040 不死身帝王ゼイゴス
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さて、悪魔コスプレなんかしつつ、颯爽と登場したゼイゴス〈親分〉
なのですが、どうにも挙動が不自然なのですね
ミリアの拉致にしても、よく考えてみるとラッツーク鉱山裏の
西沼で、昆虫採集(兼食材確保)に訪れた彼女に、いきなり襲い掛かった
…とも考えられますし、チェニイと出会ったときも、正体が判明した途端に
なんか、リクルート…つか、ヘッドハントで「こっちより条件がいいから
南に来ないか?」的な甘言を弄して連れて行こうとしたり…
それはともかく、ミリアを攫おうとした目的も釈然としません
こんな異界で「営利目的の誘拐」とも思えないし…
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「もはや長居は無用だ。どっちにせよ、この〈シト〉君はサウス領には興味がおありじゃないようだから…〈弟分〉の件は、なかったことにしようぜ。
それに風向きもヤバそうになってきたから、オレもそろそろ、フケさせてもらうわ」
などと呟きつつ、ゼイゴス親分はそそくさと光の繭に乗り込もうとします。
〈こりゃマジで敵前逃亡確定だ。せめて一撃でも戦う素振りくらい見せろよぉ!!〉
と、チェニイはコイツの背中に向けて思い切り叫びたい気分ですが、それより気になって仕方ないのは、ミリアの挙動です。彼女はその間も身動き一つせず、光の繭に閉じ込められているのです。
成行きを茫然と眺めつつ、呆気に取られていた…というのがチェニイの現状。けど、彼が呑気に眺めている間にも、繭は宙に浮き…今まさに飛び立ってしまう!
と、ここで光のタラップに足を掛けたゼイゴスに向かって猛然と突進したのは、なんとサンダユウでした。唸り声ひとつ上げずに、ゼイゴスの踝目掛けてガブリ! !!!!
「いってえ~! 何しやんだクソガキ!」
親玉らしからぬ甲高い悲鳴を上げ、飛び擦るゼイゴス。そのままの姿勢でピョンピョン飛び跳ねるものの、踝に噛みついたサンダユウは「死んでも離すか!」とばかり、鋭く牙を立てたまま、首を振って抵抗します。
「何やってんのよサンダユウ、人サマに噛みついちゃダメだって。いつも言ってるでしょう…あーもう!」
ここでミリアの瞳に光が戻りました。
………
ここはどこかというと…ラッツークの近郊、西沼。
彼女はミージェ虫(食材です)を獲りに来て偶然、湖の畔でチェニイと遭遇したのでした。
「キミは……この町に住んでるの?」
ミリアは背後から不意に声をかけられ、驚いて振り向きました。
「あなたは、だあれ?」
「ぼくフォルス…じゃねえや…チェニイ」(肝心なトコロで自分の名前を間違えンな!)
「あたしはミリア」
そう答えながら、ミリアはファサ、と軽やかに身を翻し、床に降り立ちます。
「陽気な歌を唄うミリア♪ ってそれ、実はうそピョーン!」
「オマエ、何いってんの? さっぱし意味わかんね」
チェニイは、そんな小芝居には付き合いきれない様子です。
「ちょっとぉ! 段取り通りに台詞を返しなさいよ!
も~! 一番いいシーンだったのにぃ、すっかり気分がメゲちゃったぢゃない」
(ここでは一応ステキな唄がBGMで流れたという前提で)
詠い終わると傍らから、ととと、と凶悪そうなケダモノがミリアに駆け寄ります。
「そしてアタシの可愛いお友達トト・サンダユウ」
彼女はトトを肩にひょい、と載せて、さらにチェニイに語りかけました。
「誰も、この異界であたしを住まわせてはくれないの」
……
「ボクもそうさ、ついでに記憶までデリートされちまった」
「そうなの? チェニイ あなたもこの異界に来て、自分の事を忘れてしまったの?
じゃあ、アタシたち兄妹ね…双子よ…」
ミリアは、不意に遠い目になって独り言を呟きました。
「…双子だったのよ…」
「じゃあ、おまえをオレの〈妹〉にしてやろう」
不意に、背後から別の声が響き渡りました。
「って約束したのに、オマエは二年間も、どこで余計なアブラを売ってたんだ?
