14 ラッツークの深い竇(アナ)中編
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ニザーミアで精霊導師たちが、技師ガストニーフを交えて
侃々諤々ドタバタを演じている頃、話題の主役チェニイ様といえば
ラッツーク縦坑の断崖沿いに「へばりついている」
ジェスロの邸宅(普通の世界でも「掘っ立て小屋」とも呼ばれます)で二日酔いの
妙薬? をグラニーと名乗る婆ちゃまから強制注入され、気分スッキリ。ただし
薬の中身を教えられて気力はゲッソリ。また虫を呑まされたのかよ(だから虫下し、
なんだって…というシャレは単なる偶然。狙ったワケではありません)
ともあれ、縦坑の現場はチェニイ様の思わぬ奮闘で大収穫。今日も開店休業です。
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「ちょお兄ちゃん、あんまし動かんといて! 小屋が揺れとうてダチかんわ」
「ほなこつ言うてん、中に客も増えとうでしゃあないやん、オノレこそ脇によけんな。ここんとこ、妙にブコブコ肥えクサってからに」
「あー失礼やね。ジブンは毎日きっちしダイエットしとんよ。アタシの美ボディなんぞ、いっちょん肥えとらんに、何言うとんな!」
なにやら奇妙な言葉が飛び交っていますが、要するに小屋が狭くジェスロとエディカの兄妹揃ってお互いのせいだと言い争いになっているようです。
そういえば先ほどから、降り続いている雨音もかなり激しさを増しているし、それにつれて小屋も何やらギシギシと不気味に鳴っているし…本当にココ、大丈夫なのかな。
そもそもラッツークの町そのものが、縦坑の断崖絶壁に居住区を無理やりくっつけた構造のようだから、一つ間違えてバランスを崩すと居住ブロックごと、そのまま奈落の底へ…って羽目になりかねない。こりゃ穴だけにアナがち冗談では済まないかも、マジで!
「あ、あのさ…オレも気分が良くなってきたから、そろそろココをお暇してヨールテ親方の時計小屋に戻ることにす…」
「だいたい最近、オノレも度が過ぎとうぞ! 二言目には花の都だかジュレーンだかにカブれ腐ってから。過ぎ越し祭のオトコ漁りだきゃ、さっさと荷物畳んで走っちゃり」
ジェスロが妹の趣味をあげつらうと、エディカも負けていません。
「アニキにエラそげん謂れとうないわ。アンタはミスリル一攫千金っつうて、何遍ホラ吹いとんね。掘り出しち来るんはガサにガラばっかしやん」
「あ。あのさ…オレ、そろそろ…」
「そいでん昨日、で、デカいお宝、掘り当てよったやいか!」
「アンタんお陰かいや。そっちの英雄アンちゃんの目利きンお陰やないね!?」
「…あの…なんか話が立て込んでるみたいだから…オレ、このへんで…」
「オノレら、ええ加減にせんかいアホたれども!!」
どん! とテーブルを叩いてグラニー婆様が一喝します。
「お前らのせいで、英雄兄ちゃんは困っとうやないけ」
「!!……」
さすがは一家の長老(って、ここでは婆様がやっぱし一番偉いのか)、思わず口をつぐみ大人しくなる兄妹…なのですが、この怪力婆様パワー炸裂のお陰で、小屋の屋台骨がミシ、ミシ…と軋み始め、やがて…どん! と床が数センチほど落下しました。
悲鳴を上げる兄妹たち。
「お、おっ母さん」奥に座っていたジェトまで、思わず声を上げます。
「慌っとんな! 床菱木がちっとばかし擦れとうただけぢゃけえ」
グラニー婆様の一喝に呼応するかのように、ギシ、ギシと揺れ続けていた小屋はしばらくして、何もなかったかのように平静に戻ります。
「へ! この小屋も何ンかとボロが来とうようぢゃの」
それどころの話ではないとチェニイは胸をなでおろしたのです、が…。
「あ! いけない、ドーソ神様が落っこちる!」
今度はエディカが悲鳴を上げました。指さした先をチェニイが見ると、窓に面した壁の上、何やら突き出た「神棚」らしき場所に鎮座していた小さな像がぐら、ぐら…と揺れた後、窓の廂にこん、とぶつかり…そのまま窓際へ吸い込まれて…闇に消えていきました。
「きやああああああ!」
悲鳴を上げたのはエディカでした。
叫んだのは彼女だけでしたが、ほかの家族たちも茫然として、息を呑んでいます。
思わず、窓から身を乗り出して(結構、これもキケンな行為なのだけど)闇の底を覗き込むけれど、もちろんそこには暗闇しか見えません。
「どうしよう、ドーソ神様が消えちゃった! お婆ちゃん!」
先ほどとは打って変わって、グラニー婆様は目を伏せ、言葉もありません。
「こりゃあ…どうしようもネエがに」
ジェドが、重い口を絞り出してエディカに告げました。
「だって…あれはご先祖様の宝よ! ルボッツの絆なんよ! 探しに行かなくちゃ」
「坑道まで降りて探すのか? そりゃ無駄だ。まず見つかる筈がねえだろ…」
ジェスロも、妹にそう告げるしかありません。
「ワシが無理にラッツークへ持ち込んでご安置したのが、そもそも間違いじゃったな」
悔しそうにジェドは、そう呟きました。
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ジェドは何やら思わせぶりなことを言っちゃいましたが
(そもそも、崖下に落ちそうな窓際で神棚を作る方がオカシイでしょう?
けど「風の通る場所に神を祀る」のが彼らの儀礼なので仕方がないのです、
〈ルボッツ〉にとっては…ところで〈ルボッツ〉って、何のこと?
まあ、そのあたりの事情は次回のお話に回します、長くなるので
次回は「行きがけの駄賃」というヤツで、チェニイ君はおん自ら、この
「神様救出」のため〈昏い竇〉の底へ再び向かうこととなります
次回に続きます
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「ザネル」は当分、毎日更新いたします




