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041 カイン・マート

〈また、やっちまったよ…〉

 チェニイが目覚め、朦朧とした意識の中で最初に呟いた言葉がそれでした。

〈ゼイゴス〉が結局、何者だったのかは未だに釈然としないけれど、あいつが最後に放ったセリフが引き金になってキューブの制御が外れてしまい、レスター島での大爆発を誘発したことは彼自身も痛恨の念と共に自覚していました。


『〈ファルス〉様とは言いえて妙だぜ。名は体を表す…よく言ったもんだ』


〈ヤツが最後に放った痛烈なツッコミ…名は体を表すって、どういう意味なのか?〉

 記憶が欠落したままのチェニイには、はっきりと確信出来ないけれど、これまで2度も爆発してしまったことを考えると…これをキーワード、いやトリガーとして起動させてしまったのは、ほかならぬ〈記憶を失う以前の〉自分自身だったのではないのか。

 チェニイには、そんな空恐ろしい気持ちにさえ囚われています。


〈いや待て。そんなことより前に、ココはどこなんだ? ミリアもガブニードスも…ついでにサンダユウのやつも無事に、あの爆発から逃れることができたんだろうか?

 それに結局、自分はあの〈ゼイゴス〉とかいう親玉を退治できたのか? 前回のように、そのあたりの肝心な記憶が途切れてしまい、チェニイにも釈然としなくて…。


…と、まだ意識が朦朧としたままの脳裏に、鮮烈な映像が突然飛び込んできました。


 それは拉致したミリアを乗せ、あの光の繭玉で辛うじて飛び立とうした直前に放たれたチェニイの暴発。光輪がゼイゴスに直撃し、断末魔の叫びをあげた奴の悲鳴まで鮮やかに蘇って来ました。

『チクショオオオ! こんなバカな最期を、オレ様が遂げるなんてええぇぇ!!』

 そして、そのままチェニイは意識を失います。

(ミリアさん! ご無事でしたかミリアさん!)

 かすかに耳元で囁くような最後の音声、これは多分、ガブニードスの叫びでしょう。

〈よかった…なんとかギリギリで救出成功か…〉

 安堵したチェニイは再び、微睡みの中に意識を鎮めようとしています。

〈それにしても、こうして思い出すと…まるで測ったような悪役の最期だな。

 それにしてもゼイゴスは、なぜあれほどミリアに執着したんだろう…まあいいや、今となってはもう、どうでもいい問題だ…〉


「チェニイ様! いい加減に目を覚めしてください、チェニイ様!」

 今度はかなり強引に全身を揺さぶられて、ようやく彼は本当の覚醒を迎えました。

 視界の真ん中には、よく見知ったアイツの顔がボヤッ…と浮かび上がってきます。

「よう、ガブニードス…オマエも無事だったのか? よかったなぁ」

 どうやら現実に戻って来れたようだ…チェニイはほっと一息つき、笑顔を取り戻しました。けれどガブニードスに笑顔はありません。むしろ険しい表情が凍り付いたままです。

「まさか、ひょっとして…ミリアの身に再び何かあったのか?」

 微睡みの中でチェニイ見た最後のシーンでは、ガブニードスは無事にミリアを救出したはずだったのですが、それが一転して…チェニイの心に暗雲が漂ってきます。

「いえミリアさんは今…眠りについていますが…お体には影響がありません。暫くしたら目を覚まされるでしょう」

「じゃあ、艀に置いてきたヨールテ親方が?」

「まあ、あの親方は頑丈だけが取り柄ですからね。このレスター島は〈ヤーマの灯〉の影響で精霊子濃度が強烈ですが、ラッツークへ戻れば身体は元に戻るでしょう。まあ今は意識もないし、岸壁に係留したままの艀から降ろして、ここまで連れて運び込むのは少々、ホネでしたけれどね」

「ここに…連れて来た…って…そういやココどこだ?」

 改めてチェニイは周囲を見渡します。まるで地下シェルターの一室。といった感じです。と、いうことはオレたち、まだレスター島から脱出できてないのか?

「はいご賢察ですね。実はここ、現地のグード族たちが〈給水塔〉と呼んでいた廃墟の奥にある隠し部屋…まあ避難用シェルターの用途もありますが、まだ現役で機能していたのは幸いでした」

 ガブニードスは、チェニイの疑問を先読みして応えました。

「そろそろ外の様子も落ち着いたでしょうから、いったん出てみますか? どうせ後の二人はまだ、目を覚ましそうにありませんし」


 重合扉の外は、かなりの強風が吹き荒れていました。

 垂れ込めた雲が激しく東から西へと流れ、荒野を渡る枯草がチェニイたちの頬に激しく当たります。

「ご覧ください、あれが現在の〈ガブニードス・タワー〉です」

 雲が垂れ込め不気味な空の下、ニザーミア学府院の向こうに呪わしい塔が佇んでいます。未だに音も立てず、不気味なオーロラの燭光を放っています。

「さっきと比べて、幾分は〈火〉加減も収まったのか?」

「そう…だといいのですけれど…まだ油断は…」

 ガブニードスの返答も、覚束ない様子です。

…チェニイは、口に出そうかどうか、しばし躊躇ったのち改めて切り出しました。


「なあ、ガブニードス…オマエ怒ってるか、やっぱり…」

「何をでしょう?」

「だって二度目だろう? オマエに忠告されて、わざわざ時計塔でオレの〈キューブ〉にリミッターをかけて対処したのに、結局オレは最後に〈ゼイゴス〉ってヤツにブチ切れて、こんな始末になったからな」

