062 「伝説の」スコップ英雄様
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ようやくラッツークの町も普段通りに戻り、竪坑にも鉱夫たちが
戻ってきました。と、いうワケで坑道入口脇にある〈ビストロ姫ちゃん〉
も、目出度く営業再開の運びとなりました
なにせ、竪坑の復活を祝してお店は〈再開記念大セール〉
鉱夫たちはことごとく、仕事の前に、まずは腹ごしらえ…とばかり、
一斉にお店に詰めかけております
…普通だったら、一仕事終えたあとに昼メシで駆け込むのが当たり前
なんだけど…ここでは「まず初めにメシありき」がルールなのでしょうか
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てなワケで、坑道入口に立つ姫ちゃん食堂…ではなく〈ビストロ姫ちゃん〉は、職工たち鉱夫たちモロモロ入り乱れて、ウンカの如き賑わいを見せています。…って、つい先日〈ミージェ騒ぎで大騒動になったあとだから、あんまし良い例えぢゃなかったけど…実際問題、この〈ビストロ姫ちゃん〉開店以来、こんな大盛況になったことはなかったようです。
「はいは~~い! 順番よ順番! 本日は全品タダ!のラッツーク竪坑復活大サービス。グボ肉はたんまり放出するから…なくなりゃしないから…押さないでってば!」
ミリア姫も店の前にテーブルを出して、店内の囲炉裏で焼き上がった肉を捌いては出し、捌いては出汁…の大奮闘です。
「今日は姫ちゃんも、ずいぶんと張り切っとるの~」
「だって本日は特別な日なんだもん! たっぷし頑張っちゃうわ!
こーいう日の、ゼイタクは、ス敵よぉ~~!」
客足は途絶えることなく、しかも店内から迸り出る香りが充満するものだから、ほとんど「お肉つかみ取り大会」の様相を呈し始めたという店の前に、ようやく到着したチェニイ・ガブニードス・リヒターの三人組も唖然とするしかありません。
「この様子だと、オレらが食べる肉までは残ってねえかなぁ…」
ラッツーク竪坑町では「まず最初にメシありき…」などと言いましたが…ひょっとしたら〈ビストロ姫ちゃん〉で普段は提供されてた定番メニュー、アレの評判が実はあんまし良くなかったのか? あるいは毎日食わされてたミージェ虫入りシチューは、いくらミリアの創意工夫があっても秘伝スパイスで味付けしても、さすがに鉱夫たちの間では飽きが来てたのか…そのあたりの真相は分かりません。
「さすがにもう食えねえ…」
ともかく、本日大放出のグボ肉ステーキは大評判のうえにも大評判で、ほぼ完食状態で終了いたしました。さすがに超満腹状態では、鉱夫たちもそのまま坑道に戻る気にはならず、ちょっとばかし長いシェスタ? を、あちこちで満喫しています。
「オバちゃん、ちょっとあたし…仕込み部屋に戻ってるわ。もう、ムチャクチャ食材が底をついちゃったし」
ようやく〈ビストロ姫ちゃん〉狂乱の大放出大会も幕を閉じ、片付けを一段落させてから、ミリアはイルマおばちゃんに声を掛けました。
「だよねぇ! あんだけ仕込んだ上等肉が、まさかあっという間にカラになってもうて。こいからまたミージェ虫シチュウの出番に戻るんね。職工どもが不平不満タラタラやわ」
「フフフ…大丈夫よ…フツーの日々に戻るだけだから」
ミリアは笑って答えました。
そう、単なる日常に戻るだけなのよ…みんな。ミリアはそう呟いて、戸口を出てから一度だけ、2年に亘って切り盛りしてきた〈ビストロ姫ちゃん〉小屋を振り返りました。
そして彼女はそのまま坂を上り…なぜか件の仕込み小屋をスルーして、そのまま時計塔の上階へ通じる階段へと向かっていきました。
結局、ハラを満杯にしたラッツーク住民たちが、昼寝シェスタから目覚めて現場へ戻ったのはそれから数時間後のこと。チェニイたち三人組(彼らは自分たちを「トリオ凶状旅」と勝手に名付けました…なんか自虐的な命名ですね)がドタバタと旅支度を整えて集合したのはさらに後のこと。
「では、手筈通りで…よろしいですね」
ガブニードスはコンソールに向かい、凶状旅三人組とミリア(サンダユウには語りかけても無意味なのでパス!)の意志を再確認すると、所定の操作を行いました。
といっても、何が開始されたわけではなく、ただチェニイ曰く〈巨大プラネタリウム〉の微かな機械音が響いただけで終了です。
「では、このまま…西沼を経由して、デネブラ山へ向かいましょう」
一同、微かに頷くだけです。ここから先は、道を熟知している「冒険者」リヒターが先導することになります。
時計塔を出て、西の空を見上げると…チェニイがラッツークへたどり着いて最初に見たような、夕暮れ時の茜色の空が美しく開けています。
…そうか、オレがここに「召喚」されトンヅラしてから、丸々1周回したんだな、このザネル世界では。チェニイは、彼には似合わぬ?妙な感慨に捉われました。
時計塔への脇道とラッツーク竪坑への道が交わるあたりで、このにわかパーティー四人組(と、サンダユウ)は、町の住人とすれ違いました。
「おーや珍しい、もう夕暮れも近いっつうに、今頃旅人さんかね。そろそろ宿を探しとかんと、直に闇夜になってまうが」
太った体を揺すって両手にはデカい寸胴を抱えたオバちゃんらしき人物が、ミリアに声を掛けました。
「悪いけど、ラッツークの町にはの、宿らしきモンはいっこもねえのよ。なんせこの町、竪坑と鉱夫に職工ばっかしかおらんけーね。使っとらん廃屋ならよっけあるけど…あとはあんまし流行っとらん食堂とかねぇ」
オバちゃんらしき人物は、陽気に笑いながら両脇に抱えた寸胴を揺らしました。
「あの…オバちゃん、その寸胴は?」
「ああコレ? あたしはその先で〈姫ちゃん食堂〉つうメシ屋をやっとるモンなんよ。あ、でも本日は営業終了やから行ってもムダよ。今から仕込み小屋に片づけ行くとこでの」
「そう…なんですか」
ミリアは静かな声で、彼女に応えました。
「あ! 違うけえね。自分は〈姫ちゃん〉やないきね。誰ぞが大昔ここの食堂に、そんな妙な名前を付けただけやき…このアタシが姫ちゃんに見ゆうかの?」
彼女は体を揺らして大笑いします。
「けど、あんたら…このラッツークをシカトしても、この先には町らしきモンはないがよ。野宿なんぞして、本当に大丈夫なんかね?」
「ええ…こう見えても〈凶状旅〉には、慣れてますから」
ミリアはそう言って、微かに手を振りました。
「オバちゃんも、どうぞお元気で」
オバちゃん、と呼ばれた女性は一瞬不思議そうな顔をしたのち、笑って手を振り返し、そのまま坂を下りて、去っていきました。
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チェニイの言葉を借りれば「月が一回りして、リセット」
されたということでしょう。
ガブニードスが、いったいどんな細工を施したかは、
あんまし詮索しないことにしましょう
なにせ、ここは異界…ザネル世界なのですから
ただ、今回のサブタイトルは改題するほうがよかった
かもしれません
「伝説のビストロ〈ミリア姫様〉」の方が
しっくりくるような気もします
次回に続きます
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