仕込み②
「行ったか」
「ああ」
天使達が二台の馬車が完全に見えなくなって天使達が村に現れた。
シルヴィス達は被害者の村人達は手厚く弔ったが、八戦神や天使達の亡骸はそのまま放置されてた。
「まったく酷い有様だ……」
「ああ」
「まさか八戦神や天使長が敗れるなんて」
「これからどうなるんだろうな」
天使達の表情も声も明るさとは無縁のものだ。八戦神はシルヴィス達に惨敗したが、これは八戦神が弱いのではなくシルヴィス達の戦闘力が異常に高すぎるのである。
その証拠に、天使達の口から八戦神や天使長への人間や魔族に敗れた神族、天使の面汚しという言葉は現れていない。
「見つかったら、殺されるな……」
一体の天使がポツリと呟いた言葉がシルヴィス達への恐怖を存分に語っている。もはや天使達の中にシルヴィス達は出会ったら命を失う災禍でしかない。
「おい、一刻も早く仕事を終えて帰ろうぜ。いつあいつ等が襲ってくるかもと思うとたまらないぜ」
「そうだな。早くしようぜ」
天使達の妙に上ずった声に反対する者など誰もいない。確かに馬車は去って行ったが、自分達の気配を察していつ戻ってくるかと思うと恐ろしくて仕方が無い。
「八戦神の方々を先に回収しよう」
「ああ」
指揮官の天使が命令を飛ばすと天使達が一斉に八戦神と同僚達の亡骸の回収を行った。
「これはどうします?」
天使が指し示したのは、二体の人間の死体であった。もちろん、軀の最後の生き残りの死体である。シルヴィス達の埋葬の対象外であったためにそのまま放置されていたのだ。
「……放っておけ。私達の仕事は八戦神の方々と同胞の亡骸を弔うことだ」
「はい」
指揮官の言葉に天使は異を唱えるようなことはしない。これは人間蔑視というだけでなく回収する死体の数が多すぎるために、これ以上の回収は御免被るという気持ちから来るものであった。
「よし、引き上げるぞ」
指揮官の命令に天使達は頷くと一斉に転移を行い村から天使達は引き上げた。
* * * * *
「回収は終わったみたいだ」
「やっぱり気づかなかったみたいですね。シルヴィスの悪辣さに対抗できる者は神であっても難しいという……アイタッ!!」
「すまん手が滑った」
「手が滑ったんですか? じゃあ仕方ないですね~シルヴィスは本当にウッカリさんなんですから」
「なんだろう……すごくイラッとするんだが?」
「そんな時は美味しいモノを食べて、ぐっすり寝るに限ります!!」
ヴェルティアの言葉にシルヴィスはかなり的外れなアドバイスを送っている。シルヴィスはジト~とした眼でヴェルティアを見るがヴェルティアは視線を察するとニパッとした笑みを浮かべた。
「うんうん、やはり私のアドバイスは一級品ですね~さぁ、褒めてください!!」
「あ~本当に偉いな……」
「はっはっはっ!!そうでしょう!! そうでしょう!!」
ヴェルティアは嬉しそうに言い放つ。その様子は本当に嬉しそうでシルヴィスもついつい呆れながらも笑ってしまう。ヴェルティアの笑顔と明るい声は意図の鬱屈した気分を吹き飛ばす力があるのは確実だ。
「それでシルヴィス、いつ始めるんですか?」
「そうだな……警戒が緩んだときだな」
「すると夕食をとってからですね」
「どうしてそうなる?」
「大抵その時間ってみんな気が緩みますよ」
「お前って時々すごく賢さを見せるよな」
「当然です!! 皇女ですからねぇ~」
「問題はあちらの夕食の時間がいつかわからないことだな」
「細かいことは気にしないで良いのではないですかね」
「やっぱそうなるか」
ヴェルティアの提案にシルヴィスは納得の表情を浮かべていた。相手の生活サイクルが全く分からない以上、悩んでも仕方が無いというものだ。
「そういうことです。悩んでも無駄なモノは無駄ですからこっちの都合で動くとしましょうよ」
「だな。既に目的の大部分は達成してるからな」
「そういうことですよ」
シルヴィスとヴェルティアはそう言って互いに頷いた。
それから数時間後に夕食を終えたシルヴィス達は仕込みを発動させた。




