071 ハグドの奔流
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溶岩流に呑まれつつある町〈ハグド〉…町というより、超高速交通の駅だった
そうですが、問題は、このかなり昔に放棄されたココが、件の〈ダール・グレン〉
暴走の余波で地底に噴出した溶岩に呑まれてしまい、さらにその余波でデネブラ
山もあちこちに開いた噴火口バイパスから大量の溶岩流が噴出すると、
最悪の場合は山麓を流れ下る危険性があると判明したことです
そうなると当然、チェニイ一行の〈ガドリング廃都への道〉も完全に閉ざされて
しまいます…さあタイヘンだ!
ただ、この〈ハグドの高速鉄道駅〉を守っていたゴドム族…いわゆるドワーフ
ですが…最後の〈墓守〉ゴルフ老は、この件ではかなり捨て鉢、つか無頓着で
いっそのこと廃墟もろとも、流れ来る溶岩もろとも心中する覚悟で居直って
いて…今のところ打つ手なし! の状態なのです
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そして、突然といえば突然なのですが、ここへ来てミリアとトト・サンダユウの「魂が繋がった」というべきなのか…なぜかサンダユウの声が、ミリアに届くようになりました。
〈ミリア、あのコはもう、ここにはいないよ…最初から、いなかったんだ〉
チェニイの場合を参考にすると、どうやらチェムナ族との間の回線は、何らかの非常事態が切迫すると、いきなり開通するようです。
まあ、そんなカラクリを分析するのはアトにして…。
「どういうことなの? サンダユウ。言ってる意味がサッパリわかんない!」
ミリアはサンダユウに畳みかけました。レミリャが、彼女に大変な宝物を託したまま、フイ、と消えてしまった…そのショックはミリアには相当に大きくて、サンダユウがいきなり語り始めたことの衝撃は霞んでしまったようです。
〈…どーいったら良いのかな…ニンゲンの言葉に置き換えるのはニガテなんだけど…〉
逆に、サンダユウが【たやすく理解できる】ことばを人語に翻訳するのが大変なようですが、ともかく彼なりにミリアに対して、必死で説明しようと試みています。
〈最初レミリャと出会ったときから、妙にこのコは【ウスい】な、とは感じてたのさ〉
「……」
ミリアには意味不明な表現でしたが、あえて口を挟みませんでした。チェムナ族独特の感性らしいけど、そこに逐一ツッコんでたら、大切なことが分からなくなります。
〈けど、レミリャがミグの実をボクにくれたときに、ハッキリ分かったんだ〉
「何が…分かったの?」
〈だってあのお菓子…かなり昔の食べ物だったもん、ほとんど炭になりかけてたんだぜ〉
「…ずっと昔の食べ物…ってことは…じゃあ、レミリャちゃんは…」
〈ウスい、って最初レミリャに感じてた理由も、それを切っ掛けに閃いたのさ〉
ミリアは、ここで激しく反発しました。
「あたしが会ってたレミリャちゃんは、本当は最初から、あの部屋にはいなかった…?
