067 ×××の海では泳げない
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前回、旅の始めにまずは戦闘! というドタバタ劇を一発、繰り広げてくれた
即席パーティのメンバーたち
仲間たちの結束がこれで固まったかどうかはともかく、のっけから相当に疲労が
溜まったのだけは間違いないようです…ベテラン冒険者(?)のリヒターが強硬に
反対したとおり、ガラン山脈デネブラ山という難所に差しかかった時点で、
すでに夕刻は夜に向かって空を葡萄色に染めはじめています
さらに天候は〈ミストゥル〉と地元民が呼ぶ、山脈に叩きつける強風に晒され、
ただでさえ困難な登山に輪をかける始末
そこへ加えて、ガブニードスの情報ではこの先に存在しているはずの中継地点
…町と言い換えてもいいのだけど…ハグドのターミナルは、リヒターに言わせれば
「そんな場所、とっくの昔にマグマの海に呑まれてる」筈だというのですから
…いったいどうなっているのでしょうね…?
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如何なる根拠があるのか知りませんが、風来坊にして冒険者のリヒターは
「この先に町なんぞ残ってるもんか」と吐き捨てたのだけど…先へ進めば進むほど、そんなセリフも頷ける気が、ミリアやチェニイにはしてきました。
ガラン山脈という名の如く、かなり遠目には美しい大伽藍の立ち並ぶような光景に見えたものの、麓からやっとの思いで近づいてみると、踏破するのは相当に困難そうな険しさです。そのうえ奇妙に登山道が分岐していて、よくルートを確かめないと、登った先が行き止まりで戻され、無駄足を踏んでしまいそう…ただでさえ旅人を悩ませる山で、疲労感もハンパないのです。
誰だって、普通に考えたらこの先には集落がある…なんて信じられるはずありません。
先ほどから、ガブニ―ドスはチラチラとクロノメーターを片手に時間を確認していますが、一同が巨大トリを追い払ってから既にかなりの時間を費やして山脈…というよりほぼ岩壁の迷路を歩き続けているのです。
「そろそろ、休憩にしないとさすがに…シンドイですね」
山に打ち付ける風は先ほどより穏やかにはなりましたが、やはりこのまま進むのは相当にムチャです。
「休憩…つーよりは、緊急避難でビバーグするしかないだろ。適当な岩棚でも探して…」
リヒターが風よけになる場所を物色していると、なぜかミリアは鼻をくんくん…させながら呟きました。
「なんかさっきから、風が生暖かくて、妙な匂いがしてきた…何なの、この…」
それは俗にいう〈硫黄臭〉ですね。どうして山麓からそんな匂いが漂うのか、チェニイにも不思議に感じたのですが…。
「この先の崖! よく見るとアソコが切り立ってて、その奥はまるで、下に降りていく階段みたいになってるぞ」
どうやら時間切れ直前にビンゴ! だったか…ともかく助かりました。
ハグドの「町」というより〈ハグドの洞窟入口〉というのが適当だったようです。
伽藍状に連なる丘陵の奧にぽっかり開いた階段状の洞窟。それがずっと下の方に伸びていて、階段状の洞窟にへばりつくように、住居のようなものがいくつか垣間見えます。
「なんか、下へ降りるごとに匂いがキツくなるのね…」
ミリアが口を押えて咳き込み始めました。
「あんまり下へ降りない方がいいですね。上段の部屋で一休みしましょう…そこなら新鮮な空気も上から降りて来るから、少なくともガスに巻かれる危険性はない」
外の山麓でビバーグするよりはずっとマシです、とガブニードスは告げ、重たい腰を下ろしました。さすがに強靭なロボ…ではなく義体サイボーグ…のガブニードスも、この強行登山はかなりキツかったようです。
「どうやら誰も住んでないようだな。けど…この先はどうなってるんだろ? かなり下まで、細い通路が伸びてるみたいだぞ」
持ち前の好奇心が疼くのか、チェニイは興味シンシンです。確かに、ちょっと目にはラッツークの竪坑にも似た光景ですが、アソコと違って下の方にはかなりの熱源が潜んでいるみたいです。
「冒険者さん、アナタ、ここを以前に訪ねたことがあるようですね」
ガブニードスがリヒターに尋ねました。
「なんでそう思った?」
「だって、ここが〈もう、ドロドロ溶岩に呑まれてる〉とか、意味深なことを言ってたじゃないですか。教えてくださいよ、この町…そもそも何のためにあるんですか? こんな山の中腹に」
