18 真夜中の饗宴
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元はと言えばチェニイ君が、担ぎ出された(つか「働かざる者食うべからず」ルールで強制労働させられた)ラッツーク竪坑で、妙な才能を発揮してしまったお陰で、予期せぬミスリル銀のゴールドラッシュを引き起こしたのが発端なのです。これが「あーんれ当たったお宝湧いた」で驚いたラッツーク住人だけじゃなく、近隣を回遊していた遊牧民スクルー・ハーピナ族まで引き寄せて、時ならぬ(まだ夜が明けてませんけど)臨時バザールの市が立ってしまいました。
ドーソ神様の像を捜索・ゲットした縁でチェニイと仲良しになったエディカ少女に言わせると、このザネルのノース・クオータ大陸には5つの種族が棲息してるそうですが、中でも空中を回遊して羊を飼いならす(で、行く先々で卸して回る)スクルー族というのは風の精霊の末裔を名乗るだけあって、耳寄りな情報にも聡く、腰も軽く(この場合は翼も軽く、と言うべきでしょう、ハーピィ亜種だけあって)どこへでも移動できる遊牧民兼商人たちのような存在です。
余談ながらザネル世界では「ハーピィは気まぐれで、人々に糞害を撒き散らす迷惑な連中」というイヤな性格は持ち合わせていないようです
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既にラッツーク周辺の外町には、真夜中にもかかわらず時ならぬバザールが設営されています。総勢およそ50名足らずで移動してきたスクルー・ハーピナ族たちですが(ついでに言うと、引き連れてきたグボ羊は鳥人間たちの5倍近くいます)、彼らは家畜を卸すだけでなく、交易商品も移動する各地から多数仕入れて取り揃えて商いますから、常日頃は貧しく…とまでは言わないけど決して「裕福とはいいがたい」ラッツークの住人(主としてグード・ゴブリン族)にすれば、ちょうど小金をゲットしたところに、降って湧いた大散財のチャンスでもありました。で、あっという間にラッツーク外町は、時ならぬバザール景気に沸き立つことになります。
ところでチェニイ君はといえば、実はこのスクルー族によるバザール襲来(?)ドサクサに紛れて、ジェスロやエディカたちと別れ、ヨールテ親方が管理していた例の〈時計小屋〉、岬の下に建っていた小屋に戻りました。
考えてみればそこが彼の下宿というわけでもないし、わざわざ引き返してくる理由もないのだけれど…しいて言えば…何となく「胸騒ぎがした」からです。
小屋の外には、人影が一人見えました。
チェニイ君には一目でそれが、件のミリア「姫」であることが見て取れました。
「おやおやぁ、そこにお見掛けするのはイマを時めく〈鉱夫英雄〉チェニイ・ファルス様ではありませんかぁ!」
結構キツめの皮肉を効かせた声色で、ミリアは声をかけました。
「こんな夜更けに、こんな所まで何の御用ですやら…」
良い意味ではなく「刺さった」ミリアの口調に、さすがのチェニイも言い返します。
「御用もナニも、ここはオレの宿だろうが! 帰ってきたのもオレの勝手だ」
「いつから自分の持ち家になったのよ? そもそもヨールテ親方の管理小屋でしょ、図々しいこと。親方だったら、今は出払ってるけど…で、アンタは今頃、ご機嫌でアナの底からノンビリ朝帰りってトコ?」
〈何だよ〈朝帰り〉って?…だいたいこの世界、いつまで経っても夜が明けないじゃないか…それに何でオレが言い訳がましく弁解しなきゃならんのだ?〉
「親方なら、さっきラッツーク外町の岬浜で見かけたよ。スクルー族…ハーピナっていうのか…あいつらの凧が西から浜まで辿り着いて大騒ぎだったから、責任者が出迎えたんだろ。もう間もなくバザールも立つだろうからな。
それより、ミリア姫さまは、なんでこんな街はずれで突っ立ってたんだ?」
