059 勝手に飛び出てぢゃぢゃぢゃぢゃ~ん
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一連の騒動もようやく決着し、ラッツーク竪坑町にも(ミスリル鉱特需の
バブル景気が一息ついて)日常が戻り始めて来ました。
ただ、ここへ来て開店休業中だった竪坑にルボッツらしき妙な不審人物が
入り込んだという噂やら、ミスリル特需の立役者=スコップ英雄サマに
まつわる妙な、しかも何かしら良からぬ噂がまことしやかに語られたりして、
きな臭い空気も流れては来ましたが…
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竪坑にケーブルで降りるのも、ずいぶん久しぶりだな…チェニイは壁面を彩る〈なつかしい光景〉を眺めながら、そんな感慨に捉われていました。
攫われたミリアの探索にレスター島まで艀に乗って海峡を進んでから、実質的には4~5日経過しただけなのですが、なにせゼイゴスとの(ヒミツの)対決から始まってミージェ虫の襲来、ニザーミアでの〈ナイカ〉騒動と、目まぐるしく話が進んでしまったので、日時の感覚も狂ってしまったのでしょう。
気づいてみたら、竪坑の壁に反射する西日は既に、早い夕暮れの到来をチェニイに告げています。
〈さっさと引継ぎを済ませなきゃ、あっという間に〈夜〉を迎えちまう…〉
チェニイ自身にも、かなり焦りの色が浮かんできました。さすがに深夜を迎えると、微妙に入り組んだミスリル鉱・露頭のありかを職人たちに教えるのは困難になってしまう。このラッツーク竪坑町で、その先のさらに長い一夜を過ごすほどの余裕はないし、さっさと廃都ガドリングに(あんまし気は進まないけど)旅立たなきゃ…。
「はい、ココの境界の出っ張り! コイツが目印だかんな、よく覚えておいてくれ。この先でオーバーハングしてる当たりから後ろに、最初のミスリル露頭が隠されてるんだ」
チェニイは、右掌から感じるチリチリした感触を頼りに、位置を指摘します。
「分かいもしたぁ! そいにしてもまた…随分と入り組んだトコロにゴッソリと隠れてるモンですなぁ、お宝っつうのも」
一緒にくっついてきた職人頭が、感心したようにため息をつきます。
「そんなこつ、とっくに分かっとうが。スコップ英雄サマのハンドパワー、いまのうちにキッチリと伝授してもらいや」
職人頭とくっついて大声を上げてるのはヨールテ親方です。チェニイと三人で竪坑に潜って、実地検分しながら後進を教育している、の図ですね。
「けど親方、なンもわざわざ英雄サマの手を煩わせんでも、今までみたくパッパとゴッドハンドを披露してもらえばええやないですか」
「アホたれ! そーいう横着な料簡やからオマエらはちっとも成長せんのじゃ!」
〈チェニイさまには、もう残された時間は少ないんじゃ!〉
親方はそういって怒鳴りつけたい気分に捉われるつつ、職人にハッパをかけます。
「だったら鏨に目印つけて、ガレキに打ち込んでおくといいぞ…これで位置を見失わなくて済むだろ。ともかく、今日はここまで!」
チェニイはふう、っとため息をつくと、足元の踊り場に腰かけました。ヨールテ親方もそれに続きます。そして職工頭は、指示された露頭に鏨を慎重に打ち込むと、そのまま上に指示を出し、そのままロープに合図を出して登って行きました。
「すまんのう、チェニイさま。要領の悪いガキばっかしで…ともかく、アンタの置き土産がわりにちっとばかし、残っとうミスリル鉱床の位置だけでも教えてもらっとけばの。こん先、何年かラッツークのワシらもメシが食えるやろし」
「構わないぞ。こういう仕事はオレも大好きだし…本当を言うと…ずっとココに残って、穴掘って暮らしてもイイと思ってる」
「またまたあ…」
親方はドン! とチェニイの肩を叩きました。
(痛ってえじゃねーか! コイツ本当に、力加減ってものを知らないな)
「アンタが何しにココ異界へ降りて来たかは知らんけど…少なくともアナ掘る為ン来たワケじゃねえことは、ワシにも分かるき…って…おいおい、ありゃあ何じゃ?」
親方は踊り場から身を乗り出して、ミスリル鉱床に通じる狭いマイン・キャニオンの裂け目の奥を指さしました。逆V字型に拓けた天井の…やっと人一人が辛うじて通り抜けられそうな隙間の奥から、微かな灯りが漏れてきます。
「ひょっとして…こりゃあ…先だってにアイツが言うとった〈侵入者〉とかいうヤツと違うかの?」
「侵入者って、何のことだ?」
「いや…ここ最近、竪坑が開店休業でみんな休みに入っとったじゃろ。そのスキに、誰ぞが勝手に縦穴へ入り込んどる、っちゅう話を聞かされとってな」
と、二人が話をしているうちにも、穴の奥から漏れてくる光はどんどん大きくなり、いきなりひょい! と穴から、その〈不審人物〉が顔を見せました。
「いやあ、これはこれは…いいお晩でやんすな。妙なところでお会いしちまって」
にこにこ笑いながら、こ奴は挨拶を交わします。
精悍な顔つきながらも、どこか憎めなそうな…年恰好は随分若いような…。
「おい、誰じゃオノレは、こんなトコでナニしとんじゃ?」
当然ながら、険しい表情で親方は誰何します。
「あ、怪しいもんじゃありまっせん!」
(こんなトコロに出くわすだけで、十分怪しいと思うぞ)チェニイは呟きました。
「オレはリヒター、つうもんで…普段はそのぉ…風来坊の冒険者をやっとります」
(風来坊で冒険者? もう、自己紹介の時点で怪しさバクハツだな)
「見た感じでは…アンタ、ルボッツの仲間のようだの」
リヒターと名乗る男をジロジロ眺めながら、親方が訪ねました。
「はいなぁ、ところでココはラッツークの竪穴ですか? こりゃまた妙な場所に出ちまったもんで」頭を掻きながらリヒターは尋ねました。
「…ってことは、自分? ここまで地下から潜ってきたんかい?」
「ほうですが…。ちょうど西沼の先まで辿り着いたトコで、ミージェどもの大群に襲われまして…慌てて避難したら、この廃墟穴の迷路に迷い込んぢまったんですわ」
「そうか…西沼の廃墟ってのは直接、この坑道に繋がってたのか?」
ミリアがいつも〈昆虫採集(実は食材漁り)〉で訪ねてたっていう場所。マングローブの灌木に水没してる廃墟の迷路の行きついた先がココだった、ってことか。
ともあれ、竪坑の中で事情聴取してても始まらない。三人はこのまま、例の〈時計塔〉近く、ミリア食堂の仕込み小屋に移動しました。
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考えてみれば〈怪人〉ガブニードスにせよ〈不思議ちゃん娘〉ミリアにせよ、
〈凶器のペット〉トト・サンダユウにせよ、なんか登場してくる新キャラは
どいつもコイツも、変なのばっかしですね
…んで今度は〈風来坊の冒険者〉リヒターか!?
あ、でもよく考えたら、本編の主人公チェニイ〈ファルス〉サマだって、
普通の基準で考えたら十分に〈変〉そのものか
ともあれ、この人物の事情聴取に関しては
次号に続きます
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