072 昨夜お会いしましょう
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溶岩流に呑まれつつある町〈ハグド〉…階下にあった超高速交通の駅
ターミナルのコンコースはすでに溶岩流に呑まれ、さらに
溶岩の奔流は元管理人ゴルフの予想以上の速さで上昇し、いまや
ハグド全体を呑み込もうとしています
原因(の一端)を作ってしまったのは当のチェニイ…だと思うのですが、
ともあれ、ここは原因追及してる場合じゃなく、一刻も早くこの洞窟から
退去しなくては!
…
しかも、冒険にかまけて忘れられてたミリア&サンダユウは、最上階の部屋で
悪態をつきながらも、ひたすらメンバーを待ち続けているのです
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事態が切迫の度合いを強めつつあることは、ハグドの町の段丘を必死で駆け上げっていくメンバーたちにもひしひしと伝わってきました。
なにせ(先程はさほど感じなかった)硫黄の臭気が、相当強烈な勢いで噴き上がってきたのです。どうやらこの町、あまり長くは持ちそうにありません。
「あんたらのお仲間の〈姫ちゃん〉サンにはまだ遠いのか? どこで待たせとるんだ?」
ゴルフ老も咳き込みながら、必死で段々を駆け上りつつ尋ねました。
「こ、この先に…大きな部屋があったでしょう、あそこです。あそこは天井も高いから、硫黄の煙も上に昇って充満してこないし、他よりはマシだって…」
「あっちゃあ! 待合室かい!? あ、アソコはなぁ…」
ゴルフ老は何かを言いかけましたが、口を噤みました。
「ともかく、もう少しだ。もう時間がねえぞ!」
「こっちよコッチ! も~何やってたのよぉ、遅いじゃない!?」
四人組(冒険三人組とゴルフ老人)の駆け上がってくる足音を聞いて、ミリアは戸口に立ち、大きく手を振りました。
「スマン! イロイロあってな。事情を話してる時間はあんましないが…ともかく、ここから脱出しよう。下の階は、かなり溶岩に呑み込まれてる。このままだと…ここも…いやそれどころか出口まで溶岩に埋まっちまうぞ」
チェニイが咳き込みながらも応えると、ミリアは口を押えながら頷きました。彼女にも、ここまで噴き上がって来たガスの勢いから、そのあたりは察していましたし。
「ともかく荷物をまとめて外へ出よう!…ところでミリア、階上フロアのこっちでは、特にナニも起きなかったか!?」
「ええと、まあ…」
とってつけたようなチェニイの問いに、ミリアは曖昧な言葉を返すしかありませんでした。こんな非常事態に、アレを話していいものか、どうか…自分も悩むしかない。
「おお、あんたが〈姫ちゃん〉さんか。こりゃまたごっつい美人さんだのぉ。こんな時でもなかったら、いろいろ面白ネタは用意してあるから、一晩中でも語ってやれるんだが…って…ちょっと待て、ええええ~!?」
ゴルフは室内を眺め渡し…ここは駅の待合室だったそうですが…、その奥の壁に開けられた〈隠し扉〉を発見して、驚愕の叫びを上げました。
「あ、アンタ…一体ここでナニをしでかした!?」
ミリアはゴルフ老人の驚く様を眺めながら困惑しました。この老人の問いに答えるには、レミリャが開けたことなどなど、いろんな話を芋づる式にしなければならなくなる。さてどうしたものか、ミリアはさらに悩みます。
ともあれまずは開口一番、こっちを尋ねるのが先決ね。
「チェ…チェニイ、ところでこの人、どなたなの?」
こうなると…事態は急を要するのは分かりますが…ミリアはこの部屋で数刻前…いや、ひょっとすると昨日か…に起こった出来事を〈かいつまんで〉話すより他、なくなりました。
ただ、詳しく説明しようにも、ミリアだって説明不能な出来事だったし、トト・サンダユウから助け舟の説明をしてもらうわけにもいかないのです。
…ひょっとすると、サンダユウからチェニイを通じて語らせるという手はあるけど、そーなると「ところで、なんでサンダユウがミリアと意思疎通できるんだ?」ってトコから今度は話さなくちゃならなくて…えーい面倒くせ~! ンなこといちいち…できるかぁ~~~!!
ともあれ、必死の思いで事情をざっとミリアが話すと、今度はなぜかしばし、その場を重たい沈黙が支配しました。
こんな話、やっぱ信じてくれないよね? ひょっとするとミリアの〈不思議ちゃん〉キャラ属性がまたしても発現し、ついに究極キディ・ルーシィ化しちまったのか、とか…みんなに思われてないかしら?
