036 島へ渡るシマ娘よぉ~♪
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考えてみたらガブニードスとトト・サンダユウ君って、別に相性がよい
ワケではないのです…つか、この二人(じゃなく一人と一匹)は、
本編中でマトモに接触したコトなんか全くなかったんじゃ…?
なので、ガブやん(ただしラッツークでの立ち位置)にすれば、ミリアにくっついてる
妙なペットという認識しかありません。チェニイ様のように、初見で指を
噛みちぎられそうになった…的な悲惨体験をしたワケじゃないけど、可愛がってた
覚えもありません…要は、互いにシカトし合ってる間柄です。
それに比べて、ガブやんとミリア姫の関係においては…実のところ、かなり
因縁深い物語があるのです…これは以前にお話ししたことがありますね
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西沼が奇怪な状態になっているのは一歩、足を踏み入れたヨールテ親方も感じていました。マングローブの灌木を飛び交っているミージェ虫の挙動が、いつになく狂暴なのです。普段なら手を振るだけで逃げ回るほどの、か弱い虫たちが今日に限っては自分に向かって飛び掛かってくるのです。
こりゃ、ひょっとするとマジでワシを食い千切ろう思とんとちゃうか?
そもそも、マングローブの根元に取りつき、樹液を啜るための小さな口顎しかないのに、これを死にもの狂いでカチカチと振り回して親方の腕に、足に喰いついてきます。
「いた、痛いやないかい! ヲノレら、ええ加減にせぇよ!」
もっとも所詮は単なる羽虫。皮膚に喰いつく虫たちを千切って振り落とせば、ものの敵ではありません。が、これが大群で一斉に襲い掛かってきたら…話は別です。
一瞬、親方はそんな光景を想像して、肌が震えました。
ちなみに今後、この凄惨なシーンは本当に実現しますが…それは別の話。
〈…ちょう待てよ、姫ちゃんはさっき、こんな鉄火場に足を踏み入れよったんか? 一つ間違うとったら、こりゃ偉いコトになったんと違うか?〉
親方は再び身震いしました。
虫を引きちぎり、灌木をかき分け、ケモノ道を踏みしめて親方は、必死でミリアの足跡を辿ろうと試みます。
虫どもがこんな状態になった原因は、親方にも何となく想像がつきました。ニザーミアの学校の奥に建っている例の塔から吹き出すナントカの灯火、アレが(原因は不明だけど)普段は大人しい虫たちを狂暴化させた…多分、そうに違いない。
やがて親方は沼の湖面まで辿りつきます。廃墟が水面に没した眺めのいい…ミリア姫はここを〈ステキなベランダつきコテージ〉と呼んでました…が、マングローブ灌木の間から見える位置まで降りてきたところで、いきなり向こうの廃墟の間から、かなり眩い光が差し込みます。
「な何じゃ、ありゃあ!?」
…絵に描いたような(アホ面と言ったらかわいそうですが)表情を浮かべて、その先に浮かんでいた〈妙な物体〉を、親方は眺めていました。
それは人間…ただし、悪魔の如き羽根を生やした怪人が、少女を抱えている光景。
そして二人は、奇妙な…としか表現のしようがない繭のような珠に包まれ、輝きを浮かべながら中空に浮かんでいます。
その少女が、ミリアであることは親方にも分かりました。遠目ではよく分からないのだけれど、おそらく彼女に意識はなさそうだ。
「ラチされたんか…けど…もう一人のアイツは、誰ぢゃい?」
…まあ、状況から言っても、そう理解するほかないのですが…
光る繭玉はゆっくり上昇したのち、およそ数十メルト…湖面の上に達したところで輝きを増して、そのままフイ…と音もなく上昇し消滅しました。
その間、親方には(状況も理解できず)如何ともすることができず、ただ見守るしかありませんでした。ただ彼は次の瞬間に直感したのです。
〈間違いない、ミリア姫ちゃんは《レスター島》に連れてかれたんじゃ!〉
なぜ、そんなことが脳裏に浮かんだのか…は本人にもうまく説明できなかったのだけど。
一方、時計塔の上階、機械部屋ではチェニイ様(&トト・サンダユウ)、およびガブニードスが対峙していました。三者はかなり、険悪な様相となっています。
当たり前ですね…ガブニードスが(不用意に、とは言わない…かなり確信めいて)妙なことを口走ったものだから、チェニイ様も態度を硬化させたのです。まあサンダユウ君は最初からケンカ腰だったけれど。
「ミリアさんのことは、そのままにして差し上げる…そういう選択肢もあります…と申し上げたのは、やはりお気に召さなかったのでしょうか」
