密命①
「アルゼス達がやられたか……」
ヴォルゼイスは呟きながらニヤリと呟いた。
「……肝心な戦いは見ることが出来なかったな。あの結界を張ったのは……シルヴィス君かな? ヴェルティアちゃんかねぇ?」
ヴォルゼイスは、シルヴィス達と八戦神の戦いをリアルタイムで見ようと思っていたが、自分が千里眼で観戦しようとした時には既に結界が張られており、ヴォルゼイスの千里眼をもってしても結界内を見ることが叶わなかったのだ。
「どちらにしても……私は見誤っていたようだ。彼らは玩具などではなく敵であったな」
ヴォルゼイスの口には自然と笑みが浮かんでいた。
「ふふ……まさか……我が命を脅かすような敵がここまで心躍るものとはな」
ヴォルゼイスは心が踊るのを止めることができない。絶対者として長く君臨してきたことがいかに自分の心から活力を奪っていたのか思い知らされた気分であった。
「さて、それではやるか……おい」
ヴォルゼイスは笑みを消すと冷酷な表情を浮かべ僕を呼ぶ。
「はっ……」
音もなく一柱が現れた。
その神は秀麗な容貌を持ってはいるが、放つ雰囲気が禍々しぎる。その神が薄く嗤う。ゾクリと不吉な冷たさを感じさせる嗤みだ。
「ソール、アルゼス達が敗れた。このことは知っておるな」
「もちろん。存じております」
「どうやら私は彼らを侮りすぎていたようだ」
「そのような事はございますまい」
「ふ、いらぬ気遣いは無用だ。お前に仕事を頼みたい」
「その者達を消せ……と?」
ソールはヴォルゼイスの真意を探るように尋ねる。ヴォルゼイスは静かな笑みを浮かべて問いに答える。
「いや、消すのは。三人だ」
「三人……でございますか?」
「そうだ。一人目は軍規相ガルエルムだ」
「魔族の……軍務の最高責任者ですか。それは大仕事ですね」
「ああ、二人目は第四軍団長スティル」
「第四軍団長……ですか? 確かにスティルは剛の者として有名ですが……なぜ第四軍なのですか?」
「不満か?」
「不満と言うよりも疑問です。なぜという疑問を解消させていただけると助かります」
「ふむ、第四軍団長スティルはムルバイズの息子であり、ジュリナの父親だ」
「それは存じておりますが……」
「ふふ、わからぬか? ムルバイズとジュリナは現在剣帝キラトの側近だ。その身内が殺されたとあればキラトは当然犯人を追うだろうな」
「そして剣帝キラトを消せと……?」
「そうだ。お前に三人を消してもらえば魔族達の勢力をかなり削ることが出来る」
ヴォルゼイスの言葉を受けてソールは静かに頭を垂れた。
「承知いたしました。軍規相ガルエルム、第四軍団長スティル、剣帝キラトは私の手で始末いたします」
「期待しているよ。ソール」
「はっ!! お任せください」
ソールは言い終わると煙のように姿を消した。
「さて……次は……」
ヴォルゼイスは思念を飛ばすと即座にディアンリアが現れた。
「ヴォルゼイス様、ディアンリア参りました」
「うん。ご苦労」
「いえ、ヴォルゼイス様のお召しとあらば」
「ふふふ、ディアンリア、君の働きには満足しているよ」
「もったいないお言葉」
ディアンリアは深く頭を上げる。
「アルゼス達が敗れたのは知っておるな?」
「……はい」
「ここらでちと救世主達をつついておこうと思ってな」
「つつくとは……?」
ヴォルゼイスの言葉の意図がわからないディアンリアは困惑の表情を浮かべた。
「簡単な事だ。ルドルフを殺せ」
「……え? ルドルフを……?」
「そうだ。当然だが、ルドルフの暗殺は魔族が行う。この意味が分かるな?」
「魔族への敵愾心を……煽る……ですか?」
ディアンリアの返答にヴォルゼイスはニヤリと嗤う。
「そういうことだ。いいか。確実にルドルフを殺せ」
「しかし、それでは……人族と魔族の全面戦争となります」
「そうだが?」
ヴォルゼイスの返答にディアンリアは息を呑んだ。
「ディアンリアよ。お前は人族達を直接支援せよ。期待して良いな?」
「も、もちろんでございます!!」
ヴォルゼイスの口調も優しげである。だが、ディアンリアは震えを抑えることが出来なかった。今までのヴォルゼイスが人族と魔族を争わせる際には全面戦争にならないようにしていた。だが、今は全面戦争をあっさりと選択した。その心変わりをもたらしたのが何か分からない。それが何よりもディアンリアには恐ろしい。
「すべきことはわかったな? いけ」
「はっ!!」
ディアンリアは体の底からくる震えを全力で押さえ込みながら転移する。
「さて、次が最後だな……最もやっかいだが、あいつ以外には無理だな」




