた張本人です。
「さてチェニイ・ファルス様…ぶしつけですがあなたはニザーミア学府院で、UNトラストの使徒として召喚を受けた、と聞き及んでおります」
いきなり姐様は、本題ど真ん中をチェニイに切り出しました。
「けれど、あなたはその場できっぱりと〈使徒〉に課された使命を拒絶された。そしてその場から立ち去り、その足で麓のラッツーク竪坑町に向かわれた、と…。私の聞き及んだ情報に間違いありませんか?」
「…はい、その通りです」
チェニイは生唾を呑み込みました。この調子では、その後の〈スコップ英雄〉に成り上がった一件まで、すべて事情は筒抜けなんだろうな。
ってことは、ひょっとして…ゼイゴスとの一件まで?
「では改めてお尋ねしますが、現時点で、あなたはすでに〈ファルス〉様としての任は放棄されている…そう、解釈してよろしいのですね」
「はい、オレ…ワタクシは〈ファルス〉と名指しされるのをゼッタ…決して望んでませんし、最初からそんな使命を受託した記憶もありませんから」
「わかりました…ではこれ以降、あなたを…なんとお呼びすればいいのでしょう?」
「単に〈チェニイ〉だけで結構です」
その言葉を聞い姐様はなぜか一瞬瞼を閉じ、改めて瞳をじっと、チェニイに向けました。
そして再び柔和な笑顔を浮かべ向き直ります。
「呼び捨てでは失礼ですから、それでは以後〈チェニイ君〉とお呼びしましょう」
もちろんチェニイはそのとき…瞳でチェニイを凝視していたほんの数秒間ではありましたが…チェニイの〈中にいる〉誰かと夥しい情報を交換していたのです。
〈そうだったの? キミもまた、相当とてつもない体験をしたのねぇ…まあ、ザネリアンにしてみたら、まず味わうことのない経験だったでしょう?〉
ニキータの瞳には、微かな満足感と同時に憂いの感情も籠っていました。
もちろん、その場に臨席していた誰にも悟られることはありませんでしたが。
次いで彼女は、チェニイの後ろに控えるメンバーに声を掛けます。
「それから…後ろに控えておられるのは…ニザーミアのメンテナンスを担当されていたNUA完全公社からいらした技師様ですね」
「ガストニ…いえガブニードスと申します。現在はニザーミア学府院の職を辞して、無職と申しますか…チェニイ様のお手伝いをさせて頂いております」
「それに…横にいらっしゃるアナタは…?」
「縁あって、その…チェニイ様一同の旅のガイドを勤めさせて頂いてる、リヒターと申します。まあ役柄的には冒険者にして風来坊、つったトコロですが」
「見たところ…ルボッツの方…なのかしら?」
「よくお分かりですね」
その言を聞いたニキータ姐様の背後からは〈おお…〉というどよめきが起きました。なぜなのかは分かりませんが。
と、一回り自己紹介を終えたところでミリアからニキータへ、申し出がありました。
「姐様、チェニイに関しては…かなり事情をご承知頂いてると存じますが…ここへ参りましたのは、ニザーミア学府院の首席オービス・ブラン導師からの御推奨を頂いてのことなのです。詳細は追ってお話ししようと思うのですが、まずはチェニイの身分保障を兼ねたニキータ・ディーボックス元次席水精導師への書状を、私どもは預かって参りましたので、チェニイからお渡ししたいと存じます」
ミリアの切り口上で、促されたチェニイはおずおずと壇上に歩み出て(かなり緊張で堅くなっていますが)にスクロールをニキータへ手渡しました。
「これが…そのスクロールで…あります」
ぎこちない手つきながら、チェニイはニキータ・ディーボックス〈姐様〉に文書を差し出しました。
「ニザーミア学府院のオービス・ブラン首席導師より預かってきました。ワタクシに関する身分保障と…その、今回〈使徒騒動〉に関しての相談も兼ねての提案…つか協力依頼だと思うんだけど…をしたためてある、と聞いてますが…ガドリングのニキータ様親展と封印してますから、まずはお読み…くださいませ」
