閑話 ~ディアンリアの暗躍~
「ミラスゼント」
「はっ」
ディアンリアが部下を呼び出すとミラスゼントと呼ばれた男が短く答える。
「お前に仕事を頼みたい」
「承知いたしました。誰を消せと?」
「エルガルド帝国皇帝ルドルフ」
「承知いたしました」
ミラスゼントの即答に動揺は一切見られない。神であるミラスゼントにとって、エルガルド帝国の皇帝の暗殺という仕事など動揺するような難易度ではない。
「ただし、一つだけ条件がある」
「はっ、なんなりと」
「ルドルフを暗殺する際にこの者の姿で行いなさい」
ディアンリアそう言うと空間にシルヴィスの姿が浮かんだ。
「この者ですね。承知いたしました」
「ふむ、この者にエルガルド帝国の憎悪が向かわねば意味が無いですからね」
「はっ」
ミラスゼントはそう言うとシルヴィスの姿へと変わった。
「これで良いでしょうか?」
ミラスゼントの言葉にディアンリアは静かに頷く。
「ふふ、相変わらずそなたの現し身は見事なものよ」
「もったいないお言葉」
ミラスゼントはシルヴィスの声で恭しく答えた。
「そうそう。仕事はレンヤ達が帝都を離れた際に行いなさい」
「……は」
ディアンリアの提案にミラスゼントの声が僅かに曇る。その曇りはミラスゼントの誇りが傷付けられた事を示したと言えるだろう。
ディアンリアもそれには当然ながら気づいたのだろう、歪んだ笑みを浮かべつつ口を開く。
「ふふ、お前にレンヤ達を始末されれば困るのでな」
「は……失礼いたしました」
「よいよい。お前が誤解するのも仕方ない。言葉足らずであったわね」
「もったいないお言葉」
「あの者達には多くの魔族達を葬ってもらわねばならないのよ」
「では魔王ルキナはその者が?」
「ええ。そしてお前が姿の男もな」
「この者……ですか?」
「ええ、その男は八戦神と数々の天使達を討った」
「まさか……アルゼス達を討ったのが人間だったとは、てっきり剣帝キラト達と……」
ミラスゼントの言葉に僅かな驚きがあった。
「もちろん、剣帝達も助力したであろうな。だが、シルヴィスの力も軽視することはできない」
「承知いたしました」
ミラスゼントは一礼するとフッと煙のように姿を消した。
「ふふ、ミラスゼントならば確実……シルヴィスの居場所はもはや人の世界にはなくなるわね。いっその事、魔族の重鎮達もこの機会にやってしまおうかしら」
ディアンリアはそう言って冷酷な笑みを浮かべた。神族至上主義のディアンリアにとって他種族など自分達の欲求を満たすだけの存在でしかないのだ。
「ヴォルゼイス様も魔族の重鎮の始末を命じてくれれば……シルヴィスの居場所を魔族からも無くしてみせるというのに」
ディアンリアは、ヴォルゼイスが魔族の重鎮の暗殺をソールに、そして魔王ルキナの暗殺をシオルに命じたことは知らない。もし知っていれば、ディアンリアは激しい嫉妬の感情にとらわれることであろう。
「ふ、まぁいいわ。シルヴィス……神を甘く見た事の結果を……ん?これは」
ディアンリアの悦に入った声は何者かの気配を感じたことで中断された。
「これは……弱いがシルヴィス……の気配?」
ディアンリアはシルヴィスと他の三体の気配を感じてがたりと立ち上がった。下界ではなく天界においてシルヴィス達の気配を感じるという状況にさすがのディアンリアも驚きを隠せなかった。
「なぜ……やつが天界に……」
ディアンリアはシルヴィス達の気配の近くにいる天使達の命が消えていくのを感じていた。
「おのれ!! あのクズ共がこの天界に土足で踏み込むとは!!」
ディアンリアは激高し討伐に向かおうとした時に強烈な気配がシルヴィス達に対峙しているのを感じた。
「これは……シュレンか? ふん、忌々しい者達同士つぶし合えば良いというものだな」
ディアンリアはシルヴィス達にヴォルゼイスの息子であるシュレンが対峙したことにニヤリと嗤う。
ディアンリアはシュレンの存在が気にくわない。偉大なるヴォルゼイスの息子という立場のために自分よりもヴォルゼイスに大切にされているのが気にくわないのだ。
また、シュレンはシオルの弟子であり、尊敬していることも気に入らないことの理由である。
それから程なくしてシルヴィス達の気配は消えた。
「ちっ……どこまでも忌々しい」
ディアンリアはシュレンが何の問題も無くシルヴィス達を撃退した事に対して舌打ちを行った。
(シルヴィスとシュレンを何とかつぶし合わせることは出来ないものかしら……)
ディアンリアの表情はその美しい容貌を消し去るほど醜く歪んでいた。