仕方ないから、こうしてわざわざ迎えに来てやったんじゃないか」
ミリアは顔を引きつらせつつも、震える声を、辛うじて吐き出しました。
「………ゼイゴス………」
ゼイゴス、と呼ばれた男は、返答しました。
「はいはいはい、お待たせ致しましたぁ」
右手を頬に当てて、こ奴は満面の笑みを作ります。
「最悪の、事態が、やって、参りましたっ!」
「……」
ここで改めて、本当にミリアは覚醒しました。
「じょ、じょ~おだんぢちゃ…ないナイわっ!」
大声で叫んだ彼女の眼に映るものは、見慣れた西沼に佇むコテージと半ば水面に没した廃墟ではなく、荒涼とした大地に突き出した異形の造形物。そして遠景には海を挟んでイェーガー半島と、屹立した尖塔から吹き出されるオーロラのような光の帯。
手前でアタフタとサンダユウと格闘するゼイゴスは、思わずミリアに叫びます。
「お、おいおいそれじゃ話が違うだろ!」
「いつアタシがアンタの妹になったのよっ!」
ミリアも負けじと叫び返します。
「あ、チクショウ! また暗示が切れやがった…フシギちゃんはこれだから困るんだ!」
「…それに、どこなのよココ! いつのまにアタシ…」
ここはもちろんラッツーク近郊の美しい西沼ではなく、彼女お気に入りの湖もない…荒涼とした廃墟の並ぶ見ず知らずの荒野です。
ゼイゴスがミリアに気を取られていた隙に、サンダユウ第2ラウンド開始! 今度は太腿を狙ってダイブ、鋭い牙を突き立てました!
「うぎゃああああ! て、てめ、マジでいい加減にしやがれ」
「サンダユウ! アンタまた人に噛みついて…けどいいわ今回は!
オマエたち…存分にヤっておしまい!」
オマエたちつっても、サンダユウは一匹しかいないのですが。なんか、どっかの女ボスが叫ぶ決まり文句みたいですね。
「オレのときより、かなりヒサンだなぁ…」
チェニイも呆気に取られて…というか毒気を抜かれて、この乱闘をただ見守るしかありませんでした。チェムナ族って、本気を出すと結構ヤバいんだな…けどこのシーン、どう考えたって「大ボスVS勇者様(仮)の大決戦」場面にはあまりにも似つかわしくない。
〈まるで、空気感がギャグだからなぁ…。このママ、尻尾を巻いてゼイゴスは退散、ってな終わり方にしてくれないかな?〉
チェニイは内心、そんな都合のいい幕引きを一瞬考えてしまいましたが、さすがに、それは無理筋というものです。
「ええ加減に…せんか~~~い!!!」
さすがのゼイゴスもブチギれて、思い切りサンダユウに電撃を飛ばしました。
キャン! 悲鳴を上げ、サンダユウは10数メルテほどぶっ飛ばされます。
「そも…そもそもお前ら、この状況をキチンと理解してるのか?…」
はあはあ、肩で息を切りつつゼイゴスは彼の背後に見える塔の惨状を指し示しました。
「ダール・グレンの精霊子があンだけ暴走したのは、誰の責任だと思ってやがるんだ?」
〈…それ、ゼイゴスが、はるばる北まで遠征して来たせいじゃないのか?〉
そう言おうと思った矢先、ゼイゴスはチェニイを指さして告げます。
「オマエだよオマエ! そもそもの元凶は!」
ゼイゴスの瞳は、もはや笑ってはいません。
「考えても見ろ、UNトラストの馬鹿役人どもがクソ出鱈目なシナリオを描いたのが発端だったにせよ、オマエが最初に妙な暴走を始めたのが皮切りだろうが。あれでザネルの循環システムがブッ飛び始めたんだ。そうさ…そこのNUAコン技術屋なら分かるだろ!」
――ガブニードスは〈黙して語らず〉――
「そもそも、精霊子循環なんつうシステム自体が無理筋だったんだ。アーシャンは理解してねえが好き放題、無制限にエネルギーをコアから取り出してそこら中にブチまければ、どっかで歪みが来る…向こうに影響が出なけりゃ他所に出る。
だから我々は〈精霊〉なんて外道な循環を制限することにしたワケだ」
次にゼイゴスは、ミリアの方に向き直ります。
「オマエをなんで今頃、迎えに来たかって? そりゃ数日前に、クソどデカい〈水精素〉が、とんでもないところで噴出したのを探知したからに決まってるぢゃねえか!」
ゼイゴスの怒りは全く納まりません。
「よりにもよって、暴発寸前のダール・グレンの膝元で、あんな狂った火遊び…あ、この場合は〈水遊び〉か…おっ始めるなんて、お前ら…揃いも揃ってマヂもんの〈脳味噌バキューン様〉たちかぁ?
