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チートを拒否した最強魔術士。転移先で無能扱いされるが最強なので何の問題もなかった  作者: やとぎ


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密命②

「入るぞ……」


 シオルがヴォルゼイスの玉座の間に返事も待たずに入る。シオルにのみ許された特権である。


「早かったな」


 ヴォルゼイスは玉座に肩肘をついて不敵な表情を浮かべている。


「私を呼んで何をやらせようとしている?」

「お前以外には達成不可能なことだ」

「魔王ルキナを消せ……か」


 シオルの言葉に気負うものはない。永劫の時を共に歩いてきた二柱にとって最低限のやりとりで意思が疎通が可能であった。


「やつは強い。勝てるとすれば俺かお前か……だ」

「数でかかれば討ち取ることが出来るかもしれんぞ」

「心にもないこと言うな。やつは俺たちと同じだ。弱者が束になったところで無意味だ。そうだろう?」

「……」


 シオルの沈黙にヴォルゼイスは鋭い視線を向ける。


「魔王ルキナを消さねばならぬようになったのは……」

「あの少年達……というわけか」


 シオルはヴォルゼイスの言葉を遮って言う。本来であれば決して認められない非礼ではあるが、この場は二柱だけであり咎める者はいない。


「そうだ。シルヴィス達という特異な存在が現れたことだ」

「だが、こちらにたどり着くのを待つという話ではなかったのか?」


 シオルの問いかけにヴォルゼイスは静かに首を横に振った。


「俺も最初はそう思っていた。だが、シルヴィス達は俺の千里眼(イグトーラ)を防ぐ程の結界を張った」

「何? お前の千里眼(イグトーラ)を……」

「そうだ。シルヴィス達はそれだけの実力を持っている相手と言うことだ」

「……それ故にお前は同格(・・)の相手として接するという訳か」

「そういうことだ。そのためにシルヴィス達の仲間となっている魔族達の力をまず削ぐことにした」

「それが魔王を討つ理由か……」

「そうだ……不満か?」


 ヴォルゼイスの問いかけにシオルは静かに頷いた。


「本心を言えばな。俺たちは人族、魔族に干渉すべきではないというのが俺の意見だ」


 シオルは静かな声でヴォルゼイスに言う。シオルの声には攻撃的なものは一切ない。ただ自分の意見を淡々とヴォルゼイスに伝えているだけだ。


「お前の言うことは正しいのだろうな。本来、人間にも魔族にも知性、折れない心が備わっている。自分達の力で困難を克服する力がある。だがそれを分かった上で、なお俺は干渉する」

「ヴォルゼイス……」

「シオルガルク、俺は今回の件でシルヴィス達と戦うことに心が限り無く躍っているのだよ」

「……だがその喜びは不幸を量産するぞ」

「ああ、これは俺のエゴだ。今回の件で人族と魔族の全面戦争が始まる」

「ヴォルゼイス……」


 シオルの放つ雰囲気が少し変わる。それが殺気とよばれるものであることをヴォルゼイスは感じ取ると小さく嗤う。


「シオルガルク、俺を止めたければ……俺をここで殺すしかないぞ」

「ヴォルゼイス、お前……」


 シオルは背負った剣を抜くとそのままヴォルゼイスの首に斬撃を放った。その斬撃を見切ることが出来る者がどれだけこの世に存在するだろう。それほどの斬撃であった。


 ドガァ!!


「やはり……お前であってもダメだな」


 シオルの剣がヴォルゼイスの首を斬ることなく止まっていた。もちろん、シオルは手を抜いたわけではない。ヴォルゼイスには常時神壁(ギーレンス)という防御陣を展開している。ヴォルゼイスの神壁(ギーレンス)()の力を持って破ることは出来ないのだ。


「……く」

「そう、つらそうな顔をするな。仕方の無いことだ」


 ヴォルゼイスは小さく笑う。自嘲気味な笑いにシオルの顔が曇る。


「お前は俺の本当の望み(・・・・・)を知っているな……」

「ああ、もちろんだ」

「だからこそ、俺はシルヴィス達と戦うのだ。全身全霊をもってな。ありとあらゆる手を使う」

「……わかった。俺が魔王を討とう」


 シオルは剣を納めるとクルリと後ろを向いた。


「そうだ。ヴォルゼイス、お前の望みが叶ったら……シュレン様はどうなる?」


 シオルの問いかけにヴォルゼイスは僅かながら動揺した。その動揺の気配をシオルは察するが、それを口にするようなことはしない。


「あいつは俺の息子だ。人間や魔族同様に困難に打ち克つ力を持ってる」

「そうか……下らん問いかけだったな」

「シオルガルク」


 ヴォルゼイスに呼び止められたシオルは振り向く事無く足を止めた。


「許せとは言わん。だが、礼は言わせてもらう」

「かまわん……俺も背負うつもりだ」


 シオルはそのまま振り返ることなく歩いて行った。


(シオルガルク……お前の望みを叶えてやることは出来ない俺を許してくれ)


 ヴォルゼイスの表情に一瞬だけ悲しみが浮かぶがすぐに冷酷なものへと変わった。

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