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6 ミリア姫、参上

 …………………………………………………

異界「ザネル」 に強制召喚された「使徒」チェニイ・ファルス様は

「前世の記憶」が欠如…「記憶喪失」状態になってることに気づきます

追っ手の刺客が襲い来る…みたいな危機からは、どうやら脱したらしいけど、

重大問題は「これからチェニイ様は、何をすりゃいいの?」ということ

このまま海を眺めて余生を過ごしてたら、物語は何も進みゃしないでしょ?

…で、「ザネル」第六回スタートです

 …………………………………………………


 チェニイが身を寄せた町・ラッツークは、彼が召喚されたニザーミア学府院の南に3キロメルトほど下ったところに位置しています。正確にいうと彼が逃げ込んだ場所は、ラッツークの町から少し海沿いに建っている灯台というか時計塔というか…妙な遺跡の番人小屋なのですが。

「ほいでワシ、そのラッツークの鉱夫親方もやっとんじゃ」

「さっきまで時計小屋の番人をやってる、って言ってなかったか?」

 チェニイはヒゲ面ヨールテの言葉に尋ね返します。

「いろんな仕事をな、兼任しとんよ。日がな一日、時計がマトモに動きよるか眺めるだけでメシ食えると思うか? 世の中はな、ほんな甘いこつしとっちゃ生きてけん! よー覚えとけよ坊主」

〈…なんでいきなり、オマエに妙な説教食らわなくちゃいかんのだ?〉チェニイはそう思いつつも言い返すのはやめました。

「ほいでなチェニイ、お前にも穴掘り手伝ってもらお思いよんじゃ。明日から早速」

「はあ!? アナホリを? って、なんでオレが…そんなこと…」

 意味も分からず、チェニイは困惑するしかありません。

「しょんなかろ? ニザーミアの寺から辛うて逃げ出しよった自分に、すぐでける仕事ゆうたら穴掘りくらいしか思いつかんのよ。ここじゃ遊んでタダメシ食らわせる余裕なんぞ無い。ほれがイヤやったら、他に行ってもらうしかないわな」

 グウ…チェニイはどう応えていいものやら分からず…そのついでに腹の虫も啼き出しました。そういや考えてみたら、ここへ突然「強制召喚」されてからずっと、何も腹に入っていないのです。

「タダメシなんか、ただの一度だって食わせてもらってないぞ」

「ワシの言うこと聞くんやったら、すぐ食わせたるわ! まもなく昼メシ届くし」

 チェニイは思わず、ガブニードスを目で追いました。

 彼はというと…崖のそばに立って、遠くから小屋にいる二人をチラ、と横眼で眺めつつ、素知らぬフリを決め込んでいます。


〈いったい全体、どういうことなんだ!? オレに穴掘り鉱夫の真似をしろ、なんて…〉

 チェニイは、ガブニードスにサインを送りました。

〈ここはヨールテ「親方」に従ってはいかがですか? すぐに何かするご予定はないのでしょう? 日がな一日、海を眺めるのも退屈でしょうし…〉

〈けどなぁ! オレはこの世界のこと、何も知らないんだぞ、それをいきなり…〉

〈ヨールテ親方が、きっちりご指導くださるでしょう。そのほうが、このザネル世界の常識を体で学ぶこともできて好都合とは思われませんか?〉

〈…でも…なあ…このヒゲヅラ親父、オレをニザーミアが辛くてトンヅラかました、見習い坊主か何かと思いこんでるんだぞ〉

〈実態は、それほど違わないのではありませんか? 実際、使徒の使命を蹴飛ばして逃げ出したという状況は同じですし〉

〈な………!!〉

〈それとも心を入れ替え、改めて魔王ゼイゴス討伐とやらに出陣なさいますか? それともここを逃げ出して、ほかに「元の世界」へ戻る手段でも講じますか? 私はどちらでも、よございますよ〉

 すぐには…どっちも無理!

〈何の義理も恨みもない「悪の大魔王討伐」なんて論外だし、記憶を失ったことが分かった以上「元の世界」に戻ろうにも戻れない…つか、オレって「どこの誰だっけ?」状態なのだから…〉


「ほいじゃ、話は決まりじゃの」

 目で会話していた二人をニヤニヤ眺めながら、ようやく観念しよったわ、こんガキ…と解釈したヨールテ「親方」は(チェニイにすれば「なれなれしく」)彼の肩をぽん、と叩きました。

 それにしても、ラッツークという町は、いったいどんなところなんだろう?

 「穴掘り」ということは…町中に鉱山でもあるのか? チェニイは昨夜…のことだったよな、確か…遠く坂の上から眺めたラッツークの様子を思い出そうとしました。

〈考えてみれば、確かに奇妙な町だった…。

 おそらく数十メルトはあろうかという巨柱が何本も立ち並んで、その脚下にドーム状の小屋がおびただしい数だけ、まるで寄り添うようにくっついていた。そういや周囲は薄暗くてよく分からなかったけど、取り囲んでいる柱の中心が、ぽっかり空いていたような気もする。ひょっとしたら、あそこが竪坑みたいな構造になってて、何かを掘り出しているのだろうか…? でも掘り出すって何を……?〉


「お――――い、やっほー! お客さん、もう来た――?」

 崖の上から、かすかな声が響いてきました。

「ごはん持ってきたよ――」

「こっちやこっち、腹減らしたガキが一匹、追加で待っとったで」

 時計塔を見下ろす坂の上に、少女らしきシルエットが夕日に浮かんでいました。何か重そうな荷物を小脇に一つ、それに頭上にも一つ乗っけながら、ふわり…と坂を駆け下りて、こちらへ向かってきます。

