19 ダーク・バタフライ
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〈バタフライ・イフェクト〉といえば『風が吹けば桶屋が倒産…』的な表現がピンとくるかもしれませんね
…発端は〈ニザーミア学府院〉というノース・クオータ(北辰大陸)の指導者組織が、かなり姑息な手段を弄して、ドサクサに紛れ〈使徒様〉なんて存在を異界へ召喚したがケチのつき初め。何の手違いからか頼みの綱がいきなり怒ってブチ切れ、その場からトンヅラされてしまった時点で、段取りが狂い始めます。
で、その段取りの掛け違いは大きくなって、誤解は誤解を生んで…とんとん拍子に「最初はこんなハズじゃなかったのに…」地すべり的展開に至るワケです。
当初サウス・クオータに君臨する〈悪の帝王〉ゼイゴスが、ついに北大陸に向けて侵攻を開始した! これを阻止すべく〈使徒様〉が立ち上がったという筋書きはメッキが剝がれて雲散霧消してしまい、これを誤魔化すために、学府院の首脳陣=三人の精霊導師たちは四苦八苦することになります。
一方、この〈元使徒にして逃亡者〉チェニイ様の方は、俗にいう〈灯台デモクラシー〉の例にもれず、召喚された近隣の寂れた鉱山町ラッツークに潜伏中。この町で鉱夫として働かされると(あっという間に)奇妙な才能を発揮し〈スコップ英雄〉に祭り上げられます。
ザネル世界では〈お宝〉の真銀ミスリルをザクザク掘り当て、ラッツークは時ならぬゴールドラッシュ、近隣からは景気を聞きつけた鳥人間スクルー族のコンボイまで集まって参りました! なんかもう舞台は「盆と正月が同時に到来して」ワケ分からん状態に陥り始めて参りましたが…
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既にラッツーク周辺の外町には、真夜中にもかかわらず時ならぬバザールが設営されています。総勢およそ50名足らずで移動してきたスクルー・ハーピナ族ですが(ついでに言うと、引き連れてきたグボ羊は鳥人間の5倍近くいます)、彼らは家畜を卸すだけでなく、交易商品も移動する各地から多数仕入れ取り揃えて商いますから、常日頃は貧しく…とまでは言わないけど決して「裕福とはいいがたい」ラッツークの住人鉱夫の御一同(主としてグード・ゴブリン族)にすれば降って湧いた大散財のチャンスでもありました。で、あっという間にラッツーク外町は、時ならぬバザール景気に沸き立つことになります。
「おお~~!! こん兄さんがウワサの〈スコップ英雄〉さまでがんスか。くいは凛々しいお顔しょであんすな…やば腕ンだつショッコ様はどっが違うなっし※1」
「え? いや…そんなコトは、って…ところでアンタ、何語をしゃべってん?」
数十人は一気に詰め込めるようなメイン会場の大テントにチェニイは、足を踏み入れた途端にいきなり歓声に包まれて、グード族の職工たちに加え、スクルーの鳥人間たちにも取り囲まれてしまいました。
「ぐいは福んガミ様の降臨つうべか。ラッツウグん村も、ダイソげな人材さめっげてもづて、こいは御山の征ぐ先も安泰だべ! へたばもっちゃげらるっと、ちくとおしょすかぁ、あははは※2」
「あ、いや…まあ…はあ…」
スクルー若者がお追従を大声で叫ぶと、周囲がど! っとはやし立てるのですが、いかんせん彼らの言葉は、半分も理解できないのです。コイツら、いったい何処の世界の言語を話してるんだ? チェニイは仕方ないので、曖昧に愛想笑いを浮かべて応えるしかありません。
「へばぁ、こんまい英雄サマにまずは駆けづけ三杯! ぐぐッとやっしゃ、ねやぁ※3」
「え? あの、だからなにナニ?」
脇に寄ってきた若者が、大きな器一杯に飲み物を注いでぐい! と差し出しました。
一応スクルー族たちのコトバを翻訳しときますが…
※1
「おお! こちらの兄さまが噂の〈スコップ英雄〉様ですか、これはまた凛々しいお顔立ちをしてらっしゃいますな。やはり腕の立つお方はどこか違いますねえ」
※2
「これは福の神様の降臨、というべきでしょうか。ラッツークの村(※ハーピイには〈都市〉という概念はありません)も、たいした人材を見つけだされたものだ、これで鉱山の行く末も安泰ですね! なんて、そんなに持ち上げられると少し照れてしまわれますか? あはははは」
※3
「では、小さな英雄様にまずは駆けつけ三杯! ぐぐっと行きましょう、ねえ」
…
ここから先は面倒なので注釈を省略します! 以後の会話は適当なニュアンスで解釈してください。
「コンつけたもっこしゃったら、英雄サマん困ったれるしょ! 無茶ブリゃすっでねぞ」
若者の横から、恰幅のいい女将さんのような女性が笑いながら止めに入りました…って、恰幅のいい鳥人間、ってのも考えてみたら妙な表現ですね。
「へがぁ? 英雄サマもこんまいすけ、酒ぁちくと早がったけ?」
「あ、いや…せっかくだから一杯頂きます!」
チェニイはもう、いちいち応えるのが面倒になったので器を受け取ると、そのまま一気にグイ、と飲み干しました。
おお~~、と周囲から歓声が上がります。
が、その直後にゴホ、ゴホゴホ、ぐは! とチェニイはむせ返り、今度は一転、周囲から大笑いが巻き起こりました。
なんだこの酒!? まるで〈噴火山のジュース〉だ。どんな材料を仕込んでるんだ?
