22 チェニイの正体?
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好事魔多し、という立派な格言もあるのですが、おおよその場合
「予期せぬ悪いことが、いきなり起こってしまう」原因は、案外その
「好事」そのものにあったりします
ラッツークの町の場合もつまるところ、いきなり降って湧いたような
ミスリル鉱石のゴールドラッシュが、結果的には災難の引き金となって
しまう、ともいえるのですが…そうなるとチェニイ様自身が幸運の使者兼
疫病神の二刀流になるのでしょうか?
…
現時点では一見、そんな気もするけれど…コトはそんな単純な
お話でもないのです
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まあ、ガブニードス(ガストニーフ)という人物そもそもの風貌が、それ相応にウロンなのですが、それが苦虫を嚙みつぶしたような表情でいきなり人前に出現したら、余計にそんな印象を与えます。
…ただ彼のことを、なぜかラッツークを差配するヨールテ親方は、「ニザーミアから逃げてきた精霊見習の小僧を保護して、自分の許に(竪坑の鉱夫とか)そんな3K職場の補充要員として売っぱらう、一種の〈山椒大夫の異界版〉みたいな人物程度に考えてるし(その割にはあんまし裏事情を詮索しないで人買いするあたり、ヨールテもそれ相応にズルいと思えますが)一方、ニザーミアの精霊導師たちにすれば、古より引き継がれてきた古代機械をメンテナンスする便利屋工作技師…程度に考えています。
実情を申しますと、〈NUA公社〉と名乗る外注業者からニザーミア学府院へ、彼は派遣されているのですが…その実態は精霊師たちにも本当はよく分かっていないのです。少なくとも学府院の敷地突端に鎮座している奇怪な古代のタワーが支障なく〈精霊の源泉〉を供給してる限り…これまた必要以上に彼の正体を詮索する必要も感じていません。
余談ながら、彼の通り名が〈ガストニーフ技師〉で、タワーの名称も〈ガブニードスの塔〉(紛らわしくてスイマセン)という一致だって「単なる偶然」として、学府院の精霊師からスルーされているというのも、改めて考えたら奇妙ですけど。
「ガブやん、そない文句つけられたかて困るわ…ワシが鳥人間のコンボイをわざわざ、こっちゃに呼び寄せたワケやないき」
ヨールテ親方まで苦虫を噛みつぶしたような表情になりました。
…あ、どうでもいいけど「苦虫」って、どんなムシなんでしょうね? 噛み潰すとすっげー嫌な味がするんだから(うげー!)…カメムシの親戚みたいな昆虫かな?…
(閑話休題)
「文句垂れとるワケやない。けどな、常日頃は寂れとった露天掘りの縦坑町が、いきなりニワカ景気でミスリルをガンガン掘り始めてみい。あっちゃこっちゃから話題んなって、今日みたくスクルー鳥どもまで大凧飛ばして来よったやろ」
ガブニードスは、ヨールテ親方を前にすると、途端に口調がぞんざいになります。
「そいで何ぞ困るんか?」
「しゃあから…アイツら風精使いやろ、ウワサなんぞ、あっ!ちゅう間に北辰全土に広まってまうで。精霊師どもも、えらい御カンムリや」
「だ・か・ら! そいで何が困るん? はっきし言うてみい!」
だんだん、ヨールテ親方の口調も喧嘩腰になり始めます。
「しゃあから!…こんママ放ってコイたら、市場カカクちゅうんも、大暴落しかねんし…何もせんやったら…ニザーミアとオイドンの立場も皆目丸潰れンなかっぺし…」
だんだん、ガブやんの言葉遣いも妙なものに変って参りました。
改めて聞くけどオマエ、出身のクニはどこだ? とツッコミを入れたくなります。
「やったら、景気外れのミスリル鉱石がイキナリ枯れヤマから吹き出しよったんが、そもそもの元凶やないかい! 誰や最初に、そんな真似しよったんは?」