「ほぉー、このコが親方話してたチェニィ…ファルス様か~、へぇ~、ふ~ん」

 少女は小屋の前に立つ三人の前に立ち、地面にどっすん! と荷物を置いたのち、無遠慮にチェニイをじろじろと眺めまわしました。

「思った以上にガキになっちゃったねぇ。ファルスっぽくもないし」

「な…なに言ってんだ意味わかんねえ」


 刈りそろえられたショートヘアの銀髪、切れ長の大きな眼に収まった紺碧の瞳が、チェニイを見透かすようにじろじろと眺めまわしています。

 モスリンのような青く軽快な衣装に包まれた…作業着なのかこれ…きゃしゃで小柄な身体なのに、こんな重そうな荷物を担いでふわふわ、この娘は坂を駆け下りてきたのか。

 いきなり初対面で「ファルス」呼ばわりをされてムっとしたチェニイですが、少女の雰囲気に気圧されして、返す言葉を吞み込んでしまいました。

 それに、ヨールテ親方を横において、再びブチ切れるわけにもいかないし。


「姫ちゃん、チェニイの坊主は気に入ったかの?」

 にやにや笑みを浮かべながら、ヨールテ親方が尋ねました。

 姫ちゃんと呼ばれた少女は、顔になんの表情も浮かべず、じっとチェニイを見つめたまま、ややあってようやく返事をします。

「わかんない。今度のチェニイには、いま会ったばっかだし」

 そういいながらフワリ、と身をひるがえしてガブニードスに向き直りました。

「けどガブさん、アナタが面白そうだと思ったから連れてきたのよね、このコ。だったら…別にいいんじゃない?」

「では…ミリア姫様のお許しは頂いたということで、よろしいかな?」

「まぁ…事情が事情だから…いちおう許す!」

 初めてここでミリア、と呼ばれた「姫様」は顔に笑みを浮かべました。


 状況から無視されたチェニイ様ですが、怒ろうにも怒るタイミングを完全に逸してしまい、この不思議ちゃんの雰囲気にも呑まれて、ただ突っ立ったまま何もできず、ミリアをじっと眺めるしかありません。

 夕闇の中、彼女をよく見ると…頭上に差し上げていたバスケットは降ろしたのに…まだ少女の肩のあたりにこんもりとしたカタマリがうずくまっています。

〈シルエットからして、なにやらケモノのヌイグルミのような物体が、ミリアの肩に泊まっている…リスにしては少々大きそうだし〉

 なんだろう、これ? と、なぜか思わず、チェニイはこのヌイグルミ? に手を差し出してしまいました。

…次の瞬間…


「うっぎゃあああああ!!!!」

 チェニイは思い切り、このヌイグルミに人差し指をガブリと嚙まれたのでした。

「あ~あ、やっちゃったよ。でも大丈夫ダイジョブ、怖くない、怖くない」

 ミリア姫が優しくヌイグルミの頭に手を差し伸べると、ようやくこやつは嚙みついていたチェニイの指から牙を離し、差し伸べたミリアの手をぺろぺろ、と嘗め始めました。

「×※〇××△~!!」

 言葉にもならない悲鳴を上げてチェニイは抗議します、マトモに伝わらないけど。

「だって初対面のチェムナ族に、いきなり手を出す方が悪いもん、自業自得でしょ。第一、トトに失礼よ」

 ナニが失礼なんだ!? 痛みと向けようがない怒りに頭が沸騰して、言い返せません。

「ともかく、紹介はしとくね。この子がチェムナ族で私のかわいいお友だち、トト。フルネームはトト・サンダユウ。そしてワタシの名はミリア。陽気な歌を唄うミリア…ってのはパクリのウソぴょーん! だけどともかく…よろしくね」

〈名前なんぞ知ったことか! 何がよろしくだ!?〉

 チェニイは再び叫びました…心の中で。

「おうおう、それにしても人差し指全部ガッポシ、イかれてまいよったの~」

 かたわらで二人のやり取りを眺めていたヨールテ親方が、あきれたように言いました。

「そうなのよねぇ~。サンダユウ君って、いい人は決して噛んだりしないんだけど」

 ミリアも笑いながら応えました。


 チェニイは、まだジンジン痛む右手人差し指をさすりながら、この最悪の出会いに、なぜか不思議な既視感…デジャ・ビュを憶えていました。

〈どこかで経験した光景。だけど、どこか違うな。そもそもオレは、こんな悲惨な目に合う筈じゃなかったぞ! それに何だよ、いきなりペットのケダモノに嚙みつかれたオレって、悪役〈ヴィラン〉のポジションが決定なワケ!?

 まあ…どうせ気のせいだろうけど…〉


 …………………………………………………

ワケのわからない怪しげな精霊師の坊主に、ヒゲヅラの大男「親方」、

ようやく登場した紅一点(!?)は美少女ヒロインならぬ「不思議ちゃん」姫

それに妙な生物――ザネル世界の原住動物と思うのですがですがペットにしては狂暴!

しかも「トト・サンダユウ」って、どういうネーミングセンス!?

どっから借りてきたんですか、その名前

主人公を差し置いた妙に濃すぎる連中で、まずは序盤が進みます

(この先も、もう少し増えるけど)

さて、そろそろチェニイ第一の試練「ラッツークで穴掘り」スタートとなります

…いや、地味すぎる試練とお思いでしょうが、これが案外××に展開するのです

というわけで次回へ続きます

 …………………………………………………

 

「ザネル」は当分、毎日更新いたします

 

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