073 ミリア魂の故郷は湖渡る~♪
…………………………………………………
実は高速鉄道の地底ターミナルだった洞窟の町町〈ハグド〉…ニザーミア学府院に
鎮座していた古代機械ダール・グレンの暴走によって地下のマグマが活性化し、
すんでのところで地底特急どころか、洞窟全体がマグマに呑み込まれるところでしたが、
元管理人だったドワーフ・ゴドム族のゴルフ老の技によって危機は回避され、
チェニイ一同は、再び廃都ガドリングへの旅を続けることになりました
ここからは、ガラン山脈の最高地点ハグド山から、ひたすら下りの旅が続きます
…………………………………………………
ガラン山脈の西には、ポータラカ盆地という南北に細長い平原が広がっていて、廃都ガドリングはその北端に位置しています。ここまでは正規のルート〈赤十字回廊〉の南北道が走っていますが、ここを通過する旅人など、ほとんどいません。
まさしく〈廃墟へ向かう一本道〉なのです。
ちなみにチェニイ一行はこの赤十字回廊ではなく、その東側にそびえる山脈から下って盆地に到達するコースを取るのですが、この場合は天候的な急変も覚悟せねばなりません。
彼らは〈ハグド〉という隠れ里(というか、隠れ洞窟?)で夜を過ごし、日の出と共に山を西へ降りました。ところがココからの下りでは一気に東風が吹き下ろされ…これがザネル特有の逆フェーン現象(って呼んでいいのかな)により濃い霧を発生させ、視界不良を招くのです。
よーするに朝からずっと〈五里霧中〉手探り状態の中を廃都ガドリングへ向かう…これまたガラン山脈上りの強風帯と迷路大伽藍踏破に匹敵する、悪路探検の旅となるワケです。
「たしかに、こりゃロクな旅じゃないな、ドコを進んでるのか皆目わからん…」
チェニイも山を下りながら、愚痴の一つも言いたくなります。なにせ、ガラン山脈迷路探検の後は、一転して霧の中の彷徨。景色を楽しむ余裕などまったくナシ!
「さっきから、ナニをブツブツ泣き言こぼしてるのよぉ、情けない英雄サマねぇ」
ミリアは得物の錫杖を杖代わりに突きながら霧の中、ひたすら坂道を歩き続けます。
「ここまで来たら、あとは廃都まで下るだけでしょ? どう計算しても2~3日、日のあるうちにはガドリングにたどり着けるわよ」
「この霧の中ででグルグル回りをしたり、迷ったりしなけりゃの話だがな」
チェニイはむすっ、とした表情で返します。
「…妙ですねえ、こんな山道を、私たちのほかにも下ってくる酔狂サンがいるみたいですよ、後方の距離およそ100メルト、といったトコロですか」
最後尾からガブニードスが慎重に歩を進めつつ、前方に声を掛けました。彼が通常の歩測で進むと、あっという間に進んでしまい霧に没して見失う危険があるので、下りでは殿を勤めているのですが…。
「こんな辺境の山道で、んなヤツがいるもんか!」
先頭方向から、リヒターが返しました。
けれど、後方の気配を確認すると、一人だけではない…数人単位の群れでヒタヒタと我々についてくる気配がします。
…これはフツウではない…
「全員停止しろ、まとまって固まるんだ!」
あわてて先頭のリヒターがチェニイたちに駆け寄り、ガブニードスもそれに倣います。
その気配を察知したのか、後方の集団から大きな叫び声が上がりました。
「サルどもの群れだ! 襲ってきやがった!!」
思わずチェニイは手にしていた錫杖を真一文字に構え直し、ミリアをガードしようと身構えました。そしてミリアといえば…なにせとっさのことで先日に巨大トリ相手に見せたような〈シスザン・ダンス〉で敵を翻弄するには間に合わず、その場で立ち尽くしています。
霧の中からヌッ、といきなり出現した〈サル〉は4匹。真ん中のヤツが警告声を発し、ミリアめがけ両手を広げて突進してきました。
…チクショウ、いちばん弱そうな相手を狙いやがって!
