038 平和主義者の帝王
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挨拶代わりにちょっとしたジョークを一発(不発でしたが)
帝王にしてサウス・クオータの大魔王ゼイゴスの茶目っ気に、
チェニイ&ガブニードスのコンビ(&ケダモノ一匹)たちの
雰囲気もすっかりほぐれて和気アイアイに…なるはずないですね
そもそも「南陵大陸の魔王来襲」とか騒いだ挙句、ニザーミアの
精霊導師たちがわざわざ召喚した(結果は大失敗だったけど)使徒チェニイ様
…侵略のネタを明かせば「狂言回しのガセでしたゴメンね、テヘペロ」
で片付く話だったかもしれないのに…
シャレどころか、いきなり北の本拠地まで敵の親玉自身が
乗り込んで来たのですから!
こうなると「安心しろ、コイツは四天王の中でも最弱」では済みそうに
ありません、「実はワタシも影武者でした~」という
オチでチャンチャン、という結末にも(この流れでは今更)
お互いに持ちこめそうもありません、困った、両者は固まるしかなく…
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「で、オマエたちは…こんな辺境のターミナル・ポータルまで何しに来たんだ?」
しばし睨み合いを続けたのちゼイゴス〈大魔王〉はやがて口を開きました。
「何しに…って言われても…」
チェニイはここで口ごもりました。
どう切り出すのが得策なのか、見極めがつかなかったのです。いきなり大ボスと対峙して頭が混乱した、という事情もありますが、こっちから本題を切り出すのはこの場合…。
「堂々と正面から立ち向かう気はないようだから、ロクな目的じゃないだろう、なあ?」
ふふん、と鼻を鳴らしてゼイゴスは顔を歪めます。
「なぜそんなコトがわかるんだ!?」
「アったりメエだろ。どこにコソコソと裏口から這い上ってくる賓客がいる? そーいうのはコソ泥とか空き巣と呼ばれるんだ。少なくともこの世界ではな!」
なるほど、それも一理ある…なんて妙に納得してる場合じゃない。
チェニイも毒気を抜かれてしまい、あわてて頭を振りました。
「好き好んで、危険な崖をよじ登って来たワケじゃないぞ! この島の船着き場へ着く前に、連れの一人がぶっ倒れて辿り着けなくなって…そのぅ…非常手段で手前の崖からこっちへ回るしかなくなっただけだ」
「はあん…精霊子の瘴気に当てられ、仲間はあえなくダウンか。無理もないよなぁ。そもそも素のザネリアンがダール・グレン暴走の最中にターミナルへ接近してくる方が、土台ムチャなんだ。…って、いや待てよ。じゃあなぜオマエはなぜピンシャンした状態で、崖をよじ登って来れたんだ?」
不意にゼイゴスはチェニイの背後に立っていたガブニードスに目をやり、ニヤリと笑みを浮かべました。
「ソコの相棒、見たところオマエもザネリアンじゃあないな。作業用アクトスーツから想定すると…NUAコンのサービスマンか。なるほどな、事情はおおよそ理解したよ」
ナニを理解したのか。チェニイには皆目見当がつかなかったけれど、少なくともこの親玉は、いわゆる「そっち側」の人間らしいということだけは分かりました。
「結局ダール・グレンの暴走は止められなかったか。無理もねえな…けど、そうなると後ろの相棒は、この場じゃ完全に〈部外者〉だ。ここにノコノコ顔を出した時点で、アンポリーの協約違反になるだろ。違うかぁ?」
また、ワケの分からん身内会話を始めたし~! チェニイは再び困惑させられました。
〈けど待てよ…考えたらコイツ自分の名前を名乗ってないよな。本当にこの怪しげな怪人野郎は《ゼイゴス》とかいう悪者なのか?〉
〈それは間違いないでしょう、けれどコイツの言葉にいちいち対応しなくても結構です。これもゼイゴスの手ですから〉
チェニイの脳裏に、直接声が響いてきました。そういえば以前、時計塔小屋でヨールテ親方に隠れて対話したガブニードスとの…緊急通信というヤツです。
〈オマエが部外者で、ここにいたら協約違反だ…って、そりゃどういう意味だ?〉
〈つい先ほど、お話ししましたよね! 私はNUAの関係者ですから、ノース・クオータにもサウス・クオータにも双方に利害関係を持つと、アンポリー…安全保障理事会の協約に抵触してしまうのです。なので…この場で私はニュートラル、どちらのお味方もできません〉
「ってコトで、おおよその事情はご理解いただけたかな?」
ゼイゴスは頭を掻きながら、面倒臭そうに言葉を継ぎました。
〈…あ、コイツ俺たちの通信を盗み聞きしてやがった! 呑気そうな顔をして、油断もスキもありゃしねえ〉
