057 穴から昇ったお日様が、お山に沈~む♪
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チェニイとミリアが廃都ガドリングに向かうことを決めた一方
ガブニードスは事情により、彼らと別れ自らの所属する組織
NUA完全公社へ報告に赴くこととなりました
で、彼はチェニイと涙の別れ(ウソ)を済ませたたのち、
時計塔ポータルから瞬時にしてNUAへと旅立つ
…筈だったのですが、どういう事情なのか、そのまま
送り返されてしまいます(要するに〈着信拒否〉食らった状態)
途方に暮れたガブニードス…さてこの先、彼は一体どうすれば
良いのでしょう?
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悲惨な状況で、時計塔ポータルに取り残されてしまったガブニードス。
なんか話しかけるのも躊躇っちゃうけど、さすがにそうも言ってられないので、チェニイは意を決して声を掛けました。
「これって…要するに…どうなってるんだ?」
「分かりません…けど、冷静に考えるなら…私に対してポータル回線経由でNUA完全公社がキャンセルを掛けることはまず、考えられないのです。とすると…最悪の場合は…」
「サイアクの場合?」
なんか不吉な言葉が飛び出したので、チェニイも息を呑みました。
「考えられるのは…第三者から異議申し立てがあって、回線を遮断した可能性ですね」
「…なんかオマエ、悪いことでもしたのか? ナントカ詐欺とかに手を染めた、とか」
「……※※△★×……!!」
ガブニードスの気分を和ませようと一発ギャグをカマしたつもりでしたが、どうやらチェニイの配慮は全くの逆効果だったようです。
「考えられる相手はおそらく〈ゼイゴス〉そのものでしょうね…」
「…って…なんで?〈ゼイゴス〉って、つい先日にレスター島で倒した相手じゃないか?」「それは、そうなのですが…」
「もしかすると、オマエが以前話してた可能性か? アイツは倒したんじゃなくて、オレに目くらましを掛けて逃げ出した、ってヤツ。
オレは幻の映像体験をさせられて、アイツが望んでる《ゼイゴス最後の断末魔スペシャルバージョン》とやらを刷り込まれて本体にはマンマと逃げられた、という…?」
チェニイは悔しそうに拳を握り締めました。
「チクショウ、やっぱしアイツ、とんだ食わせモンだったか!」
「いえ、その可能性もありますけれど、そうとも言い切れないのですよ」
「…どういうコト?」
「要するに、サウス・クオータを実質的に支配している〈ZEIGOS〉というのは、別に悪の帝王でも魔王でもなく…まあ、北の大陸ではそのような象徴と認識されてますけれど…実態は単なる巨大コンツェルンのCEO〈最高経営責任者〉の呼称でしかないのです。まあ、極端に言うなら、一人の〈ゼイゴス〉が退任させられたら、別のゼイゴスが取って替わるだけのこと」
「悪のゼイゴスが3世から代替わりして4世にバトンタッチしただけ、ってことか…」
「そう捉えても実質的に変わらないので結構ですが、問題なのはそこで結ばれた協約なんです。以前にもお話ししたことがあると思いますが」
「ああ、不可侵協定とか、そんなヤツ?」
「正確には、ZEIGOSとUNトラストの間の協約ではなく、両者を挟んだNUA完全公社との三者協約なのですけど…これによってNUAは完全中立を守り、両者の利益に関しては決してこれを侵害しない。よってNUAはザネル世界における技術供与を引き受け、公社としての活動を保証される…」
チェニイは以前にも、この世界の裏にあるカラクリを聞き及んでいました。まあ「だから何なんだ!?」と叫びたい気持ちもあったけれど、実際問題〈使徒〉としてこの世界に(強制的に)降臨させられてしまった以上、無関係で済ませることは今さらできなくなりました。「で、ガブニードスは…オマエは、ゼイゴスから、なにをイチャモンつけられたんだ?」
「例のレスター島での騒動で、私はNUA構成員としての中立性を侵害した…と受け取られてしまったのでしょうね」
「…ってことは、どういうこと?」
やはり、回りくどくてイマイチ分かりづらい…。
「平ったく言えば、NUA所属の不良構成員が、中立の協約を破ってUNトラストの使徒に味方した! と訴えられたってことですよ。なにせUNトラストというのは、国連の下部組織というのがタテマエだから、問題はさらにデカい…!」
「な…なんつうか…そんなムチャクチャな…つかデタラメな」
これでようやく、コトの本筋が見えてきました。
〈要は南北紛争に加担しちゃイケナイはずの異界で、ガブニードスの所属する中立側の技術屋たちが約束を違えた。そんな掟破りは許しちゃおかねえ、ってところか!