 ガブニードスは、チェニイの顔を見ることなく、ぽつりと呟きました。

「この〈ヤーマ〉の暴走は、なにもチェニイ様のせいではありませんよ」

「なんだそれ…慰めてるのかオレを」


 ここで初めて、ガブニードスは向き直りました。何か…諦観というか、妙なサトリでも拓いたか、あるいは憑き物が堕ちたかのような表情です。

「チェニイ様もこの異界にいらっしゃって、かなりの時間が経過したからお分かりと思いますが今日は何日だか、ご存じですか?」

 チェニイは言葉に詰まりました。実際、このザネル世界では時計の進みが遅い、いつまで経っても夜にならない、朝も来ない、とは思っていたけれど。

「正確には、9月期の10.12経日です…と言っても、お判りになりませんよね…チェニイ様の世界で換算すれば9月10日。そしてここからあと半月ほど、昼間が続きます、本来なら」

 チェニイの肌感覚からいえば…以前ラッツークにスクルー族たちのコンボイがやってきたのが真夜中から明け方にかけて。そして彼らが去ると同時に夜が明け、そして現在は昼間になってる筈だ、と…うろ覚えながら彼は計算します。

 なのだけど、なぜか空はいまだに暗く、まるで嵐のような光景が空を覆っている。


「これが〈ゼイゴス〉の置き土産なのですよ。たぶん、赤道河付近の低緯度地帯では、大嵐が吹いているでしょうね。大気と共に精霊子も大幅に攪乱さていますから」

「嵐が来る、というのか?」

「単なる嵐だけなら、過ぎ去るのを待てばいいだけです。恐ろしいのは…この先々で世界の秩序をかき乱す〈カイン・マート〉を呼び込んでしまったことなのです」

〈カイン・マート〉。もちろん、チェニイには聞き覚えのない言葉でした。


 実は(チェニイは、ラッツークで竪坑のミスリル掘りに熱中していたから、仮に聞いていてもスルーしたでしょうけれど)鉱夫たちが時ならぬ「大バーゲン」に沸いていた頃、なぜか腕利き鉱夫の筆頭である〈ルボッツ〉たちが、大挙してスクルーのコンボイに便乗してラッツークを離れ、西北ガラン山脈へと去って行きました。


 ジェスローやジェドの親父、それに一攫千金「花の都ジュレーン」での大豪遊を夢見たエディカたちを制して移動を強行したグラニー婆ちゃんが、その根拠にした予兆こそが、ニザーミア学府院の片隅に建つ〈ガブニードス・タワー〉から湧き出す凶兆〈ヤーマ〉の灯であり、この光の奔流はやがて〈カイン・マート〉を呼び寄せてしまう、というルボッツたちの言い伝えでもあったのです。


「天候は最悪かもしれないが、その〈かいんまーと〉とかいう現象は、おまえの杞憂かもしれないぞ。それに…実際、それを引き起こした元凶、サウスの親分〈ゼイゴス〉は、呆気なく倒されちまったじゃないか。なあ」

「杞憂…だといいのですが。ミリアさんに…意識を取り戻したら…お聞きになっては如何でしょう。彼女は、西沼で食材のミージェ虫を採取しようとして、狂暴化した虫どもに襲われて大変な目に遭ったそうですが、イヤな前兆だと思いませんか? 同じことを、ヨールテ親方も沼で体験したそうだけれど」

 重々しいガブニードスの口調に、チェニイの楽観的な観測も怪しくなってきました。

 そして、ガブニードスの更なる予感が、チェニイの不安に一層の拍車を掛けました。


「それから…念のためにチェニイ様。実は〈ゼイゴス〉との対決で、あなたがブチギレて暴走し、呆気なくゼイゴスを昇天させた、というお話ですが。実は私は残念ながらその現場をきちんと目撃していないのです。という以前に、あなたが〈最期の一撃〉を放った瞬間にフリーズしてしまいまして…気づいたときには倒れていたミリアさんを救出するので、手一杯だったのですよ」

「…なにが言いたいんだ?」

「たいへん恐縮なのですが…ひょっとすると、チェニイ様はその現場を…夢の中でご覧になったのではないですか?」

「…どうして、そんなことを思った?」

「まあ、北の精霊師たちの偏見に満ちた言葉を借りれば〈邪術使い〉なのですが、サウス・クオータのウィザードは、時として現実の記憶の中にフェイクを混ぜ込んで、実際にあった出来事と混ぜこぜにする技を使うのです、往々にして。これを厳密に分離して、選り分けるには相当の熟練を要しますから…」


 …………………………………………………

次回に続きます

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「ザネル」は毎週月・水・金に更新いたします 


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