突然ここで二人は顔をフイ、と見合わせてチェニイの方に向き直りました。
あ! 汚ったねーコイツら、オレに責任をなすりつける気マンマンでやんの! チェニイは変わってしまった風向きに狼狽しました。
「お、おい…ちょっと待って!」
けれどその直後に(さすがにコレは大人げないな、と気づいたのか)ふぅ…と二人同時に溜息をつきました。
「ま、ここで言い合いをしとってもラチ開かんし…のう」
「ほいたらワシも、ニザーミアのウルサ方から目を逸らす方法、塩梅してみるわ」
「じゃ、またな…ワシもしばらく姫ちゃんの容態、見たらなあかんし」
ヨールテ親方は、ミリアの小屋に踵を返して歩き出しました。
「え? ナニ? ミリア姫さんにさっき、何ぞあったんか?」
驚いてガブニードスが聞き返しました。
「あ。ああ…まあええわ。そのへんの事情は、そっちの英雄サンに詳しゅう聞いたって」
面倒な役割はチェニイ様に押し付けて、足早に親方は小屋に入ってしまいました。
…
時計小屋の真正面、二人は岬から夜の空を眺めながら…本当に、何時になっても夜は明けて来ません…チェニイは〈ミリア姫様、ライブでハッスル(死語)ご乱心の巻〉の詳細を、ガブニードスに語りました。柔らかく掻い摘んで話したって仕方ないから、詳細に細大漏らさず、見たママを正確に。
黙って聞き終えると、ガストニーフは
「そうでしたか…」
とだけ呟いて、しばらく何も語りませんでした。
先ほどのヨールテ親方との喧々諤々の会話を聞かされていただけに、チェニイは自分にも罵声が飛んでくるか、と身構えたのですが結局、彼はチェニイに文句ひとつ言うでもなく、じっと考え続けています。
「やっぱし、オレが何か…ヘタ打ったんだろうな、モロモロの面で」
沈黙に耐えられなくなって、チェニイから口を開きます。
「ご自分で、なにか〈失敗したあ!〉とか、お考えなのですか?」
ふい、とガストニーフがチェニイに顔を向けると、彼の表情は…決して厳しいものではありませんでした。むしろ…この世界に飛ばされて初めて見る柔和な顔で、チェニイに笑顔さえ見せています。
「ミリアさんのことをお話ししましょうか」
不意に、ガストニーフは切り出しました。
「彼女を、このラッツークへお連れしたのも、このワタシなのですよ。実は2年ほど前のことなのですけどね」
ニザーミアの人さらい、なんて人聞きの悪い噂も聞かされてたけれど…最初は彼女も、ニザーミア学府院に在籍していたのか。おそらくさっきの大立ち回りから推測すると、水精師見習いだったミリアは、不祥事でもしでかしてニザーミアから放逐されたんだろう〈酒の上での不始末かな? さっきの大立ち回りを見たら容易に想像できるけど〉チェニイは心の中で呟きました。
「いえいえ、見習いどころではありませんよ。ミリアさんは大都ジュレーンのお姫様。正しくはジュレーン水精宮の斎宮様に就かれるべきお方だったんです」
〈…だからラッツークの鉱夫連中も、彼女を「姫ちゃん」と呼んでいたのか。
けどそんな由緒正しき血筋のミリアが、なぜまた…?〉
「事の推移は私も詳しくは分かりません…すべては三人の精霊導師たちと…〈UNトラスト〉の賢者どもが結託したことだと思いますけど…その…二年前の今頃、ちょうどジュレーン水精宮の〈過ぎ越し大祭〉の直前に、最初の斎宮の〈験し〉に籠る…つまり一時的に里帰りされるその直前になって、ミリアさんは〈精霊を喪失〉したのですよ」
〈…どういうことだ?…〉
「わかりやすく言えば、身体から〈精霊〉が脱落して、ただの少女になってしまった、ということですね。水精と火精を併せ持つ、稀有なデュアルフォースだったのですがね、ミリアさんは…」
…妙なフシギちゃん、としか思わなかった彼女は、そんな過去を抱えていたのか?
