第5話 くっころ
「さて、どうしよう......」
足元に転がる自称エルフの女騎士リリアンをどう扱えばよいか困っていた。
祝福で編まれた光の帯で簀巻きにされた彼女は、先ほどより恥ずかしくて居たたまれないといった風情でシクシクと泣いている。
なぜ僕たちに攻撃を仕掛けたのか。そして、このように拘束してしまった以上、次にどのような行動を取るべきなのか。
「……こ、こんなはずでは......殺すなら殺せぇえ...」
リリアンの言葉が風と共に散っていく。彼女の声には、絶望と罪悪感、そして僅かながら希望の痕跡も混ざり合っている。
スライムによる卑猥な攻撃にさらされたレイラとセリーナは既に力尽き、疲労からくる眠りに落ちていた。その二人を木陰で休ませ、リリアンに向き合う。
彼女の瞳はしおれた花のように暗く、その視線の先には何を求めているのか、その答えは見えない。
「お主も女であろうに、何故あのようなむごい真似をしたのだ?」
フェーリスの問いかけが空気を切り裂くように響いた。
彼の言葉には単なる疑念以上の何かが混ざっていた。
それは一種の失望か、もしくは理解不能から来る怒りか。
「信じてほしい!私もこのようなことになるとは考えもしていなかったのだ。身体を傷つけないよう拘束用のスライムを借り受けたとばかり思っていたのだが、ま、ま、まさかあのようなことになるなんて......」
リリアンの言葉は震えていた。言葉の隙間から漏れる彼女の不安と迷いに心地悪さを感じた。
「借り受けたとは、誰から?」
あのように仕込まれたスライムを、一体だれが所持していたのか気になり問いかけた。
「我が君、エルフの女王であらせられるエレーナ・アルカディア様だ。エレーナ様のスライムコレクションからこっそり借り受けてきたのだ。」
その名は、僕たちも聞き覚えがあった。それはこれから会おうとする相手だったから。
エレーナ・アルカディア、エルフの女王。
その名は数多くの童話や歌、伝説で称えられ、美しさと知恵、そして平和を愛する心で知られている。しかし、今、その名前がこんな状況で飛び出してくるとは。
「つまり...エルフの女王が、あのように女性を凌辱するスライムを保持していたと?」
フェーリスと顔を見合わせる。
彼は何とも言えない表情を浮かべていた。
「………………くっ...こ、殺せぇ、一思いに殺してくれぇぇ!!」
簀巻きにされ、すでに持っていたであろうプライドを粉々にされたエルフの女騎士リリアン。その姿は、痛々しさと同時に何とも言えない哀れみを引き出した。
痛ましいものを見るかのような視線で、フェーリスが続ける。
「まあ、エルフの女王に触れては成らぬ秘密があることは置いておくとして、お主何か聖者殿に頼みたいことがあったのではないか?噂では高潔と聞くエルフの騎士殿が人質を取ってまで行いたかった要求とは?」
リリアンはそうだったとばかりに、しゃんとしすると僕を見つめた。
その瞬間、彼女の目に燃える炎が僕の心を打った。
そう、彼女は何かを賭けている。
「聖者殿、頼む、この王国を、女王様の王国を救ってはくれまいか!」
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エルフの女騎士、リリアンの口から続々と語られたのは、彼女が仕える森の王国に広がる危機の実相だった。
近月において、森の木々が一斉にその力を失い、土壌までが腐敗の兆しを見せ始めていた。王宮に仕える精霊僧たちの神託によれば、この危機を克服するための解決策は『神の祝福を受けた聖者の血液、量としてはおおよそ二リットル』が必要だとされていた。絶体絶命の状況に陥り、答えを見いだせずにいたその最中、幼き精霊からの報せが届いた。それは聖者が訪れる、というものだった。この一報に触発され、女王の許可も得ずに、リリアンは飛び出してしまったのである。
「ああ、多分それは私が先ぶれとして連絡を頼んだ幼精霊ですな。いきなり押しかけては礼に反すると思いましたので。だが、その前触れがこうも予期せぬ事態を生むとは…」
おおよその事態が飲み込めてきた。
おそらくリリアンが一人で暴走して、こうまで至ったのだろう。
「人質を取ってでも言うことを聞かせようとは、なんと短絡的な......しかしアイザック殿、エロティア様の神殿にたどり着くためにはエルフの方々の助力が必要。2リットルの血液はともかく、一度女王に話を伺い、他に手段がないか解決の道を模索しても良いのでは。」
「うん、そうだね。この森をこのままにしておくことは出来ないよ。」
リリアンの行動が短絡的だったことは確かだ。しかし、その裏にはこの森、そしてその住人たちに対する真剣な心情が渦巻いているのもまた事実。この女騎士が何も手を打たない方が良かったのか、という疑問も心の片隅にはあが、その瞳に映る深い悔いを見てしまった以上、今更そのようなことを指摘する気にはなれない。
「リリアン、僕たちを女王様の下に連れて行ってくれないかな。」
拘束を解いたのち、深く目を閉じ、心の中でエロティア様に祈りを捧げた。
その瞬間、全身にほんのりとした光が纏わり、その輝きは次第にレイラとセリーナまで広がっていく。
「神託の輝きよ、二人を優しく抱きとめ、安らぎの地へと運びなさい。」
僕の声に乗せられた祝福が、レイラとセリーナの体を浮遊させた。二人はまるで空中に浮かぶ白い雲のように、僕の周りで静かに漂い始めた。その表情は穏やかで、まるで天使が眠るような神聖な光景だった。
[加護の説明]
加護の名称: 天舞運搬(Celestial Carriage)
効果: 対象を浮遊させ、持ち運びが容易になる。対象はその間、安らぎと安全感を感じる。
効果範囲: 5メートル以内にいる人物または物(最大2人または2つまで)
持続時間: 30分(ただし、持続時間はアイザックの精神集中に依存する)
発動条件: アイザックが心の中で性と愛の女神エロティアに祈りを捧げる。
使用例: 疲れ切ったレイラとセリーナを、その場で起こさずに安全な場所へ運ぶ。アイザックは祈りを捧げ、二人を浮遊させる。
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この小説のR18版はこちらです。
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同じ世界の違う時代の話、
【ぼく食べ】僕を食べたくないと、僕の上で君は泣いた
を下記で連載開始しました。
少年と人魚の少女のボーイミーツガール。
なお、人魚は人間を食べます。
https://ncode.syosetu.com/n9294ih/




