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024 それを知っちゃオシマイよ! 上

 …………………………………………………

チェニイ様のラッツーク到着いや「ラッツーク逃亡and潜伏」によって、日々刻々と状況は変化し、騒動は大きくなっていくのですが…そしてその情報は発端であるニザーミア学府院にも刻々と届いているものの、彼を〈召喚〉した精霊導師たちには現在打つ手もなく、ただ見守るしかないのです。

まあ(当初はガストニーフの提案だそうですが)使徒の「影武者を立てる」計画が考案され、風精導師でレオ・コーンボルブなる人物によって実行に移されようとしているのですが、重要なのはこの計画、そもそも学府院の総意に基づいて策定されたものでも何でもない、ということです。

要するに「上のモノだけで勝手に、コソコソ画策してる」秘密計画だということ。

さらにいえば…〈使徒様召喚〉そのものが…そういうデッチ上げ計画だったのだから!

…………………………………………………


「あら、お久しぶりだこと、ガストニーフ技官!」

 ニザーミア学府院の北回廊を速足で駆けてくる彼を、鉢合わせになったシェノーラは呼び止めました。

「これはこれは…シェノーラ様。いつジュレーンからお戻りになったのですか」

 ガストニーフ、と呼びつけられた彼は、彼女の姿を見咎めて、内心ぎょっ、としたものですが…もちろんそんなことは、素振りにも出しませんでした。

「実はつい今しがた戻ってきたとこ。で、その後お変わりはなく? ガブニードスは…」

「はい、私めもお陰様でつつがなく過ごしております…」

 紋切型のあいさつを交わし、そそくさとその場を立ち去ろうとした彼ですが、シェノーラは肩越しに呼び止めます。

「アンタの様子なんて聞いちゃいないわよ。〈ガブニードス・タワー〉の状況に変異はないのか? って尋ねてるの! んで、どうなの?」

 コレだよ。これだからこの姐さんは苦手なんだ…。

「まあ、特段ご報告すべき点は…」

「本当にそう? 先ほど到着時に下から眺めたけど、かなり濃度のヤバい〈ヤーマの灯〉が噴き上がってるんじゃない? 正確に報告して頂かないと困るわ、ガストニーフ技官」

「御不審でしたら夜明け前に、デイリーレポートをまとめてお出ししますから後ほど、ご覧になってくださいませ。〈過ぎ越し大祭〉前後の〈ヤーマ〉変異状況も確認できます」

 ふと気づいたように【ガストニーフ】は付け加えます。

「あ、それから…細かいことで申し訳ないのですが…私めのことは出来ましたら以後は〈ガブニードス〉とお呼び頂けませんか? 塔の名称と紛らわしいのも困りますし」

「はあ…そうなの? それじゃあ、その旨は今後、考慮するわ。けどね…」

 彼女は眉をひそめ、少し声を低くして彼に囁きました。

「そもそも私たちが、アナタたちの〈アナグラム法〉を順守して、人名呼称を別々に切り分け使わなきゃいけない義理はないのよ。これはあくまで努力義務…いえ、私たちの好意なんですからね…そこのところは肝に銘じておいて頂戴」

 そう言い捨てて、あとは振り返ることもなく、彼女は南棟…水精棟へシェノーラは早足で去っていきました。

 

 しばらく突っ立ったまま、苦笑し頭を搔いてガストニーフは考えました。

〈彼女もジュレーン大都では、かなり不快な目にあわされた様子だ。この調子だと〈使徒様代理計画〉のほうも、シェノーラには筒抜けだし。となると、あの姐さんはひょっとして、妙な行動に出るかもしれない。…早めにチェニイ様にも彼女のことを耳に入れておかないとマズいかも。ナニかで衝突したら、思わぬ余波を喰らう危険性もあるからな〉

 ただガブニードス、いやガストニーフ技官はこの時点で、ラッツークに鳥人間・スクルー族のコンボイが到着していたことを知りませんでした。まして、その後に繰り広げられるバザール大盛況、そしてそのアオリで、ミリア姫が狂乱の覚醒騒ぎを巻き起こすことも…。


 ただ付け加えると、このあとシェノーラ水精教導の〈実力行動〉が思いのほか素早いことだけはガブニードスの読み通りでした。いや予想以上というべきかもしれません。


 さて一方、水精局に戻ってきたシェノーラは自室に彼女に「ラクーナ」と名乗る〈侍女〉を呼び出しました。彼女は立ち位置的には水精師見習いなのですが、シェノーラにすると、陰謀が随所で渦巻いているニザーミアにあっては、本音を打ち明けられる数少ない相談相手なのです。

「結局、その…ファルスとかいう使徒の顔を見たものは、ニザーミアには誰もいなかった、ってのがコトの顛末なのね」

「はい…当初は見習い精霊師たちが地水火風4局からかき集められ…なので私も〈使徒ファルス様〉お披露目の饗宴準備で担ぎ出され庭園で待機していたのですが、どうもそのあたりから先の記憶が曖昧で、なにが何だか…。

