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チートを拒否した最強魔術士。転移先で無能扱いされるが最強なので何の問題もなかった  作者: やとぎ


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魔族との邂逅⑪

 ガタゴト……


 ラディンガルドを出立して二日、一行は大きなトラブルもなく魔族の領域(フェインバイス)へと順調に向かっていた。


 予定通りならば、二日後にはエルガルド帝国との国境へと到達する。


 国境といってもエルガルド帝国が勝手に定めているだけであり、ほとんど人は住んでいない小さな砦が設置されているが、そこには正規兵でなく傭兵や囚人兵が置かれている。

 魔族が侵攻を開始したときは、そこの砦に籠もって時間を稼ぐことが任務であった。


 エルガルド帝国にとって魔族との最前線基地とはラディンガルドであり、さらに北方に位置するいくつかの砦は捨て石という扱いであったのだ。


「止まれ」


 二十人ほどの兵士達がシルヴィス達一行を止めてきた。馬に乗っている者がいることを考えると検問中というよりも見回り中の部隊であろう。


「お前ら、ここから先は魔族の領域(フェインバイス)だ。引き返した方が身のためだぞ」


 馬上の兵士がキラトに言い放った。


「お気遣いどうも。俺たちはミスリルクラスの冒険者チームの(さざなみ)です。後ろの方々が魔族の領域(フェインバイス)に用があるということで護衛任務をしているところだ」

「用だって?」


 キラトの言葉に兵士達の視線がシルヴィス達の馬車へと注がれた。御者台にいるユリの姿を見た何人かの兵士達が好色そうな表情を浮かべた。


(さざなみ)か、こう言っては何だがあんた達であっても守り切れるかどうかわからんから引き返した方が無難だぞ」

「何かあったんですか?」

「エミュルグが出やがった」

「エミュルグ……確かですか?」

「食い散らかされたクグークの死体が見つかった。歯形がエミュルグのモノと一致したそうだ」

「そりゃぁ……厳しいですね」

「ああ、正直エミュルグに出会えば俺たちは全滅だ。いくらミスリルクラスとはいえ厳しいだろう?」

「ええ……ですが、俺たちも仕事なんですよ」

「仕方ないな」


 馬上の兵士はシルヴィス達の馬車に向かって歩き出した。


「失礼だが、中の主人に取り次いでもらえるか?」

「ええ、ちょっと待ってくださいね」

「旦那様、奥様、軍の方が……」


 ガチャ……


 ユリが言葉をかけてすぐに扉が開くと、シルヴィス達が外に降り立った。


 ヴェルティアとディアーネの姿を見た兵士達から感嘆の声があがった。ユリ、リネア、ジュリナだけでも男性の審美眼に十分すぎるのだが、さらに二人追加されてしまえば感嘆の声が発せられるのも当然というところである。


「何かご用でしょうか?」


 シルヴィスは柔和な笑顔を浮かべて兵士に問いかけた。シルヴィスの言葉にヴェルティアとディアーネに見とれていたその兵士は我に返ったかのようにシルヴィスに視線を移した。


「実はこの近辺でエミュルグが出たようなんだ。危ないので引き返した方が良い。なんでも魔族の領域(フェインバイス)にどんな用があるかわからないが、物見遊山で命を張ることはないだろう?」

「ご忠告痛み入るが、物見遊山ではないのです」

「何?」

「隊長殿はレグルメントという花をご存じですか?」

「いや……聞いた事は無い」

魔族の領域(フェインバイス)にあるフィグノーグという村の近辺に生息している花で竜鱗病(りゅうりんびょう)に効果があるという話なんです」

「その竜鱗病とやらの薬を?」

「はい……義父がその竜鱗病なんです」


 シルヴィスの話している内容はもちろんウソである。レグルメントとは竜皇国で生息するありふれた花であるし、竜鱗病は竜族のかかる“はしか”のような病気だ。もちろんフィグノーグも竜皇国の一地方の名前である。

 もし、官憲に尋ねられた場合のためにあらかじめ用意していた言い訳だった。


 あらかじめ用意していたためシルヴィスの受け答えには淀みがなく、兵士達も違和感を覚えている様子はなかった。


「本来は冒険者の方々に依頼するのが筋なのですが、何しろ話でしか聞いた事の無いものです。その辺の花を持ってこられて、これがレグルメントだと言われても困るのです。金を失うばかりでなく、義父の命が失われては悔やんでも悔やみきれません」

「まぁ……それは」

「一つ確認したいのですが、エミュルグとはそこまで危険なものなのですか?」


 ここでシルヴィスは話題を変える。用意していたとはいえ事実でない。そのようなボロの出る可能性のある話題に触れているのは得策でないという考えから話題を極々自然に変えたのである。


「あぁ、凶暴な魔物で、全身を覆った黒い毛は魔力を帯びているので、魔術は効きづらいし、毛は針金のような強度があるために斬撃も効きづらい」

「そんな魔物が」

「ええ、クグークという魔物が食い散らかされていてな」

「それは相当なものですね」

「ミスリルクラスの冒険者であっても命を落とす事がほとんどだ。だから引き返して欲しいのだがね」

「お気遣いはありがたいがそれだけはできないのです。こちらとすれば(さざなみ)の方々と私が他に雇った三人の護衛に託すしかありません」


 シルヴィスの言葉に隊長の目がエリック達に向かう。説得は無理と諦めたのだろう隊長は小さくため息をついた。


「わかった。事情が事情のようだが無理をしないようにな。命あっての物種だよ」

「もちろんです。義父のためにも我々は生きて帰らないとなりません」


 シルヴィスの自信たっぷりの言葉に部隊長は苦笑いを浮かべると静かに一礼すると部下達に向かって命令を下した。


「これより帰還する」


 部隊長の命令に兵士達は隊列を即座に整えるとシルヴィス達に一礼して分かれていった。


「キラトさん、十分に気を付けていきましょう」

「はい。わかりました。しかし、先程の話はどこまで本当なのですか?」

「“魔族と交渉したいことがある”以外は作り話です」

「すると病も薬も?」

「はい。官憲に呼び止められた時のために用意していた理由です」

「なるほど……」


 シルヴィスの返答に漣のメンバーは苦笑を浮かべた。あそこまで自信たっぷりに言い放ったのがハッタリであったことに苦笑が浮かぶのは当然であった。


「シルヴィスは本当にウソが上手なんですよ~あいた!!」


 ヴェルティアの不当な評価にシルヴィスはおでこをペチンとはたくことでただした。


「せっかく褒めたのにシルヴィスはどうしたというのですかね?」

「さ、さぁ……」


 ヴェルティアの言葉にキラトは口を濁した。日和見ではなく世渡りというものであろう。


「とりあえず、官憲はやり過ごしましたが、エミュルグの存在がやっかいそうですね」

「まぁその辺りは我々に任せてください。場合によっては……」

「場合によっては?」

「ああ、全力で逃げますので安心してください」

「置いていかないでくださいよ」

「善処します」


 キラトのニヤリとした嗤いにシルヴィス達も笑って返す。


「それじゃあ、先を急ぐとしましょう」

「そうですね」


 キラトは笑って答えると馬車に向かった。シルヴィス達の準備が整ったのを確認すると再び馬車を走らせた。


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