061 姫ちゃん最後の晩餐?
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いきな竪坑町りラッツークの「アナ」から出現した
通りすがりの冒険者にして風来坊(自称)のリヒター
自己紹介の時点ですでに怪しさバクハツの人物ですが、
ルボッツ(ノースにおける混成種族)特有の勘の良さで
あっというまにサンダユウを味方につけてしまいます
(よーするに、好物で釣って餌付けに成功しただけ)
…
ただ、彼から得た情報によればノース・クオート全土は、
相当に厄介な事態に陥っているようです
交通の要衝をモンスターたちは傍若無人に荒らし回り、
安全な旅をするには、あまりにも不適当な状況で…
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リヒターが口走った〈凶状旅〉というのは冒険者たちの間でよく使われる用語ですが、平たく言えば〈夜間に強行軍〉で突っ走る旅のことです。
この異界では、私たちの感覚でいうと月のうち、およそ半分…14日間程度が昼で、残りは夜が延々と続きます。夜の間はほぼ闇夜だから、安全な〈赤十字回廊〉の街道筋を選んで進むにせよ、よほど重大な用件でもない限りどの種族であろうと一般住民は旅をしません。まあ、スクルー(ハーピナ族)のような例外もありますが。
ちなみに昼間の旅は〈修行旅〉と呼ばれますが、別に彼らは、修行しながら旅を続けてるわけではありません(このあたりの語源は不明)。
というワケで、ただでさえ物騒な〈凶状旅〉なのに、ここへきて街道筋にまで狂暴なモンスターがうろつくようになったのであれば、危険度は二倍以上。
さらに目的地が〈廃都〉ガドリングとあっては、もう危険度はさらに倍率ドン! ボーナスチャンスの如く跳ね上がります。
…確かにコレでは、リヒターでなくても「自殺への旅路」と口走るのが道理ですね。
さて一方、ラッツークの竪坑もいよいよ本格的にミスリル採掘を再開する準備が完了し、さすがに体も鈍りまくっていた鉱夫たちも冶金師たちもゾロゾロと職場復帰し始めました。高炉には火が入り、煙突からは煙が噴き上がっています。吊るされたまま錆びつき始めていたモッコもゴン・ゴンとケーブルの音を立てながら運転を再開。
竪坑全体が、目を覚まし始めました。
「なあ姫ちゃん、あんたホンマにあんな〈呪われた町〉に出かけるんか? 考え直した方がええんとちゃう? 生きて戻れんようなっても知らんで」
例の姫ちゃん食堂…ではなく〈ビストロ姫ちゃん〉でも、鉱夫&職工職人たちの賄いのために、ミリアとイルマおばちゃんが忙しく立ち働いています。
「大丈夫よぉ、ニザーミアの首席導師様から、ヒミツの巻物を授かってきたもん。これさえ出せば道中どんな怪物が現れたって、悲鳴を上げイチコロで逃げ出すわ」
ミリアは、懐からオービス首席より預かったスクロールを誇らしげに見せました。
〈ま、所詮は単なるコケオドシだけどね…だってそもそも、コイツにそんな効力があるとは全っ然、思えないもん〉
ミリアは心の中で、そう呟きました。ま、あとは出たトコ勝負で何とかなるでしょ。いざとなったらチェニイがブチ切れて、暴れまくってくれるから…キャハハ。
「ほんでもまあ…ミリアちゃんって、本物の姫サマやってんな。ニザーミアのお偉いサマから、直々にお役目を授かったなんて…まあ。サイグウ様って、ジュレーンではむちゃくちゃ偉いお役目やったんやろ?」
「外っ面ばっかしよぉ! 儀礼で呼ばれては、妙な装束を着せられて、水精宮でブツブツと祝詞を叫ぶだけだから」
「そうそう、その巫女さん衣装なぁ。アレもメッチャ、カワイイ着物やん。せっかくやから今日の記念に、アレ着て店に立ったらどや?」
「じょーだんぢゃ、ないナイわぁ! あんなヒラヒラしたモン着て厨房に立ったら、囲炉裏の火が移って。たちまち火ダルマにされちゃうわよ!」
