「アリス・マルタン嬢。18歳の誕生日を無事に迎えられたことを嬉しく思う。誕生日おめでとう。」
金髪碧眼の愛らしい少女を前に片ひざを付く美青年は、彼女の瞳と同じアリスブルーのバラの花束を差し出した。
それだけに飽きたらず、青年の後ろには大量のプレゼントを抱えた侍従が控えている。
どれも全て、彼女に……今日の生誕パーティの主役であるアリス・マルタンに贈られるものだった。
「まあ……!アルバート様、本日はいらしてくれてありがとうございます。こんな美しい花を頂いてしまうのは少し恥ずかしいわ。」
「そんなこと言わないでくれ、アリス。君が成人を迎えた特別な日を、私がどれだけ待ち望んでいたか……」
アリスと対になるような艶めく銀色の髪に、深い群青色の瞳。
数多の女性の憧れの的である彼の名は、アルバート・ローレンス・レ=プロヴァンヌ。
このプロヴァンヌ帝国の皇太子である青年だ。
「君への祝いをどうしても言いたいと言っていた方も、もうすぐ到着される頃だろう。」
「あら?それってどなたのこと?」
「君の大親友だよ」
アルバートがそう言うと、会場がざわめきたった。
それもそのはず。アリス・マルタンはアルバートをはじめ、彼の母であり皇后であるマルグリットともかなり親しい仲であることは公然の情報である。
そのため、突然のゲストが皇后なのではないかと、周囲の人間は騒いでいた。
「誕生日おめでとう、アリス。」
凛とした声が、ざわめく会場に響いた。
声のした方を見れば、いつの間にやらアルバートのプレゼントの山を抱えた侍従の中に、銀髪の女性が混じっている。
女性がアリスの方に足を進める度に、銀糸のような髪が人目を引く。
皇后と同じ銀髪と赤眼。陶器のような白い肌は、触れれば壊れそうだと感じさせた。
アリスが守りたくなる天使の可憐さとすれば、さながら彼女は誰もが見惚れる女神の如き美しさといったところか。
「皆さま、初めまして。第2皇女、ラシェル・アヴォット・レ=プロヴァンヌですわ。」
皇女はヒラリとドレスを翻してお辞儀をする。
その挨拶は、今までパーティや祝賀に参加したことがないとは思わせないほどに可憐なものだった。
「これからこのような場に多く出ることになるでしょうから、色々なことを教えてくださいな。」
ラシェルは上品に微笑んだ。
今、この時、この場を支配しているのは間違いなく、彼女だった。