チェニイは見よう見まねで錫杖を真正面に向けて、思い切り突き立てました。
ビギナーズラックというのか…チェニイ〈必勝の撞き?〉はサルの額真正面に的中! 反動で敵はものの見事にその場で昏倒しました。
「ガブニードス! オマエも突っ立ってねえで何かやれ」
「なんかって…ナニやればいいんですか!?」戸惑いつつも彼は、左側から襲ってきた敵に、思い切り拳を突き出しました。
「ストロング…レフト!!!」
ちょうど腕を捻って突き出した左拳が、カウンター気味にサルの眉間を強打し、コイツもその場で血を吹き出し、派手にブッ斃れました。
…見るとその脇ではサンダユウが、もう一匹サルの顔面の…毛で覆われた隠れた鼻ッ柱にかぶりついて、引きちぎろうと刃歯を立てています。サルは悲鳴をあげて、このチェムナ族の強者を引き離そうと悪戦苦闘していますが…こうなったときのサンダユウは、喰いついてテコでも離しません!
ここで、バッグパックから素早くリヒターが件の必殺カンシャク玉を取り出し、立ち上がろうともがいていたサルども目掛けて炸裂させます。コイツも結構、投擲のコントロールは正確なんですね。
パパンパンパン! ババンバン!
周囲に大音響がこだまして、襲撃者たちは尻尾を巻いて逃走の一手! で唐突に始まったバトルはドタバタのうちに終結しました。
「…ガブニードス、さっきの掛け声、ありゃ何だったんだ?〈ストロング・レフト〉とかゆーヤツ。カッコはよかったけど、アレって飛ばしたロケットパンチが、偶然サルの額にブチ当たっただけだろ? それに…なんかあの技、どっかで見たことがあるような…」
「さー、咄嗟のことだったので詳しくは覚えてないですねぇ~」
「けど、結局みんな、好き勝手のオシ!だけで敵を追っ払ったのよね、今回も。なんかこう…スッキリする連携技で、精霊術とかカマせないものかしら?」
「…ま、場数こなせばスキルも上がってくだろ、たぶん…」
現時点では、スキルはLV3程度、でしょうか。
などと語り合いつつ、一同は霧の合間から垣間見えた光景で山の脇道を探り当て、比較的安全な場所に退避したのち、暫し小休止しました。
「こーいう時のために、〈ハグド〉の休憩所から、宿泊用仮設テントをチョっぱっといて正解だったな」
チェニイがテントを設営しながら言いました。
「チョッパる、なんて人聞きの悪いこと言わないでよ。ちゃんとお断りして、お借りしたんですからね!」
「んじゃハグドを出発するとき、誰に断ったんだ?」
「だ、だから…心の中で…」
ガブニードスはクロノメーターで〈現在月齢は9:08:02:30:〉と推定しました。
要するに今は月齢でおおよその計算で9月8日の深夜2時過ぎ。小休止というより、そろそろ仮眠を取ったほうが良さそうな刻限です。
というわけで(実は、睡眠時間をほとんど取らずに行動可能な)ガブニードスが歩哨に立って、一同は山道中腹にテントを張り、そこで休息することとなりました。
「それはそうと…先ほどの〈サル〉ども、いつからこんな辺境の山にまで出没して、人間を襲うようになったんですかね?」
ガブニードスは、樹木の根元で座り込み、休んでいたリヒターに声を掛けました。
「サルども、か…ココでは〈モジャー〉とかモジャ公って呼ばれでるけどな…正確には〈エイプ・オム〉というんだ」
「はあ…そうですか」
ガブニードスは、獣の名称にはあまり興味がなさそうです。
「つまり『人間猿』って意味だな。大昔には〈ハグド〉ステーションで管理業務なんかも手伝ってたらしい。この付近に出没するのも、元々ココがヤツらのテリトリーだからなんだが…こんなに狂暴化して、オレらを襲うようになったのは、例の…ダール・グレン異変の後だよ。あいつらも、巨大鳥ジャーム・ルウと同じでな。何かに相当イラついてる」
