056 出発しま~す…しばらくお待ち下さい…
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チェニイ一行がラッツークへ舞い戻り、ともあれ気絶したミリアを
〈姫ちゃんの調理小屋〉まで担ぎ込んで寝かせたのち、親方は竪坑町の
様子を見に戻り、ミリアの介護&様子見? はトト・サンダユウに任せて
(という以前に、トトはミリアの傍に付きっ切りで、チェニイたちが近づくと
唸りを上げて威嚇するものだから、そっとしておくしかないのです)
チェニイとガブニードスは〈時計塔小屋〉に戻って、今後の事を相談する
ことにしました
騒動は無事に終息した…とはいうものの、改めて考えてみると、問題は
モロモロ、山積みになっているのです
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「チェニイ様は、この先〈スコップ英雄〉様に戻って、再び竪坑でミスリル掘りを続けられるつもりは…まさか、ないでしょうね?」
念押しのつもりなのか、ガブニードスはそう尋ねました。
「ンなワケないだろ! そりゃあアレはあれで楽しかったけど、もう充分だ。なにせニザーミアでは首席精霊導師と約束しちまった以上、近々に旅立たにゃならんだろ。まあ、さすがに無茶が祟って寝込んぢまったミリアの回復を待ってから…」
ここで、ガブニードスはチェニイの発言を押しとどめました。
「そのことに関して、私から申し上げねばならないことがあるのです」
何やら改まった口調で、ガブニードスは切り出します。
「お二人のガドリング行きに、私はご一緒できません」
当然のように(根拠もなく)ガブニードスも同行すると思い込んでいたチェニイは、その言葉に息が詰まりました。
「…なんで?」
ようやくチェニイは言葉を絞り出し、そのまま沈黙してしまいました。
「よくお考え下さい、なぜ私がチェニイ様と、本日いままでご一緒していたのかを」
「それは…あのニザーミアの講堂から飛び出したとき、おまえといきなりドッカン、と衝突したからだろ? ことの起こりは」
チェニイは記憶を手繰り寄せながら言いました。
たしかあのとき、彼は〈ガブニードスでございます!〉と自己紹介をしたのちに…考えてみれば激突しておいて、なぜ几帳面に礼儀正しく挨拶したのか分からないけど…たしか自分に向かって〈お助けに参りました〉とか口走ったんだ、と思い出しました。
「思い出して頂けましたか? とっさの判断でしたけど、まずあの場から立ち去り、安全な場所へお連れしなければ、と考えたのが最初だったのです」
「…そうだったな…それで?」
チェニイは、順繰りに記憶を整理していきました。
「ともあれラッツークまで案内差し上げて、ヨールテの親方へ紹介して…あとはモロモロあって現在に至る、というわけですが…」
「ふんふん」
「今ならご理解いただけると思いますが、それもこれも私の立場が…NUA公社の技官としての判断がそうさせたのです。あの日チェニイ様が〈使徒〉としてニザーミア学府院に召喚されたのだ、と当初は分かりませんでしたが…少なくともあなたを然るべく保護してお守りするのが先決でしたから」
「なるほど、なるほど」
チェニイは、おおよその経緯が理解できました。
「なので、現時点での私の立場上、〈保守契約〉をいったん終了させ、私はNUAのブランチへ戻る必要が出てきたのです。まあ、かいつまんで申せば〈ダール・グレン〉暴走の経緯と〈ゼイゴス事件〉関連の結果報告を、NUAに上げる必要がございますから」
「…そのあたりから、話がよく見えなくなってきた…」
「つまり…そうですね、私が担当していたニザーミア学府院エリアでの出来事を、いまこの時点で上に報告する潮時がやって来た、ということですね」
「はあ…そうなの?」
分かったような、分かんないような…チェニイはまだ、混乱しています。
「要するに、チェニイ様とミリア様が…その…オービス首席精霊導師の勧めに従い、廃都ガドリングへ出発されるのはあくまで、お二人の判断であって…NUA技官としてご一緒するのは、私の判断の域を越えてしまう、ということですね」
「何だよ、ここへ来て、ずいぶんと冷たいじゃねえか」