要は、ニキータ手ずからでないとこのスクロールは開封できない…ということなのです。なのでオービス首席から託されたミリア本人も、チェニイにも何が書いてあるのか、内容は知らされていないのです。まあ事情から鑑みても、妙なことが書かれているとは思えないのだけれど。…とチェニイは思っていますが。
鷹揚な手つきで、ニキータはスクロールを受け取りました。
表面の上部に記された封印にそっと彼女が掌を添えると、ふわ…と柔らかな光が浮かび上がり、スクロールは解放されました。
はらり、と解かれた文書は、さらに光を帯びて水精堂に映し出され、そして……。
次の瞬間、文書は大爆発を起こしました。
水精堂に居合わせた全員、その場で何が起きたのか理解できませんでした。
もちろんチエニイも、そしてミリアも…。
耳をつんざく大音響と爆風。ガドリングの従者たちも全員が吹き飛ばされ、水精堂の外壁に叩きつけられます。もちろんガブニードスとリヒターも…。水精堂ごと、すべての施設が一瞬にして弾け飛び、そして破壊されて消滅…。
ところが、その爆心にあって直撃を受けた当事者…ニキータ・ディーボックス〈姐様〉の周辺だけが、奇妙なことに〈空白〉なのです。何もなく、ぽっかりと穴が開いている。
まるでそこにだけ〈ホワイトホール〉が出現したような、奇怪な光景。
そして…冷静に観察すると…大爆発そのものが、その場の空気と共に凍り付いたように停止してしまったのがわかります。
そのまま、どれほどの時間が経過したのか、あるいはほんの一瞬だけの出来事だったのかは分かりませんが…唐突に、その〈爆発そのもの〉が消滅しました。
〈爆縮現象〉とでもいうのでしょうか、まるで〈時間を巻き戻した〉かのように、この光景全体が、爆発の惨事そのものが、何もなかったかのように…
すう、っとニキータの右手の〈ホワイトホール〉の中に吸い込まれ、そして小さな塊となって…消え失せてしまいました。
後には、壇上にニキータ・ディーボックス〈姐様〉が右手を掲げ、悠然と立っていました。…
そして一瞬の爆発で吹き飛ばされた(はず?)の一同…チェニイとミリア、ガブニードスとリヒター、それに足元にいたトト・サンダユウ。さらにガドリング側の従者3人まで…床にへたり込んで茫然自失、という体で残されていました。
もちろん、今しがたすさまじい爆風で吹き飛ばされたはずの水精堂そのものも、全く無傷で残されています。
…なにやら、悪い夢でも一瞬、見せられたような気さえする。
「なるほど、なかなか楽しい趣向を用意して下さったのね、ニザーミア学府院も…」
ニキータ姐様は、皮肉な微笑みを浮かべながら両掌をぱん、ぱんと軽く払いました。
そのニキータのさりげない行動が引き金になって、一同ははっ! と気づいたのです。
いま体験したのは夢やマボロシなんかじゃない!
ニザーミア側は秘かに〈爆弾テロ〉を仕掛け、〈ガドリングの魔女〉ニキータ元水精導師を、いやそれだけではなく廃都ガドリングを、そしてチェニイとミリアまでも、すべて抹殺するという挙…最終手段に出たのだ! と。
そしてその企みを、彼女が何とも珍妙な方法で「何もなかったこととして」もみ消してしまったのだ、と……。
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もちろん、みんなが理解していたように、これは夢でもなければ
催眠術の類にかけられたワケでもない
〈魔女〉ニキータがトライフォースであることの真価をこの場で
発揮し、遅効爆裂〈ザップスボン〉を逆転させ無力化した、という
だけ(?)なのです…って…ただそれだけのコトなのか!?
もちろん、この大仕掛け(いわば爆弾テロですからね!)の後始末、
タダでは済まないのは当然ですけれど
次回に続きます
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