025 それを知っちゃオシマイよ!中
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長い夜もそろそろ東に暁が昇り始めた頃、大騒ぎのラッツーク縦坑では
日常が戻り始めて参りました。〈スコップ英雄〉チェニイ様もフル回転で絶好調
鳥人間スクルーたちも…コイツら、さらに大儲けを狙ってフル回転
一方、先だって「パーティで大立ち回り」をしてのけたおかげで、スクルーの商人たち(およびラッツークの鉱夫たち)ファンから圧倒的な支持を集めたミリア姫も、目が覚めて後でようやく常態復帰しましたが、食事当番のたびになぜか、周囲から集める熱視線にひたすら戸惑うばかりでした。
ナニかあったの? とミリアが尋ねても、言葉を濁すかニヤニヤ笑って「いやあ、本当に楽しいひと時を」みたいに胡麻化されるので…なんか妙なコトでもしでかしたのかしら、と(なにせ記憶がブッ飛んでるから)不審に思うものの、これ以上は追及できません。
「ま、いいか…別に悪いことしたわけでもないようだし、迷惑かけたワケでもないから」
てなワケで一応、日常が戻ってきたラッツークの鉱山町なのですが、
その背後で、もう「日常とは違う」妙な空気が漂い始めているのも確かなのです
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「エディカちゃんって、本っ当!見る目は確かなのよね。いい品ばっかゲットしてるわ」
昼食当番を終えると、ミリア姫には当面することがありません。
で、暇つぶしに炊事場で、先日スクルーのバザールでゲットしたお宝の品評会を彼女はエディカと始めました。
「やっぱテクタイトは、こう角度つけて、じーと透かして見れば善し悪しがはっきし、違ってくるけーね。こればっかしは年期がモノを言うんじゃわ」
エディカは自分のお宝を自慢げにミリアに見せびらかしてご満悦です。
「けど姫ちゃん、あんたもともと、花の大都ジュレーン出身なんじゃろ? こげば宝玉なんて、腐るほど見とるんと違うん?」
「う~ん、そんな機会なんて…実は大してないのよ」
ミリアは少し顔を曇らせて下を向きます。
実はこの手の坑道井戸端会議、これまでも何度か二人で行ってきました。ミリアとエディカは年も近いせいか、何かとウマが合う仲良しさんなのです。
「あんたら、ホンマに仲ええわねえ…んで今日はナニしるん、お道具広げて?」
小屋の脇で作業中の選鉱婦のオバチャンが、二人に声をかけてきました。
「だって、いまの時間はヒマだからなぁ…あ、それにエディカちゃんはサンダユウにも、すっごくなついてるしね」
ミリアがチョチョチョ…と声をかけると、小屋の奥からミイ…と声がしてミリアのペットのキツネリス(実はチムニーという小動物です)が顔を出し、ミリアとエディカの膝の上に乗ってきました。
ちなみに、サンダユウはチェニイが近づいてくると、歯をむき出しにして威嚇します。
「あら、そっちはまたステキなお宝よねえ、あたいにも見せたっとりィな」
選鉱婦のオバチャンは興味シンシンで覗き込んできます。
「ええよぉ、ホイ」
エディカが手に取って、それをミリア越しにオバチャンに差し出すと…テクタイトの宝玉は、かすかな虹色の光彩を煌めかせます。
「あら…」
その光に思わす、ミリアとエディカは顔を見合わせました。
「あー、ほんまにコレ、上物やねぁ~。エラい値がはったんとちゃうのン? あ、そーか、チェニイ英雄サンにプレゼントしてもろたんか?」
オバチャンは羨ましそうに覗き見をします。
「あたし、そんなんと違うしぃ~!」エディカは笑って答えました。
…
なぜか少し沈黙があってから、エディカはぽつり、と呟きました。
「チェニイ英雄サンのええヒトは、ミリアちゃんやしね…」
逆に、その言葉に驚き目を見開いたのはミリアの方でした。
「な…ナニ言ってるの!?」
「ええんよ、別に…」
余計な事を言ってしまった。そう思ったのか、エディカは慌てて、話題を変えます。
「実はアタシらね、もうすぐこのアナを離れることになるンよ、たぶん」
「え、どうして? ラッツークも、これからどんどん景気が良くなるのに」
ミリアは驚いて問いかけます。
「それがねえ…ウチの婆ちゃんがいきなし言い出しよったんよ。〈ヤーマの灯〉が噴き始めたら碌でもネエことが始まるから、今のうちにガラン山麓へもどろう、って。婆ちゃんはもう、言い出したらテコでも聞かんきに」
あきれた話よね、とエディカは大きくため息をつきました。
「せっかく大儲けできるチャンスなのに。大金稼いでジュレーン見物にシャレ込もう、って家族全員が喜んでた矢先に、よぉ!」
「思ってるほど、いいトコロじゃないけどね、ジュレーンなんて…」
ミリアは首をすくめて呟きました。
けれど、そんな浮かない顔のミリアをよそに、エディカの怒りは止まりません。
「だいたい何なんよ、〈ヤーマの灯〉って。じーっと目を凝らしたって、何~んも見えへんやん」
「それって、なんのこと?」
「ニザーミアの岬の突端に、なんか古ボケた塔が建っとうでしょ。アッコの煙突みたく出とうボロボロ柱から、モワモアしとるケムリか何かが、時々キラキラ光りながら出て来とう、って婆ちゃんが言うとってね。
ソレがよっけえ不吉の証なんやって。
けど、アタシらが見ても、ラッツークの鉱夫さんたちに見せても、何ぞわからん、ほんなん出とるんか、て首ひねるばっかやし。ホンマはバアちゃん、年くって目がボケとるだけちゃうんかな?」
ミリアは、エディカが指し示すニザーミア学府院の先、岬の突端に建っている塔に目を凝らします。未だ夜も明けやらず、東の漆黒に包まれた水平線の下から、それでも今日あたりからじわじわと暁光が差し始めています。
そして微かに照らされた奇妙な塔と…何かしら妙な形をしたアンテナ集合体とも、形容しがたいオブジェの先端から…。
「わたしにも…見えるわ。その妙な光を放ってるケムリ」ミリアがぽつり、呟きました。
「ウソやん、ナニそれ! 気色ワルイ」エディカが応えます。
「…ねえ、あのブキミな光、何だと思う?」
ミリアの問いかけにエディカは無言で、改めて目を凝らしました。
「………ほ、ホンマやわ……アンタの言うとおり、妙なもんがアタシにも見えてきた」
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いやいや、ワタシにも見える、確かに見えてきた!
幽霊だってUFOだって、信じる者には現れるのです
で、このお話の場合はどうかというと…まあ「そんなのあるワケない」
では物語自体が終了してしまうから、一応は肯定しておきましょう。
付け加えておくなら、エディカにも見えてきたのは、ミリアの能力に
感化されたのが原因です。
ただエディカにそれが顕著に表れたのには、彼女が〈ルボッツ〉の末裔だから、
その血筋が反応したのだ…という要因もありますが
で(ご記憶あるかと存じますが)この現象を真っ先に感知したニザーミアの
さる高貴な住人も、この先それを嗅ぎつけ此処にやってくることになります
次回に続きます
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