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2 お約束の接近遭遇&衝突

 ………………………………………………………………………………

三人の偉そーな僧侶たちに召喚され、

使徒…と勝手に呼ばれたチェニイ・ファルス様

召喚された理由…「魔王ゼイゴス大帝」とかいう悪の親玉を

倒すとかいう使命を、「なんで?」と彼は軽く蹴飛ばします

そのうえ…呼ばれた自分の名前がなぜか気に入らなかったらしく、怒り狂った挙句に

渡された秘宝六面体キューブを暴走させてしまいました。

 ………………………………………………………………………………


 モノの勢いで、その場は阿鼻叫喚の大混乱!

…といっても、ここで舞台は大爆発、関係者一同は即爆死…してしまうと、ここでこの物語は終了してしまいます。幸い関係者は絶命…したわけではなさそうだけど、少なくとも気絶はしているようで、三人はピクリとも動きません。

 こういう場合、できることといえば「逃げの一手」それしかない!


「ファルス」と呼ばれた使徒様はワケも分からず、ここがどこかも分からぬまま、呼び出された大講堂から逃走を試みます。幸い「召喚」されたこの体、走ることだけはできそうだし。

 どこをを向いて走っているかも不明。そもそも、召喚された場所の情報なんて何もないし。なので、やみくもに走った何層にも続く薄暗い回廊を突っ走って、先に薄明かりが見えたときには思わず安心して…おそらく外界への出口だよな、と確信して…駆け足で飛び込んだ…次の瞬間、


ズガン!ドッカン!グワッシャン!バッタン! 


 絵に描いたような大激突! お約束とはいえ、火が飛び出し前頭部に強烈な痛みが走り、彼は回廊の床へと派手にダイブし、全身を激しく叩きつけられて世界は暗転! 要するに、廊下でいきなり横から飛び出してきた誰かに出合い頭の激突をカマされたのです。本当に、よくある展開だ。

 しかし、これを不注意というのは酷でしょう。彼にすれば状況が全く分らず、パニックになってたのですから。


 激痛と同時に吹っ飛んだ意識が回復するまで、実は大して時間を要しませんでした。

「ファルス様! 

 申し訳ございませんチェニイ・ファルス様!

 大丈夫でございますかチェニイ・ファルス様!」


 甲高い男の声が耳元でガンガンと響き渡り、意識を失いかけていたチェニイに、怒りのアドレナリンがズン、と大量に注入されたのでしょう。

「大丈夫なワケあるか! どこ見て歩いてやがんだテメエはっ!」

 まず一番に罵声が口を突いて出た後、痛む頭を抱えつつ恐る恐る開いた目に飛び込んできたのは、なんとも妙な格好をした男…若いような年配のような、ガタイはそれなりに良いものの、それ以外どこといって特徴がなさそうな僧服(?)をまとった男が、彼を心配そうに眺めている姿でした。

「ももも、申し訳ございませんっ! 大変な粗相を…若干ワタクシ焦っておりまして。わたくし…ガブニードス、ガブニードスでございます! お助けに参りました!」

「ど…うでもいいけど、オレを妙な名前で呼ぶな! クソッタレ気分が悪いし…頭に響く。第一…なんとかニードスだか知らねえが…って、そもそもお前なんか知らねえぞ…テメエ何者だよ?……それにオレを…助けに来たって?…どういうことだ、最初から全部まとめて順番に説明してみろコラ!!」


 出会い頭の激突も手伝って、混乱でバラバラになっていたチェニイ「使徒様」の思考回路も徐々に整理されてきたようです。

 要するに、大講堂…と精霊導師たちが呼んでいたホールから外へ通じている…と思わしき回廊を突っ走り、横合いから飛び出してきた何者かと出合い頭に激突した。

 考えてみれば大講堂で「召喚の儀式」とやらを受けて、この異界に飛び込んでから…というより強制的に連れ込まれてから、ほんの小半時も経過していないのです。魔法使いたちが「ノース・クオータ」とか呼んでいたこの異世界に、そもそも知り合いだの顔見知りなんか存在するはずありません。なので「おまえは誰だ」という定番の問いかけを相手にぶつけたって無駄ムダなのです。

 なにせ召喚騒ぎと、それに続く大混乱を引き起こした挙句、第三者が横合いから飛び出してきたのだって、単なる成り行きだし、彼自身にさえ、自分が何をどうしたらこんな騒動に発展するのかさえ、ちゃんと説明できないのですから。


 そんな彼の怒りなんか素知らぬ様子で、この激突男は軽く受け流しました。

「残念ながらお時間がございません! 問答は無用です、お判りでしょう? ここを脱出するのが先決! 私が安全な場所へご案内いたしますから、ともかくこの場はお任せください。ささ、ご一緒にファルス様…あ…?」

 相手の表情に、再びの怒りオーラを肌で感じたガブニードスと名乗った男は口ごもりました。何が気に障ったのでしょう? という表情で。

「たたた…たびたびの粗相は申し訳ありませんが…ええと…では、あなた様を、何とお呼びすればよろしいのか…」

「…だったらええと、ちぇ…チェニイでいい!