でも、そんな筈ないわ! サンダユウだって、レミリャちゃんにジャレて喜んでたじゃない。それにアタシだって、レミリャちゃんの掌から、大切な宝物を受け取ったのよ!」
ミリアはきっ! と目を見開いてサンダユウに向き直しました。
「レミリャちゃんは…幽霊…なんかじゃないわ!」
サンダユウも、ミリアの心が読めるだけに、どう言葉を継いでいいのか悩んでいます。
〈ボクにはユーレイ、ってのが何なのか分からないけど、この岩山には、たしかにスゴく強い命の塊がたくさん生きてて…それは時にはボクらと殆ど変わらない形で現れることもあるんだ。触ることもできるし、話もできる。逆に【生きてる】ニンゲンが、そんな妙なモノを作り出す場合もある…ボクらは、そんなモノをたくさん見せられてきた。つい最近も…あの島から眺めてた塔から光が溢れ出して、巨大なバケモノに変わった…〉
ミリアはサンダユウが目撃した〈バケモノ〉が何なのかは分かりませんでしたが、少なくともザネル異界には、そんな何かが、あちこちに存在する…それだけは理解できました。もっともそれは当然なのです。だって、それこそがミリアを水精師、さらにデュアルフォースへと導いた力の源泉なのですから。
〈…おそらくレミリャも、なにかこの一帯で大きな異変が起こってて、それを伝えるためにミリアに会いたくて、姿を見せたんだと思うな。その〈なにか〉を知ることのほうが、今は大切なんじゃないかな〉
…サンダユウにしては、マトモなことを言うじゃないか…チェニイがこの場にいた(とした)らそんなセリフを吐いて、また二人で取っ組み合いのケンカを始めたでしょう(笑)。
ミリアは再び先ほどの部屋に戻って、じっと考え始めます。もう、取り乱すこともなく、先ほどの動揺もありません。
不意に、ミリアの目には…あのときレミリャがミグの実と宝石の詰まったキンチャク袋を取り出した〈隠し扉〉が飛び込んできました。
なぜ、彼女はこんな場所にお宝を隠したのだろう? 誰にも見せたくなかったから、取られたくなかったから…それとも緊急事態が発生することを見越して?
いずれにせよ今となっては分かりません。でも、オヤツや宝物を隠すだけで、こんな大きい隠しクローゼットは必要ない筈です。
…と、ミリアは改めてこの扉の中をつぶさに調べ直してみると、奥にはズタ袋が隠されていて、中からトゲのついた…手のひらに収まる程度の…道具が数個、転がり落ちてきました。
「なにコレ?」
さて一方「冒険三人組」の方はというと…すっかり階上のミリアのことを忘れてたことに気づいた彼らは、あわてて上に通じる段々を踏みしめながら戻ります。
「こんなトコロでアブラを売ってないで、さっさと出口へ戻った方がええぞ」
ゴルフの忠告で、ミリアを長い間放ってた事にいまさら気づいたのだから、何とも情けない話ですが。
「なんじゃ、まだ一人、あんたらには連れがおったのか?」
しかも、それがミリア〈姫様〉だと聞かされたゴルフは警告を発しました。
「だったらすぐ戻ってやれ! いまなら出口からデネブラ山道を下りれば、何とかなるかもしれん」
「何とか…なるのですか?」ガブニードスは慌てて尋ね直しました。
「まあな、ドえらく遠回りにはなるが、さっき来た道から赤十字回廊を挟んで、オマエたちの目的地には辿り着くだろうよ。ガドリング行きなんて、随分と酔狂な場所だがな」
…
「それでは…元の木阿弥なのですが…」
「イヤなら、このままワシと一緒に溶岩流と心中するか? どうも、思った以上に上昇が早いようだから、このまま残っとったらハグド全体が消滅するぞ」
こうなると、もはや選択の余地はなさそうです。
「ともあれ、その〈姫様〉とかを待たせとる最上階まではワシも行こう。ハグド最期の客を、溶岩に呑まれてオシャカにした…なんてのはワシだって寝覚めが悪いからな。あ、ワシも一緒にオダブツだから寝覚めは関係ねぇかハハハ」
どこまでも能天気なオヤヂですね、この管理人は!
確かに、壁から溶岩が噴出した…という非常事態にはまだ至っていませんが、あちこちから硫黄臭いガスが噴き出し、洞窟内に充満しつつあります。
最上階の部屋で三人組を待ち続けていたミリアたちも、そろそろ我慢も限界に達しつつあるようです。
「本っ当にぃ! イマの今まで、どこをほっつき歩いてるのよアイツら! もうオナカ空いたとか、言ってる場合じゃないのよコッチは!」
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ミリアも義理堅いというか奇特な性分というか、こんな状況になっても
まだ「冒険三人組(一人は無理やり同行)」を待ち続けているのです
まあ、このまま最期の時が来たら
「もう! アイツらなんか待ってらんねえわ、アタシゃ
先にフケさせてもらうわよ!!」
とか捨て台詞を吐いてトンヅラするでしょう…って、
さすがにそれはないか
次回に続きます
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