076 センサクしたって始まらない!
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まあ、チェニイの溺死未遂事件(笑)は大過なく終わりましたが
(そこそこ大恥は晒したけど)ともあれ、廃都ガドリングで
待っていた皆様には、敵対視されることもなく歓迎されたようです
…
ただ、お目当ての姉様…元ニザーミア学府院の次席水精導師
ニキータ・ディーボックス尊師は所用で不在、ということで
しばし待たされることになりましたが
それより(特にチェニイ本人には)気がかりなことが少々、
いや「山ほどあって」なんとも居心地が悪く、気も休まりません
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「考えてみたら、妙じゃねえか? 何ゴトにつけても」
と、不審を露わにして頭をヒネっているのはリヒターです。
「何が?」
相変わらずふくれっ面のまま、ぼーっと窓から湖を眺めているチェニイが尋ねます。確かに通された居室からは、見事な〈湖面に沈む廃墟の町〉の眺望が堪能できるのですが、別に彼はその光景に感動しているワケではなく、ただ単にすることがないから眺めているだけ、あえて加えるならぼーっとしてないと余計なことが頭をよぎるから、それがイヤなだけ、ともいえますが。
「だってそうだろ。あの長身の男がサラッ、と言ってたけど、オレたちの〈ガドリング到着〉を、アイツらは予め待ち構えてたような口ぶりだったじゃねえか」
「…だったら何なんだ」
「考えてみろよ。誰がそれをあいつらに告げたんだ?」
「…え?」
ようやく、コトの裏側にチェニイも思い至りました。
「オレが思うに、ニザーミアから通知が送られる、とは思えねえんだ。だって、あんたらの話を総合すると、ガドリングに引っ込んでる〈魔女〉サンと、ニザーミアとの関係は、決してイイもんじゃないだろ? 以前に何かしらドタバタ騒動があったから次席の水精導師が、ニザーミアを叩き出された…って考えるのが普通じゃねえのか?」
なるほど、それも道理だ…チェニイも納得しました。
「だったら、わざわざご丁寧に特使なんか、ココへ送ってくるはずないよな。しかも、オレたちの到着よりも早く」
確かに! チェニイ一行は、ニザーミアを発って赤十字回廊を西へ移動し、さらに分岐点のヨンギツァで北上。辺鄙な北回廊を辿って廃都ガドリングへ…という通常コースを大幅にカットした…しかも夜中の〈凶状旅〉まで敢行してガラン山脈を突っ切るという冒険まで試みてここまで辿り着いたのです。
そんな自分たちよりも早くここに急報が届くとは、とても考えられません。たとえニザーミアからラッツークへ戻った後、リヒターと出会ったり〈ビストロ姫ちゃん〉の店じまいで数日を要したのを計算に入れても…。
「ひょっとすると、風精導師の手引きがあったのかも…」
ガブニードスが首を捻りました。
「どういうコト?」チェニイが尋ねます。
「つまりですね…風精師には、彼ら独自のネットワークがあるのですよ。一種の交感通信というのか、遠距離にあっても意思疎通が可能なバイパスですね。だからこそ、ニザーミアに関する〈外交〉を一手に引き受ける使命も担っているんです。ただ…」
ここで彼は、言葉を切りました。
「ただ何だ? そーいう思わせぶりなポーズはヤメロ!」
チェニイがイラついてベランダから身を乗り出しました。やっぱり彼は無関心なフリをして、相当に気を揉んでいたのですね。
「いえ実は、例の〈使徒様代理計画〉が持ち上がったあと…ニザーミア側の外交特使として、ジュレーン大都に、風精導師のレオ・コーンボルブが隠密に向かったのですが…肝心のUNトラストとの交渉のあとで、その…行方不明になってしまったのですよ」
「はあ? 失踪したってこと? 風精導師って、たしか…ニザーミア順列三位だよな」
「よくご記憶ですね。確かに〈UNトラストの協力は取り付けた、使徒代理人を立てて、計画は無事敢行する目途は立った〉という報告は受けたそうですが、その後、通信は途絶えて、ナシのつぶてだとか」
