058 ラッツークの落日
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チェニイとミリア、さらに(NUA完全公社から図らずも追われる
羽目となった)ガブニードス、ついでにペットのトト・サンダユウ
まで加わったパーティは一路、廃都ガドリングを目指して旅に出る
こととなりました
…と、いうのが前章までの流れなのですが…
実は、少々事情がありまして、現時点ではまだ、フルメンバーが
揃っていないのです、
どんな事情かはあんまし、聞かないで頂きたいのですが
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そのあたりの事情は、まもなく判明するとして…。
ラッツーク中を大騒動に巻き込んだ〈ミージェ虫大挙襲撃〉事件でしたが、何だかんだであっという間に(来たときはハデだったけど、消えるのもあっという間で)終息しました。実は、ミリア姫ちゃん一行が(チェニイ一行、と言わないところがミソ)ニザーミアへ特攻したあとの置き土産に、件のビストロ姫ちゃん特製シチュウで重宝してた例のスパイスがミージェ虫に激烈効果を生むことが判明したのです。
スパイスを周囲に振りまく代わりに、火をつけ燻蒸消毒の要領であちこち焚火をすれば、たちどころに虫の大群は雲散霧消することが分かりました。要は、蚊取り線香を焚く効果と一緒ですね。
それに(実はダール・グレン装置暴走の余波だったのですが)ラッツークの鉱夫たちを襲った謎の体調不良も、数日間で「何となく」納まりました。
元を質せば、鉱夫たち(多くはグード・ゴブリン族)が火の精霊を有していたのがそもそもの原因なのですが、さすがにニザーミア学府院の火精師たちほど激烈な反応は催さず、また〈ナイカ〉のような凄惨な悲劇を誘発することもなく…例えは悪いけれど、強烈な花粉症で体調不良を起こした程度で済みました。
まあ、必要以上にレスター島へ接近してしまい、鼻血を吹き出し倒れたヨールテ親方のような例外もありましたが。
ところで、その当のヨールテ親方本人なのですが実際問題、この数日来立て続けに起こった一連の事件(ゼイゴスの北大陸襲来も含む)に、結果的には勢いで参加させられたものの、イマイチ事の真相も明かされることなく、妙に座りの悪いまま日常に戻った、という気分でした。
なにせミリア姫ちゃんの西沼拉致事件を目撃し、この不可思議事件で彼女がレスター島へ連れ去られた、と推理した(ここまではビンゴ!)までは良いとしても、島へ艀で接近した折には、強烈な瘴気にやられてダウン、意識を失っていましたし(なので当初は怪人ゼイゴスを沼で目撃したものの、最終的にミリア救出がどう決着したかは分からずじまい)。
さらにそのあと、レスター島から戻った一行が遭遇したミージェ虫のラッツーク襲撃と、決死のニザーミア学府院特攻作戦にしても…勢いよく率先して突っ込んだのはいいけど、凄惨な火精師たちの〈ナイカ〉に見舞われた現場を目撃しても為すすべなく(これは仕方ないですね)、あとは結局チェニイの〈身の振り方〉協議を、首席精霊導師オービスと行って説得された場面には立ち会っただけ。
最後はミリア姫ちゃんの斎宮デュアルフォースによる〈最後の恩返し〉も垣間見ただけ。…せめて例の、ミリアが派手な巫女衣装を纏った格好でのクライマックスに立ち会っていれば、少しは溜飲も下がっただろうけど…。
ただ、親方の信条「細けえコトはどうでもええんじゃ!」に従えば、そのあたりの事情をいちいち詮索するのはヤボなのでしょう。
むしろ、親方自身にすれば…当初チェニイがラッツーク竪坑に来たときから、親方はその特異な才能を見抜いていましたし(と、本人は記憶を美化してる)、だからこそニザーミアの首席導師から、チェニイが〈シト様〉本人だったのだ、と明かされても
「さもありなん、ワシの見立ては間違うとらなんだわ(エッヘン)」
と、納得したワケです。
それはミリアに対しても同様で、彼女のことを〈姫ちゃん〉と呼んではいましたが、その実体を知っていたわけではなく(ニックネーム程度に考えていた)、実は本物の大都ジュレーンの元斎宮であり、ニザーミアを襲った〈ナイカ〉の惨禍を、とてつもない秘儀で一気に収束させた(らしい)ことを知って、内心ではムチャクチャ驚いていたのです。
いずれにせよ、この二人をこのままラッツークに止め置くわけにはいかない。
〈スコップ英雄様〉の置き土産は十分にもろたからな…それは当初から時期を見計らって…たしかスクルー族のコンボイがここに到着して大バッザアルをおっ始めた頃から、親方がチェニイに語っていたことでもありました。
…さてこの件は、どう手じまいしたもんかの…?