 覚えているのはその先でして、確か…火精導師のトープラン様だったと思うのですが〈使徒ファルス様は既に旅立たれた〉と見習い精霊師たちを集めて訓示されたのですよ」

 シェノーラには、ことの仔細がまるで呑み込めません。

「なんで…呼び出されて集められて、その先の〈召喚儀式〉をすっ飛ばされて、気が付いたらトープランのヤツに説教食らわなきゃならないの?」

〈要するに若手連中は、単純な《目くらまし》で暗示をかけられたんでしょうけどね…〉

 シェノーラ教導には事の裏筋はお見通しだったようです。


「つまり精霊導師様のお言葉によれば、〈使徒様〉は降臨のお目見え饗宴の儀を知って、たいへんご立腹された、と。魔王ゼイゴスが〈血と恐怖の大陸〉を出立して北上を始めたというのに、悠長な祝宴などで時を潰すとは何事か、と。庭園に侍っていた見習い精霊師たちを一喝したのち、早急に旅立たれたのだ、という仕儀だったそうです」

「はあ…」

〈年端も行かない見習いさんを騙すにしても、あまりに芸のない切り口上だけど、まあ仕方ないわね。それにキツ目の暗示をしっかりかけておかないとニザーミア関係者から、あらぬ噂…というよりコトの真相が北辰大陸中に広がってしまう。それはサスガに困るし…ま、どちらにせよ人の口に戸は建てられないけど

 しかし、そんだけ無様を晒せば、慌てて縫繕策に奔走したあげく〈代理使徒〉を立てる…なんて手段に走るのも理解できるわねぇ。しかも、よりによって〈あんとらすと〉の連中に恥を忍んで泣きついてまで〉

 シェノーラは、目を血走らせて右往左往するトープラン火精導師の姿を思い浮かべると、つい笑いがこみ上げてきて止まらなくなりました。


「あのう、シェノーラ様…よろしいでしょうか」

 声を殺して笑っているシェノーラに、ラクーナは恐る恐る声をかけました。

「あら、ごめんなさい…なあに?」

「あの後、仲間内では妙な噂も立っているんです。〈使徒様〉は…実はまだサウスへ旅立たれていなくって、実はすぐ近所のラッツークに滞在してらっしゃる、なんて…」

「なにソレ? 誰かが使徒様を見かけた、とでもいうの?」

「いいえ、だって誰も〈使徒様〉の御尊顔を知りませんし…それに〈過ぎ越し祭り〉の後始末の時期に、私たちが勝手に学府院を出ることなんて、できませんから」

「それはそうよね…けど、だったらそんな噂がなんで流れるの?」

「それは…実はあの後、ラッツークの様子が変なんです。妙に賑わってると思ったら、つい先日には大凧が山から下りてきたり。あれって話に聞く〈鳥人間〉ハーピナ・スクルーたちのコンボイですよね。なので「すでに旅立たれた」というのは単なるダミーの煙幕で、実は使徒様はこれから…ひょっとして、ハーピナの援護で大都ジュレーンまでお送りする計画なんじゃないかな、とか」

「ふうん…そんな話、あたしは聞いてないけど」

「そうですか…教導様がご存じないなら、やっぱガセネタなのかぁ」

 

〈そりゃガセには決ってるでしょうよ。だって本物はとっくに逃走してるんだから〉

 そう思いつつ、シェノーラは不意に二年前に起きた〈ある事件〉を思い出しました。

〈そうか、この騒ぎって一度似たような「前歴」があるんだ〉

 シェノーラは、不意にあのガストニーフ技官も絡んだ、水精局を巻き込んだ騒動の事を思い出しました。

〈灯台デモ暮らし…とかいうコトワザもある。なぜ忘れてたんだろう、肝心なことを。

…しかし自分は《ファルス様》なんて名前の使徒には面識がないし…けど…ええい! 自分なら人品骨柄を見分ける程度の観察眼は持ち合わせている。

 だったら、あれこれ推測するより現場へ直接赴いて、何が起きているのか確かめた方がてっとり早い。あとは、ラッツークへ潜り込む段取りだけね〉


 …………………………………………………

長い夜もそろそろ東に暁が昇り始めた頃、大騒ぎのラッツーク縦坑では

日常が戻り始めて参りました。〈スコップ英雄〉チェニイ様もフル回転で絶好調

鳥人間スクルーたちも…コイツら、さらに大儲けを狙ってフル回転

…一つだけ気になるのは、夜が明ける頃から顕著になり始めたガブニードス…

といっても、人物ではなくタワーの話、件の「古ぼけた尖塔」が、

妙な挙動を見せ始めたこと

そして、活気に満ちた鉱山町へ不意に訪れる、奇怪な一人の妖女

まあ、ルボッツのグラニー婆さんほどキキいキャラではないけど

次回に続きます

 …………………………………………………


「ザネル」は毎週月・水・金に更新いたします


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