「…当たり前だろうが…」
チェニイはそれでも、かなり感情を押し殺した(彼なりに)声で、呟きました。
「けれど…改めてお考え頂きたいのですが…チェニイ様にとってミリアさんとは、どのような間柄なのでしょう? 大切なお方なのですか?」
「え…? どうって…」
〈そういや、考えたこともなかった
たしかに最初の出会いは…最悪だった。ペットのコイツには手を食い千切られそうになったし、妙な《不思議ちゃん》という印象しかなかった。そういや、スクルー鳥人間どものバザールでは、勝手に人の財布で買物され、ムチャクチャ高価な光物をチョッパられたし。
あとは何だったっけ…そういや、大テントで《突然の姫ちゃんライブ》を勝手におっ始められたときには、ブッ倒れた彼女を介抱させられたし、後始末までおっつけられた。
…って改めて考えたら、ロクな目に遭わされてねえな、正直いってオレ…〉
「そもそもチェニイ様は、以前にミリアさんとお会いになったことはあるのですか? たいへん恐縮ながら、お二人が行きずりの間柄でしたら、ここでで彼女を自由にして差しあげてもよろしいのでは? それにミリアさんご自身のことを、チェニイ様は…はたしてどこまでご存じなのか…?」
〈そりゃあ仕方ないだろ。そもそももナニも、オレは自分の事さえ分からず、ここに拉致…じゃねえか、《召喚》させられて来ちまったんだから。
…あれ! ちょっと待てよ…〉
「そういやガブニードス、おまえ以前…ミリアの事情を話したことが、あったよな」
「は?」
ここで、ガブニードスの顔色が変わりました。
「そうだ二年ほど前、ニザーミア学府院の水精局にいたのがミリアだった…たしか、ジュレーンとかいう西の大都市の…次期斎宮姫として留学してきたのに、なぜだかそのまま学府院からトンヅラこいたミリアを、オマエがこのラッツークの竪坑町に…ヨールテ親方を頼って…引き取らせた…って言ったんじゃなかったか?」
「はて…ワタシそんなこと、言いましたっけ?」
苦笑というか、苦虫を噛み潰したというのか、なんとも微妙な表情を〈ガブやん〉は浮かべました。
「どっちにせよ、お前がミリアをこのラッツークに匿った張本人だとしたら、何で今頃になってミリアを〈自由にしてやれ〉なんて殊勝なことを口走るんだ?
そもそもオマエ、いったい…何者なんだ?」
「ナニモノ…と仰られるのは…少々心外なのですが」
「最初あの大講堂から…オマエと廊下で激突したアオリもあって…ともかくこの場を脱出せにゃあ、と手を引かれオレはこの、ラッツークの縦坑町にやってきたよ。
ま、そのあと〈ニザーミアの刺客〉が来る、なんてビビってたオレを助けてくれたし、どうにかあの大騒動を…どう丸め込んだのか知らんけど…無事に納めてくれた。
記憶がすっ飛んでビビってたオレに助言してもらったし。
最初はオレも、オマエのことをニザーミア学府院の、精霊師たちの仲間かと思ってたんだが…どうもヨールテ親方に言わせると、そうでもないらしい。
…ひょっとして、ルボッツたちのいう〈アーシャン〉とかいう連中の一味かとも思ったんだが、ま、そのあたりはムニャムニャと、はぐらかされたっけ…」
「なかなかのご賢察ですね…恐れ入りました」
笑顔に戻ったガブニードスは、柔らかい声で語りました。
「仰る通り、私は正確にはNUA公社からニザーミア学府院に派遣されたテク・マン…技官でして、こちらに派遣された事情は正しく〈ガブニードス・タワー〉の心臓部にあるダール・グレン装置のメンテナンスが主業務だったのですが…もちろんチェニイ様と大回廊で〈激突〉してしまったのは、単なる間の悪い偶然でしたけど」
「じゃ、そのぉ…〈使徒召喚〉とかいう儀式とお前は、全くの無関係だったのか?」
「はい、あれはニザーミアの精霊導師たちが仕組んだ茶番劇だったのですが…正直に申し上げれば、あれほど下手なシナリオを火精導師が組むとは思ってませんでした。まあ…キューブ玉璽の引継ぎで、あんなヘタを打つとも想像しておりませんでしたから。チェニイ様をこちらに…ラッツークへお連れしたのは、あくまで私のとっさの判断によるものです」
「なるほどな…偶然に偶然が重なって、大騒動か」
ガブニードスは改めて、背後のデバイスを再起動させて、再び向き直します。
「さらに申し上げると、現在の〈ガブニードス・タワー〉の心臓部ダール・グレン装置の暴走は、NUA公社メンテナンスの想定外…おそらく主因は、外部からの干渉だと思われます。考えられるのは、十中八九〈ゼイゴス〉…」
「けど…なんか聞いた話では、そのゼイゴス何某っつうのは、ありゃ精霊導師どもがこさえた嘘シナリオで、実際…その、サウス・クオータ…南の連中は、動いてさえいないガセネタ、って言ってなかったか?」