「あの折にも、首席導師オービス師から秘かに依頼されて私は彼女をニザーミアから、このラッツークに逃がし、ヨールテに託すことにしました」
〈…よくもまあ、そんなVIP少女…サイグウ…斎宮さま、か。しかもジュレーン…って、なんか以前に聞いたことあるけど、この大陸で1・2を争う町、いや大都市だそうじゃないか。そんな名門の姫様が学府院から失踪したりしたら大事件に…〉
「デキレースなんですよ、最初・か・ら!」
ガブニードスはふふふ、と微笑みました。
〈…けど、そんな高貴な姫様がオマエみたいな怪しい※※※に従ってここまで逃れてきたもんだな…あ、いやいや〉
チェニイの心の呟きは、ガブニードスには筒抜けになっていました。
「怪しいオヤヂに素直に従うのか? と仰せなら、他ならぬチェニイ様だって、私について、此処へ逃げて来たではないですか」
〈…あ…〉
「そう、ミリアさんもチェニイ様と同じく…記憶を失ったのと精霊を喪失したという違いはありますけれど…よんどころない事情を抱えて、ここへ緊急避難されたのですな」
正直、チェニイには何が何だか…事情が頭の中で整理できず、ひたすら沈黙するしかありませんでした。彼の困惑を横目で眺めながら、ガブニードスは一つ、仮説を出しました…あまりチェニイの混乱の助けにはならなかったけれど…。
「先ほどミリアさんが…たぶん意識せずに突然、水精を復活させ暴走してしまったのも…チェニイ様が一つの解除キーになったのではないでしょうか?」
…… ??
「それに〈スコップ英雄様〉によるミスリル鉱露頭発見と、一連の鉱山バブル騒動も、ねえ。たぶんご自身の変調も、既に自覚してらっしゃるのではありませんか?」
最初に、竪坑に降りたときに〈妙な熱い感触〉露頭の地脈が脳裏にいきなり飛び込んできた、あの違和感。それに…ルボッツのエディカと一度縦坑に潜ったときに、壁面から浮かび上がってきた虹彩と視覚を刺激する煌めき…それに…。
それが時を追って、急激に強くなっているのもチェニイは感じていました。
〈そのうえ…どうなってるんだ、オレの右掌…〉
「ちょっと右掌を水平に持ち上げて…そのまま大きく拡げて頂けますか?」
ガブニードスに命じられるまま…チェニイが掌を凝視すると、そこに奇怪な煌めくヘキサグラム文様が、ぼうっ…っと浮かび上がってきます。
「ほうらね…ご自分でもおそらく意識せぬまま、この掌でミリア様と〈コンタクト〉されたのだと思いますよ、先ほどのテントの中、とかで」
〈ホラ見てこれチェニイ、モノホンの純正テクタイト製ネックレス! 虹彩がイミテーションとはと全然違うっしょ。モノが〉
…
〈そんなことより、チェニイ見てよこのテクタイト・クリスタ! なんか魅入ってると、どんどん輝きがキレイに変わり始めてて…あれ、あれあれ…?〉
…
「思い当たるフシが、おありですね」
〈そうか、あのニザーミアの講堂で無理やり掌に埋め込まれた、アイツ…正六面体の宝玉か。アレ、いつの間にかどこかへ消えたと思って忘れてたんだけど、こんなトコロに隠れてやがった! こんチクショウ!〉
「痛いか痒いかわかんないけど、こんな妙な宝玉、今すぐ鏨で抉り取ってやる!!」
チェニイはなぜか、ふつふつ湧きあがる怒りに任せて口走りました。
けれどガブニードスは慌てもず、沈着冷静そのものでした。
「切り取るのは比較的カンタンだと思いますが、お勧めできませんよ。そもそも、キューブはもはや脳幹と結節されて、同化も既に完了しておりますから…強制的に接続解除すると、生命まで吹き消されます…」
〈チクショウ、なんつう恐ろしいことを平気で口走るんだ、このオヤヂは!〉
さめやらぬチェニイの激しい怒りに反応して、心臓の動悸も激しくなってきました。