(だって自分のナマエ、本当に知らないんだし、ファルスとかいう不快な命名よりマシだ)

んで…案内するならさっさとしろ。時間がないんだろ!?」

 確かにチェニイには、選択の余地はありませんでした。この、かなりうさん臭い僧侶(なのかな?)の言葉を信じて…仮にも信じたフリでもして…この寺院らしき伽藍を脱出する以外には。


 ガブニードスの手を借りて、やおら立ち上がったチェニイでしたが、再び次の瞬間、壁を見つめて再び固まってしまいました。

 回廊に面して、巨大な姿見鏡がハマっていて。

…なんなんだ、コイツらは…

 チェニイには、自分の目に映るものの正体が、しばらく理解できず凍り付いてたのです。

 二人の人物が映り込んでいる。ひとりは、僧服を纏った、かなりガタイの良い男。年齢は不詳。若いのか年配なのか…ただ相当に胡散臭そうなツラしているうえ、何か不思議な器具を下半身に装着している。

 見る者が見ればそれは、両足に装着された歩行補助具ペディピュレータだと理解できたでしょうが、この時点でそんな予備知識なんかない。。

…問題は、その横でこちらを睨みつけている少年でした…。


 年のころは10代前半か。白衣…というか、質素な貫頭衣をまとった姿。ちょっと耳が長く、ダークブラウンと紫の斑に染まった前髪が微妙な形でカールしているけれど、顔立ちはそれなりに整っている。深いブルーの瞳。ま、そこそこイケメンの部類か。しかしまあ、かなりクソ生意気そうに「オレに向かってメンチ切ってやがる」

 こちらを見る目つきが気に入らないのはともかく、何より…。

「コイツ………誰だよ」

 チェニイにはその人物が、鏡の手前にいる自分自身だとは、どうにも理解できなかったのです。理屈ではなく感覚として。


 この感覚を「離人感」と呼ぶべきなのでしょうか。

 チェニイは凍り付いたまま、何度も同じ呟きを脳裏でリフレインさせていました。

 ここにオレがいる…ここで立っているオレはこの世界に存在してる…だけどオレを見ているこのオレは、ここのオレではない…だけどこの世界にオレはいる…以下(ry


 遠くから誰かが叫んでいるのに気づくまでに、今度はそうとう時間を要しました。

 もちろんその叫びは、必死になって「使徒様チェニイ様」と肩を揺さぶりながら…それもかなり乱暴に…現実へ引き戻そうとするガブニードスから発せられたものでした。

「お気を確かに! 時間がありません! 早くこの場を立ち去らないと…チェニイ様!」


 実際問題、チェニイが「この世界…かなり奇妙な異界」に、自分が「少年の姿」を借りて「召喚されてきた」事実を正しく理解するまでに、この先まだ相当な時間を要するのです。いえ実のところ、理解はするものの最後の最後まで、彼はそれを認めはしないのですが、それはまた別の話。


 かなり手荒にド突かれて何とか正気は取り戻したチェニイ(少年?)は、ガブニードスに手を引かれながら無理やり、先へ続く回廊を引き回され、ようやく伽藍の外へ通じる玄関へと辿り着きました。

 離人感さめやらぬまま、呆けた表情のまま、チェニイはふと妙なことを思いつき、口の端から…なぜかこの緊迫した場にまるでそぐわない…ヘラヘラ笑いがこぼれるのを止められませんでした。

 何だな…これで冒頭激突イベントの相手が、こんな珍妙な僧服野郎じゃなく、口にトーストとか銜えて走ってきた美少女だったら、お約束の素敵な出会いフラッグが立ったかもしれないけど…ザンネン!

 まあ…出会いフラグ立てるまでもなく、コイツとはこの場限りの関係で終わってもらうほうがアリガタイけどな。

 いやいや、いっそのこと…いまこの瞬間に

「あっ! と叫んで跳ね起きたら目が覚めた。あーよかった、いままでのクソ最悪な出来事は全部夢だったのか…」

 余りにアリガチなしょーもない夢オチだけど…今の状況よりマシだ。


 しかし目の前の現実の方は、そんなチェニイの呑気な妄想を許してくれませんでした。

 たどり着いた玄関に広げられていた光景は、けっこうヤバい代物だったからです。


 ………………………………………………………………………………

チェニイの呑気な妄想に従うと「ザネル」は二回目にして

またまた打ち止めとなってしまいます――ならないけど…

ちなみに、「この場限り」とチェニイ君が希望していた二人の関係はこの先ずっと、

珍妙な腐れ縁と化すのですが

それは別として、彼の期待してた「運命のヒト」との出会いの方も、近々起こります

まあ…こちらの方もチェニイが「期待してたような」ステキな関係には発展しませんが

 ………………………………………………………………………………


「ザネル」は当分、毎日更新いたします


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