037 能天気な帝王
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ここまで来たら、サックセ~ス!
このコピーをご記憶ある方も多数おられると思うのですが、
…そう思いたいのですが…
いずれにせよチェニイ様もここまで来たら何らかの形で事態に
〈カタ〉を付けないと納得できない状況に、至ってしまいました
問題はその〈カタをつけるべき両者〉の間に、
果たしてマトモな意思疎通が可能なのか、という一点です
要するに双方、誤解が誤解を増幅させたまま接触してしまうと、何ともマヌケな
(こーいうのもファースト・コンタクトと呼んでいいのかな?)
結末を招いてしまいかねません
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ちょうどチェニイが、ガブニードスの言う〈解放〉に従って キューブの使用制限措置を施し終えたのちに…この処方はチェニイ曰く〈プラネタリウムの化け物〉デバイスで、ものの数秒も経ず完了したのですが…、ここに時計塔の番人ヨールテ親方が辿り着いたのは、何とも良いタイミングだった、というべきでしょう。
だって〈ガブやん〉と〈スコップ英雄〉が妙な機械を挟んで、しかも相当に険悪そうに対峙している最中に飛び込んできたら、話がさらに面倒になっていたでしょうから。そのうえ、二人の間にトト・サンダユウ君が毛を逆立たせ割って入ってたら、ヤバさは更に倍率ドン!…な雰囲気だったろうし。
「なんじゃ、ガブやんにスコップ英雄サマまでガン首揃えてこんなトコにおったんかい」
息を弾ませながらヨールテ親方は先ほど、西沼で目撃したことを、つぶさに二人(と一匹も聞いていた)に語りました。
といっても親方は目撃した、ミリアを攫ったという「怪物みたいにおっとろしい悪魔の羽根を生やしてた怪物」の正体が誰なのかは彼も知りませんし、なぜミリア姫が拉致されたかの事情も知りません。ただ(誰でも想像できるけど)そいつが「悪の親玉」であることは、まず確実。それに…
「間違いのう、アイツは姫ちゃん攫って、レスター島まで飛んでった筈や」
この件に関しては、親方も飛んだ方向から推察して、直感的に理解していました。
「そういや、ここ数日は妙に島の周辺がキナ臭くなっとってな…キナくせぇ言うより、瘴気がプンプン臭って、ワシもこの通り鼻血が止まらんし息が辛えし。やっぱガブやん、こりゃ例の学校奥に建っとう妙な塔から出とる、光のコナのせいじゃろな。けど…」
「けど、何じゃ? 勿体ぶらず言うてみい」
ガブやん、ことガブニードスが混ぜ返します。
「何やおかしないか? 岬の学校とレスター島じゃ、えらい距離あるで。ラッツークの連中まで妙な瘴気で鼻血出しとう鉱夫が出始めとるんは、こっちゃがガッコの風下だから分かるけどな、レスター島は風上の逆風やぞ」
「多分、島にもどっかに風穴が空いとって、そっから何ぞ吹き出しとんじゃろ…ワシもよう知らんけど」
これはあからさまなウソです。レスター島の異変を予めヨールテ親方に予言し、調査させたのはガブやんだし、ひょっとすると西沼でミリア姫を拉致した怪人とやらにも、心当たりがあるのも…。けど親方にはそんなことを詮索するより、ミリアの救出が先決でした。
「親方、悪いがもう一度艀を出して島まで渡ってくれんね」
「当然じゃ。鼻血吹こうがと耳血出そうが姫ちゃんを救わな、しゃあないやろ!」
顔色は相当に青ざめていましたが、親方は健気にも胸を張って叫びます。
ラッツークから浜辺に降りて、艀に乗り込む乗員は3名プラス(勝手について来た)一匹。幸い、岬から寄せる波は穏やかでベタ凪です。振り返ると岬の突端の塔から吹き出す虹彩は、ちょっとした仕掛け花火の粉瘤の域にまで達しています。暁の空に映えるそれは…事情が事情でなければ、の話ですが…相当見事な見世物だったでしょう。
そしてその真逆の方向、艀の先端の海面に昏く浮かび上がるシルエットがレスター島。
距離にしておよそ2キロメルテ。かなり切り立った険しい崖が行く手を阻んでいます。
よく見ると崖の上には、塔とは別の光がチラチラ灯っていますが…。
「ガブニードス、あの島には大昔の廃墟しか残ってなかったんじゃないのか? だとしたら何なんだあの点滅?」
「…正体は何にせよ、あまり良い徴ではありませんね」
3人の分担作業で艀を漕ぎ進めること、およそ数十分…普段なら、小一時間もあればとっくに船着き場から上陸できたはずなのに、なぜか今日に限って未だに島影がなかなか近づきません。まるで何かが艀を押し戻しているかのような…。
艀の舵を手漕ぎで操作していた船尾の親方が、荒い息も絶え絶えに、二人に向かって声をかけました。
