11 ラッツークは大宴会ぢゃ!
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使徒様トンヅラ大騒動から、はや二日
ラッツークの巨大縦穴坑での強制バイト駆り出されたチェニイ様は、
穴掘りデビューで大ビンゴ! 希少な真銀ミスリルがザックザク!
の「ここ掘れキャンキャン」状態となります
マジこれでチェニイは一躍「スコップ英雄」へと祀り上げられるのでしょうか?
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…あれ、似たような設定、最近どっかで見た? 多分気のせいです。
それはともかく、この「あーれ当たった宝が湧いた、びっくりしたなぁ」の急報は
即刻、時計小屋に戻っていたヨールテ親方の元へと届きました。
「おいおいガブやん、アンタ、どげなガキを連れて来よったんじゃ?」
「わ…ワシ知らんがな、そんなこつ。新米の精霊師見習いガキの出自なんざ分かるワケ、なかっぺし…」
たまたま今しがたニザーミアから舞い戻ってきたばかりのガブニードスは、ただ事の成り行きに狼狽えるしかありません。お陰でカモフラージュ用に使ってるお国言葉まで、だんだん怪しくなってきました。
「なに? あのファルス様を自称してる子? 今度はナニしでかしたの?」
寸胴ナベを手に抱えたミリア姫まで興味津々です。そろそろ鉱夫の夕食シチュー仕込みにかかろうと、彼女も時計小屋に来ていました。傍らでウロウロしていたペットのトト・サンダユウ君は我関せずとばかり、寸胴に少しばかり残っていたシチューのおこぼれを、ミリアの目を盗んでかすめ取ろうと虎視眈々です。
ともかく事情がさっぱり分からない。即刻ラッツークの縦坑へ戻らなければ…。ヨールテとガブニードス、それに仕出し鍋を抱えたミリア姫の三人は夕闇に染まる時計坂を、おぼつかない足取りで駆け上がります。
小走りで後に続いたガブニードスですが、この快挙(怪挙?)の一報にも関わらず、心中は穏やかではありません。
チェニイ様が、思わぬことをしでかしてしまったようだ。
もちろん彼には、その成り行きの原因も結果も、おおよその見当はついています。正直言って玉璽のキューブを身体に摂り込んでしまったからには、何らかのはずみで精霊が勝手に発動してしまうのは予測できた。考えてみればラッツークの地底はある意味、お宝の宝庫でもあるのです。何くれの地脈に紛れていた重金属…しかも地精霊のエレメントを存分に摂り込んでいる…ザネル人にとっては垂涎の宝物が、チェニイの「地精霊」察知アンテナへ強烈に反応した、というのがおおよその落としどころでしょう。
それにしも…ガブニードスにすれば大誤算でした。
いかに〈キューブ〉を摂り込んだところで、彼は全く「精霊術の超ド素人」なのです。いくらとてつもない兵器を手に入れたところで、使い方のイロハすら分からなければただの「宝の持ち腐れ」…いや、ちょっと待てよ。
ここでガブニードスは彼との出会い直前に、錚々たる精霊導師三人が全員、彼の霊光に打たれてバタバタ卒倒していた事実に思い当たりました。いやそれどころか、かなり離れた中庭で待機してた精霊師見習い百数十名まで、全員巻き添えを喰らっていたことも。ということは、要するに…。彼は、恐ろしい予感に捕らわれました。
チェニイ様のお守り役を割と気軽に引き受けてしまったが…考えてみると、こりゃ大変な重荷を背負わされたもんだな、と。
一つ間違えると危険極まりない〈キティ・ガイに刃物(俗称)〉に化けてしまう爆弾を上手に制御しながらこの先、彼と付き合わなきゃならん。んで最終的にこのワタシは、この怪物をどこに軟着陸させりゃお役御免にしてもらえるんだ?