まあ、無理筋のイチャモンかもしれないけど、チェニイ使徒様が実際に怒って爆発しちまったから…南側のCEO…親分が(生死は不明だけど)こんな目に遭わされた以上、黙っちゃいられん、ってのもヤクザの仁義的にはアリだな…。
原因を作ったのは自分なんだがつい、他人事みたいに語っちまったよ、なんかスマン〉
チェニイは心中で詫びました。けどまあ、今更謝っても手遅れだけど。
「それで〈プラネタリウム〉時計塔ポータル利用からも弾かれた、って顛末か」
「そうですね…通信環境に制限が掛けられてるので詳細は不明ですが、おそらくNUAとしての資格も停止されてるのは間違いありませんね。いわば私が札付き不良社員扱いされてるのも、間違いないでしょう」
「じゃあ…もう…オマエの支部とかには」
「はい、もうココからは戻れません。それどころか、チェニイ様が以前に仰ったセリフではないけれど、この私にも改めて、刺客が送られてくる可能性だって…」
「な……!!」
やっぱしドコの世界でも〈抜け忍には死、あるのみ!〉ルールって、適用されるのか…チェニイは絶句しました。
「冗談ですよ、ジョーダン!」
ガブニードスはジョークらしきものを初めて口にしたらしく、いきなり笑い出しました。ギャグそのものは完全にスベって、全然面白くなかったけど。
「そんな筈ないでしょう。いったい、いつの時代の話してるですか?」
顔が素に戻ったあと、ガブニードスは…自分自身か相当に悲惨な状況に落とされた割には、なぜかサバサバした表情を浮かべています。
「けれどまあ、これで憑き物が落ちたような気さえ、してきましたね」
そして二人は、扉を開けて時計塔の外へ出ました。
レスター島では〈ゼイゴス〉と戦い、そしてここに戻ってはミージェ虫に襲われ、さらにニザーミア学府院では〈ナイカ〉の惨禍にも遭遇し…はたしてこの異界では、どれほどの時間が経過したでしょうか。
いつの間にか西の空は紫色に染まり始めています。
「でもまあ、ご安心くださいチェニイ様。私もお二方と、廃都ガドリングまでご一緒することにします」
ガブニードスがチェニイに話しかけました。
「…いいのか、それで?」
「仕方ないでしょう。ここに留まっていても何もできないし、おそらく〈ダール・グレン〉装置の改修も、既に自分の手の届かないところにあるでしょうし」
そして、付け加えるようにポツリ、と呟きました。
「改めてじっくり考えてみれば、このザネル異界自体が歪なんですよ。そして私が手掛けるべき作業は、ひょっとして個々のデバイスではなく、構築された社会システムそれ自体ではないのか。そう思えるようになってきましたから」
二人が紫色に染まった西の空を眺めていると、崖下の〈ビストロ姫ちゃん〉食堂の仕込み小屋からゴソゴソ…と音がして、気づくと戸口からミイ、という声と共にトト・サンダユウが顔を出してきました。
「あら、二人ともそんな場所にいたの? そこから何か、面白いモノでも見える?」
「いや別に。ただ、そろそろ夕日が陰り始めたなぁ…とか思ってな」
チェニイがボソリと応えました。
「ええ~っ!? あたし、そんなに長く眠ってた?」
ミリアの叫びとほぼ同時に、時計塔がカ~~~ン、と竪坑終業の時を告げました。
「そんなに…って、時間にすれば4刻そこそこだぞ。けどオマエも相当にタフだな。さっきまでは相当にヘバってたのに、もう回復か」
「ミリア様は体力が自慢だからね。本当に…ずっと眠りこけてた気分だし、お陰ですっかりスタミナも復調しちゃった~、てへへ」
チェニイはミリアの元へ駆け下りて、彼女に告げました。
「そんなら喜んでいいぞ。ガドリングへの旅には、ガブニードスも同行してくれるとさ」
ミリアはきょとん、とした表情で返しました。
「…それがどうかした? 喜べ、とか言われても…ナニ当たり前のこと言ってんの?」
それを聞いたガブニードスは、ただ苦笑するしかありませんでした。
「それはそうとミリア様、お召し物を替えられたのですね。ニザーミアで拝見した衣装は、たいへん素敵でしたのに…」
ガブニードスはガラにもなく…という以前に初めてでしょうか、お世辞らしきものを口にしました。
「だってあの巫女装束、裾を少しばっかし焦がしちゃったもん。それに、あんな格好で〈ビストロ姫ちゃん〉のキッチンに立つワケ、いかないでしょ?」
「オマエ…またあの食堂を再開させるのかよ!」
驚いたチェニイは大声を上げました。
「とーぜんよぉ! ムシたちもいなくなったし、竪坑だってそろそろ再開するんでしょ? ココにいるうちは、キチンと働かないとね」
崖の上に立つ二人は、思わず顔を見合わせました。
ミリアは一体ナニ考えてるんだろう? 倒れる前に、ニザーミア学府院で起こった出来事をあらかた…いやコロっと綺麗に忘れちまってるんじゃないか?
そんな二人にはお構いなく、ミリアは賄い装束を腕まくりしながら、気合を入れます。
「さ~て、お仕事オシゴト! 働かざる者食うべからず! ついでにゼータクは敵よぉ!」
第1章 おしまい
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