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第5話 心が折れそうだ



 シャクシャクシャクシャク。


 山盛りに盛られたポテトを無心で頬張る。

 その脇には3つのハンバーガー、飲み物はジンジャエールを用意した。


 塩分が身体に染み渡りストレスを和らげてくれる。

 ああ、ジャンクフードバンザイ!これさえあれば、もうちょっとだけ頑張って生きていこうって思えてしまう、これって一種のマジックアイテムなのでは?


 でも悲しいかな。

 そんな至福の時間も空腹感が満たされるにつれ終わってしまう。


 はじまりがあればおわりもある。

 楽しい時間はあっと言う間に過ぎ去っていく。

 

 

 ……現実逃避はこの辺で良いか。

 改めて現実(クソゲー)を直視していこう。


 何で俺が困っているか?


 端的に言うと剣が折れたからである。

  

 この世界はゲームのような不思議な理が働いているが、現実である。

 当然斬られれば服はもちろん皮膚は裂ける。

 そして剣も折れる。形ある物が損耗し限界に到達するのは必然だった。


「まじでどうしよう……」


 折れた直剣のことを考えると思わず溜息が出る。

 +10まで強化して大剣に派生したりしないかな?

 無理?ですよね。そもそもここには鍛冶してくれる巨人どころか人っ子ひとりいない。


 不幸中の幸いと言うべきか?

 剣身の大部分はまだ残っている。

 一応、アビリティを駆使すればまだハンドレッドアイズ……あの大狼を倒す事も可能な事は検証済みだ。


 だが、この損耗した剣が現状の性能をいつまで発揮し続けられるか?という話だ。

 これから戦う度に想定外の負荷が剣身に掛かり続けていつかは武器として機能しなくなるのは確実。

 早急に代替する武器が必要だろう。


 ショップで売っていてくれれば話は早かったんだけど……


 DDN、謎アプリの機能には「ショップ」というものがある。

 このダンジョンで魔物を倒して手に入れる事が出来る魔石を使って商品を買える。

 所持しているアプリ内通貨「EN」を使用して食品やマジックアイテムを購入可能だ。

 最初は気付かなかったがこのショップで買えるラインナップは所持しているENの量によって新たな商品が解放される。つまり、購入可能な所持金を持っていて初めて商品が提示されるということ。


 基本的には飲み水と食品を買っている。

 さっきまで食べていたポテトやハンバーガーも当然購入したものだ。


 あと腰に下げているベルトポーチとポーションも最近買った奴だ。

 擦り切れまくったブレザー制服に5本のポーションが刺さったベルトポーチという絶妙にダサい姿になっているが指摘する人も居ないので気にならない。


 ポーションは5本。

 3本はヒーリングポーションという身体の傷や体力を回復する薬。

 2本は万能薬という毒や石化を治癒する事が出来る魔法の薬だ。


 ポーチ購入時についてくるスターターキット的な奴。

 お値段は一回限りの500万EN、滅茶苦茶お買い得なお値段だ。


 どのぐらいお買い得かと言うとポーションは単品で買うと300万EN。

 万能薬なんて1500万ENするので「一回限り」とはいえ滅茶苦茶お得なセットなのが分かるだろう。


 そんな高価なモノ買えるのか?と思うかもしれないが答えから言うと買える。

 オークの魔石はひとつで3万EN前後、大狼の魔石は200万EN前後で売れる。

 一日にそれらの魔物をハイペースで狩っている俺からすれば食費を考えても購入は余裕だった。


 で、肝心の武器類なのだが全然売って無い。

 弓の矢とか手裏剣とかトラップなんかは売ってるけど剣はもちろん短剣も売って無い。


 せめて解体用のナイフぐらい売ってくれって思うんだけど。

 ……何で売って無いわけ?

 刃物厳禁なの?



 そんな現状で剣が入手出来そうなシチュエーションは3つほど思い浮かぶ。


 ①魔物の持っている剣を奪い取る。

 ②宝箱的な何かから剣を手に入れる。

 ③伝説の聖剣みたいにどっかに都合よく刺さっている剣を手に入れる。


 ①がいちばん現実的な気がする案だ。

 それこそゴブリンとかコボルト的なメジャーな魔物ってそういうの持ってるイメージ。

 実際オークは棍棒を持っているし、武器を所持している魔物から奪えれば問題は解決する。


 まあ、今のところそんな魔物を見かけたことは無いんですが。


 ②の宝箱的な何かから剣や宝物を手に入れるのも鉄板と言える。

 ダンジョンといえばスリルと冒険と秘宝だろう。

 だからこそ浪漫があり、物語の題材として描かれる事が多いと言える。


 まあ、今のところそんな宝箱を見かけたことは無いんですが。


 DDNにはオートマッピング機能があり自分が歩んだ道をマップとして表示してくれる。


 ご都合主義万歳とも言える機能、それを見るとこのダンジョンがくっそ広いことが分かる。


 オークと大狼を狩れるようになったので、今まで探索するのが困難な領域にも足を運べるようになった。


 なので、何か探索に役立つものが無いのかとどんどん探索を進めているのだが……宝箱なんて影も形も無い。


 宝箱なんてそもそも存在しないのか?

 それともダンジョン自体が広すぎて宝箱の存在する場所に当たった事が無いのか?

