21 若きチェニイ様の悩み?
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ノース・クォータ〈古の〉ラッツーク縦坑町がニザーミア学府院の直轄に
なったのは、別にこの町に大いなる経済的価値を認めたからではありません。
もとを質せば、ニザーミア学府院そのものが大昔、このラッツークの町の
延長だったから…つまり両者は、最初から一体だっただけのことです…。
さらににいえば、ラッツークの中心に開いている〈縦坑〉、ミスリル掘削のために
わざわざ露天掘りの穴をあけたわけではないのです
このあたりの経緯はいずれお話しする…ことになるでしょうが、
いずれにせよ、あまり愉快で楽しいエピソードにはなりそうにないですね。
ともあれ、もう少し舞台はこの町で続きます
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「♪ワぁシら代々山育ち
錫杖担いで 山歩き
オメエの錫杖が 充当るかヨ(嘲笑)!?
あーんれ充当った お宝湧いた
(おっ魂消たなぁこりゃ)♪
(ワシら、億万長者じゃ)
(もぉオ、鉱山〈ヤマ〉なんぞにゃ居られねぇ)
それイケぇ~~~♪♪♪
※ゃじ※馬億万長者っ♪」
――JASRAC申請はしておりません
相当にド外れたメロディですが、久々に昔の懐かしい歌を思い出したジェドの親父は、窓際で独り、口ずさんでいました。
「思へば 遠くへ 来たぁもんだ~」
がっしゃん! どかどか…小屋の奥からダミ声が響いてきました。
「止めんかバカタレ! ド下手な唄なぁ唸ってねえで、さっさと片付けせんか!」
これはグラニーお婆ちゃんの怒声です。
…
「おっ母さんにケツ叩かれんでも、大方の荷物は梱包を済ませとるわい! けど何もこんな、エエ露頭をブチ当て好景気なのに、ここへ来てトンヅラする必要もなかろうが」
「だーらオメは鼻効かずのウスノロち呼ばれよるんじゃ! ハイエナ鳥人間どもまで寄り付いて来よったら、そろそろ危ネえんじゃ。ホレ…よう見てみぃアッコを…」
「ああ…スクルーどものテント凧が、よっけ泊まりよるなぁ」
一家の掘っ立て小屋からも、地平から幾つものロープで係留された巨大凧が見えます。その真下にはグボ羊の群れと、臨時設営されたバザールの無数の灯り…今もその下では、派手に商売が繰り広げられているのでしょう。
「アホタレ! 見るンはそっちじゃねえ!」
グラニー婆様は、息子ジェドの首筋を掴んでグイ! とニザーミアの岬へ向けました。
「いてててて…何すんじゃおっ母さん」
「ガブニードスの塔が、そろそろ妖しけに光り出しちゅうのが見えねんか?」
言われてみると…確かに、手前にあるラッツークのバザールが放つ、煌びやかな灯火にかき消されてほとんど目立ちませんが、不気味に沈黙するタワーの頂上付近から、妙なオーロラ状の揺らめきが立ち昇っています。
「大昔の言い伝え通りなら、ありゃあ…カイン・マートの前兆でな…ヘタに長居しとったら、ワシらまで巻き添え食らうど。稼げるだけ稼いだら、さっさとケツに帆掛けて…」
「わあ、よーやっと待ちに待ってた、花の都のジュレーン行きやねぇ!」
喜んでベッドから跳ね起きたのは、さっきまでバザールで掘り出し物を買い漁り、今しがた小屋に凱旋してきたエディカです。
「アホタレ! そんな物騒な町なんぞ向かってどーする? しばらくは、西北のガラン山脈にでも身を寄せて…」
と、グラニーが叱責すると…
「え~~~!? そんな辺境行きなんぞ、絶対イヤやわぁー」
エディカは大声で抗議のブーイングを上げました。
「せっかく儲けたんに、なんでまた山なんぞ戻らにゃイカンのじゃ、おっ母さん」
父と娘の二人して大ブーイングの嵐です。
グラニーは首を振りながら打つ手なし…と溜息をつきます。
