063 デネブラ山へ凶状旅
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ようやくラッツークの町にも日常の日々が戻ってきました…というと
前回の繰り返しになりますが、違うのはこの風景の中には「スコップ英雄様」
と呼ばれたミスリル掘りの名人チェニイと、ミージェ虫入りシチュウ
(って書くとゲテモノ料理っぽいけど、秘伝のスパイス味には定評あり)
を竪坑の鉱夫たちに提供していた〈ビストロ姫ちゃん〉こと看板娘ミリアが、
すっぽりと抜けて落ちてしまっていること
…
けれど、それこそが本来「ラッツーク」の竪坑町があるべきデフォルトなのです
そしてチェニイとミリアは、そんな光景を自らの手で選択したのですから
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ここから先が本編〈ザネル世界の冒険〉物語がスタート…となります!
…じゃあ、今までのお話は何だったのかというと、要するに…序章だったワケ!?
けっこう永らくお付き合い頂いといて「そりゃねーだろ!」というお気持ちはごもっともですが、考えてみればチェニイ〈使徒様〉はニザーミア学府院に「半分拉致」された状況で、妙な使命を押し付けられて逃走、つかトンヅラこいて麓の竪坑町ラッツークへ。
そこで(妙なご縁もあって)スコップ英雄様として頭角を現し、町に巨額の富をもたらした(っていうほど、大したカネでもないけど)だけ!
ミリアにしても事情は同様で、2年ほど前に留学先のニザーミア学府院からいきなり逃走して〈大都ジュレーンの斎宮姫〉の地位を棒に振り、なぜかチェニイ同様にラッツークの竪坑町で〈ビストロ姫ちゃん〉のシェフとして(?)日夜調理に励んでました。
というワケで二人とも、この世界において〈冒険〉なんて大層なことはまだ、何一つしてなかったのです。
というワケで、お話を開始しますが…・
「だーからぁ! 今すぐデネブラ山を登るのはムチャクチャ危険だって、何回言ったら分かってくれンのかな~。 マジで自殺しに登るようなモンだっての」
現在、麓で山登りの準備に取り掛かろうとする一行を、リヒターが必死で押しとどめてる真っ最中です。
「だったら、いつの時点だったら…その〈自殺行為〉とやらにならずに済むんですか? ある程度タイムテーブルを切って頂かないと!」
ガブニードスのほうも、滅多なことでは引き下がりません。
「じゃあ、ガラン山脈全体をこの場所からじっくり見回してみろよ。アンタのクソ硬ぇ頭でも理解できるように、こっちもじっくり説明してやっから」
ガラン山脈というのは、これまでのお話の舞台だったニザーミア学府院(それにラッツークの竪坑町)のあったイェーガー・シェラ半島から見渡すと、北西に位置する大山脈です。ちなみにデネブラ山は、この山脈の最高点にあたります。
普通の旅人なら(当然ながら精霊師や巡礼も含むけど…酔狂なベテラン登山客は別として)この山脈を避け、赤十字回廊と呼ばれる東西に延びた街道を通り、およそ3日程度の行程を経て大都ジュレーンに至り、さらに2日で南北回廊と合流します。この分岐点にあるのがノース・クオータもう一つの中心都市である商都ヨンギツァです。
東西と南北を併せた回廊が〈赤十字回廊〉で、この北大陸の主要な商業都市はおおむね、この回廊沿いに分布しているのです。ちなみになぜ〈赤十字〉回廊と呼ぶのかといえば…単にノース・クオータで結成された五種族の商業ギルドが、赤い旗印を掲げて結束したので…赤十字同盟と呼ばれたのでした。
ちなみに、かつてこの世界を一度は壊滅させた〈大崩壊〉を乗り越えた北5種族と、それを復興させた精霊師たちの団体〈ニザーミア学府院〉との力関係を象徴するシンボルとして、この同盟は重要な役割を果たしています。
ちなみに〈廃都〉ガドリングは、この赤十字回廊の北の外れに位置しています。なぜここが大崩壊によって完全な廃都と化したのか、他の都市のように復興されなかったのか。
それに、なぜそんな廃都に〈魔女〉が住み着くようになったのか…などなど、語るべき話は多々ありますが、それはまた別の機会にしましょう。
ただ〈諸般の事情〉とやらで、チェニイ一行はわざわざ剣呑なガラン山脈越えで、北西からこのガドリングへ到達するルートを選びました。
「だからさぁ、ただでさえ危険度バツグンのルートを、しかも強行軍の夜間〈凶状旅〉の日程を組んで、そのうえデネブラ山踏破…っつーたら、難所中の難所だろ。あんたら、命の予備をいくつ持ち歩いてるんだい?」
レスターも嘆息するしかありません。
「ゴタクはその程度で留めて、そろそろデネブラ山の危険性について講釈頂けませんか?」 意にも解さぬ様子で、ガブニードスは言葉を継ぎます。
チッ、と小さく舌打ちした後、リヒターは話し始めました。
「なんでここが〈ガラン〉山脈って言われてるか、アンタ考えたことがあるか?」
当然ながらガブニードスは首を横に振ります。
「この山脈自体が、まるで寺院の〈伽藍〉みたいな構造をしとって、複雑な迷路状に入り組んどるからなんだな。ま、ナンも知らんシロートが一度迷い込んだら、出るには相当ホネが折れるんだわ。二度と戻って来られん…とまでは言わんけど。
だから、空から凧に乗ってルートが見渡すことができるスクルー族のハーピィどもは別にして、滅多にこんな山脈を通って西北の街道をショートカットしよう、なんてアホなことを考えたりせんのよ」
ここでガブニードスが割って入ります。
「けどアナタなら、通り抜けの最短ルートを熟知されてるんじゃないですか? 何も迷路がフクザツだからって、しり込みする必要は……」
チッチッチ…言いかけたガブニードスを制して、リヒターが言葉を継ぎます。
「問題はソッチじゃねえのよ。いま言っただろ、この山脈そのものが複雑な伽藍の迷路みたくなっとる、って。そこへ持ってきて〈凶状旅〉の強行軍だ、時期的に夕刻…日が落ちる頃合いには、気圧が変って上空に強風が吹き荒れるんさ。
オレらは〈ミストゥル〉と呼んでるつむじ風…っつーよりモロ竜巻みたいな風が山脈にぶつかって、ガレキをあちこちで巻き上げるから、こいつに捕まったらそれこそ…言っただろ…命がいくつあっても足りない、って」
さすがに強気のガブニードスも、そこまで言われると口ごもるしかありませんでした。
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なんか〈ガドリングへの旅路〉は、開始から早くも困難な
局面に入ってしまったようです
リヒターの説明を受けつつ頭を抱えるガブニードスですが…
ちなみにこの時、チェニイとミリアはというと
旅装束に着替えた後も、いとも呑気に目の前に広がる大パノラマの風景を
眺めたり、初めて手にした得物…錫杖の使い勝手を語り合ったりして
時間を潰しています
けれど間もなくパーティ一行は、否が応でも強行登山へと駆り立てられる
羽目になりますから、ご安心ください
…って、いやいや安心できるような事情とは言い難いワケですけど…
次回に続きます
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