〈ヤバい! 自分の命をズタズタに痛めつける感覚が全身に伝わり、イメージが共有されてる。毒が五臓六腑を逆流する感覚だ〉
…その間、実時間では、ほんの数分の出来事でしたが、チェニイには数時間と思えるほど長い苦痛に苛まれ、そして彼自身の「自我」は…このキューブに「意志」があるとすれば…それに抗い続け、最終的には自分が降参するしかありませんでした。
その間ガブニードスは…冷酷なようですが、力を貸してやる術は何もないので…じっと見守るより、ほかありませんでした。
はあ、はあ…と荒く息を継ぎ、やがて平静に戻った後、チェニイは一つの言葉をふと思い出しました。
「なあ…ガブニードス、いやガストニーフ、だったか。おまえなあ…」
「何でしょう?」
「〈アーシャン〉ってコトバ、聞いたことがあるか?」
しばらく、ガブニードスは返答しませんでした。
「誰がそんなこと口にしたんですか? そんな妙な言葉」
「誰でもいいだろ。ともかくあるとき聞かされたんだよ。もしかしたら、チェニイ様はサネルの5種族のどれでもなく〈アーシャン〉の仲間じゃないのか? って」
…
「…ラッツークに住み着いてる〈ルボッツ〉の誰かから吹き込まれたんですね…」
「誰でもいいだろ? それでどうなんだ? 〈使徒様〉の正体は〈アーシャン〉なのか? 俺にはまったくイミフな暗号だけど、それは事実なのか?」
「事実か? と仰られても、どうお答えすればいいのか…なにせ今のチェニイ様は、そもそも記憶をなくされてますから、シトだのアーシャンだのと意味も分からない固有名詞をこねくり回したところで納得されるとも思えませんが」
「それ全然、返答になってねえぞ」
けれど、そう言われてしまうと…確かに何やらはぐらかされてるようですが…チェニイの質問そのものが意味なし、というのも道理なのです。
〈アナタの正体は【シト】です〉→YES/NO
〈あなたの正体は【アーシャン】です〉→YES/NO
どちらを選びますか?
「この場合、どちらを選択しても一緒ですね、質問そのものに言語失調しているのが、今のチェニイ様なのですから、結局その先に待っているのは
『で、それが何?』の堂々巡りでしかないのです」
ガブニードスは、チェニイに説いて聞かせます。一種の循環論法ですが、彼を煙に撒くには十分な説得力でした。ちなみに心理学的に考察すると、チェニイの混乱も一種の「ゲシュタルト崩壊」現象と言うのでしょうか…ちょっと違いますか?
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これもまた意味のない設問なのですが、
仮に知らないうち、自分が心臓ペースメーカー手術を施されてて
手術台の上で目が覚めたら…そこは〈ニザーミア〉という学府院だった…
これがチェニイのデフォルトに近いのかもしれません
目覚めた場所が病院だったなら、そしてその結果、健康体を取り戻した
という結果だったなら…「それはそれでラッキー♪」で済みますが
逆にある日いきなり〈悪の秘密結社〉などに拉致されて、
気づけばサイボーグ手術を施され、目覚めたというデフォルトだったら?
…もっともその結果、悪を倒す正義のヒーローに生まれ変っていれば、
人によっては「それもそれでラッキー♪」で済むかもしれません
…ただ生憎どちらも、それはチェニイが望んでいたものではなかったのです…
川※康※先生曰く…神仏ならぬ人間は「正義」には決してなれないので、
せめてもの救いとして正義の「味方」になるのだそうですが…チェニイの場合、
そんな大それた夢や希望なんか、最初から持ち合わせていません
(ちなみに川※康※先生の語録そのものが実はウソッコ! という説もあります)
次回に続きます
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