魔王ルキナとの邂逅①
八戦神達を撃破し、天界への仕込みを行ったシルヴィス達一行は魔王ルキナに会うために、魔王の居城へ向けて出発した。
その途中で八戦神達の蛮行により、虐殺された魔族達を埋葬したために、王都エリュシュデンへは思いの外時間がかかった。埋葬がなければ一週間ほどで到着したはずであったが、到着したのは八戦神を撃破して十日後であった。
「おおっ!! これはすごい規模ですね!!」
ヴェルティアが馬車の窓から見る王都の様子を見て感嘆の声を上げるのも当然であった。
王都エリュシュデンは正面の門をくぐるとまず大路の幅の広さに驚かされるのは間違いない。幅三十メートル程の大路が王城まで続いており、それがずっと舗装されており、両端には街路樹が植えられそれがずっと続いている。
「確かにこれは見事ですね」
ディアーネも感嘆の声をあげている。
「この王都の繁栄を見れば、エルガルド帝国を侵略するメリットはないな」
シルヴィスの言葉にヴェルティアが興味を示した。
「エルガルド帝国って、魔族よりも規模が小さいんですか?」
「そうだな……小さいと言うよりも所々で一歩及ばないという印象だな。例えば舗装された床石だけど」
シルヴィスが舗装に使われてる石を指さすとヴェルティア達は地面に視線を向ける。
「きちんと平面になってるから馬車の揺れが明らかに減ってるだろ? エルガルド帝国の帝都の方も舗装はされてるんだが、結構デコボコしてるんだ」
「細部に神は宿るというやつですね!! こういうちょっとした所に国のレベルって現れますからね。そこから考えるとこの国の国力はとても高いですね」
「お、まさかヴェルティアがまともな返答をするとは思わなかった」
「ふっ当然です。私は皇女ですよ。この程度の返答は当然なのですよ。はっはっはっ!!」「見直したぞ。まさか吹き飛ばすしか能力の無い破壊神と思ってたから、お前からそのような知性溢れる見解を聞けるとは思ってなかったよ」
「ふふふ、ようやくシルヴィスも私の知性を認めるに至りましたか。私は心配してましたよ。イタッ!!」
ヴェルティアが痛みを訴えたのはシルヴィスがヴェルティアの額をペチリとはたいたからである。ヴェルティアの頭をはたくことが出来るのは、家族以外で言えば世界広しといえどもシルヴィスくらいである。
これは単にシルヴィスの技量が優れているだけでなく、ヴェルティア自身もシルヴィスに対して気を張っていないことが理由に挙げられるだろう。現在の二人は恋愛感情とまではいかないが、少なくとも背中を預ける事の出来る信頼関係を構築している。
ディアーネやユリからすれば、これは大きな進歩であった。ヴェルティアはいままで背中に庇う事は多々あったのだが背を預け合うという相手にはいなかった。ディアーネもユリもヴェルティアにとって信頼できる者達ではあったが、背を預け合うという所まではいかなかったのだ。
「まったくシルヴィスは困ったらすぐ暴力に訴えますね。そんなことでは知性を伸ばすことは出来ませんよ。私のように常に動じない鋼の意思をもたねばならないのです」
「お前はバカは論破できないという言葉を知ってるか?」
「もちろん知ってますよ。まぁ私には無縁の言葉です!!」
「うん、その認識の違いが世の中を豊かにするんだな」
シルヴィスの声には達観した響きがあった。
「まったく同感です!! いや~シルヴィスがそこまで考えているなんて……私はシルヴィスの成長を嬉しく思いますよ!!」
「お前は誰目線なんだよ」
「もちろんヴェルティア目線です!!」
自信満々に答えるヴェルティアにシルヴィスはついつい笑みが漏れた。ヴェルティアの前向きさはシルヴィスにとって決して不快なものではない。ヴェルティアとのやりとりもシルヴィスにとって楽しい時間であるというのも確かだ。
(お二人ともこのやりとりが増えてきたわね)
ディアーネは二人のやりとりに心の中で呟いた。
(このやりとりはまだまだ甘い雰囲気はないけど、お互いに楽しんでいるのは感じるのよね……おそらくちょっとしたことで意識し始めるようになるんでしょうけど、ここは下手につつくといけないですし……まぁ、最終的にはあれ使えばいいですものね)
ディアーネは表面上はすましているが、中々黒いことを考えている。もちろん、ヴェルティアのためにならないのならばシルヴィスと結びつけようとは、ディアーネも思わないし、ヴェルティアにその気がないというのならば切り札を使うつもりはない。
「まぁ……焦らなくても時間の問題ですよね」
ディアーネの呟きにヴェルティアは不思議そうに首を傾げた。
「どうしたんです? 焦るような事はありませんよ!! 落ち着いて事に当たれば大抵の事は上手くいくものです!!」
「お前はどうしてそんな考えを持っているのに落ち着く事ができないの?」
「え? 私ほど落ち着いている淑女はいないですよ?」
「確かにお前のような淑女は少数派だと思うぞ」
「ふっふっふっ、シルヴィスもついに私を淑女と認めましたね」
「そうだな~」
例によってヴェルティアの前向きな発言によりシルヴィスが気のない返答をおこなう。
「ふふ、お二人ともあんまり仲の良いところを見せつけないでください。まるで恋人みたいですよ」
ディアーネは下手につつくつもりは無かった為に静観しようと思っていたのだが、少しばかりはつつく事にしたのだ。別の言い方をすれば『からかう』事にしたのだ。
「なるほど……そう見えましたか!! 私の美貌がシルヴィスを狂わせていたのですね。大丈夫ですよ!! 私もシルヴィスの事は大好きですから。私の心を射止めることが出来るように頑張ってくださいね!!」
「どうしてそうなる!?」
ヴェルティアのあまりにも凄まじい論理の飛躍にシルヴィスは焦っていた。
(おやおや……シルヴィス様の反応……少し以前とは違いますね。ヴェルティア様も以前はこんな感じではなかったですよね。以前なら『心を射止めることが出来る』なんて言わなかったわ)
二人の反応にディアーネは二人の気持ちが少しばかり近づいているような気がした。
ガタン
その時、馬車が止まった。
御者台の窓が開くとユリが三人に声をかけた。
「みんな、王城に着いたよ。キラトさん達が衛兵に話しかけているから、降りるよ」
ユリの言葉に三人は頷くと扉を開けて馬車を降りる。目の前には黒い石材で建てられた城壁が広がっていた。
「これは荘厳だな」
シルヴィスの言葉に三人は頷いた。




