023 使徒様代理人
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チェニイのラッツーク到着、いや「ラッツークへの逃亡and潜伏」によって日々刻々と状況は変化し、騒動は大きくなっていくのですが…そしてその情報は騒動の発端であるニザーミア学府院にも刻々と届いているものの、彼を〈召喚〉した精霊導師たちには現在打つ手もなく、ただ見守るしかないのです。
まあ(当初はガストニーフ技師の提案だったそうですが)使徒の「影武者を立てる」計画が考案され、風精導師レオ・コーンボルブなる人物によって実行に移されようとしているのですが、重要なのはこの計画そもそも学府院の総意に基づいて策定されたものでも何でもない、ということです。
つか要するに「上のモノだけで勝手に、コソコソ画策した」秘密計画だということ。
さらにいえば…最初の〈使徒様召喚〉そのものが…デッチ上げ計画だったのですから!
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〈過ぎ越し大祭〉は、ノース・クオータ北辰大陸では閏八月に行われる最大の祭りであり、下世話な例えをすればニザーミア学府院にとって、最大の書入れ時でもあります。
教導格以上の資格を持つ精霊師たちは、それぞれの精霊を祀る北の同盟各都市、町に散って祭りを主催し莫大なお布施を頂戴することになります。下世話ついでに言えば、祭りこそニザーミア最大の資金源なのです。
…逆に、こんな重要な時期にわざわざ〈精霊導師〉つまり学府院の首脳陣が三人も寄り集まって〈使徒召喚〉の秘儀を執り行うなど、異例中の異例でもあったのです。
もっとも考えようによっては、この時期こそ「悪だくみ」をするには最適の時期だったともいえましょう。地水火風、各精霊局は決して一枚岩で意思統一されているわけではありません。主導権争いはどこの世界にもあります。
ことに水精局は…地精局に次ぐ有力部局であるにも関わらず、さる事情によって「次席精霊導師」つまりニザーミアのナンバーツーが空席のまま、という異例の状態が長年続いています。そして、やむを得ない事情により「教導」つまり水精局補佐であるシェノーラ精霊師が、いわば「反主流派」筆頭のうるさ型として、首脳部と対峙している…。
だから、彼女が過ぎ越し大祭の主催者として大都ジュレーンに出向していたこの時期こそ、実は格好のタイミングとも言えたのです。
で、その後始末の時がやって参りました…。
「本年もつつがなく、北辰最大の都市・ジュレーンで過ぎ越し大祭を整えられ、無事に大任を勤められたこと、まことに恐悦至極に存じます」
仰々しい挨拶で礼を尽くし、シェノーラ水精教導師を迎えたのは、ニザーミア四席火精導師…現時点では実質的には三席なのですが…トープランでした。いささか大仰に構えて礼を摂る様子が逆に慇懃無礼というか、露骨に彼女を煙たがってる内心を象徴しています。
「わざわざ丁重なるお迎え、かえって痛み入りますわ…四席様」
シェノーラ教導も、彼に負けず劣らず大袈裟な礼をもって返しました。わざわざトープランに向かって「四席様」と返し皮肉を効かせるあたり、サスガに壺は外さない老獪さも看て取れますが。
水精を祀る大都ジュレーンの〈過ぎ越し大祭〉に出席したシェノーラ水精教導師は「諸般の事情があって」参加できない次席精霊導師に次ぐ、実質的な次席の立場ではありますが、その「諸般の事情」の裏を知り尽くしているだけに、なるたけ首脳陣たちからは遠ざけておきたい存在でもあるのです。
「〈大祭〉での留守中にいろいろと難しい事態が起こったようですね。〈ジュレーン〉過ぎ越し大礼の任にあった私としては何のお力にもなれず、申し訳ない限りです。
けれどまあ…無事に事は落ち着かれたようで、まずは大慶の至りですわ」
会議室で久々に四人の精霊導師たちが座を囲み…正確にはシェノーラは水精導師代理である〈教導〉資格なのですが、なにせ次席水精導師は現在空席なのだから仕方ありません…まず最初にシェノーラはキツい口火を切って落としました。
「突如として…緊急事態が報告されましたので…出来得る限りの対処はしたのです」
先ほど正門で彼女を出迎えたトープラン〈四席〉導師が苦々しい口調で応えました。よほどバツが悪いのか下を向いたまま、視線をシェノーラに向けようともしません。
「とりあえず、詳細なコトの次第は、この場で改めてご報告を…」
トープランは改めて口を開きかけますが…。
「いいえ、一応の事情はすでに別筋から聞き及んでおりますので不要です。それに先日、ジュレーンではアナタにもお会いしましたわね…もっとも、公式な水精宮ではなく思わぬ場所でしたけど…その折にもいろいろと諸事情、とやらを」
シェノーラが「非公式の場で」偶然出くわした、というのは左脇に陣取っている恰幅のいい三席風精導師コーンボルブです。彼女の射るような視線から目を反らし、彼は座りが悪そうにして巨体を椅子から揺らします。
〈…ったく、コソコソ隠れてヘタな裏工作なんか企みやがってアホウが。本当に風精師連中は、よほど小汚い〈陰働き〉が好みなんだろう…いっそ風精師どもは雁首揃えて〈暗部〉に追放してしまえば、いっそせいせいするのに。けど何にせよ、こっちはお前らの手の内なんざ、とっくの昔にお見通しだ…〉
