069 ガラン山脈の大伽藍
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溶岩流に呑まれつつある町〈ハグド〉…実は町というより、超高速交通の
ターミナルという役割を果たしていたらしい、ということは判明したけれど
どちらにせよ、かなり以前からその役割は廃棄され、半ば廃墟と化しつつ
あったようです…だったら、今回の古代機械ダール・グレン暴走騒ぎの余波で
溶岩に高速鉄道のトンネルが呑み込まれなくても、結果は同じだったんじゃない?
などという意地悪な見方はともかく…
この〈ハグドの高速鉄道〉を守っていたのは、ゴドム族…いわゆるドワーフ
だったのですが、彼らが自らを〈墓守〉と呼んでいたように、ノース5種族の
中でも、滅びつつある種族だったようです。
それは何故なのか? トト・サンダユウの仲間たちチェムナ族のように、
何者かが滅ぼしたのか、それともなにか別の事情があるのか?
…
ちなみに、冒険者3人組(リヒターはナリユキで付き合わされた)を待つ間に
階段の上の廃屋で眠り込んでたミリアを叩き起こしたレミリャと名乗った少女も
(空き家ではないココの家主?)自分をゴドム族と名乗っていましたが…
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そこそこ長時間、この洞窟町(実は高速鉄道のターミナル駅だったことが判明したけど)に滞在して、しかも階下の凄まじい熱気にも晒され続けているので、さすがに冒険三人組も帰りの昇りはかなり体力を消耗しました。
…そういや、探索に夢中になりすぎて忘れてたけど、上のフロアに置きっぱなしにしてきたミリアはどうしてるかな。ま、サンダユウがついてるし(けどアテにはならない)大丈夫だとは思うけど。などとチェニイは考えつつ、ひたすら長い段々を昇ります。
「おい!注意しろ!」
先頭に立って歩いていたリヒターが振り向き。鋭い警告を後続の二人に発しました。
「注意って、何が起きたんだ?」
考え事をしながらボーっと歩いていたチェニイは、思わず身構えます。
「誰かが…こっちに歩いてくる…」
その言葉に、二人とも凍り付きました。
先ほど階下の扉を開けたあと目撃した光景…熱風とギラギラ輝く溶岩流に目を眩まされたせいで通路は暗く、一時的に鳥目になっていた三人でしたが、確かに目をよく凝らしてみると、階段状の通路の上から、微かな灯りが煌めき、こちらに向かって歩いてきます。
「小鬼だ…小鬼がおる」
その灯りの主は、ぶつぶつ呟きながら近づいてきます。あれ、なんか…どっかで経験したような光景だけど…まあ一種のデジャ・ビュでしょうね。
「しかも、三人組の小鬼だ。一人増えたのか…こりゃまた豪勢だの」
ナニが増えたのかナニが豪勢なのか、まるで意味不明ですけど、まあいいか。
「誰だ! オマエは!?」
お決まりのセリフを、今度はチェニイが発しました。
「誰だ…って、そんなのこっちが聞きたいわい。勝手にゴソゴソ、こんなトコロまで入り込んで来くさって」
ごもっともです。
「まだ人がココに残ってたのか…こりゃ驚いたな」
さすがにリヒターも驚きを隠せません。
「残ってて悪いか? 本当に失礼なヤツらだな」
「申し訳ありません、どなたもこの〈ハグド〉には残っておられないと思ってましたので、勝手に下のステーションまでお邪魔させて頂きました。御無礼はお詫び致します」
さすがにガブニードスは礼儀を弁えているようです。
「ほう…」
灯火を掲げた相手は、感心したように返答しました。
「ここが〈地底弾道〉の起点だと知ってたとはな。もう忘れられて誰も知らんと思うとったが…けどな、ザンネンだが本日は運転終了なんだわ。また今度、寄ってくんな」
彼は笑いながら応えましたが…これ一応、笑いを取ってるつもりなんでしょうね…。
「え…ええ…先ほど…地底弾道特急ホームまで寄せて頂きましたが、諸般の事情で本日は運転していないようですね」
ガブニードスにしては気の利いた返しです。
「ところで申し遅れましたが、私はニザーミア学府院に勤務しておりましたガブニードスと申します。本日は長期旅行中で…その…ガドリングへ向かう途中、夜を迎えてしまったのでやむを得ず、ここハグドに寄らせて頂いた次第です。お邪魔でなければもう少々、滞在させていただければ幸いなのですが」
妙なことを言うもんだ、とでも言いたげな表情を浮かべながらも相手は黙って聞き、そしておもむろに口を開きました。
「わしゃあ、ここの管理人をしとる…見ての通り、ゴドム・ドワーフ族のゴルフと申すモンだわ。ただちょっと今、何かと立て込んどるもんでロクなお構いもできんが、ゆっくりしとくとええ。おそらく2、3日で朝になるからな…ただ、いい朝を迎えられるといいんだが…この先に道が残っとるかどうか…」