チェニイにもようやく事情が呑み込めましたが、今度はにわかに不安に取りつかれ始めました。
「そう仰られても…こればかりは…私の判断では如何ともしがたく…」
なんだか、ガブニードスの方も急に弱気の虫に取りつかれ始めた様子です。
「それにだな…その…ヌーアなんとかのブランチ、ってが、どこにあるのか知らんけど…じゃあ今から帰らせてもらいます、つって、すぐ帰れるモノなのか?」
「それは、ですねぇ…実はこの〈時計塔小屋〉のサテライト、NUAの支社にはポータルで繋がっておりまして、一応ザネル世界に限っていえば、移動するのは簡単なのです」
ポータル、といわれてチェニイに理解できたのは、先だっての〈ゼイゴス〉との一連のドタバタ騒ぎの一件です。ヤツと対峙した際に「場所を変えるぞ」と言われて、レスター島の岬から廃墟まで、いきなりすっ飛ばされたのが、件の〈ポータル移動〉とかいう技術なのだろう、と。
けど、これがザネル世界の中では当たり前に可能なら、なにも辛い目に遭いながら、自分たちも廃都ガドリングまで旅をする必要はなくなるんじゃないか? などとチェニイは一瞬、考えをよぎらせました。
「いいえ、そんな都合のいい技術ではないのです。残念ですが」
即座にガブニードスが答えます。
〈あ、コイツまたオレの心を読みやがった〉チェニイは舌打ちしました。
「仕方ないでしょう、こうも大声で心をダダ漏れさせられたら、こっちにだって伝わってしまうじゃないですか!…ともかく、これは予め設置されたポータル間の移動にしか使用できないのですよ。この〈時計塔サテライト〉にあるポイントと、ザネル世界の裏側にある特定ポイント間で移動できるにすぎません」
あらガッカリ…。
「というワケで…。実のところ、ミリア様が目覚められたところで、お話ししようと思っていたのですけれどね。どうやら事態は切迫してきたようなので、このあたりでお暇することにしました。ミリア様には、チェニイ様からよろしく、お伝えくださいませ」
そう言うとガブニードスは背後のコンソールに向き直り、操作パネルを弄り始めました。すると床面に輝く妙な文様が映り始め、同時に〈巨大プラネタリウム〉とチェニイが呼んだ機械が重厚な音を立てて稼働を開始します。
〈おいおい、もう行くのかよ? 眠ってるミリアはともかく、世話になったヨールテ親方とか、みんなに挨拶済ませなくていいのか? それにサンダユウだって…って、アイツには挨拶する必要はないか、だよなあ〉
チェニイが心で呟いているうちに、床上のガブニードスの姿は朦朧と消え始めました。どうやら〈ポータル間転移〉が開始されたようです。
そして、彼の姿は闇に消えていきました、完全に…。
〈いろいろスッタモンダあったけど…今にして思えば少しは名残惜しい気分になるよなぁ。ヌーアとかいう《向こう側世界》でも、この先アイツはドタバタ騒ぎをやらかすかな?〉
などと、しばし感慨にふけっていると、いきなり背後の巨大プラネタリウム(仮称)が、鈍い音を立てながら再起動を開始し始めました。
?????
チェニイがあっけに取られていると、再び床面の文様が浮かび上がり、やがて先ほどとは逆に、ガブニードスの姿が実体化し始めます。
唖然とするチェニイを前に、途方に暮れた様子のガブニードスは実体化を完了し、彼は頭を掻きながら、ポツリと呟きました。
「…参ったな…向こう側からキャンセルが、いきなり掛かってしまいました…」
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よくあるケースで例えるなら、転校とか転勤とかでホームの見送りを受け、
発車ベルが鳴って、みんなから祝福を受けバンザイ三唱なんかされてると…
そこへいきなり〈事故により、しばらく発車を見合せております〉と駅員の
アナウンスが入った、そんな気分ですね
ま~、バツが悪いというか間が持たないというか
…
ところで、ガブニードスがNUA公社の向こう側から
キャンセル…要するに、いきなり〈着信拒否〉された事情って、
何なのでしょうね? すっごく興味がわきますけど、
案外くっだらねえ理由だったりして(んなコトはないか?)
次回に続きます
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