「すまん…わしゃもう行けん…アタマがグラグラしちょうき…それに船着き場は、この崖の真逆側なんじゃ…悪いが、崖の手前でロープを掛けるき、そっから島へ上陸しち…」
ここでヨールテ親方は最後の気力を振り絞り、ロープを絶妙な角度で投げて岩場の突端に到着したのを見届けたのち、力尽きて気を失いました。
崖の飛び石にロープを渡してくれたお陰で、何とか足場を確保した二人はそのまま接岸に成功。慣れないロッククライミングを試みます。ベタ凪のお陰で艀の揺れもなく、何とか岩場に取りつくことに成功しました。ちなみにくっついてきた一匹の方は…悪戦苦闘の二人とは対照的にスタスタ岩場を駆け昇ること数十メルト。けれどなぜか頂上付近で停止して、上を睨みつけたまま唸りを上げています。
「おーいガブニードス、下のロープは確保してるかぁ~?」
「こっちは大丈夫です~」
「そしたら、余った方の端をこっちに投げ上げてくれぇ~」
ロープの端を受け取ると、チェニイは使い慣れた得物の鏨(スコップ英雄様御用達)を括り付け、そのまま崖上へ放り投げました。
がしっ! よっしゃ、手応え十分。
チェニイはロープをそのまま手繰り寄せると、ゆっくりと足場を確保しながら、最後の岩場を登りました。
ようやく崖の上へルートが開けると、そこからレスター島の平地に足をかけ、そこから上へと視界が開ける………と?
ロープの先端で、奇怪な怪人が、チェニイの鏨をがっちり掴んだまま、姿を現しました!!
「…!!!」
なんだコイツは! 反射的に、慌ててロープを引っ込めようとするチェニイ。
「動くな!」
怪人は、鋭い声で警告を発しました。
「…オマエの命はいまや、このオレの手の中にある」
怪人はニヤリ、と気味悪い笑みを浮かべてチェニイに囁きました。
確かに、今ここで鏨を掴んだ手を離されると、彼はそのまま崖下へ転落してしまいます。
岬の下、そのまま海面に巧くダイブできればまだマシだけど、打ち所が悪ければ岩角もしくはガレ場で頭を打って御臨終です。先ほど登って行ったサンダユウが岩場の頂上付近で唸っていたのは、コイツを威嚇してたのか…チェニイの掌から、冷汗が吹き出しました。
まさしく、絶体絶命のピ~ンチ!!
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「なーんてな、どーだ怖かっただろ。なあ、少しはウけた? 面白かった?」
いきない怪人の声色がガラリと変化しました。
「いいからさっさと上がって来い。こっちも手が痺れちまって辛ぇんだよ」
……ってオイ、コイツこれで面白くもないジョークをカマしたつもりだったのか……
ぜえぜえと荒い呼吸で、チェニイは岩場にたどり着きました。
「ぢゃあ、もうロープは用済みだな」
怪人はそう云い捨てると、ぽい! とロープを鏨ごと崖下に放り投げました。
すると崖下からは
「ああ~~~!」という悲鳴が、上まで木霊して。
「あ、バカ! まだ下にはガブニードスが……」
悲鳴は聞こえなくなり、そして…ああ…短い付き合いだったなガブニードス。
後のことは任せてくれ(知らんけど)。どうか、安らかに…。
チェニイには、冥福を祈るしかありませんでした。
「…人を勝手に殺さないでください!」
けれどしばらく間があって、なぜかガブニードスは崖の上までフワフワ…と浮かんできました。
「……? 化けて出るには早すぎないか……?」
「冗談ぢゃありませんよ。いきなりロープを投げ捨てないでください!」
〈…鏨ごとロープを投げ捨てたの、オレじゃねえのに…あ、そうか、こいつ下半身に歩行用の装身具を付けてたんだっけ、忘れてた。何だよ、速足の術のほかに空まで飛べたのか、だったら何もオマエまで、危険侵してロッククライミングに付き合う必要なかったのに〉
「飛べるったって、所詮は飛行距離なんて微々たるものですからね、念のために岩登りをご一緒したんです…って…それより誰なんですか、この怪人は?」
ようやく、崖上で待ち構えていた奇怪な人物に、ガブニードスも気が付きました。
「何だ、まだ下に人が残ってたのか…つかその前に、お前らこそ誰なんだよ!?」
呆れたように、この悪魔の如きコスプレ衣装をまとった怪人は二人に語りかけました。
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というワケで、いよいよ真打ち〈ゼイゴス〉登場です!
長々と前フリの割には軽いキャラのようですが、決して油断は禁物
これでもサウス・クオーターの魔王なのですから
…と、紹介していいのか悪いのか…正体は次回に判明します
ひょっとすると、話し合い次第では大人しく帰ってくれるかもしれない
…もちろん、そんなに都合よく話が進む筈ないけど…
次回に続きます
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