ああ…原因は分かってるよ…おそらく、その使徒サマ小僧のキューブにミリアが触発された結果だろうけど…とんでもねえオモチャを〈キティ・ガイ〉小僧にロックも掛けずくれてやったもんだな、UNトラストのイカレ役人どもは」
あらら、コイツには原因がバレバレでやんの。チェニイは心中で舌打ちします。
…チェニイに思い当たるのは、スクルーたちのバザールで繰り広げられた、あの折の乱痴気騒ぎ〈狂乱の姫ちゃんライブ〉です。けれどあの祝宴が、実はそんな恐ろしいものだった…なんて…。
ガブニードスは口に出しませんでしたが、あの時ミリアが酔った勢いで精霊の制御を少しでも誤っていたら、ひょっとするとライブ会場の大テントどころかラッツークが住民ごと吹き飛んで、跡には新しいクレーターを残すだけ、となっていた可能性も否定できなかったのです。
〈そしてアオリを受けた後始末が、背後で噴出を続けているダール・グレン…とかいう古代機械の暴走…か〉
ゼイゴスと名乗る南側の親玉が語る台詞を、詳細はまるで理解不能ながらもチェニイなりに解釈しました。
コイツの言葉は思いもよらない…というか、この世界の裏側にある〈システム〉とやらの危うさの一端ををチェニイに見せつけてしまいました。
ガブニードスが隠し、秘かに火消をしようとしたモノ、そしてチェニイの使徒召喚騒ぎを〈狂言〉として何とか改修しようと務めたこと。そして…キューブにリミッターを施したことの意味も。
ここまではよかったのです。ひょっとすると…本当に、かすかな可能性ではあったけれど、話がうまく収拾できれば、もしかするとチェニイは事情を納得し、ミリアは(どういう経緯をたどるかは不明だけれど)大人しく、ゼイゴスと共に南へ去ってくれたかもしれなかったのです。
まあ、後々になってみれば「そんなこと、土台無理な話」だったのですが。
…そしてそれは、チェニイ自身が自らに仕込んでいた爆弾でもあったのですが…
毒を吐けるだけ吐いたゼイゴス親分は、いささか気が済んで(それだけサンダユウに痛めつけられたのか?)気の緩みもあったのでしょう。
「まあ、ともかく…オレはそろそろ南陵サウス・クオータへ、フケさせてもらうわ。こんな火山の噴火口の天辺みてえな所に、長居は無用だからな」
再び、コクーン〈光の繭〉が鈍い音を立てて再起動し、ゼイゴスはの乗り込もうとタラップに足を掛けました。
「つったく…本当にムチャクチャな〈使徒〉サマを召喚したもんだ、UNトラストも…」
そしてゼイゴスは、ここで〈最後の地雷〉を踏んでしまったのです。
『まったくよぉ…〈ファルス〉様とは言いえて妙だぜ。名は体を表すとは…よく言ったもんだ』…
チェニイのこめかみにチクリ…と痙攣が走りました…。
「そ…その名前を…」
「…口にするなと…」
「言った、だろうがあああああ!!!」
この後の出来事は、まさしく「悲劇が団体さんでやってきた」とでも言うほかありません。 率直に言って、登場人物たちが(たぶんゼイゴスを除き)少なくとも無事に再登場できたことそのものが奇跡、というほかないと申せましょう。
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次回に続きます
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