シェノーラの心中の呟きは、口に出さなくとも他の導師たちには分かっていました。
この場で啖呵を切って怒鳴ってやれれば、どんなにスッキリするだろうな。シェノーラは、ふとそんな光景を頭に浮かべると、つい唇には笑みが浮かんてしまいます。
「まあ、特異な事情は重々お察ししますけれど、やはり〈あんとらすと〉の方々と、必要以上に接触をするのはあまり望ましくありませんわね。下手をすると、納まりかけた事態を再び悪化することにもなりかねませんし」
「しかし…UNトラストから改めて〈使徒代理〉を立てないと、広まってしまった好ましからぬ風評は払拭できないのですよ、実際問題として」
つい、四席トープランは声を荒げてしまいました。
「けれど、その風評…とやらを消すために召喚した最初の〈使徒様〉…お名前はファルス様でしたっけ? 彼にはあっという間に破約され、こともあろうに逃げられてしまった、と仄聞しておりますが」
……
「それは本当に…まさか、あんな事態になるとは…UNトラストの失態ですアレは…呆れ果てた不手際としかいいようがありません」トープランは苦しげに弁明します。
「で、その失態の穴埋めを〈あんとらすと〉に責任を取らせるという形で、使徒代理もう一度召喚する、と? はてさて、次の〈使徒代理〉様、今度はキッチリとカタをつけてくださればいいのですけれど…ねえ」
下を向いたまま、細かく拳を震わせながらトープランは屈辱に耐えています。
そしてコーンボルブは(もう知らん、あとのコトはオレの責任じゃねえや)と言わんばかりに巨体をシェノーラから背けて、素知らぬ体を決め込んでいます。
ちなみにコーンボルブ風精導師はいわゆる〈秘密工作〉を企んでジュレーンに赴き、大祭に出席していたUNトラストの代理人と接触を試みた挙句、その工作現場を式典公使のシェノーラと鉢合わせし、現場を押さえられる、という大失態を犯していたのです。まあコトがコトだし、そんな失態を大都ジュレーンの大公市長にでも公に知られたら〈ニザーミア学府院〉の権威失墜どころでは済まなくなりますから。シェノーラにしても「貸しひとつ」で秘密にしておくより他はなかったのですが。
ただ、この場でガン首揃えた風精導師と火精導師…こいつらの情けない有様は、もはやシェノーラの視界には入っていませんでした。
彼女が凝視していたのは、真正面で拳を握り締め、最初から無表情で一言も発していない首席・地精導師のオービス、ただ一人です。
〈…それでアナタはそもそも今回の失態について、どうお考えなのですか?
それに、降って湧いた風評についてだって〉
正面に座る首席オービスを凝視しつつ、シェノーラは目線で語り掛けるのですが、相変わらずオービスのほうは正面を向いたまま、何の表情も見せません。
〈南陵大陸サウス・クオーターから、ついに悪の巨魁ゼイゴス大帝が攻め上ってくる! 紐帯半島を渡り〈神々の御座〉を越え、ガルミ・ポンド未開の地を踏み越えて…〉
相変わらず、シェノーラからの目線で、追及は続きます。
〈はっ! さらに同盟市、中つ国の赤十字回廊まで東へ、恐怖の大魔王(笑)が突如、ノース・クオータまでヅカヅカと攻め上ってくる、なんて…どこが火元のガセかしら…!
まあ、出所はおおよそ見当はつくけれど…そんな風評にアナタまで乗っかって、それで大失態まで犯したのに、なぜさらに騒ぎを大きくして、平然としていられるのかしら〉
…それとも…
再びシェノーラの胸の奥に、青白い炎が灯り始めるのを、彼女は感じていました。それは日和見のコーンボルブや、権力の虜トープランに対する怒りでも幻滅でもなく…。
彼女は思い出したくもない、凄惨な記憶をいま、彼女は蘇らせていました。
〈かつてアナタが次席水精導師ディボックス姐様をニザーミアから追放し、トライフォースの血脈を断ち切ったあの事件を…もしかして…今度は〈使徒様〉とかいう傀儡の存在を使って、再現しようとしているのではないでしょうね!〉
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さて、こんな陰謀渦巻くニザーミアで不毛な鳩首会議が続けられている間にも
長い夜はそろそろ開けて、東に暁光が昇り始めた頃、大騒ぎのラッツーク縦坑では
日常が戻り始めて参りました。〈スコップ英雄〉チェニイ様もフル回転で絶好調
鳥人間スクルーたちも…彼らもまた、さらなる大儲けを狙ってフル回転
…一つだけ不安な挙動を見せていたのは、夜が明ける頃から顕著になり始めた
〈ガブニードス〉…人物のほうではなく「ニザーミアに建つ古ぼけた尖塔」が、
妙な挙動を見せ始めたこと
そして、そんな活気に満ちた鉱山町へ不意に訪れる、奇怪な謎の女…
まあ「奇っ怪」といっても、ルボッツのグラニー婆さんほど尖がった
キャラではないのですけど
ちなみに今回から〈UNトラスト〉だの〈アナグラム法〉だの、妙な団体や
意味不明の法律(?)やら、「説明せい!」と怒られそうな
項目がぞろぞろ登場します。
…このへんは、いずれ用語辞典(開設予定)できっちり解説する予定です
…次回に続きます
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