ラッツークへの短い道中(ガブニードスが不吉な取り越し苦労…であればイイですね…に捕らわれつつ)三人が中心部の縦坑に到着すると、そこは飲めや歌えの大宴会場と化していました。
「じ…自分ら…何やっとう!? 採掘仕事はどないなっとんぢゃ」
「おーうガブやん、見ての通りじゃ。もう仕事ンなんかなりゃせんわ。アンタもまずは、駆けつけ三杯!」ヨールテ親方まで、上機嫌で酔っ払ってます。
鉱夫たちはもとより、採鉱場も精錬場も完全に開店休業。ほぼ全員が大騒ぎで飲んだくれている有様です。
その輪の中心で、浴びるように吞まされグテングテンになっているのが、チェニイと相棒(に急遽昇格)のジェスロでした。
「親方ぁ~。こりゃ大ビンゴだわ大ビンゴ! こいつぅ、マジで大したガキだて」
赤ら顔で出来上がっているジェスロの横で、同じくチェニイ様も上機嫌で泥酔状態です。「お~う、ガス…ニードフかぁ…どしたぁ、シケたツラして」
ヨールテ親方は不審そうな顔を向けます。
「ガス…ニードフって、そりゃ誰のこっちゃ?」
「いやこの小僧…完全に出来上がっとって、人の名前もよーけ覚えとらんのよ」
一方、そんな二人の横で腕を組んでいたのがミリア姫でした。
「呆れたわね…なによその恰好。みっともないったらありゃしない…第一キミ、まだ未成年でしょ。誰よコイツに酒呑ませたのは?」
「いやいや姫ちゃん、そりゃ許したってな。チェニイ君は今日、ドえりゃあお宝を掘り当てたんやし。まさしくゴッドハンドやぜ、黄金の右じゃ、ちゅうてな」
黄金の右掌じゃ、お宝の右じゃ…鉱夫たちが節をつけてはやし立てます。
ミリアは不機嫌なままズドン、と寸胴を床に置き、皆に向かって宣言しました。
「な~にが黄金の右掌なんだか。何があったか知らないけどね、このファルス様ってのはね、アタシがさっき昼メシにシチューを給仕してあげたら、ロクロク温めることさえできなかったのよ。冷たいまんまで泣く泣く石パンを齧ってたんだから」
ほーう…不審と驚きの入り混じったような声があちこちで起こりました。
「ンな…ブチ役立たずがこの北におるンかの…ほいじゃ毎日、何喰うて生きとんじゃ?」
事情は不明ながら、ここの住人たちは掌に発熱機構を標準装備しているのでしょうか。
なにやら旗色が悪くなってきた様子にミリアは苛立ったらしく、おもむろに寸胴から残ったシチュウを掬って、チェニイの前にドン、と差し出しました。
「じゃ、見てなさいよみんな…それにチェニイ・ファルス様もねえ…アンタさっきから酒ばっかし、しこたま吞まされてんでしょ。少しは腹にモノを入れたらどう? アナタ様の黄金の右掌とかで、シチューをじっくり温めてから」
ん? 意識が半分トロトロになっているチェニイは(事情は全く分かないまま)おもむろに差し出されたシチューの碗を摂り、言われるままに右手をかざしました。
〈おや食いモンか…そういや今朝食った虫入りシチュー、あれ結構美味だったんだよな。ちょっと冷たいのがタマにキズだったけど〉
などと考えているうち、右手をかざした碗はボコ、ぼこぼこ…とあっという間に煮えたぎり始めました。そして、次の瞬間…
ぱあん!
とハデな音を立てて、碗ごと見事に粉砕したのです。
成行きを眺めていた周囲の者たちはワア! っと拍手喝采で大騒ぎとなりました。
「さすが鉱夫英雄サマ! メシまで大爆発させるとは、ハンドパワーもハンパねえわ」
「あ…穴ン底で今日一日、ナニしてたのよコイツ…」
一方ミリア姫といえば…目の前で起こった急激なチェニイの変貌ぶりが理解できず、ただ茫然とするだけでした。
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ハンドパワーでシチュウ碗を見事粉砕、という大技を披露してくれた(!?)
泥酔のヒーロー・チェニイ様
負けじとばかり、ケンカを売られたミリア姫は対抗して、次回これまた見事な
水芸を一堂に披露してくれます(ウソ!…だけどそのうち、一部は本当になります)
まあ手品合戦の顛末はともかく「お目付け役」の怪人ガブニードスは、
暴走する主人公に、頭を抱える日々が始まることに…
次回に続きます
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「ザネル」は当分、毎日更新いたします