「親方! なにボーっとしとんじゃ? ちくっと相談してええか?」
不意に横から声がしました。
「なんじゃい。藪から棒に?」
声の主は、鉱区の採掘長でした。
「そろそろムシも消えたことやし、モッコも鉱区に降ろさんとイケんのう…ほいで、エースのスコップ英雄サンは、いつ頃から潜り始めてくれんのかいのぅ?」
「…あ、ああ…アイツ…あのお方やったら、いろいろあって疲れとるけど…そろそろ、お出ましを催促したるけん」
「頼むわぁ親方、英雄サンにお出まし頂かんと、士気が上がらんけえのぅ」
長い間、竪坑は開店休業を続けていましたが、さすがに職人たちも鉱夫も休みボケが続くと久々に体がウズウズしてくるようです。
「そういや、ちくと親方の耳にも入れとかないけんコトがあるんじゃ」
「…何じゃい?」
採掘長は、声を潜めてヨールテ親方に耳打ちをしました。
「何ぞ最近、西南の二番切羽あたりでな、妙なヤツがうろついとるようなんじゃ」
「…妙な? 外のモンが、竪坑に入り込んとる、いうんか?」
「見たモンがおってな…正体は分からんけど、誰ぞが〈ルボッツ〉らしい、とかな」
ルボッツ? 親方は首を捻りました。
ルボッツといえば10日ほど前の明け方、腕利きのルボッツたちが一斉に、スクルー族のコンボイに便乗して、ガラン山脈まで旅立って行ったばかりです。本音を言えば採掘を再開するにあたって、あの連中がいないのは、かなり痛手ですが。
〈誰ぞ、連中と別れた身内がラッツークへ舞い戻ってきたんかいの? けど、そいならワシんとこまで、挨拶にくる筈じゃろ。なんもコソコソと、坑道をウロつく理由なんぞありゃせんのに〉
「わかった…ともかく、そいつが何モンか分からんうちは大袈裟に騒ぐなや。誰ぞが出くわしたら、ともかくワシんとこへ連れて来い」
採掘長はこうん、と頷きました。
「ほいとな、も一つ、ホーコクせにゃあかんことがあってな…」
「何じゃ、まだあるんかい?」
「親方は先日、西沼にアクマみたく気色悪いバケモンが出た、っちゅう噂を知っとるか?」「はあ? 何のこっちゃい」
ヨールテ親方はドキリ、としました。
思わずトボけてしまったのは、彼自身にも理由が分かりませんでした。しいて言えば、この件に関してもあまり大袈裟にしない方がいい、という判断からでしょうか。
「なんかな、そんな噂が流れたんと、ガッコの近くのヤマから妙な虹が噴き出したんと、その後鉱夫どもの体調が妙になったんと…そいで今度はムシどもが湧いて出た騒動じゃろ? ワシら、なんぞ気色悪うてのう」
「ムシどもは〈姫ちゃんスパイス〉で退治したやないか。いちいち騒ぐなや!」
親方は一喝しましたが…まあ無理もないといえば無理もありません。ヨールテ自身がニザーミアで体験した〈ナイカ〉騒動を、ラッツークの鉱夫たちには口外しませんでしたが、彼らを不安にしたくないという考えだけでなく、彼自身にも状況の整理が追い付かなかったのです。
「そういや親方、先だってニザーミアまで姫ちゃんたちと精霊師サマを送ったったじゃろ、あっこでは何ぞ聞いとらんのか?」
「いやまあ…もろもろ騒ぎがあったみたいじゃけどな…」
親方は口ごもるしかありませんでした。
ヨールテの目が泳いでいるのを確かめると、採掘長はさらに声を潜めて告げました。
「実はの、ワシ…手下からチクと聞いたんじゃけど…最近、こっちの飯場までグボ肉を買い出しに来よった妙な占い婆さんから聞いたそうじゃけど…」
「…はあ?」
「ここ最近の騒動はな、裏で〈スコップ英雄〉さんが一枚噛んどるらしい、とか何とか」
「…ナニ寝ぼけたこと口走っとんじゃ、アホらし!」
ヨールテは、思わず激高して怒鳴りました。
「ナニをしょむない話を本気にしとるんな。オマエもオマエじゃ! ほんなクソ戯けたウワサを真に受け取るんやない!」
親方の怒りに気圧された採掘長はあわてて詫びながら、そそくさと立ち去りました。
こりゃあ早いこと何ぞ、手を打った方がええのう…。チェニイ様と斎宮サマを、早く旅立ってもらった方がええかも。けど、皆にはどういって説明しょうかいの?
ヨールテも、ラッツークに〈妙な風が吹き始めている〉ことを、肌で感じていました。
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まあ、ウワサなんてのは往々にして、尾ひれがついてムチャクチャな流言飛語に
成長するものです、まして本当に起こった出来事の方が、ウワサよりさらに
大変な事情だったりすると、これはもう冗談では済まないワケで…
ところで、今回最後の方で登場した、ヘンなウワサを(あちこちで)
バラまいてる妙な占い婆さんって、正体はナニモノなんでしょうね?
ま、おおよその見当はつくと思いますけど
次回に続きます
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