「ところで、キミ自身は何モンなのかなぁ? 精霊子の強烈な干渉をモロに受けても平然としてるようだからザネリアンではないとして…ひょっとするとアーシアンのステイクホルダーか? けど、それならどうしてこんな場所にいる? キミのようなガキ…お子様の来る所ではないし、観光するには余りに不向きだぞ。観るモンなんて何もない…ああ、ふんふん、ふーん…」
〈ああ~またワケの分からん横文字言葉が乱舞し始めたよ〉
やがて「合点がいった!」という表情を浮かべたゼイゴスは、何とも珍妙な表情で、親しげにチェニイに話しかけました。
「なるほど…そーいう事情だったのか。そりゃあキミにも同情するよ。UNトラストの役人風情も、ずいぶん卑劣な手練手管で引っ張り込んだものだ。まあしかし、それならキミも、最初からトンヅラ逃走しといて正解だったよ」
〈…ナニ言ってるんだコイツ…今度はいきなり同情かよ? イミフもいいところだ…あ!〉 チェニイは思わず思考を停止します。
「しかもキューブまで授与されて…リミッターまで解除されかけてる…考えようによっちゃ現状…ほぼザネル世界では無敵じゃないか? こりゃまた驚いたなぁ…」
〈チェニイ様! ゼイゴスは今アナタの表層記憶セクタにアクセスして、スキャンを仕掛けてるんです、すぐプロテクトしてください!〉
〈ンなこと言われたって…そんな方法、全く知らないし…つか、それってオレ対する忠告だろ、そのアンポなんとか協約違反になるんじゃ?…〉
〈これは自衛措置です! マルウェアによる不正ハッキングですから問題ありません〉
「いやいやいや待てよ、ここは身構えるべきトコじゃないっしょ…まあ、話を聞いてくれ。キミは今、大変なアーティファクトを手にしながら、無益で無駄な使命を勝手におっつけられてる立ち位置なんだ、マジ勿体ねえだろ、な。ここはお互いの利益を最優先して、最良の解決策を考えようや」
チェニイはゼイゴスの言葉を聞きながら…こういう体感を一般的には〈サブイボが立つ〉といいますけど…どう反撃すりゃいいのか、呻吟していました。
「世界の半分をお前にくれてやろう、さてどうする?」
Yes/No
〈まあこの手の誘い・口車に乗るアホは滅多にいないな…経験値と持ち金を最低レベルに戻されて最初からやり直させられるのがオチだ〉
「だからぁ! キミはデタラメなガセ情報を吹き込まれてるんだって! いや、謝るよ…もうアタマん中を覗いたりしないから。けど、そのぉ…オレが南陵サウス・クオータの帝王だとか、大魔王ゼイゴス3世だとか、あまりのデタラメな設定を精霊導師たちに吹き込まれてるから…思わず笑っちまうよなぁ…いつの時代設定のシナリオだよ?」
〈あれぇ…? なんか話がまた妙な方向に動き始めたよ〉
こうなると、チェニイの混乱にも拍車がかかってしまいます。
「確かにオレは南陵の〈ゼイゴス…ZEIGOS〉に所属してるし、三代目CEOの任に就いてるから、見方を変えればそんな表現もできるけどな、妙な〈精霊術〉とか〈邪術〉とか、そっちはカラっきし門外漢だし興味もねえからな。ま、文明の利器つーか…そっちのお世話になって、こうしてポータル経由で北までお邪魔したけど…まあともかく、用事が済んだらすぐ帰るから気にするな…ってことでぇ…万事ヨロシクぅ!」
〈??? なんか話が、大分違うんぢゃねえか?〉
困惑したチェニイは思わず、背後に立つガブニードスに向き直りました。けれどなぜかガブニードスは表情一つ顔に出さず、黙って突っ立ってるだけです。
「お~い、NUA完全公社の派遣技術屋なら分かるだろ、オレって何もウソ言ってないよなぁ? オマエからも証明してくれよ! なんかこの〈シト様〉、妙に疑り深いんだよぉ」
「…協約違反の介入になりますので…この場では…発言を差し控えさせて頂きます」
能面の表情を崩さぬまま、役人言葉でガブニードスはポツリと呟きました。
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というワケで、ついに〈ゼイゴス〉と対峙!!
…の段取りだったんだけど、予想に反しイマイチ、盛り上がりに欠けますね…。
どういえば良いのか、主人公二人の会話がイマイチどころか、
まるで嚙み合わないし、仲介に立つ筈のガブニードスときたら、
肝心なところで〈協約〉を楯にダンマリを決め込む始末だし
…つか、このゼイゴスさんはそもそも、ナニしに北へ来たのでしょうか?
それにチェニイ君、ミリア姫の救出という使命(でしたよね、当初は)
はどこへ行ったんですか?
というワケで、改めて次回で再戦ファイト!……となる筈です
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