「余計なお世話ぢゃ! アタシの家は、アンタが居候してる時計小屋の真上にあンのよ! 今の今まで、気づかなかったの? 鈍感な坊ちゃまねぇ。それにスクルーたちのコンボイが西から接近してきたのもとっくに気づいてたし」
ミリアの推察というのも、何やら意味が分からず、首をひねるしかないチェニイです。
「ほら、東の空に〈月〉が昇り始めてるでしょ。こういうタイミングを見計らって、スクルーどもはコンボイを移動させるのよ。月の移動を目印にしてね」
ミリアに指摘されて初めて、チェニイは天空に浮かぶ〈月〉の存在に目が行きました。言われてみると、雨上がりの闇と微かに輝く星空の中に、小さな月がオレンジ色を〈ゆっくり点滅させて〉東の水平線に昇っています。実はチェニイがこの世界へ飛ばされてからの記憶を繰り直してみると、この月を見かけた記憶はあるのです。ただ、月は水平線から西に昇るのではなく、そのまま北東の水平線に再び沈んでいったような…いずれにせよ(彼自身は記憶喪失してはいるけれど)チェニイの常識にこびりついている〈月〉という存在と、今ここで見ている月とでは、ずいぶん違うものに映ります。
「ちょうど先週に〈過ぎ越し大祭〉が北大陸で終わったでしょ。時期的にはスクルーどもも書き入れ時だから、コンボイを移動させるのよね。だったらひょっとして…行き掛けの駄賃にこの寂れたラッツークにも足を延ばすかもなぁ、って思ったワケよ」
ミリアは〈どうだ、えっへん参ったか〉ドヤ顔ポーズをチェニイに見せつけました。
「アイツらけっこう情報通だから、ラッツークでミスリルが大量に獲れた…なんてネタ、聞き漏らすはず無かろうと思ってたけど…案の定だったわねぇ」
言うだけ言ってから、ミリアはくるり、と踵を返して時計小屋の坂を上り始めました。
「……どこへ行くんだ?」チェニイは戸惑い、尋ねると、ミリアは当然! といった表情で、彼に応えました。
「ドコ行く、って…そりゃ聞くのもヤボっつうもんでしょ」
「………」
小屋に戻る前から、なんかイヤな予感がしたんだけど、こ~いうコトだったのか。
「さっさと行きましょ! 欲しいものがなくなっちゃうわよ…バ・ザ・ア・ル!」
ミリアの弾んだ声色に呼応するかのように、シャアあああ!
と物音がして、小屋の奥から小さな黒影が飛び出してきました。
「あ、ゴメンねアンタはダメなのよサンダユウ。家畜もたくさんいるし、ヘンな人たちも大勢来るから、大人しくお留守番しててね、ゴメンナサイ」
そうか、ミリアにはコイツもくっついてたんだ。苦手なんだよな、この凶悪ペット。
ミリアは言うだけ言ってから、後ろも視ずにさっさと坂を駆けあがっていきました。
…
〈ちょっと待てよ。この娘、マジで小金稼いだオレに、たかる気マンマンだったのか?
けどアレ、先だって竪坑ではみんなから〈スコップ英雄サマ〉とか、さんざ煽てられたけど、考えてみたらオレには全っ然、そのアガりが懐に入ってないんだぞ。
コレって…どーいうコト?
そもそも、この異界ではどんな貨幣経済が流通してるのかさえ知らないし!〉
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というワケで、調子こいたミリア姫は、下僕チェニイを引き連れてスクルー・ハーピナ
主催のバッザアルへ洋々と乗り込みます。
…実はミリア姫も、けっこうラッツークでは(姫、とか二つ名で呼ばれてる割には)
いろいろとストレスを抱えてワケアリで、つい今回はそれが爆発してしまいます
ちなみにミリアは未成年(本人申告)ですけど実年齢は不明です
次回に続きます
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「ザネル」は当分、毎日更新いたします




