044 お山も大混乱
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考えてみれば、最初にミリアが〈食材を補充するため〉ラッツークの
裏山から西沼へと降りたときから、既に前兆はあったのです
沼に沿った灌木をうろつき回っている(いつもなら無害な)虫たちが、
なぜかこの日に限って、ミリアに向けてつつき回し攻撃してきたとき、
彼女が不吉な第六感…とやらに捕らわれ、そのまま坂道を引き返していれば、
ひょっとしたらミリアは〈大魔王〉ゼイゴスと遭遇しなかったかもしれないし、
…
となると、ゼイゴスは待ちぼうけを喰らったまま、拉致されることもなかった
そしてヤツがあの巨大繭マシンで南へ引き返していれば、件のガブニードス・タワーで
起こった〈ヤーマの灯火〉が暴発することもなく、
そこからカイン・マートとかいう化け物(?)が飛び出すこともなかった
…
まあ、これまた「風が吹けば、桶屋が倒産」の例にもれぬ
手前勝手な希望的観測に過ぎないのですが…
実際には、哀しいかな現時点でかなりの程度まで
事態は「取り返しがつかない」ところに立ち至っていますから
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レスター島から帰還した一同は艀を、対岸の船着き場に何とか戻したのち、慌ただしく坂を駆け上りました。ヨールテ親方の予想ではかなりの〈ヒコウ…飛蝗〉どもが崖上から大群で襲い掛かってくる筈だったのですが、案外とその数はまばらで、頭を低くして身構えていた一同は、気が抜けたというのが実感でした。
「襲ってこんのやったら好都合じゃ、このまま時計塔まで突っ切れ!」
実際、崖上に到達したときにも、ミージェ虫たちはほとんど姿を見かけませんでした。
「ヒコウ…ムシどもの大群が大襲来…とか言ってたけどな親方、なんか取り越し苦労だったんじゃないのか?」
「ほーか、のう…ま、ええやないか。取り越し苦労やったんなら、そいに越したことないき。そいよりも竪坑現場の方はどないじゃ? そっちも見にいかんと」
残念ながら、事態はそれほど〈取り越し苦労〉レベルでは済まされませんでした。
一同が(ちなみにサンダユウは、シカトこいてお留守番です)竪坑に続く坂を上り始めた時〈それ〉が始まりました。まさしく雲霞の群れという例えが相応しい様相で、一斉に羽虫のミージェが彼らを取り巻いたのです。
「あてっ! また来やがったコイツら! 全然数が減ってねえじゃん」
「おかしいのぅ…ムシがたからんのは、時計塔周辺だけかい? こいじゃワシ、西沼で襲われて往生させられた時と変わらんわ」
「右に同じぃ! なんて言ってる場合じゃないわ…あ、でも見て、アソコ!」
ちょうど竪坑の坑道口脇、お馴染みの〈ビストロ姫ちゃん〉の食堂小屋周辺だけ、なぜかミージェ虫が避けています。当然ながら、三人組は入り口に飛び込みました。
「イルマ、おまえ無事だったんか?」
「…アンタ、いままで何しとったん!? もー。こっちゃはワヤクソやったんで!」
「しゃあないがな! ワシもレスター島ではエラい目に遭うたけん、ずっと足止め食ろうとったんじゃ」
「ほんまに…肝心なところでいっつも! 行方知れずになるんじゃから」
イルマ、と呼ばれたのは、いつもミリアを手伝ってくれてた〈食堂のおばちゃん〉です。ちなみに彼女はヨールテ親方の奥さんなのですが、どうも(これは二人のさっぱりした性分から、なのでしょうか)危機を潜り抜けてきた夫婦のうるわしき再会…というシーンにならなかったのは残念ですね。
彼女から、竪坑町で起こったおおよそのあらましが分かりました。
ミリアが行方不明となり、チェニイたち一行がレスター島に渡ったのと時をほぼ同じくして(おそらく西沼から湧き上がってきたのでしょうが)ミージェ虫が大量に、ラッツークの縦坑周辺に襲い掛かってきたのでした。
たかが羽虫…と最初はタカをくくっていた住人達でしたが、思いもよらぬ狂暴な顎で噛みつかれ、パニックを起こして建物の中に避難せざるを得なくなり…そのまま三日ほど経過した、といった有様です。
しかも(さらに悪いことに)、このミージェ虫がバラ撒いたのか、鉱夫たちの間に原因不明の熱病(?)が蔓延し出したのです。身体の奥底から突き上げるように「燃えて来る」厄介な奇病…とりあえず対処法はただ、大量の水を飲む、全身に浴びる、以上。
「ワシがレスター島へ渡ったときにヤラれた妙な病と、ほぼ一緒やな…やっぱし、あの古い塔からやたらと噴き出してきた、あの光る粉が原因かの…けどイルマ、その割にはオマエ、けっこうピンシャンしとるやないか」
「あては、ガタイだけが頑丈なのが取り柄やし…最初は妙に胸が熱うなったけど、一日もあれば元に戻ったわ」
このあたりは、さすが似たもの夫婦ですね。
「あ。それより大事なこと忘れとった! アンタ…ガブニードスさん、言うたよね…いや〈ガストニーフ技師さん〉やったっけ? よう分からんけど、アンタを探しに、ニザーミアから精霊師様がやって来とうよ」
「…この虫の襲来の中を、わざわざここまで来たんですか?…誰が?」
「何や名前は忘れたけど、若いお嬢さんが…ま、精霊師様だからムシなんかへっちゃらなんとちゃうの?」
そんな筈はないのです。現にチェニイだって結構、虫に齧られてましたから。ま、それは脇に置いといて…。
その勇敢な精霊師さんは〈ビストロ姫ちゃん〉食堂の近く、縦坑脇の冶金工廠(ここが多分避難場所としては一番安全)の奥で、ひたすら状況の好転を待って…震えていました。
「ガストニーフ技師! ご無事でしたか!?」
彼が扉を開けると、すがるような声で奥から、一人の女性が飛び出してきました。
「あの…どちらさま、でしたか?」
ガストニーフは…ではなくココでは〈ガブニードス〉ですが…戸惑いを隠せません。
「ラクーナ・ミウと申します。あの…水精局では、シェノーラ水精教導様の補佐役を勤めさせていただいてます」
シェノーラ水精教導、と聞いてガブニードスの脳裏には〈あの〉やかまし屋の姐様の顔が咄嗟に浮かびました。どうやら、補佐役というか侍女を勤めているとなると、相当に苦労させられているのだろうな。
ガブニードスは思わず(心の中で)同情してしまいました。
「どうかすぐ、ニザーミア学府院にお戻りください! いまニザーミアは〈ヤーマの灯〉と〈カイン・マート〉発現の影響で、とんでもない事態に陥っているんです!」
まさしく、それは悲鳴と言うしかない嘆願でした。
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事態が急を告げる、という展開になって参りました。
虫の襲来から、ニザーミア(ガブニードス・タワー)での
〈ヤーマの灯=古代機械ダール・グレン〉暴走、そして今度は、
塔から飛び出してきた…と思しき…〈カイン・マート〉の
引き起こした異変
さらにはミージェ虫たちの狂暴化と襲撃
まさしく、災厄「大三元」テンパイ、といった状況です
もちろんこれすべて、根っこは同じなのですが!
次回に続きます
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