何やら、意味深なコトバを付け加えられたのが気になりますが、あまり詳しくツッコむと〈藪を突いてヘビを出す〉結果になりそうで、ガブニードスにも躊躇われるところです。
「それでレミリャちゃんはいま、ここで独り暮らしをしてるの? こんな山の中ではタイクツじゃない? 寂しくないの?」
ミリアはすっかり打ち解けた様子で、このドワーフの少女に尋ねます。
「独り暮らしじゃないわ。お爺ちゃんと一緒…なんだけど、最近は会うこともないなぁ」
などと語りつつ、彼女は先ほどからチッチッチ、とトトをあやしています。トト・サンダユウも喉をゴロゴロ鳴らしながらご満悦ですね。
「それに、この〈ハグド〉ターミナルにも、それなりに面白いことはあるのよ。実はココ…あんまり知られてないけど…もっと地底深く潜ると、いろんな宝物が眠ってるの。それこそ、ラッツークの竪坑なんかよりずっと、すっと!」
「え? それマジネタなの!?」
光りモノに目がないミリアの瞳がキラリ…いえ、あからさまにギラギラと輝きます。
「本当よ、お爺ちゃんがよく、仕事の合間に洞窟の底まで潜って採ってきてくれるの…けど、最近はあんまし行ってないなぁ…」
「ところで…お爺ちゃんって人、何のお仕事をしてるの? ターミナルって…なに?」
レミリャは一瞬、不思議そうな表情を浮かべて、聞き返しました。
「あれ? ミリアちゃんはここの〈地底弾道〉に乗るために、ハグド・ステーションへやって来たんじゃなかったの?」
「え? ここの地下には…そんな乗り物があるの? つか〈あった〉の?」
話が微妙な塩梅でズレ始めてきたようです。
一方、その〈地底弾道〉コンコースより上、三人組が階段の途中では、このハグドの管理人と称するゴドム・ドワーフ族の末裔ゴルフ老と出会い、奇妙な掛け合いを続けている最中です。老人のギャグとも冗談とも分からぬ会話に、今度はチェニイがツッコミました。
「あの…ゴルフさん、今しがた〈朝になったら道が残ってるかどうか〉なんて意味深なこと言いませんでした? それって…どういう意味なのか教えてくれません?」
…あ、言っちゃった。ガブニードスが気を使ってワザと聞かなかったのに。
「さっきアンタら、下で見なかったのか? 溶岩流でコンコースはあらかた埋まっちまってただろ? ワシの予測だと、このまま溶岩は上昇してしまったら弾道特急のトンネルどころか、ハグド全体まで埋まってしまうだろうのう。
原因は何なのか分からんが…こりゃ百年規模の異常事態だ」
一同、言葉もありません。〈原因〉そのものはあらかた見当がついているだけに…とはいえ、それを大っぴらには口外できないのですが…。
「じゃあ、朝には道が残ってるかどうか、っのは、何のこと?」
「ま、最悪の予想だがな。このままマグマ上昇が続くと、ターミナルが呑み込まれるだけでなく、デネブラ山の山腹にあちこち空いてるバイパス噴火口を伝って、西斜面まで溶岩が噴出する可能性があるんだな。そうなったらアンタらの行先の…廃都ガドリングに向かうつっただろ?…そこまでのルートも全部、塞がれちまうだろうさ」
全員の顔色が変わりました。
これはもう、非常事態そのものです!
「ゴルフ老人! 何とか〈最悪の事態〉を回避する手段は…ないのですか?」
さすがのガブニードスも、狼狽の色は隠せません。
「さーてな、手立てつったら我々ゴドム族が大昔、地底の掘削用に重宝してた〈ボムボトル〉っつう秘密兵器で坑道に発破をブチかますのが一番だろうが…」
「それ、それをいま、試してくださいませんか!」
ここで、なぜかゴルフ老は気乗りのしない返事をします。
「けどな…そのボトルってのはもう、一コも残ってねえのさ。なにせココに発破かけたのも大昔のことだって言っただろ。
ゴドム・ドワーフ族だっていまや、ココにはワシひとりしか残ってねえ。孫娘も随分以前の坑道事故で亡くなっちまったしな。それに第一、ここに通じる〈地底弾道〉そのものが廃線になって久しいんだ。だったらこのままコレ幸い、天の采配ってヤツで、ハグド全体が溶岩に呑み込まれて消滅する、ってのも…こりゃコレで一興じゃねえか、なあ?」
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俗にいう〈無敵のヒト〉っていうのは、結局
何も失うものがないから最強なんですけれど… チェニイ一行に
とっては、こういう人にケツまくられてしまう(ま~お下品!)のは
最強っていうより「最凶」なのですね
…けど改めて考えてみると、このハグド・ステーションを
マグマ奔流が襲ったそもそもの原因ってのも
(全部じゃない、とはいうものの)
英雄チェニイ様にも何某かの責任があるのだから、ここは悩ましい
ところなんですよね……
次回に続きます
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