大学で出会った男の子に惚れてしまった内気な私は告白の仕方が分からない
「俺たち付き合おっか」
いきなり呼び出されて、何を言われるかと思えば告白だった。
「すいません、付き合えないです」
「えっ、、、」
断られると思ってなかったのか、動揺している。
「あと、話したことないのに告白してくるのはちょっと気持ち悪いです。」
「えっ、気持ち悪い…?」
少し言い過ぎたかとも思って、付け加える。
「“ちょっと”です。“超”とかじゃなくて」
そして、男の子は去っていった。
「言いすぎかな~」
背後から、そんな声が聞こえてくる。振り返ると、田中君が立っていた。
「見てたんですか?」
見られていたことに驚きながらも、私は彼に尋ねる。
「もうちょっと柔らかく断れば?」
彼は少し笑みを浮かべながら提案してくる。その笑みはとてもきれいで見とれてしまうほどだった。私は眼
鏡を右手で少し押し上げながら答える。
「どんな風にですか?嘘は、つきたくないです。」
田中君は少し悩んで、
「普通にさ、ちょっと告白してみて?」
そんなことを言われて、私は走って彼から離れて行った。
私が向かっていたのはトイレだった。トイレに入ろうとすると中から人が出てきてぶつかりそうになる。私の数少ない友達の涼子だった。
「珍しく走ってるよ、どうしたの?」
「髪とか顔…」
「ああ~、髪?はい、使っていいよこれ」
そういって、ヘアアイロンを渡してくれる。
「ありがと」
お礼を言い、トイレに駆け込みチークや口紅を直す。すべての工程を終え、気合いを入れるため一息つき、トイレから出た。
私がさっきの場所に戻ると、彼はまだそこに居た。
「どこ行ってたの?」
「私…今から振られますよね?」
「まあ…そうだね」
「じゃあ、場所変えましょう」
そういって、二人でその場所を離れる。
向かったのは、近くのカフェだった。
「なんで場所変えたの?」
ジンジャーエールを飲みながら尋ねてくる田中君に私は、
「一回、告白する方のお手本見てもいいですか?」
と聞く。彼は、少し間をおいて咳ばらいをすると、
「好きです。付き合ってください」
「はい…」
「付き合っちゃうじゃん、馬鹿なの?」
「やられた…」
「何に?」
そんな会話をして、時間だけが過ぎ帰りの時間になり、帰途に就く。
「ジンジャーエール飲んだだけの時間...か」
と、彼は少し微笑みながらつぶやく。私は彼に気になることを聞く。
「告白ってしますか?」
「まあ」
「どんな感じですか?」
「ご飯いこうよとか?」
「ご飯って告白ですか?」
「場合によっては……。仲良くなりたいご飯のときは告白かな」
「仲良くなりたいご飯…?」
私はあまりピンとこない感じだったが、彼はそんな私をよそに
「とりあえず、誰かを振るとき気持ち悪いとかやめなよ?」
「あ、はい。今後は、ごめんなさい。好きな人がいるので。にします」
「うん、絶対そうした方がいい」
「じゃあ、俺この後予定あるから」
「分かりました」
私はふと何かを感じ、彼に尋ねる。
「仲良くなりたいご飯ですか?」
「ん~、違うかも」
彼はそう言って、帰っていった。
後日、私は涼子と学校で話していた。
「このパフェめちゃめちゃ大きくて、おいしそうなんだよね」
そう言う涼子の向こう側に田中君と女の子が歩いているのが目に入る。
お互いとても楽しそうに話しながら歩いている。
「違くないじゃん…」
私は田中君が女の子と歩いているのを目撃したあと、涼子と近くのカフェに来て、田中君について話していた。
「えっ、好きだったんだ。知らなかった。」
「あたしも最初は苦手だったの、変な人だし」
「分かりやすい同族嫌悪」
「あの人曇りの日にね…」
私は徐にこの前の彼とのエピソードを話し始めた。
「曇りの日は全部日向です。見てっ!ここ。影ある?」
私はそういって地面を指さす。
「はい?曇ってるんだから日陰でしょ。」
そういう彼に呆然としていると、
「見てっ!空。」
彼はそういって空を指さす。
「日が陰ってるでしょ?」
「・・・そっちですか。晴れた日のコンビニの傘立てに一本だけ刺さったままのビニール傘に何の情緒も感じない人ですか。」
「何、その安そうな情緒。」
彼はそういってまた歩き始める。
「それで…」
「えっ、それで!?
今、好きになった時のエピソード話してたの?
嫌いになった話じゃなくて?」
涼子は長い溜息を一つつくと、いきなり立ち上がり
「ちょっと顔貸して?行くよ!」
そうして私をトイレに連れて行った。
涼子は私の眼鏡を外し、
「せっかくかわいい顔なんだから、可愛いで無双しないと!」
そう言いながら、私をメイクしていく。
「はい、できた。かわいい。」
鏡で見てみると、とても私とは思えないほど綺麗だった。
「すごい。」
「これで会ってきなよ。さっき一緒にいた女が彼女でも関係ない!横恋慕上等だ!」
「でも…」
「あ、もう。「よっ!」とか言って、ご飯に誘えばいいんだよ」
「とりあえず、メガネは掛けていく」
私はそういって、彼の元へ向かった。
「よっ!昨日はありがとうございました」
私は涼子に言われた通り座っていた田中君に声をかける。
「よっ?」
いきなりのことで彼も驚いていた。
私は彼の目の前に座り、尋ねる。
「ご飯どうでしたか?」
「あぁ,,,なんか、いい人だった。仲良くは…どうだろう。」
「なれそう、成りたい、なったで言ったら?」
「何その活用」
彼は笑いながらそう言った。
「ん?」
彼は私の顔をじっと眺め、何かに気付いたような声を上げる。
そして、私の眼鏡をいきなり外す。
「なんかさ、メガネのグラスになんか書いてない?」
そこには、私が彼に会う前に書いた
『ご飯いいね』
の文字が書かれていた。
「サブリミナル効果で確率を…」
少し恥ずかしがりながら、言い訳をする。
「ご飯いく確率を挙げようとしてんの?」
彼は笑いながら私の眼鏡を見ている。
私は勇気を振り絞り、
「仲良くなりたいご飯の…」
以前のカフェを出てからのやり取りがフラッシュバックする。
彼は少し驚いた顔をしたが、それは柔らかい笑顔に変わった。
「ご飯いこうよ」
彼がそういうと、私も笑顔で答えた。
「いいですね」
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