そして手を組む①
今回は長くなりすぎたので二回に分けました。
昨日の続きはここからになります。
「神をしばき倒す?」
「ええ、俺は元々神という存在が気にくわない。特にこの世界の神は輪をかけて嫌いだ」
「ほう、そこまでか。それに今この世界と言ったが、君達はこの世界の者じゃない。異世界からの救世主というわけか」
キラトの言葉に苦々しさが含まれる。シルヴィスはその苦々しさが自分に向けられているものではないことは察していたために特段不快になるものではない。
「異世界から召喚されたということはエルガルド帝国はまた戦争を仕掛けてくるわけか」
「遠からずあいつらを陣頭に攻めてきますね。それは間違いない」
「君だけでなく、他にもいるわけか……何人だ?」
「俺以外に三人、十六~七の男と女、二十前後の男だ。若い方の男は素人だが、女ともう一人の男は素人じゃないな。それなりの腕前でしたね」
「そこに祝福が加算されるか」
「ああ、そういえば素人が七色の祝福をもらってたな」
「素人が……あの性悪女がやりそうなことだな。素人を強者にして魔王討伐させましたというわけか。あいつ根っこから腐ってるよな」
キラトの口調に嫌悪感が含まれたものになる。
「それで君はどんな祝福をもらったんだ?」
「俺は拒否しました」
「は?」
「拉致された途中で体に入り込もうとしたから拒否しました。だから俺には祝福はない」
シルヴィスの返答に漣は眼を丸くした。シルヴィスの言葉が衝撃的すぎたのだ。
「……本当だ。この人には祝福がない」
ジュリナの右目に小さな魔法陣が展開され、シルヴィスを見ながら言う。ジュリナの言葉を聞いた漣のメンバーの困惑した様子は、シルヴィスのやった行動がいかに異常かを裏付けるものだ。
「くくく、ははははははは、はぁっはははははっははは!!」
そこにキラトが突然笑い出した。続いて漣のメンバーも笑い出した。
「いやいや、あんたすごいな。そこまでディアンリアを虚仮にしてくれたんだ」
「そうね。あの性悪女、いい気味だわ」
「いやはや、異世界の者はユーモアが効いとるものじゃな」
「性悪女のくやしがる顔、見たかったわ」
「すごいですよ。そこまであの性悪女を虚仮に出来るなんて」
漣の反応にシルヴィス達の雰囲気も自然と和む。
「ああ、ついでに言えば祝福がないという矛盾を隠すために俺は魔王から黒呪という魔王の祝福を受けたという設定になっているみたいだ」
「黒呪?なんだそれ?」
キラトの不思議そうな声と表情にシルヴィスも黒い笑顔を浮かべて言い放った。その様子は本当に楽しそうだ。
「ディアンリア様が必死に残念な頭で考えた言い訳だ。その黒呪を魔王様から先に授けられたから祝福を受け付けることが出来なかったという設定にしたらしい」
「おいおい、それって逆にディアンリアの評価が下がるんじゃないか?」
「普通に考えればね。先に授けられたら手が出せないって逆に言えば、ディアンリアの力は魔王に及ばないと告白したに等しいのだが、エルガルド帝国にしてみればそこは重要じゃないんだろうな。あいつらは神の奴隷だから、神が白と言えば黒も白になる。しかも疑いを持たない。限りなく哀れな生き物だよ」
「言うねぇ」
「これでも穏当に言ってますよ」
「お前さん、穏当の定義を自分を基準に考えない方がいいぞ」
「あの……」
シルヴィスとキラトの会話にジュリナが申し訳なさそうに声をかけてきた。
「どうした?」
「あのキラト様……この人達も祝福がありません」
ジュリナの視線の先にいたのはもちろんヴェルティア達だ。




