シルヴィス①
「さて、終わったな」
シルヴィスは周囲を見渡して何でも無いような口調で言う。そこには勝利の歓喜も何もない。
シルヴィスにとって今回の戦いは戦う術を持たない者達への蹂躙をした神達への成敗という意味合いが強く、シルヴィスが敬意を持つに値しない者達との戦いのために心躍るような事はなかったのだ。
「そうですねぇ。まぁ完勝でしたね」
「負ける要素はないからな」
「確かに負ける要素はなかったですね。色々と拙い技術しか持っていませんでしたものね」
「ああ、生まれた頃から強者だったから、わざわざ武を磨かなくても生き残れたんだろうな」
「それは言えますね」
シルヴィスとヴェルティアがやりとりをしていると、キラトが声をかけてきた。
「シルヴィス、ちょっといいか?」
「なんだ?」
「お前は何者だ? 人間じゃないのか?」
「俺は人間さ。まぁ、と言っても信じられないだろうから後で話す。まずは……」
シルヴィスは吊された魔族の村人達の亡骸に視線を移すとキラトも、シルヴィスの意図を察して頷いた。
「そうだな。まずは弔うのが先だな」
キラトの言葉に全員が頷くとまずは吊されている魔族達をおろしてやる。 全員を地面に下ろすとシルヴィス、キラト、リューベが穴を掘り、魔族達を埋葬する。本来は一つ一つの穴を掘って埋葬するのが礼儀というものだが、幼子や乳幼児が寂しがると哀れという感情から一つの大きな穴を掘り、埋葬したのだ。
「やりきれないわね」
「ああ、神達がゲスなのは知っているが、許せんな」
リネアとキラトの苦い言葉に他のメンバー達も沈痛な面持ちだ。
「きちんと聞かなきゃならんよな」
キラトの呟きに漣のメンバー達も頷いた。シルヴィスが天使長アグナガイスを一蹴する前に見せた紋様は自分達魔族に似たものでもあり、神にも似たものだ。
(人の身で魔族と神族の力を取り込めば間違いなく死ぬはずだ……つまり、シルヴィスのあの力は後天的なものではない)
人の身で、魔族と神族の力を取り込めば、人の身では耐えることは不可能なのだ。もちろん異世界から来たシルヴィス達に自分達の常識が当てはまるかはわからないが、人間も魔族も神族も大差はないだろう。
埋葬を済ませたシルヴィス達は一息つく。キラトが口を開く。
「シルヴィス、お前は前に孤児と言ったな」
「ああ、まぁ正確には捨て子だよ」
「ひょっとしてお前の特異さが原因か?」
「察しが良いな。大体分かってるみたいだな」
「完全に推測だ。話したくなければ話さなくてもいいぜ」
「いや、秘密にするような話でもないし、それに話したからと言って俺への対応がよそよそしくなるような連中でもないな」
シルヴィスの声に悲壮感はない。むしろ告げる相手への信頼がある。だからこそ、シルヴィスは自分の身の上を話すつもりになっているのだ。
「俺は人間だ……。だが先祖はそうではないらしい」
シルヴィスの言葉に全員が首を傾げた。
「俺の先祖にたまたま、神族と魔族がいたんだと思う」
「ん? でもそれでシルヴィスが神と魔族の力を使えるのはどうしてですか? シルヴィスの話だと両親は人間なんでしょう?」
「よくはわからんが“先祖返り”ってやつだと思う」
「先祖返りですか!! なるほどなるほど。うんうん。わかりましたよ」
「お前本当に分かってるか?」
シルヴィスの怪訝そうな視線を受けてヴェルティアは心外だという表情を浮かべた。
「あ、当たり前じゃないですか!!」
「ほう、どういうことだ?」
「え~と、先祖返りです!! 先祖返りなんですよ!! うんうん」
「シルヴィス様、あんまお嬢をいじめないでくれよ」
「わかっていませんね。ユリ、あれがシルヴィス様なりの愛の示し方なのです」
「「え?」」
シルヴィスとヴェルティアの呆けた声に一同は笑う。絶対的な強者の二人ではあるが、戦い以外においては明らかにいじられることが多々あるのだ。
「とにかく、俺は神族と魔族の力が使えるの」
「後天的に身につけたわけでなく生まれ持った力だから。耐えれるということで良いのか?」
「さぁ……?」
「さぁ……って、随分と雑だな」
「そんなこと言われてもな。誰も確かな事はわからん。これもお師匠様からの受け売りなんだ」
「そのお師匠様が色々と教えてくれたわけか」
「ああ、変な方だったけど俺にとっては最高の師匠だよ」
「そっか、お前ほどの実力者に育てるなんて、相当なものだな」
キラトの言葉にシルヴィスは大きく頷いた。
「シルヴィスのお師匠様は誰なんです?」
「キーファ=レンゼントだ」
「キーファ=レンゼント!? シルヴィスのお師匠ってあのキーファ=レンゼントなんですか!?」
ヴェルティアの驚きの声を上げる。ディアーネとユリも同様に驚いているようであった。
(シルヴィス達の世界で有名人のようだな)
ヴェルティア達の反応にキラト達は即座に思う。
「でも、シルヴィスの戦いに対する姿勢とは随分と違ってますね」
「まぁな。お師匠様は甘い方だったからな」
シルヴィスの表情に苦さと尊崇の入り交じった複雑な表情で語り始めた。