 分からないが……マップを埋めきっていないので逆説的に存在を否定し切れない。

 ゲーム染みた要素が垣間見えるこのダンジョンならどこかにはあるではと考えているんだが……


 ③は無いだろう。

 言ってみれば「可能性としてゼロじゃない」だけであって。

 現実的に考えてどこまでもゼロに近い奇跡みたいなもの。

 こんな現実離れしたダンジョンなんだから、そういった奇跡が起こってくれても良いと思うんだけど。



 ともあれ、もう狩れる魔物を延々狩って明るくレベルアップ計画している場合では無くなってしまった。早急に新しい武器を求めて迷宮内を隅々まで探索する必要がある。


 若干今後の見通しに不安を覚えつつも、俺は腰をあげ未探索エリアの探索に向かった。



◾️◇◾️◇◾️◇◾️◇◾️◇◾️◇◾️◇◾️◇◾️◇




「うおらああああああああ!!!!!!!!!」


 オレ、スケルトンコロス。

 スケルトン、シヌ。ツギ、コロス。


 俺が襲撃した骸骨集団が盾を構え後退する。

 心なしか震えている気もするけど、多分、気のせい。


 オークから殺して奪った(ドロップ)した棍棒を振るう。


 折れた直剣?

 あいつは置いてきた。

 最早剣身が崩壊して武器としての体裁を保てなくなったからだ。

 これからの戦いにはついてこれそうもなかった。

 散々お世話になったので丁重に埋葬した。

 石床を砕いて掘った簡素な墓だったが。

 

 

 スケルトン数体が盾で受け切れない衝撃を受けて吹っ飛ぶ。



 彼ら雑兵(歩兵スケルトン)の背後では甲冑を着たスケルトンが全力で逃げている。

 その手には━━緑色の不思議な光を放つ剣が握られている。


 それ、よこせ。


 それは俺の物だ。


 早くよこせ。


 早く。


 戦国で無双するゲームみたいにスケルトンの群れを処していく。

 スケルトンに殴打武器を使うのはRPG(ゲーム)の鉄則ぅ!!

 ホントに面白いように殺せる。

 やっぱり鈍器は神。


 数十と居たスケルトンが目に見えて減っていく。

 そして逃げ切れないと悟ったのか甲冑スケルトンが迎撃の構えを見せる。


 そうだよ、逃げるな。

 ちゃんと戦え。

 そして……その剣を……よこせッッ!!


「━━━━━━!!!!」


 甲冑スケルトンが叫ぶ。

 何と言っているかは分からない。

 だが「ころせー!」とか「敵を討てー!」とか大体そんなところだろう。



 望むところだ。

 さっさとかかってこいや!!



 スケルトンヲタタク。

 スケルトン、コナミジンニナル。


 スケルトン、タタク。

 スケルトン、シヌ。ツギ。


 スケルトンの波を俺という矢が裂いていく。

 そして遂に甲冑スケルトンと相対した。


「━━!!」


 甲冑スケルトンの剣がその光を強めていく。

 緑色の不思議な光が回廊を染めていった。

 そしてその光が刃となり、無数の斬撃が走っていく。

 床や壁に無数の斬線が走り、その暴威を物語っている。

 

 うん、多分死んでたね。

 3ヶ月前の俺だったら瞬殺されていたと思う。

 でもね、出会うのが遅過ぎた。

 全部見えてるし避けれられるわ、雑魚が。


 光の斬撃を見てから回避。

 化物と化した身体能力、そして回避スキルの恩恵で最低限の動きで掻い潜る。

 甲冑スケルトンの顎が半開きになっている。驚いてるみたいだ。


 お前は雑魚。

 雑魚だよなあ?

 お前みたいな雑魚にはそんな剣、もったいないよなあ?

 ありがたく思え、俺が大事に使ってやるよ。


 棍棒を甲冑スケルトンの頭に叩き込む。

 甲冑スケルトンはスケルトン達のボス的な存在なのか一撃では砕けなかった。

 だが、あまりの衝撃に剣を握る右手の力が緩んだのか?

 その剣を手放してしまった。


 そこからは一方的だった。

 身を丸め身体を守っているスケルトンを殴る!殴る!殴る!殴る!




 動かなくなるまで……殴り続ける。




 そして遂にスケルトンの頭蓋骨が完全に砕けた。

 頭蓋骨の中にあった紫紺の魔石が露出する。

 俺はそれを放置して、スケルトンの持っていた剣を手に取った。


 綺麗だ……。

 遠目には緑色に見えていたが間近に見るともっと複雑な色合いをしている。

 青、銀、緑、黒、紫。

 様々な色を含んでいてまるで小さな宇宙のよう。

 甲冑スケルトンが手に持っていた時には緑色の光を放っていたが、今は光を放っていない。


 ふむ。

 光るのには何らかの条件があるのだろうか?

 よくある物語だと魔力を込めるとかよくあるけど……。


 試しに剣に対して力を込めるイメージで強く握り締める。


 ん?少しだけ光った?

 本当に極僅かではあるが、剣が薄く光を放ち始める。


 それからしばらく続けてみたが、それ以上の進展は無かった。

 これは今後の課題になりそう。

 まあいいや、とりあえず剣を手に入れるという目標は達成した訳だし。


 そうだ……あれを買っておかないと。

 俺はスマホを素早く操作してそれ(・・)を購入する。


 操作が終わると目の前に剣帯付きの鞘が現出した。

 剣を納めていると剣の鋭さの維持、そして傷を再生してくれる優れもの。


 これを見つけたの、最初使ってた剣が折れてしまった後だったんだよね……。

 あと再生効果は折れた剣を再生させるのは流石に無理みたい。商品説明にきちんと注釈がされていた。


 折れる前にこれを見つけていれば剣なしの危険な探索行をする必要はなかった。

 今後はショップのマジックアイテムをきちんと把握して後悔しないようにしないと。


 新しい相棒を手にし、ダンジョン探索を続ける。

 ここで目覚めて約3ヶ月、ようやく探索が軌道に乗り始めた。




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