ミリアにも「違うわ!」と言い切る自信もなく、誰かが沈黙を破って口を開いてくれるのを待つしかありません。
「その娘は…名前は…名前はなんといった?」
最初にミリアに語りかけたのは、ゴルフ老人でした。
「レミリャちゃん、って名乗ってたわ。ゴドム族ドワーフのレミリャ、って。そういえばココには独りで住んでるんじゃないわ、お爺ちゃんと一緒だ。けど最近はあんまし会えない、とも…言ってたけど。あ、もしかして…」
ここでミリアはひとつ思い当たったけれど、それを口にするのは止めました。
「そうか…アイツはこの待合室を、昔っからよく遊び場にしてたからな…」
ゴルフは、絞り出すように呟きました。
「レミリャは、まだ、ここに残ってるんだな…それじゃ、この隠し扉を開けたのも…」
ここで初めて、ミリアにも心の中で〈何かの琴線〉が繋がりました。
けれどここで、ゴルフと名乗った老人にミリアは何と言っていいのか分からず、思い迷った挙句、ふと気づいて懐に入れていたキンチャク袋を、そっとゴルフに手渡しました。
「これ、お返しします。レミリャちゃんから渡されたの。大切な宝物だ、って彼女は言ってました。お爺ちゃんが地下弾道特急の、そのまた下にある露頭で採掘してきたのよ、って。とっても大切なもの…あの竪坑町ラッツークでも、決して手に入れることができないほどの価値のあるお宝なのよ、って…」
するとゴルフ老は、その手を押し戻し、ミリアに告げました。
「こりゃあんたの宝物だ。レミリャからの贈り物だ…レミリャの友達になってくれた記念に、あんたが持っててくれ」
そしてゴルフは、部屋の片隅の〈隠し扉〉へ足を向けました。
「アイツ、こんなところに〈アレ〉の残りを仕舞い込んでたのか。ワシがキッチリ全て処分しといたのに…余計なことをしおって…」
フフフ、と笑いながら、ゴルフ老人はズタ袋の中身を取り出して、掌に納めました。
「ま、こんだけありゃあ、仕舞い仕事するにゃ十分だろう」
ゴルフ老人はチェニイたちに向きったあと再び戸口から出て、階下へ向かいます。
「あんたらは、ここに残っとってくれ…ちょっとワシの事情が変わった」
ガブニードスは、恐る恐る尋ねました。
「あの…また…地下に戻るのですか? だけど…溶岩流はもう、すぐ下まで…」
ゴルフは、笑いながら答えます。
「ワシは瘦せても枯れてもドワーフだ。そして〈ハグド〉地下はワシの庭だ。伏流の急所だの鉱脈やら露頭だの全部、アタマん中に叩ッ込まれとるわ! この〈ボムボトル〉でハッパ掛けて吹っ飛ばしゃあ、溶岩流は一気に地中へ逆流するからな」
そして彼は…ガブニードスに向かって、おそらく彼らにしか分からない言葉で、そっと告げました。
「アンタ見たところ、どうやらNUAコンの技官らしいな。今から溶岩を直接、コアブロックに向けて還流させるから、後の始末は案定よろしく頼む。間違っても今ン次は、コアブロックを弄り回した挙句に精霊子暴発なんざ、絶対させンじゃねえぞ! 分かってンだろ」
ガブニードスは〈了解した〉という隠しサインをゴルフにそっと送りました。
「けど…なぜ今になって、考えを変えたんですか?」
「アンタら、アーシャンどもの思惑なんざ知ったこっちゃねえが…」
ゴルフは呵々大笑しながら答えました。
「孫娘が、今でもこうして一所懸命にココを守っとるからな。これじゃ死にかけのジジイが町をほっぽらかして、勝手に心中を決め込むワケにもいかねえだろ」
「………」
ガブニードスには、答える言葉もありませんでした。
「んぢゃ、仕舞い仕事にちょっくら行ってくらぁ。爆破が無事に済んだら、また戻ってくるかんな。そいじゃ〈姫ちゃん〉、また後で会おうな♪」
そう言い残して、ゴルフ老は階下で燃え盛る炎を背に消えていきました。
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それから数刻の後、この階上の待合室(だったのですね、ココは)で
待っていた一同のはるか下方で…ズン…という鈍い轟音が数回、響き渡りました
しばらくして、部屋にも逆流していた硫黄の臭気や噴き出す熱気も
徐々に治まり、そしていつの間にか消えていきました
ミリアは義理堅いというか、奇特な性分の持ち主だ、とは前回も
申しましたが、「冒険三人組」を待ち続けていた時のように、今回も
地下を爆破させたゴルフ老人が帰還するのを、ミリアの強い説得により
一同は三日ほど、この場所で待ち続けました
結果的に、彼が戻ってくることはなく、パーティが再びデネブラ山中に
戻ったときには溶岩流の痕跡は跡形もなく、東の空に夜明けの暁光が
浮かび上がる中、彼らの廃都ガドリングへの旅が再び始まるのでした
次回に続きます
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