ガブニードスはため息をつきました。
「で、その直後に…例の騒ぎでしょう? 虫は襲ってくるわ〈ナイカ〉勃発で四席トープランは文字通り〈火を噴く〉わ…。とても、ニザーミアから廃都ガドリングまで、そんな手段を講じる余裕なんか…ないと思うんですけどね」
リヒターはそんな裏事情を、目を閉じてじっと聞いていました。何を思ったのかは推察するしかないのですが、この手の情報は冒険者として放ってはおけないはずです。
「んな面倒ごとは後にして、ゴハンにしましょうよ、みんな!」
中央のテーブルでは、ミリアが一足…つか一口先に、運ばれてきた食事をパクついています。ついでに(誰も手を付けないので)サンダユウまで、勝手にみんなの分をテーブルに乗っかって頂戴しています。
「…呑気なヤツだなぁ…こんな状況で、よくメシなんか…」
「だーって! ココからが大勝負、って時なんでしょ? しっかり食べとかなくちゃダメよぉ~~。それにココのお食事、ジュレーン風のスパイスも効いてて、ムッチャおいしいのよ。やっぱ姐様の教えがいいのね。サスガは水精師流」
ミリアの陽気さで、チェニイも何となく気が落ち着いた風です。
「ダイジョブ大丈夫! だってオービス首席導師様からは、ちゃーんとチェニイの身元を保証する書状も頂いてるんだから安心しなさいよ。姐様にお渡しすれば、コトは万事解決するってば」
そう言われると、何となく心が安らぐチェニイです。となると、勝手にヒトの食事に手を出してるサンダユウに全部食われちまう前に、こっちも手を付けないとな!
チェニイはあわてて、テーブルに飛びつきました。期を同じくしてリヒターも…コイツもみんなに負けず劣らず、食い意地が張っているのです。
「あ! てめえ、オレのメシまで手を出しやがったな! サンダユウそこどけ!」
そんな一同のフードバトル勃発を横目で見ながら、ガブニードスは相変わらず、ベランダから湖面を眺めています。〈ロボ〉だから…ではなく義体サイボーグなので、通常の食事は受け付けないのです。
あれ、でもラッツークで〈ビストロ姫ちゃん〉最後の晩餐のときはグボ肉ステーキにかぶりついてなかったっけ?…まあいいか。
それにしても…ガブニードスには一抹の不安がぬぐえませんでした。
実際問題〈姐様〉ニキータ・ディーボックスに、ミリアが託された書状…を渡せばコトが収まるのかは分かりませんが、では…いったい彼女から、どんな保証が得られるというのか、その会談の行方そのものが、ガブニードスにも判断できなかったのです。
〈ミリアさんは、ディーボックス元次席を【ガドの魔法使い】などと呼んでおられたけれど、そんな【優しいお姐さま】で話が済むはずはない。それに、二人を元の世界へ戻してくれる…方法があるとしても…それは余りにも…それこそ気が遠くなるような段取りを必要とするのだから。そのうえ、チェニイ様に関する限りは…〉
ここで、楽しそうに食卓を囲んでいる…というより、みんなに混ざって壮絶なフードバトルを繰り広げているミリアたちを眺めながら、ガブニードスは心中で独白します。
〈ミリアさんは、チェニイ様のことを知らなすぎる。なぜ彼が、この廃都ガドリングで【チェズニ】と呼ばれているのか。…ことによっては、ニキータの〈姐様〉は許さないかもしれない。そしてオービス首席は何を、書面にしたためミリアさんに託されたのか…すべては、その内容次第なのだけれど〉
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実はこの物語冒頭で、チェニイ「ファルス」誕生に…
いや異界降臨というほうが正しいか…まつわる約束事に関しては、
オービス首席導師とガブニードス…ではなくニザーミアの
作法に従えば【ガストニーフ技官】…(面倒くさい設定で
スイマセン)との会話で、一部をバクロしているのです
まあ異世界の人が、このザネルに到達するためには、
それ相応の段取りが必要になるのは当然なのだけど…
次回に続きます
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