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3日間シリーズ

婚姻後の3日間

作者: メグル

婚約破棄後の3日間の続編になります。


もしよろしければ、そちらを先に読んで下さいね。

シリーズでまとめてあります。

 帰国した国王が出した答えはこんなものだった。


「なんか息子が取り消す必要はないって言ってくるしそのまま結婚してもらうことにしたからよろしくね〜」


先日アーレントが言ったことを国王は反故にするつもりだったらしいが、第2王子(もう1人の息子)がウォーレンとアイリーンの婚姻はそのままにしておくべきだとやたらと主張してきたようで、()()()()()息子がそうまで言うのならとそのままにすることにしたらしい。


 ウォーレンは変人扱いこそされているが頭が回らないわけでもないのは、ウォーレンが不正をしているとアーレントが主張して騒ぎを起こした際の話からもハッキリしているので、アーレントに嫁がせるよりは安心かもしれないという思いもある。


 国王にとってアイリーンは幼い頃から知っていることもあり実の娘ように感じている。なのでアイリーンには幸せになってもらいたいという親心にも似た感情もあるのだ。


 結果、アーレントの思惑通りに2人は夫婦となることが決まり、その場で婚姻届にサインしてから帰った。


 ☆☆☆


「アイリーン様、僕は明日にも領地に帰ろうと思います」


 国王から呼び出された翌日、ウォーレンは領地に帰るつもりだと言った。


 パーティーが終わり次第すぐに領地に帰るつもりだったらしいのだが、今回の事情的に帰ると余計に時間がかかるため残っていたらしい。両親からも言われていたとウォーレン。


「そうだったのね」

「はい。なので用事が全て終わったいま、王都(ここ)に僕がいる必要はありませんし、こっちだと実践も出来ないので」


 一度王都に出てしまうと簡単には帰れないため、やりたいことも多いようで早く領地に帰りたいらしい。


 かといって、急なことにアイリーンを巻き込むことはするつもりはないようで、アイリーンは王都にいても構わないと言う。


 王都やアイリーンの実家の領のように栄えているわけでもないので、不便なことも多いだろうからというウォーレンなりの気づかいだ。


 しかし、その申し出にアイリーンは――。


「一緒に行くわ。客人ではなく夫婦ですもの」

「わかりました。ありがとうございます」


 王都にいても、もうアイリーンには何もやるべきもこともない。勘当すると家を追い出され、王子との婚約も破棄されたいま、ここにいたって辛いだけである。

 それならば、ウォーレンと一緒に領地に向かった方が気分はいいはずだ。幸いにも荷物も少ない。


 翌朝から約20日間の道のりを終えて、ウォーレンの家が治めるヒガラ領に辿り着く。

 両親はもう少ししてから帰るらしい。


 王都などから比べると田舎もいいとこで、決して栄えているとはいえないものの活気はあるようだ。


 ウォーレンたちの乗る馬車だと気がついた領民たちがわらわらと馬車の近くに集まってくると、ウォーレンの名前を呼びながら手を振ってくる。


「すみません、アイリーン様。一度、馬車を止めて挨拶をしてきても構いませんか?」

「もちろんです。民あってこそですから」


 アイリーンの許可を得たウォーレンは馬車を降りると、領民たちと何やら笑顔で話を始めてしばらく経つと馬車の方を振り返った。


 それに反応してアイリーンが馬車から顔をのぞかせると領民たちが騒ぎ出した。


「アイリーン様〜!」

「想像よりもずっと美人だ」

「まぁ、あの方が」

「噂通りべっぴんじゃ」

「わーキレイな人」

「あの方が姫様よ」


 領民たちの反応はすでにアイリーンが来ることを知っていたようであり、随分と情報が早い。

 本邸にいる使用人たちか領民たちに教えたのだろうか。


 アイリーンが疑問に思っていると領民との会話を終えて馬車に乗り込んだウォーレンが答えを口にする。


「おそらくエルダー侯爵が知らせたんでしょう。情報は命だと()()ついでに情報を持ってよくきますから」

「侯爵が視察を?」

「はい。もちろん間に伯爵はいますが、場所的に侯爵領の方が近いのでこう言った形になってます」


 本来なら子爵家であるウォーレンの家を管理するのは伯爵家の仕事なのだが、領地同士の距離や農作物の仕入れなどの関係もあり侯爵家で管理をしているらしい。

 侯爵(大人)たち曰く節約の意味合いもあると言う。


 本邸に着くとあのウォーレン(おぼっちゃま)にお嫁さんができる日が来るとはと使用人たちがアイリーンを見てえらく感動していた。


 翌日、朝食を1人で済ませたアイリーンは使用人に家の中を案内してもらっていた。


 ちなみにアイリーンはウォーレンを待って朝食をとるつもりだったのだが、集中しすぎて周りの声が聞こえてないウォーレンは放っておいていいと呆れた顔をした使用人たちに言われた。

