無能判定③
魔法陣の上に浮かんだ宝珠を見てラフィーヌが聖女然とした微笑みを浮かべて言うと、レンヤがまず進み出た。
(こいつ……正気か? どんな怪しい術が仕掛けられてるかわからんというのに)
シルヴィスは表面上に出すような事はしないが、レンヤの危機意識のなさに呆れてしまう。
(こいつはひょっとしたら、ものすごく平和で安全な世界から来たのかも知れないな)
シルヴィスはレンヤの今までの生活を思うと羨ましくもなる。それは自分が今まで生きてきた道とは明らかに異なったものだからだ。
(しかし、こいつらはそんな幸せな生活を奪ったというわけだ)
シルヴィスの不快感はもはや例えようもないレベルで上がっていく。シルヴィスは他者の幸せ、尊厳を踏みにじろうとする者への嫌悪感は凄まじいものがある。
それはシルヴィス自身が踏みにじられてきたという経験から来るものだった。だからこそ、彼は強くなるため、侮られぬために強くなるという選択肢を採ったのだ。
「それじゃあ」
レンヤは球体に手を触れた瞬間にまばゆい虹色の光が周囲に放たれた。
「こ、これは!!」
「す、すごい!!」
ラフィーヌを始め周囲の者達から驚愕の声が発せられた。
「あの……? 俺の適性は?」
レンヤが戸惑いながら尋ねるが、ラフィーヌ達の反応から相当な高評価を得ていることを確信しているようでもある。
「あ、失礼いたしました。虹色は、剣、槍などのあらゆる武器の扱い、魔術、治癒術などの適性です」
「おお!! チートってやつだ!! やったぁぁぁ!!」
ラフィーヌの言葉にレンヤは大げさなくらい大声で喜びを表現している。
「それでは、ヴィルガルド様」
「ああ」
ラフィーヌは次にヴィルガルドを指名し、一歩進み出ると宝珠に手を触れた。
すると宝珠は先ほど同様に赤い光を周囲に放った。
「おお!!」
「戦士の色だ!!」
「やはりか!! ヴィルガルド様の出で立ちなら当然だ!!」
周囲から歓声が上がる。特に大きい歓声を送っているのは騎士達であった。
「なるほど、俺は戦士というわけか」
「はい。ヴィルガルド様のおっしゃるとおりです」
「まぁ、悪い気はせんな」
ヴィルガルドはそう言って宝珠から離れた。
「次は私がやるわね」
ラフィーヌの言葉を待つことなくエルナが言うと、そのまま宝珠に触れた。すると宝珠は青い光を周囲に放った。
「やはりエルナ様は魔術だ」
「ああ、あれほどの光を発するなんて流石だな!!」
「すばらしい!!」
またも歓声があがる。
「よし!! 私は魔術ね。よかったわ!!」
エルナは嬉しそうな表情を浮かべて喜んでいる。魔術師である彼女からすれば魔術の祝福がどうしても欲しかったのだろう。
「やはりエルナ様は青でしたか」
ラフィーヌは満足そうに微笑みながら頷いた。
「最後はシルヴィス様になります」
ラフィーヌの言葉にシルヴィスは頷くと宝珠に手を伸ばす。
(ま、光ることはないだろうな)
シルヴィスはそう確信していた。
そして……シルヴィスの予想通り宝珠は一切光ることはなかった。
「え?」
「どうしたんだ?」
「どういうことだ?」
周囲から戸惑いの声が発せられた。シルヴィスがラフィーヌを見ると、ラフィーヌもこの展開は予想外だったのだろう、明らかに戸惑っているようであった。
「これは……一体……?」
ラフィーヌの戸惑いが周囲にどんどん広がっていく。
(ま、光るわけないよな)
シルヴィスは宝珠が光らなかった事は当然だと考えていた。召喚される際に自分の中に入り込もうとした不快な感覚をシルヴィスは、弾き飛ばしている。今にして思えばあれこそが祝福であったのだ。
祝福がなかったからこそ、この世界に来た当初、ラフィーヌ達の言葉がわからなかったのだ。それに対してレンヤ達は最初から会話が成立していたのは祝福の地味な恩恵によるものだ。
シルヴィスは会話の流れで自分が祝福を拒否した事を確信していたのだ。
(さて、俺の扱いをどうするつもりかな?)
シルヴィスは皮肉気にそんなことを考えていた。