「まあ、典型的な〈ウソから出たマコト〉いや〈嘘からでた大嘘!〉だったかもしれませんね、当初は」
「当初……?」
チェニイには、この異界の成り立ちが…かなり複雑な事情はともかく、単純に〈平和な北を、悪の巣窟の南が攻めてきた!〉的な構図では測れない、ということだけは理解できました。
「で、それでどう事情が変ったんだ?」
「改めて申し上げましょう、チェニイ様。私どもNUA公社は、この異界においては〈中立公平〉原則を貫いています。南や北のいかなる勢力にも加担しません…というより、加担することが許されていないのです。
だからこそ、二年前にノース・クオータでの斎宮事件で、私どもはジュレーン大都のミリアさんがあくまで、ご自分の意志で斎宮姫の地位を辞されたとき、力をお貸ししました」
〈どうやら、この話に嘘はなさそうだ。何某かのウラ事情はありそうだけどな〉
「なので、今回の騒ぎの元凶…私の見立てでは〈ゼイゴス〉が裏にいると踏んでいるのですが…に関しても、ミリアさんの意志を尊重して…と申し上げたのです」
「じゃあ、オレに関する立ち位置はどうなるんだ? その…ヌアとかいうオマエが所属する組織としては」
「同じです。チェニイ様は現在、ニュートラルです。ただし規約によって〈キューブ〉はすでに稼働しています。なので我々が望むのは、あくまでチェニイ様の意志でこの異界に、干渉されないこと…必要以上に。そのための協力は惜しみません」
「じゃあ、この〈キューブ〉に、そのぉ…使用制限をかける、ってのも…」
「あくまで、ご自身の意志です。たとえば、この異界を征服して、大魔王になってやる…とお望みになるのも、この異界をオレ様の手で滅ぼしてやる! というお望みも…」
「冗談でもそんなコトを口走るな! けど……マジでそんな力があるのか、コレ?」
「…どうでしょうねぇ…キューブ使用には本来、限界はありませんから、あるのはご自身の意志の限界だけです」
「分かった! まあいい。
…だったらガブニードス、その措置とやらを今すぐやってくれ」
「よろしいのですね」
「どっちにせよ、オレがココへ来てしまったお陰で、妙なことが実際、起こってしまってるらしい。だったら少なくとも分かってる範囲でカタつけなくちゃな。自分が何者かもわからないんだから、せめてアタマがおかしくならない範囲で…」
かくして、ガブニードスは改めてデバイスを起動させました。
再び、チェニイの右掌からはキューブが仄かに浮かび上がり、この〈プラネタリウムの化け物〉は所定のコマンドを転送完了しました。
操作それ自体は、呆気ないほど簡単に、かつ短時間で終了。派手な虹彩も発することなく、単に重厚な機械音が稼働を記しただけでした。いつの間にかキューブもチェニイの掌に取り込まれています。
〈なんだよ、やってみりゃあ、こんなもので終わりか…全く痛くも痒くもなかったぞ〉
チェニイ様にすればそれだけの気分だったのですが、のちに彼はこの上書きによって、それ相当の代償をキッチリ払うことになります。
ちなみに延々とガブニードスとチェニイがやり取りを続けている間、トト・サンダユウ君と言えば、じっと床に寝そべったまま、グルルルル…と唸り声を上げ続けていました。
〈こいつらの面倒くさいやり取りなんぞワケわからんし、興味もねえ。いいからさっさと終わらせてくれ。こっちゃあミリアを助けに行くことだけで、アタマが一杯なんだ!〉
サンダユウ心中の呟きを言葉にするなら、そんなところでしょう。
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結局チェニイは、ガブニードスの口車に乗せられて(なのか、どうなのか)
〈キューブ〉のパワーアップ(なのか、それとも使用制限なのか?)を受け入れる
ことになりました。
その成果? は、すぐ直後に明らかになるのだけど、それはおいといて…
ミリアが拉致されたときに乗せられてた妙な光の繭、今回はラッツーク近郊の沼から
レスター島までの近距離移動でしたが、いずれチェニイも搭乗するこの乗り物、
実はけっこう遠くまでスッ飛ぶスグレモノです。
もっとも小道具的な観点で言えばたかが知れてます…数十億光年単位の
銀河移動だの、11次元のM理論的膜宇宙のすっ飛ばしさえ、最近は日常茶飯事だし
(実在するかどうかは全くの別問題! たぶん悉くガセだと思うけど)
次回に続きます
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