「……」
ガブニードスは返事をしませんでした。
ミリアは、霧の中で目が覚めました。
〈でも、さっきよりは周囲も明るくなり始めたわよね。そろそろ、みんなを起こして出発する方がいいかしら…ねえ、チェニイ…〉
ふと傍らを見るとチェニイも既に起きていて、ずっと遠くの湖面を眺めています。
〈あれ? ここは…山道の木立じゃなくて…大きな湖の畔になってる。チェニイ、私たち、いつの間にこんなところまで移動してたの?〉
チェニイは、振り返ってミリアに尋ねました。
〈そんなコトよりミリア、オマエの傍らにいる…その女のコ、誰なんだ?〉
〈え? 誰、誰って?〉
ふとミリアが辺りを見回すと隣には、一人の少女が微笑みながら立っています。
いつの間にかミリアは湖面の畔、古びた廃墟のコテージに渡された大きなブランコに座って、チェニイを眺めていたのでした。あれれれ全然、気が付かなかったな。
〈あ、紹介するわ。この子はあたしの大切なお友達…レミディアちゃん。ハグドの洞窟を守っているドワーフ・ゴドム族の末裔なの〉
〈そうか…あのゴルフ爺さんが孫娘、って言ってた…
ありがとう、君が今回ハグドの危機を救ってくれたんだな〉
レミディアと紹介された少女は、小首をかしげてチェニイに、にっこり微笑みました。
〈それから、もう一人は…あたしのカワイイお友達、トト・サンダユウ〉
ミリアがそういうと、ブランコの上から縄を伝って、トトがスススと降りてきて、ちょこんとミリアの肩に止まりました。
〈サンダユウか…オマエとは今更、挨拶する必要もないだろ…っつーかこのシーン、何回か付き合って演らされた覚えがあるぞ! 何ばん繰り返せば気が済むんだよ、オマエら!?〉
〈まあ、そんなゾンザイな台詞を吐くものじゃないわチェニイ。一体どうしたの?〉
〈気にすることはないよミリア。コイツ、まだ夢から覚めず寝ぼけてるだけさ〉
と、声を出したのは他ならぬサンダユウです。
…
〈おかしなコト言ってるのはオマエらだろ! そうかサンダユウ、オマエもミリアと会話ができるようになったか。それにしちゃコトバがオレとはずいぶん違うんじゃねーか?〉
〈気にすンな。そりゃ、相手を選んで口調を変えてるだけだ〉
…
他愛ない会話を重ねながら、チェニイはふと、ここの景色を眺めながら妙な郷愁を感じ、同時に奇妙な違和感にも捕らわれていました。
〈そうか、以前にどっかで見たような気がしたけど、ここはラッツークの西にあった沼地…とは少し違うな。雰囲気はよく似てるけど湖面がずっと広い。けど、あそこと同じように湖の底には、巨大な廃墟が沈んでいる。じゃあ…ココ、一体どこなんだ?〉
「だからチェニイ、ここが私たちの旅の目的地。廃都ガドリングなのよ」
ミリアはフイ、とブランコから立ち上がって、チェニイに告げました。
…………………………………………………
夢から目覚めるとき稀に、目に飛び込んできた光景に
強い違和感を覚えることがあります
…確かに、自分は夢から現実の世界へ引き戻されたのに、
なぜか心の一部が、まだ〈あっち〉の世界に残っているときなど、
そういう感覚に捕らわれてしまうのです
今回はチェニイがそういう目に遭って、違和感に襲われているのでしょう
さて、ここから先は、かなり強烈な現実の方が
待ち構えています
次回に続きます
…………………………………………………
「ザネル」は毎週月・水・金に更新いたします