 これから先、こういうことは多々あるはずなので気にするなと。


 庭に向かうとウォーレンが何やら大きなものを組み立てていて、そのすぐそばではウォーレンを呼ぶ使用人が複数いたのだが、ウォーレンの耳には届かないようだった。


 家の中の案内を簡単にしてもらったアイリーンが自室に戻ろうとすると、使用人たちがかたまってヒソヒソと話しているのが見えたのでアイリーンは恐る恐る声をかける。


「何かありましたの?」

「わ、若奥様⁉︎」


 アイリーンの登場に慌てふためく使用人たちは互いを見てから、こういった事態は朝食時同様よくあることだからこそアイリーンにも知ってもらうべきだと結論をだすとアイリーンに説明を始める。


「先日、エルダー侯爵がいらした際に、旦那様方帰り次第こちらの書類を提出するようにと言われていたのですが……」


 趣味とも取れるそれに熱中しているウォーレンは、周囲の呼びかけも聞こえていないために使用人はどうしたものかと悩んでいたようだ。


「わ、私にやらせてもらえるかしら」


 上ずった声でアイリーンはそう言った。


 でしゃばるな言われてしまえばそれまでなのだが、ここに来て2日、自分の噂も耳には入っているはずなのに好意的に受け入れてくれている使用人たちの力になりたいと思ってしまっている。

 それに王妃教育を受けていたから、他の令嬢たちよりも出来ることは多いと自負はある。


「確かにアイリーン様であれば……二つほど質問をいいでしょうか?」

「ええ」


 書類を持った男の使用人がアイリーンに質問をしてアイリーンはそれに答える。

 アイリーンの答えに満足したのか使用人は書類をアイリーンによろしくお願いしますと手渡した。


 後で執事が確認をしたところアイリーンがやったものは口を出すところが存在しないと執事が褒めていた。


 翌日の朝、ウォーレンは大きなあくびをしながらやってきて朝食の席に着いた。使用人たちからの小言をそうですねなんて言って、慣れているのか半分聞き流している。


「ふぁー、おはようございます」

「おはようございます、ウォーレン様」


 席に着いたウォーレンはフォークをすぐに取らずふんわりとした笑みを浮かべてお礼を言った。


「アイリーン様、ありがとうございます。侯爵にお出しする書類を書いていただいたとか」

「私はもう客人ではないのですから、ウォーレン様の、この家の力になれたらと」


 戸惑いの中に決意を滲ませたアイリーンの言葉に変わらずふんわりと笑うウォーレンは、再びお礼を言ったあとで無理はしないでくださいねと付け足した。


 まだまだ完全に吹っ切れるには難しくて、動いていた方が気分的に楽になるだろうことはウォーレンもわかっているが、そういう時ほど自分の不調に気がつかなかったりするのだ。メイドたちに注意しておくよう声はかけてあるが心配はある。