「それもせやな、ありゃあ仕事着には全然向かんもんな」
二人してケラケラ笑いつつ、ミリアは店の奥からゴソゴソ、と大きな肉の塊を取り出してズン! と俎板に載せます。
「おやまあ姫ちゃん、ようやく取っときのグボ肉を捌く気になったんか?」
「ちょうど落してから7日目だもんね。いまが絶妙の食べ頃なのよぉ。こーいう記念日に大盤振る舞いしないで、いつ食べるんだぁ? ってね」
一方、時計塔の小屋では冒険者(自称)のリヒターが、ガブニードスと初顔合わせをしている最中でした。
実はチェニイとガブニードス、それにリヒターの三者で(親方は現場の指揮を執るために、竪坑へ戻って行きました)いろいろと厄介なやり取りがあったのですが結局、リヒターは渋々折れて、廃都ガドリングへの旅の案内役(兼護衛役)として同行することは承知したのでした。けれど…
「伽藍山脈デネブラ山経由の北廻りでガドリングへたどり着くルートなら、アナタの当初考えていた…その〈冒険者ルート〉からは、大して遠回りにはならないでしょう。こちらも案内役がついて、一挙両得じゃないですか」
ガブニードスがそう口説くと、リヒターは口をゆがめて反論します。
「そもそも真夜中に凶状旅をする、なんてのは予定に入ってませんがな! ナニも今から出発しなくてもいいじゃないですか。本当に…この時期のデネブラ山登山なんて、怪物ウヨウヨの人外魔境探検そのものですわ! 自殺登山ってのは、脅しでもシャレでもないんだから。せめて夜が明けてから…」
「だからぁ! ここで待ってれば待つほど、我々の状況は悪化するだけなんですって!」「…まあまあ二人とも、そうツンケンせんと…」
チェニイが宥めにかかりますが、今度はリヒターがツッコミで反論します。
「そりゃあアンタらの都合でしょ~が! こっちゃ命が掛かってるんだ」
「いやいや、リヒタークンもそう、いきり立たんで、落ち着いて…」
「その話は、さっきキチンと納得してくれましたよね、自称〈冒険者〉さんは!」
「何だその、人を小馬鹿にした言い方は!」
「あらあら…ガブニードスもちょっと言い過ぎだろ…そこはちゃんと筋を通して…」
「…」
「…」
「チェニイさん」「チェニイ様」
『アンタ/あなた』
「…はい~?」
『一体、どっちの味方なんですか!!』
談判は水掛け論、というよりガキの喧嘩になってしまいましたが、ともあれ多勢に無勢(と言うべきなのか)出発は極力早め、その前にガブニードスが予めチェニイとミリアに言い含めておいた〈ラッツークを発つ前の処置〉を敢行する、という線で落ち着きました。
ともあれ三人とも(チェニイは終始、宥め役だったけど)頭に血が上ったのは、要するに腹が減ってたせいだ、ここは再オープンしたビストロ姫ちゃんが〈竪坑復活記念セール〉で無料の大盤振る舞いをブチかますから、みんなで一緒に食いに行こう、ということになったのでした。
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腹がへっちゃ戦は出来ねえ…昔から使い古された台詞ですが、試合だって
力仕事だってできません 精霊術だってたぶん不発でしょう
当然、アタマに血が昇ったときにも同じフレーズは有効です
けど、よく考えてみたらリヒター君は、さっき(何時間前か知らんけど)
初対面のミリア姫ちゃんにヨイショしたご褒美に(残り物だけど)
賄いメシを御馳走してもらったばっかし…じゃなかったっけ?
確かに数日の間、彼は何も口にしていなかった、と言ってたから、
空腹もハンパじゃなかったのでしょうね
「食えるうちに、死ぬほど食っとけ!」というのは、
まさしく〈冒険者の鉄則〉その第一条、ということなのかもしれません
次回に続きます
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