「だよなあ。ラッツークみたいに、洞窟の中で穴掘って鉱物採取する…なんて目的もないようだし、登山者のための休憩所にしちゃ、ずいぶん奥まで続いてて、殺風景だし…。それにこの地下空間は完全に開店休業みたいだぞ。誰もいなくなってる」
チェニイも畳みかけます。
「たぶんココを閉めたのは、そんな昔のことじゃねえだろうさ」
リヒターはぽつり、と呟きます。
「そんなに興味があるなら、この先は自分の目で確かめたらいいだろ。案内くらいはしてやるから」
そう告げて、リヒターは重い腰を上げました。
「あたし、ココで休んでる。なんか頭が重たくて…気分も悪くなってきたし」
ミリアと、ぐったり伸びたトト・サンダユウを部屋に残して一同は、階段を降下しました。
下へ延びる階段は、かなり距離がありそうです。
硫黄臭と熱気も少々キツくなってきたけれど、まあ辛抱できないほどではない。それより〈探検組〉の二人は、好奇心の方がどんどん強くなってきました。
ここは間違いなく、自然洞窟なんかじゃない。人工的に掘り進んだ建造物だ…それが何らかの理由で、地下からの熱で歪められた…何度かの異変で…しかも最近になって〈とどめ〉を刺され、結局は無人になってしまった。そんな構図が見え隠れする。
〈けど、だったら…そもそも、ここを作った目的は何なのだろう?〉
こういうトコロへ来ると、なぜかチェニイの好奇心は萌えてしまうらしいですね。
「ここは〈隠しターミナル・ステーション〉の末端だっんだよ…おそらくな」
チェニイの心を読んだかのように、リヒターが呟きました。
「…駅の跡地だったワケですか?」
「????」
ガブニードスは応じますが、チェニイには何がなんだか分かりません。
「ロボさんが言った通りだ。さっき検索したら引っかかって来ただろ〈ハグド〉ステーション…って項目でな」
「私はロボではなくサイボーグ義体なんですって!」
ガブニードスは執拗に抗議しますが、リヒターはガン無視!
「要するに、ノース・クオータの管理用路線ステーションが、こうしてあちこちに設置されてたのさ、それこそ大昔から。用済みになって廃棄された路線もあったろうけど、ここは多分、最近まで生き残ってた筈だ」
「…最近までって…それじゃ?」
「ほら、目的地に到着だ。自分の目で確かめるといいさ」
通路は最下段、扉の手前で終わりました。
下へ降りる毎に洞窟回廊は(おそらく相当な熱に晒された影響で)爛れて痛んでいます。
「さあ、気を付けろよ…ここの稼働装置が生きてたら、扉が開いて…いきなりドカン、と来るからな。身を護る準備はしとけよ」
リヒターは不吉な予言をしたあと、壁の(爛れているけれど、これが配電盤なのでしょうね)スイッチをガッツン! と下ろすと大扉は轟音と共に上がり、同時に凄まじい熱風が噴き上がってきました。
ぶわっ!
思わずチェニイとガブニードスは手で顔を覆いました。こりゃあヒドい、息もできない!激しく咳き込みつつ数秒経って、何とか目を開けると、階段の下…おそらくそこがコンコースの跡地だったのでしょうが…
下に長く走っている通路…トンネルを、灼熱のマグマが…滔々と煙と熱気を噴き上げながら流れ下っているのです。
「あー、やっぱしダメだこりゃ! 予想通り、線路ごとマグマに埋まっちまってる。完全に廃線決定だな、ここも」
眼下に広がる恐ろしい光景とは裏腹に、何とも呑気な口調でリヒターは呟きました。
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リヒターの予想は的中!
マグマは地中を流れて、この〈ハグド〉の町…実は何かの
ステーションだったようですが…を壊滅させていました。
ま、それでも一応、入り口付近の山腹側は熱気でヤられることもなく
何とか避難場所としては使えますが
…
それにしても〈旅人兼風来坊〉のリヒター氏は、想像以上に事情通
だったようですけど、本当にコイツ、ナニモノなんでしょうね
ともあれ、デネブラ山での一夜は、こうしてマグマ奔流の中で
過ぎようとしています
この後、いないと思ってた〈ターミナルの管理人〉に見つかって(笑)
いろいろな目に遭うのだけど…それはまた次の話
次回に続きます
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