「あー、こんまい英雄サマにはちくときつかったべか?」
「こ…この酒って…」
「グボ酒だすけ。もっこし強えけ、ちびっとちびりナンドしてけれてばさ」
〈グボ酒〉ってことは、羊の乳から蒸留した酒か。ムチャクチャ強烈なので一瞬、喉が焼かれたかと思ったけど…あれ…少ししたら仄かに甘くていい香りが鼻の奥から漂ってきて、これはこれで案外悪くない味わいで…もう少し頂こうかな…。
「おや英雄サマ、案外呑める口でねか。ごしゃったら塩梅いくべ、いくべ、もいっちょ」
「ちっくと邪魔するき。ええかの」
背後からドスの効いた、聞きなれた声が響いてきました。件のヨールテ親方です。
「おお〈スコップ英雄〉サマもお楽しみの最中かの。それにしても、いやあ驚いたで。初日からようけ、デカいミスリルの露頭をブチ当てるとはのぅ。ホンマに、ワシの目に狂いはなかったき」
大笑いしながらチェニイの背後に回って肩をドカドカ! と叩きまくります。
何いってやがる、最初に有無を言わせず縦坑へ放り込んだときには、ろくろく引継ぎもせず後の始末を〈ルボッツ〉のジェスロに押し付けやがったくせに。
「ほいでな、まずはスクルーの長が英雄サマに挨拶をさせぇ、って言いよるき、引き合わせちゃろ思てな。ほい、こン子がさっき言うとったニザーミアのチェニイ様じゃ」
「お初にお目にかかりますげ…噂を聞いで急遽、飛んでづけましたっけ、ガラン山脈のハーピナ長でレクタス、ちゅう者ンだすけ、よしなに」
なかなか精悍な容貌のリーダーです。愛想もよさそうですが、昨日の今日でラッツークに飛んできたところを見ると、なかなかの遣り手に違いないでしょう。
ヨールテの親方も口添えをします。
「こん人らは東北のガラン山脈からジュレーン大都で〈過ぎ越し〉大祭の卸をしてきたそうじゃ。あんまし、ええ商売にならんやったで、早々に引き上げたら途中でこっちゃの噂を聞きつけた、っての。田舎者やから、ちっくと言葉は分かりづらいけん、あんじょう、許したってな」
オマエモナー! ことイナカ訛りに関しては甲乙どころか丙丁つけ難いもんだ、とチェニイは心の中で叫びました。
「したけどさっき伺いましたら、英雄様ぁニザーミア学府で学問されたすけ? あンガッコ出でがらスゴップ片手にお宝掘り出すたあ、よっぽど地精様に見込まれたすな。お見掛けした処ばエルフの出でがすか、失礼なんすが、御出身は何処ん村ですけ…」
丁重な口調ながらレクタスの問いは、チェニイには一番聞かれたくない、というより答えようのない質問でもありました。下を向いて黙るしかないチェニイの表情を察し、慌ててレクタスは質問を替えました。
「あいや、こりゃ失っ礼いだしました。ご容赦くんなまし…それよか、ウヂのグボ酒はお気に召して頂けたスか? けっこう聞し召しとられるようですけ」
そういえば、強い割には妙に口当たりが良くて、気が付けば目の前の瓶子はかなり空いています。調子こいて呑みすぎたかな、大盛り上がりだった昨日の今日なのに。
「ああ、本当に美味しくて…独特の風味で甘くって、ついつい」
「そりゃ良ござんしたっスな。そいたら、ツマミん品ばもろもろ御賞味たもんせ。グボ羊はスモークでん生ハムも焼いてん、どいも美味しぐ頂けますけぇ」
「おう! じゃあチクっと味見に御相伴させてもらおかの、なあチェニイの英雄サマ」
脇から当然の権利! とばかり、ヨールテの親方も手を伸ばしてきました。
「ささ、アンタも一緒に摘まもうかの、レクタスの親方」
ヨールテが皿を回して、レクタスに声をかけると…彼は少々、困惑したような表情を浮かべました。
「あ、いや…ワシはちょっと…遠慮しなっす」
「え…?」
人に勧めておいて自分は遠慮するのか? ヨールテ親方の瞳には、微かに不審の色が浮かびました。
「あ、いやいや…他意は無いのっすけんど…」
怪しまれたことを察してか、レクタスは慌てて言葉を継ぎました。
「ワシらの勝手なシキタリ、っつうたらショムねえのす、けんど……」
なぜか、ここで再び彼は口ごもり、下を向いて呟きました。
「ワシら、共食いはせんのスけえ…」
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ハーピナ…鳥人間スクルー族の、奇妙な告白を聞かされたチェニイですが、このあたりで紙面も尽きました。
ちなみにこの酒宴の間、チェニイと共にバザールに繰り出していたミリア姫はというと、実はムチャクチャ珍しい〈光りモノ〉各種に目を奪われて大散財してる真っ最中でした
もちろん、お代は…実は英雄チェニイ様のツケ! にされております。一通りショッピングに興じたのち、間もなく彼女は屋台の大テントに乱入して参ります
次回に続きます
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「ザネル」は当分、毎日更新いたします




