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8.嘘付き


図星だと言うように、ラシェルは思わずリュカを振り返った。

髪はフードで隠していたため見られているはずはなく、ラシェルと周辺の騎士は警戒を深めた。


「騎士をグレゴール卿と呼んでいたな。グレゴールというのは、元はラ=フォンテーヌ家の傘下の家門だ。分家とはいえ、関係のある家門のある程度の知識は有している。予想だが、彼はル=シャトリエ家の管理する『銀の騎士団』の三番隊長のアドリアン・グレゴールだろう?」


完璧な推理に思わず騎士たちが反応を示してしまい、リュカは確信を得たようだった


「その銀騎士たちを従えている君は、勿論ル=シャトリエの関係者なんだろうが…………ル=シャトリエには君の年齢頃の女性がいないのは周知の事実。と、言うことは、俺と同じように分家の人間なのではないかと思うんだが……どうかな?」


やはり、こんなところに『引きこもり姫(ラシェル)』ががいるとは思いもしなかったようで、正体はバレずに済んだらしい。

弁解をしないのも変に感じられると思ったラシェルは、意を決してフードを外した。


「ふん……。分家にしては綺麗な銀髪だな。もしかして、本家の隠し子か何かだったのか?」


「…ベアトリスよ。私も分家の人間だけど、髪色を見染められて、本家からの申し入れで公爵夫妻の養孫になることになったの。……銀騎士たちもお義祖父様(ル=シャトリエ公爵)に付けてもらったわ。」


いずれはラシェルも本家に組み込まれる訳で、嘘を言っている訳ではないが、ほとんどは出鱈目な内容を語る。

嘘の情報にしても、信憑性のある内容のせいか、リュカは納得したようだった。


「それではまだ、本家の人間ではないんだな?」


「……今はまだね。」


ラシェルが素っ気なく返せば、リュカがラシェルへと近づいて手を差し出す。

ラシェルは何事かと思い、黒い手袋に包まれたリュカの手に自らの手を乗せ、握手の形式を取る。


「……違う。身分を証明するものを渡せという意味だ。」


自分の勘違いが恥ずかしくなり、ラシェルは思わず顔を逸らす。

ラシェルの顔は恥ずかしさから、真っ赤に染まっている。


「ふっ……握手な訳がないだろう……。」


一貫して無愛想な態度だったリュカがクスリと微笑み、ラシェルは不覚にもどきりとする。


「美形が笑うととんでもないわね。」


「何だ?」


「いいえ、なんでも。……それより、なぜ身分証明を?」


「今回の件で何か問題が起きた時、ル=シャトリエ邸に訪問する。その際に必要になるだろう。」


一般的に高位貴族……特に、四大家門に訪問する際は、訪ねる相手の私物を持っていくことで、相手と既知の仲だということを証明する。


ラシェルがまだ、自分と同じ分家筋の人間だということが確認できたことで、黒騎士であるリュカの提案をラシェルが断れないことを間接的に伝えたのだろう。


ラシェルは軽く自分の持ち物を漁るが、どれも本当の身分が明かされてしまうものや、必要なもので渡せるようなものはない。


「……あ!」


ふと自分の首に手を回し、先ほど購入した指輪を彼の手に乗せる。

黒い手袋の上の銀の指輪に、少し高級感が増したように感じた。


「何だこれは。」


「指輪よ。皇女様に選んでいただいたの。」


「皇女様に?」


嘘は言っていない。本当に皇女が(自分で)選んだのだから。


皇女の名前を出すことは躊躇ったものの、何番目の皇女かは分からないだろうし、皇族とのパイプがあることをアピールできたのだから、そこまでリスクのある話ではない。


「……確かに受け取った。」


指輪をローブのポケットに入れる。

小さくも宝石が付いている訳で、なかなか市場の売店で買ったとは想像できないだろう。

薦めてきた店主の顔を思い浮かべながら、ラシェルはフードを被り直した。



「お、お嬢様。」


指輪を渡してからあまり間を置かず、グレゴールが拘束された男を連れてきた。

やはりラシェルに付着していた血液は男のものだったらしく、男の腕に巻かれた止血の布は、真っ赤に染まっていた。


「……言っておくが、あれは我々を切りつけて逃亡したからやむなく切っただけだ。そこまで深くはない。」


少し言いにくそうな表情でリュカがラシェルを見下ろしている。

ラシェルも少し納得したような顔で相槌を打った。


元々、ラ=フォンテーヌ家の黒の騎士団は、国の治安維持のために積極的に動く団体だと有名である。

銀の騎士団の他に、マルタン家の『金の騎士団』や、モンフォール家の『赤の騎士団』もそうだが、基本的に家門の持つ騎士団は、その一族の護衛や領地の巡回といった限定的なことにしか使われない。


しかし、有能な将軍や軍隊を排出するラ=フォンテーヌ家の黒の騎士団は、時には皇室の護衛、時には紛争への出陣など、領地や管轄外の仕事も担っている。

ラシェルの悪い噂で生じたクーデターを鎮圧してくれているのも、他でもない黒の騎士団であり、黒の騎士団は正義の象徴ともされている。


「それじゃあ、よろしくお願いします。帝国に平穏がありますように。」


「……帝国に栄光がありますように。」


形式的な騎士への挨拶を交わし、グレゴールが近くに馬車を手配したという場所へ移動する。

ラシェルはあの拘束された男が何をしたのか気になったが、それよりもこの場を立ち去らなければと感じていた。


「ル=シャトリエ領に向かって。最短距離でね。」


馬車の中で小さく欠伸を噛み殺す。

まだまだ道のりは長い。


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