「親子揃って救いようないき。後はココに真正アホの子ジェスロまで加わったら、ホンマにワシらは、アホのルツボの団体さんじゃな」
一方、フードコート兼宴会場の大テントで、ド派手にハプニング・ライブをぶちかまし、そのまま自爆したミリア姫を担ぎ、ヨールテ親方とチェニイはそそくさと大テントを後にしてラッツーク坑道から崖を下り、時計小屋の近くのミリアの宿舎へ運び込みました。
実際問題、ミリアの大立ち回りでスクルーたちは(それにグード族の鉱夫たちも)興奮冷めやらず、酔っ払ってぶっ倒れたミリアを取り囲んでアンコールの嵐…何とか人垣をかき分けたチェニイは酔っ払い娘を回収するだけで大仕事だったのです。
「みんなアリガトォ~~! 愉しんでくれトゥワアア? むにゃむにゃ…スコォ~~」
ベッドの上のミリアは白河夜船…最高の夢を見ている最中でしょう。
「まさかこんなに酒癖が悪いとは思わなかったな…」
一息ついたチェニイは、額をぬぐいながら呟きました。
「それだけやないんじゃ、今日の一件は…」
ヨールテ親方は、ミリアの大活躍(?)を笑い飛ばすでもなく、苦笑するでもなく、むしろ憂鬱な表情を浮かべつつ呟きました。
「…なんか…それほどの…大事でもあったのか? 」
大宴会は大騒ぎだったけど、それほどヤバかったのか? チェニイは先ほどの事を思い出して、逆に不安になってきました。
「チェニイ英雄様…アンタ、ミリアがなんで〈姫ちゃん〉て皆に呼ばれとるか…おせえてもろたことはないやろ?」
そういえば…ミリアの単なるラッツークでの愛称、くらいに思っていたな。
そのとき、後ろの方で物音がして…振り向けばガブニードスが、やはり暗い顔をして突っ立っていました。
「…なんだ、声もかけないで…ガブニードス、ニザーミアから戻ってきたのか?」
「はい。たった今しがた」
不機嫌ヅラのオヤヂコンビが勢揃い、といった雰囲気です。
「何かニザーミアで問題でも起きたか? ま、アソコはいつも問題だらけのようだが」
チェニイも何とか雰囲気を和ませようと、軽い口調で声をかけますが…。
「いや、まあ…あちらの状況的でナニが変った、というわけではないのですが…それはそうとラッツークのほうは、いろいろ状況が変化したようですね」
「ああ、トリ人間どものコンボイも早速、商売しに来よったけん、なあ」
「まあ、時間を空ければ空けるほど、ノース・クオータ中にいろいろと事態が知れ渡るのは仕方がないといえば、仕方がないのですが…たしかに望ましくは…ない」
さて、こんな不機嫌ヅラのガストニーフを前に、さらに〈ミリア姫狂乱のライブ大騒動〉の顛末まで伝えていいものやら…今度は親方とチェニイの二人が、頭を悩ませることになります。
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こうして、不機嫌オヤヂのコンビ・プラス脱走少年(その正体は使徒サマ)という
トリオが額を付き合わせて鳩首会議、という図式となって参りました。
(お騒がせ姫…は能天気にも熟睡中)
一見・好景気に沸くラッツークながら、実体は悩みの種ばっかし増えて…!
実はガストニーフ(ニザーミアでの仮名・本名はガブニードス)は
先ほど、ニザーミアに大都ジュレーンの〈過ぎ越し大祭〉から帰還してきた、
うるさ型の姐様から詰問され、閉口していたのです
(使徒召喚を企んだのは、彼の責任じゃないのですが!)
…登場人物が増えると、厄介ごとも増える! 異界の法則を地で行く展開と
なって参りました…とりあえず、能天気でいい夢を見ていられるのは、
今のところミリア姫だけのようです
次回に続きます
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