「僕もアイリーン様を見習わなくてはいけませんね。1人ではないので熱中しすぎるのもほどほどにしないと」


 そう言ったウォーレンはアイリーンに謝罪をする。

 愛想を尽かされないようにすると言ったのに、家に帰って早々にそんなことをしていることに自覚はある。それに罪悪感が全くないわけではないのだ。


「そう思ってくださるだけでも嬉しいですわ」

「うーん、僕は少なくとも尊重し合うものだと思ってます。夫婦に限った話ではありませんが」


 困った顔をして言葉を絞り出したウォーレンは、難しいと頰をかいた。


 まだまだ相手のことをよく知らないのだから、今は噛み合わない話もあるとウォーレンは今の会話を打ち切って、別の話題を口にした。


「今日はこれから領を見て回るのですが、アイリーン様もいかがですか?退屈させてしまうかもしれませんが」

「そう、ね」


 領民たちの会話に花が咲けば、アイリーンのことを放置してしまう可能性もあるわけで、ウォーレンの退屈にはそんな意味も込められている。

 それでも、しばらくは領民たちがアイリーンに興味を示して声をかけてくるだろうから退屈もしないだろうけど。


「行かせてもらうわ。案内をしてくださるのでしょう」

「はい。では準備が出来たら声をかけてください」


 アイリーンの支度が終わり次第ということにウォーレンはする。


 女性の準備は時間がかかることもあるが、何より来ることがないと思っていたウォーレンの妻に使用人たちが張り切るだろうから余計に時間がかかるだろう。

 アイリーンは美人だから尚更。


 馬車での移動中、ウォーレンはさりげなくアイリーンに手を貸したりと行動は紳士的で、なんというかやはりウォーレンはまともなのではアイリーンは思っている。

 噂話というものは大抵尾ひれがつくものだから。


 馬車に乗ってたどり着いた先は視界一面に広がる畑で、なんとも田舎らしいのどかな風景だった。


「ウォーレン様‼︎おい、ウォーレン様がいらっしゃったぞ‼︎」


 あっという間に領民に囲まれたウォーレンたち。

 今日はすぐに畑の様子についての話にはならなかった。皆、アイリーンの美しさに心を奪われていたためだ。


「見惚れてしまうのは分かりますが、そろそろいいですか?アイリーン様も困っているので」

「あ、ああ。申し訳ありません、ウォーレン様、アイリーン様」

「いやぁ、お綺麗すぎて」


 ウォーレンは領民たちと畑のことについて話を始め、アイリーンがそばで静かに会話を聞いると10歳前後の少年少女がアイリーンの近くまでやってきた。


「あなたが姫さま?」

「――ああ、すいません。子供たちにはアイリーン様のことは領地(ここ)の姫様だと教えたものですから」


 アイリーンが何かを言う前に1人が代表して言った。

 子供たちには細かい事情を教えるべきではないと、アイリーンがやって来ることしか説明してないらしい。

 それには純粋にアイリーンを受け入れて欲しいと言った大人たちの願いも込められている。


 アイリーンは説明に感謝をしてこちらをじっと見つめくる子供たちに微笑んだ。


「可愛いしキレイだしウォーレン様と結婚したっていうのが信じられないわ」

「コラ、ルリ!失礼なことを言うんじゃない」

「――いったぁ!なにするのよ、父さん⁉︎」


 ポコっとウォーレンと会話途中の父親にゲンコツを落とされた少女ルリは納得いかないと頰を膨らませる。


「大丈夫〜、ルリちゃん?」

「もう、あんたのせいよ。セルカが見に行こうなんて言わなければ怒られることなかったわ」

「えー、言ったのはルリちゃんだよー」


 ルリに責任転嫁された少年セルカはおっとりと答え、ルリの父親は娘の頭に手をあてウォーレンやアイリーン、セルカに謝らせる。


「おじさん、いつものことだから平気だよー。それより、ルリちゃん」

「そうね」


 2人は顔を見合わせるとコクリと頷いてウォーレンとアイリーンの方へ向くと、一拍の間を置いて同時に口を開いた。


「「お帰りなさい、ウォーレン様、姫さま」」

「ただいま。ルリ、セルカ」

「……た、ただいま帰りました」


 ウォーレンや領民たちの眼差しを一斉に浴びたアイリーンは躊躇いがちにただいまと口にする。

 そして、それだけのことで何故か拍手が起きる。


 アイリーンの胸には不安がよぎる。

 受け入れてもらえるのは嬉しい。けれど、遅かれ早かれ王子がやったことは尾ひれをつけれここにも流れてくるだろう。

 その時、今と同じように彼らが笑いかけてくれるだろうか。


 ウォーレンに関してはまあ、なんとなくアイリーンがどうあったとしても変わらないだろうと一緒に過ごしてきた中で思っているのでいいのだが、他の人はそうじゃないだろう。


「僕は試作品を試すので、アイリーン様は子供たちの相手をしてあげてもらえませんか?」


 ウォーレンの視線の先には、大勢の子供たちが物陰からひっそりとこちらを見ていた。そのどれもが、アイリーンに対しての好奇心を抱いている。


 アイリーンが了承すると、ウォーレンは帰ってきたから庭で作っていた何かを男たちと一緒に馬車から運び出す。


 そしてアイリーンはウォーレンの話が終わるまで子供たちの相手をすることにする。


 子供たちのほとんどはルリと同じような反応していて、アイリーンはただ上品に愛想笑いをするしか出来なかった。


 子供たちからの質問責めが一息つくと、年長の少女がアイリーンに冷たい水を差し入れて隣に座る。


「姫さまが侯爵様の言う通り、素敵な人でよかった」

「侯爵様から?」


 少女は大きく頷く。

 アイリーンのことは侯爵自ら教えてくれたらしく、その時に彼がアイリーンのことを姫と小さな子供たちに教えたようで定着したと言う。


「そんなことがなくてもあたしは……あ、いや、きっとヒガラ領(ここ)のみんなもそうだと思う」


 だんだんと声を小さくしながら少女が言って、アイリーンは小さく首を傾げる。

 すると少女は照れたようにアイリーンに笑う。


「だって、ウォーレン様が連れて来た方なら信じられる」

「………………」

「アイリーン様、終わったので次に行きましょうか。子供たちが何か粗相を?」


 アイリーンが何かを言いかけた時、ウォーレンがやって来た。アイリーンの様子に違和感を感じたのかウォーレンは思い当たることを口にしてみるが、アイリーンは首を横に振った。


「いえ。ですが、素敵なところですね、ウォーレン様」


 立ち上がったアイリーンはそう言って花が咲くような笑顔を見せた。


お読みくださりありがとうございました。

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